第17話 斬り裂きジャックか?



あまりにも都合が良すぎる。

それにピンポイントでその犯人らしきものたちが亡くなっている。

まずはそんな考えが頭に浮かんだ。


杉田は同僚に軽く礼を言って、そのまま自分の事務所に移動。

その移動の中考えていた。

どうもおかしい。

いや、おかしいのではない。

今回の事件といい、イギリスの事件もアメリカの超人の話題もそうだ。

俺たち人間が考えれないことが起きているのかもしれない。

そう思うと、杉田は頭を軽く振る。

危険な考えだ。

何でも超常的なものを結びつけてはいけない。

すぐに自分の机の上に戻って来た。


「おはようございます、杉田さん」

佐藤刑事が帰って来ていた。

「お、おぉ・・佐藤。 お帰り、そしてご苦労様でした」

杉田はそう言って軽く頭を下げる。

「いえいえ、杉田さん。 こちらこそタダで旅行させてもらって・・ありがとうございます」

佐藤はニヤッとして言う。

そして続けて、

「早速ですが、杉田さん。 僕の報告はかなりありますので、今日は潰れますよ」

「そうか・・ありがとう。 それよりも部長には挨拶してきたのか?」

「無論です。 挨拶回りは終わってます。 では、まずはこれから・・」

佐藤はそう言うと、PCをオンしてデータを順番にアップしていき杉田に説明をしていく。

杉田も素直に聞いていた。


◇◇


<英国:山本の場合>


俺は大英博物館に来ていた。

入り口を通過する。

本当に無料なんだな。

そこに驚いた。

中に入ってみると、荘厳な雰囲気がする。

そして、広い。

おそらく結構人は入っているのだろうが全然混雑さを感じない。

まるで一人で空間を占領していると感じるくらいに、ゆっくりと回れる。

迷子になるんじゃないかと思えるほどだ。


いろいろ見て行くと、エジプトのミイラのところで立ち止まった。

こんなものまであるんだな。

そう思っていると、後ろに変な感じを受ける。

俺は前を向いたまま、最大級に警戒を即座に引き上げた。

そして、集中する。

ふぅ・・・。

ゆっくりと振り向く。

!!

ドキッとした。

色白、白人だから白いのは当たり前か。

背の高い品のある顔立ちの青年が立っていた。

3歩ほど歩くと俺の目の前に来れるくらいの距離だ。


俺の周りの時間はほぼ停止している状態だろう。

俺は集中力を切らすことなく、その青年を見る。

!!

青年の青い目がギョロッと俺を見る。

そして、ニヤッとした。

「あなたでしたか・・」

俺の心臓が一瞬バクッとなったかと思うと、こちらが固まってしまう。

まさか俺の時間の中で意識を保っているのか?

だが、危害を加えるような感じではないし、俺に話かけてきているようだ。

・・・

ん? 俺は初め気づかなかったが、わかった。

相手の言葉がわかるぞ。

あれ?


