第5話 痴漢?
◇◇
俺は家に帰ると軽く食事をして、先程のことを考えていた。
あの女の子、どうしただろうか?
まぁ、たまたま俺が通りかかったから助けられたようなものの・・いや、助けない方が良かったのかもしれない。
わからない。
だが、あんな女の子が死ぬほどなんだ。
なんだろうか?
いじめか?
死ぬくらいなら、いじめてる奴と刺し違えるくらいの度胸があってもいいはずだろうに。
・・・
もしかして、妊娠でもしていてそのまま・・単なるビッチなやつだったら、失敗だったな。
なんて、俺は勝手に想像を膨らませていた。
もう、済んだことだ。
どうでもいい。
それに昼間に見て来たあの山下裕二だが、かなりいいところの家のようだ。
スポーツカーの女の人は美人だったよな。
それにあの黒塗りの車を運転していたおやじ。
結構、精悍な感じの人だった。
みんなきちんとしている感じだった。
だがなぁ・・それは関係ないな。
とりあえず、俺の目的はぶれていない。
時間は午後9時。
ニュースでも見て寝るか。
ニュースのトップに来るのが、今パンデミックになっている新型コロナウイルスの話題だ。
世界中で広まっている。
未知のウイルスだろ?
エボラウイルスなんてのもあるよな。
致死率が高いウイルスだ。
自然に対して、人が侵入してはいけない領域に侵入したから、人が侵略されてるのじゃないのか?
そんなことを勝手に思っていた。
それにしても、日本も相変わらず新型コロナウイルス感染者は出ているよな。
後は政治家の言い訳や隣国の挑発のニュースばかりだ。
国って本当に国民の方を向いているのか?
まぁ、一般市民に大きな流れは理解できないが、それでも税金を好き放題に使ってるよな。
人の金を自分の好きなように使ったら、そりゃ楽しいだろう。
年金なんて、おそらくないな。
ベーシックインカムを作って、社会保障関連を撤廃すれば何とかなるんじゃないか?
などと、勝手なことを思って見ていた。
それにしてもニュースも何が起こったかを知るにはいい。
だが、信用するとなるとどうも怪しい。
俺は年齢とともにそう感じるようになっていた。
若い学生時代には、そんなことを思いもしなかったが。
例えば、どこかで警察官が上司の頭を拳銃で撃った事件があった。
大変な事件だ。
だが、すぐにその事件言われなくなった。
どうやらこの国は、影響力が大きいと国が判断したニュースは長い時間は配信されないらしい。
そのくせ一般人のニュースなどは、重箱の隅をつつくような感じで追求している。
それでも、まだ他の国よりは日本がマシだろうと俺は思っている。
そんな感じでニュースを見るようになっていた。
◇◇
二人の男が個室居酒屋で食事をしている。
山本のところに事情を聞きに来ていた刑事だった。
「杉田さん、結局犯人わかりませんね」
佐藤刑事は少し酔っているようだ。
「佐藤、あまり飲みすぎるなよ」
杉田刑事はそう言いながら、ビールをおいしそうに飲む。
「ぷはぁ・・うまい。 でもな、少しつながっただろ?」
「何がですか、杉田さん?」
「前にもクズたちがやられた事件があっただろ。 あの時の切られた足の切断面と今回の事件の切断面がよく似てるんだとよ」
「鑑識の言ったことですか? 日本刀のような刃物で、しかもすさまじい太刀筋で一瞬で斬ることができたらそうなるってやつでしょ?」
佐藤が言う。
「あぁそうだ」
「そんな達人、いるんですか?」
「わからん。 だがいるのだろう」
杉田刑事が答えながらビールを飲んでいる。
「それにな、最近ではよく切れるナイフがあるんだよ」
「そんなナイフあるんですか~? 日本刀じゃないんですか?」
佐藤の言葉を聞きつつ、杉田は思っていた。
剣術なら示現流辺りの達人レベルならあるかもしれない。
そう杉田の頭に浮かぶ。
杉田はすぐに自嘲した。
バカな話だ。
そんな伝説の物語が浮かぶとはな。
確か、
トンボの構えからの一撃必殺。
東郷重位が畳の上に置いた碁盤めがけて刀を振り下ろした。
その時に碁盤を斬り、勢い余って畳にまで刀が刺さったという話を聞いたことがある。
どうせ話を大きくしているのだろうと面白く思っていたが、事実なのかもしれない。
