第19話 死人兵士




<撃たれた兵士が動く現場>


今まさに撃たれた兵士が動く戦場は、攻めている側が恐怖に震えていた。

どれだけ損害を与えても意味がないようだ。

相手の兵士をいくら撃っても立ち上がって動く。

歩ける足がある限り動いてくる。

手足を失っても身体でって動こうとする。


現場でピクピクもがく、手足を失った兵士に近づかせてみた。

「おい、あのピクピクしている敵を確認しろ」

命令を受けた兵士は、上官の命令なので仕方なく近寄っていった。

2メートルくらい手前で立ち止まって様子をみる。

なるほど、これだけ傷だらけになっても死んでいないようだ。

普通なら死んでいる。

手足はない。

出血の後はあるが、もはや流れ出る血がないのではないかと思える感じだ。

まともな精神状態を持っているものなら、そんな死体を直視できないだろう。

身体も穴だらけで、頭も半分くらいは吹き飛んでいる。

だが、動いている。


命令された兵士は、少しずつ近寄って行く。

持っていた銃剣で軽くつつく。

ウゴウゴと動いている。

あまりにも気持ち悪いので、一気に銃剣で刺した。

!!

その瞬間に、手足のない死体は顔を持ち上げ、銃剣が刺さったところを引きちぎりながら兵士の足に噛みついてきた。

「うぎゃぁ!!」

兵士は驚きと、痛みとでパニック状態だ。

「た、隊長! 助けてください。 このゾンビが、噛みついて・・うぎゃぁ!!」

その声に反応したわけではあるまいが、銃剣で刺された奥で倒れていた死体たちがムクッと起き上がってきて、兵士に群がって行く。


隊長は目の前で起きていることが信じられなかった。

いくら倒しても逆に敵の数が増えるだけだ。

こちらの兵士も倒れたら敵になっている。

それにただの死体ではない。

手足が残っている死体は銃を使う。

正確な射撃はできないが、撃ちまくる。

たまったものではない。


ゾンビ兵士がうごめく現場の奥で、黄色い服をまとった一人の僧侶の姿あった。

祈っているようだ。

目を閉じ、数珠を持ち何やら念仏みたいなものを唱えている。

け、死人兵士たちよ。 我が同胞の積年の想い、ここで晴らしてくれよう」

黄色い服を纏った僧侶の首には水晶のような感じで黒く光る数珠をぶら下げていた。

これこそがこの僧侶に与えられた能力の起因となるものだった。

イメージを具現化し、実際に物理現象として起こす。

ソフィアの魔法と根源は同じだが、種族が違う。

破壊的な指向性を持つ種族だ。

まさにこの僧侶に最適な組み合わせだっただろう。


僧侶は今まで、弾圧に耐えに耐えてきた。

そして、ついに折れようとしたときにこの異星人と出会ったのだ。

僧侶は最初、我々はこのまま滅びゆくのみと達観していた。

だが、話をしているうちに今までの積年の恨みが沸き起こって来る。

人など、どうせ仏などになれはしない。

私が死ねば、私は救われる。

だが、同胞たちはどうか?

皆、無念のまま宇宙の塵となるのか。

これから未来をいっぱい持った子供たちはどうなるのか。

その未来を無慈悲に奪った中国に、神の鉄槌を下してもいいのではないのか。

私がすべての業を背負えばいい。

僧侶はそう考えると、その特殊な数珠を受け取った。


簡単に言えば、意思を失ったものを操ることができる能力だった。


僧侶は能力を得て、いろいろなところを旅をしていた。

その途中、一つの村が狙われているという情報を得る。

そのままその村に向かった。

村長にこの村は狙われていることを伝えるも、村長は死守すると返答。

僧侶がいくら説得しても無駄だった。

僧侶はそのまま村の近くで待機する。

やがて情報通り、中国軍が進行してきた。

あっと言う間だった。

村で生きているものはいなくなった。

中国軍も軽微な被害が出たようだが、100名にも至らない死傷者のようだ。

占領した軍は安心していたのだろう。

村で生きたまま拉致した女を引きずり出して、お楽しみが始まろうとしていた。

そんな中、一人二人と死体置き場の方から動いてくる物体が見えた。


最初気づいた兵士は、止まれ! と言って発砲。

確実にヒットした、はずだった。

撃たれながらも前進してくる。

中には駆けてくるものもいた。

死体だった。

兵士が倒れる。


銃を持ったまま倒れると最悪だった。

死体は銃を持って乱射しまくる。

占領した村が一気に死体で埋め尽くされていく。

その死体たちもまた起き上がり、どんどん死体兵士が出来上がる。

その後方では、ただ一人の僧侶が祈っているだけだった。


◇◇


<山本帰国>


俺は日本に帰って来ていた。

無事帰国できた。

無事というのは、飛行機の中のニュースでも聞いていたのだが、中国とチベット国境の武力衝突が激化しているという。 

中国も、隠そうともせずに50万人規模の戦力を展開するという。

俺はこのニュースを聞いて耳を疑った。

50万人?

どうせ、この国の言う人数なんてあてにならないが、それでも最低はその規模だということだ。

いったいどこと戦争する気なんだ?

そんなきな臭い中を無事帰国できたので、本当にホッとしていたところだ。


関空から電車を乗り継いで、家に帰宅。

時間は午後3時頃。

俺のカフェの前で二人の人がいた。

広瀬親子だ。

俺が近づいて行くとこちらに気づいたようだ。

「あ、山本さん」

広瀬母が言う。

「おじさん、いったいどこへ行っていたのよ。 昨日来ても休みだし・・」

広瀬娘が言う。

「あぁ、申し訳ない。 ちょっと旅行に・・あ、すみません。 お店開けますね」

俺は頭を掻きながらそう言い、店の鍵を開ける。

中に入って窓を開け、換気扇も回した。

おそらく汚れてはいないと思うが、気持ち的に拭いておきたい。

そう思って、入り口の方へ行って俺は広瀬親子に声をかけた。

「広瀬さん、少し掃除するのでお待ちいただいてもいいですか?」

「おじさん、別にいいわよ。 それよりもお店の中に入ってもいい?」

広瀬娘が言う。

「あ、はい」

俺は思わず返事をして、広瀬親子を中に入れた。


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