それよりもさらに驚いた。

青年は俺の時間の中を一歩踏み出してきた。

「あなたは私と同類というわけですね。 よろしくお願いします」

青年はそう言うと、右手を伸ばして来て握手を求める仕草をする。

俺は言葉のことなど既に頭にはない。

ただ、青年の普通の仕草を見て少しずつ落ち着いて来た。

そして、青年をしっかりと見て言う。

「君がデス・ソードを持ったイギリス人だね」

青年はにっこりとして右手を出したままだ。

俺は迷っている。

握手してもいいものかと・・。

こいつは完全に殺人者だ。

あ、俺もか。

少し迷ったが、握手だけはしようと何となく思った。


俺も右手を出し、握手をする。

柔らかい手だな。

そう感じた。

青年は軽く握り返し、そのまま握手を外す。

そして俺をまっすぐに見つめて言う。

「あなたも選ばれた人間なのですね。 見たところ東洋人の感じですが、私と同じで不浄な人間を駆除されているのでしょうか?」

その言葉を聞くとともに、俺の背中が寒くなる。


青年は不思議そうな顔をして俺を見る。

「東洋人というのは無口な方が多いのでしょうか? それとも異国の地で緊張されているのでしょうか」

「君はどうして俺を見つけることができたのかね?」

俺が質問すると、青年は片方の眉毛を釣り上げた。

「面白くもない質問ですね。 これからの新世界のために私に会いに来てくれたと思っていたのですが・・残念です」

「・・新世界?」

俺はオウム返しでつぶやく。

青年は少し微笑んだような感じがした。

「そうです、新世界です。 あなたもその一員選ばれたのでしょう? 私と共に歩みましょう」


俺の直感が言っている。

危険だと。

俺はさらに集中力を高めていく。

・・・

「俺もあまり偉そうなことは言えない。 だが、君を止めるためにここに来たのだ」

俺がそう言うと青年は大きく微笑んだ。

「フフ・・フハハハ!! 私を止めるですって? どうしてですか。 我々がきれいな世界を作り出すのです。 あなたも行っているでしょう、愚かな人間を糧にして成長したのではないですか? 隣のフランスでも選ばれた人間が誕生したようですが、種族が違うようです。 そのうち接触してみようと思っていますがね」

青年が熱く語る。

「種族?」

俺は相変わらずオウム返しでしか答えれない。

「ふぅ・・あなたは本当に何もご存知ないのですね。 我々は新人類にふさわしいのかを試されているのですよ。 それぞれの種族の代表としてね」


俺は青年の言うことが理解できていない。

いったい何を言っているのか。

そんな俺の表情を読み取ったのか、青年は丁寧に説明してくれた。

「知らないのですね・・つまらないです。 では、私の知り得る範囲ですが、お教えしましょう。 この地球は地球外生命体の管理下置かれている惑星です。 その共同管理している種族が様々な実験を行っているようです。 神話などに残っている超常的なものはその名残でしょう。 今回、私とあなたは同族ですが、他種族に選ばれた人たちも多数存在しています。 それらを駆逐するのか、共に歩んで行くのかは我々の行動一つです・・・」

・・・・

・・

青年は本当に丁寧に話してくれた。


どうやら俺たちは地球外生命体の実験体のようだ。

いろんな種族が代表を選び、その生き残りのルールで地球が任されるそうだ。

今のままでは地球という実験場がうまく機能しなくなる。

そのための再調整が行われようとしているという。

今までも、UFOのような飛行物体をわざと見せて自分たちの存在を意識させたりしていた。

だが、最近は頻繁に見せるようになっているという。

そういえば、よくUFOやらUMAの情報を耳にする。

オカルトやミステリーの情報もあえて流していたそうだ。

しかし、人間は自らの行いをかえりみることができないと判断。

会議で再調整が決められたという。

・・・

俺は聞いていて、勝手な話だと思った。

だが、思うだけで俺たち人間にはどうしようもない。

そんな規模の出来事など把握できるはずもないし、考えられない。


青年は語り終えると満足そうに俺を見つめる。

「どうですか? 素晴らしいことでしょう。 さて、私はもう行きますね。 どこかでまたお会いすることになるでしょう。 良き友人であることを望みます。 それでは失礼します、わが友よ」

青年はそう言うと俺に背中を向けて歩いて行く。

俺はただ見送るしかできなかった。

既にこの青年を倒すことなど、どこかに消えていた。

それにかなりのショックだった。

まさかそんな実験体として扱われていたのかと。

だからと言ってどうするというのだ。

俺は集中力を緩めていく。

俺の周りの時間はほんの1秒も経過していないだろう。

青年はすでに消えていた。


後はせっかくの大英博物館だったが、何も見ずにホテルへ引き返してきた。

ホテルに到着し、ベッドに横になる。

俺はあの青年の顔を思い浮かべてみる。

とても凶悪な人間に見えなかった。

だが、間違いなく今騒がれている斬り裂きジャックだ。

見た目に惑わされたのかどうかわからない。

ただ、嫌な感じを不思議と受けなかった。

それが戦う意欲を失わせたのかもしれない。

それに信じられないこともないが、あまりにも大き過ぎる話。

いったいどうすればいいんだ。

迷うことすらできない。


俺は単純に凄い力を手に入れ、そこら辺の法で裁けないクズを処理して、正義執行なんて思っていた。

所詮はお山の大将になっていたようだ。

だが、このイギリスの青年は違う感じがした。

確かに凶悪な殺人者だ。

そして、すべてを理解した上で行動している。

俺と見ている世界が違う。

正しいとか悪いとかではない。

うまく言葉で言えないが、新世界を作ろうとしているようだ。

新世界・・なんだかなぁ、俺的ではないよな。

しかし、動き出してしまっている。

今さら引き返せるわけがない。

そんなことを思っていると眠っていたようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る