杉田は自分の記憶にある話に注意を向けていた。
でも、それは雲をつかむような話だな。
また、ナイフにしてもダマスカス包丁というのがある。
凄まじい切れ味だったのを記憶の中に見つけていた。
こういった線からつなげていかないとな。
杉田はそんなことを考えて、残りのビールを飲み干した。
横を見ると、佐藤が頭を揺らして眠そうだ。
◇◇
<山本の部屋>
ニュースの最後の方に配信。
『・・海外のニュースです。 インドで人がトラに襲われたという事件が増えています。 次に、イギリスでジャック・ザ・リッパー復活か、という話題が現地で盛り上がり、住民の夜の外出規制の発動もあり得ると・・・』
俺はニュースを見ながら、インド怖いな。
それにイギリスでの猟奇殺人かぁ、と思って見ていた。
さて、明日はまた山にでも行って、イノシシでも狩るかな。
いや、夜の方が目立たなくていいか。
俺はそう思うと、出かける準備をした。
時間は午後10時前。
風呂は帰って来てから入ればいいや。
そう思って動きやすい服装に着替える。
迷彩っぽい作業服だ。
山に入るから肌が露出してはいけない。
アンダーウェアも着込んでいる。
ライトは必要はない。
身体能力が上がってから、夜でもとてもよく見える。
昼間ほどじゃないが、はっきりと見える。
暗い中でも、100円玉の裏表を見分けることができるようになっていた。
さて、走って移動しよう。
俺の家から近くの山までは10キロほどある。
普通に走れば1時間くらいはかかるが、俺なら5分もかからないだろう。
それくらいの速度で走っても、周りの景色は普通に見える。
ただ、周りからは俺を視認するのは難しいかもしれない。
家の外に出て、周りを確認。
よし、誰もいないようだ。
そう思うと、一気に走り出す。
ドン!
人から見れば、玄関に出てきていたが、一瞬で消えた感じだろう。
普通なら、家の中にでも入ったと思うかな?
俺は家から飛び出して、街の中を疾走。
障害物が結構あるので、ビルの上を蹴って走って行く。
すぐに郊外の道路に出るが、足場になりそうなところへ着地しながら障害物を飛び越えていく。
明かりがどんどんなくなって来て、代わりに星がよく見えるようになってきた。
山に到着。
俺は山に入って行き、ゆっくりと歩いていく。
周りに人の気配はない。
注意深く辺りを見渡していく。
少し離れたところでガサガサと動くものを発見。
俺は息を吐き集中する。
そのまま一気にその音のところまで近づいて行く。
!
イノシシだ。
大きいな。
ん?
そういえば、今まで倒してばかりだったが、食べれるんだよな?
しかし、
もったいないが、余計なことをしない方がいい感じがする。
そう思ってイノシシを見つめる。
時間が普通の流れに戻った。
イノシシがビクッとしたようだ。
ブモォォォ!!
叫ぶと、俺の方へ突っ込んでくる。
俺もデス・ソードを構えて難なくイノシシを狩る。
後は辺りの2、3匹のイノシシを狩ると家に帰っていった。
肉がもったいない感じがするが、放置。
そのまま俺は帰って来て風呂に入って寝る。
次の日の朝。
午前6時。
いつも通り目が覚めた。
さて、今日はヨドマシカメラでも行ってみるか。
カフェの入口に準備中の札を下げ、俺は出かける。
電車で1時間くらい移動すれば到着だ。
年末商戦で新しいゲーム機が出るが、絶対購入予定だ。
そんなことを頭に思いながら電車に揺られていると、学生の女の子が変な顔をしていた。
俺の左斜めにいる。
電車もほぼ満員であまり動けない。
!
もしかして、痴漢か?
俺はそう思って、スマホに文字をパパパッと打って女の子だけに見えるように見せた。
『もしかして、痴漢に合ってます?』
画面を見ると女の子が俺の顔を見てうなずく。
人が邪魔でどんな風に触られているのかわからない。
もう一度文字を打ってみた。
『どこを触られてます? 俺が相手の手を摑まえますから』
そう文字を打つと、女の子の手が伸びてきて俺の手を誘導してくれた。
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