第6話 こいつらの芝居につき合っていられるか
<ヨドマシカメラに向かう電車の中>
お尻を触られているようだ。
俺は相手の手首をガシッと
そして、そのままグッと握っている。
次の駅まで騒ぎたくない。
相手の手は、スカートの中に遠慮もなく突っ込んでがっつりと触っていたようだ。
こいつ、うらやましい奴だな。
などと、少し思ったが、相手がもがく。
だが、俺の握っている手から離れられるわけがない。
それほど強く握ってはいない。
強く握ると、相手の手が潰れてしまう。
とりあえず手首が抜けないようにして握っている。
次の駅に着いたようだ。
俺は女の子に言う。
「この駅で降りてみるけど、大丈夫?」
女の子は少し迷ったような感じだったがうなずく。
電車のドアが開く。
俺が手首を掴んでいた奴が俺の方を見て、女の子も見た。
女の子がキョロキョロとしている。
怖かったのかな?
俺が手首を掴んだ男は、女の子と同じか少し上の年齢くらいの若者だ。
俺たちは一緒に電車から降りて、駅のホームで人の流れのない方へと歩いて行った。
「おっさん、もう逃げねぇから手を放してくれないか!」
男の子は言う。
女の子も一緒に黙ってついて来ている。
俺はまだ手を握ったまま歩いて、人の流れがないところに到着すると手を離した。
「ったく、おっさん見かけに寄らず力強ぇよな・・手首折れるかと思ったぜ」
男の子が手首を振りながら文句を言っている。
「で、おっさん。 俺になんか用があるのか?」
俺は少し意外だった。
全然悪びれてない。
俺は女の子を少し見て、男の方を向いて言う。
「いや、お前が痴漢してると女の子が言っていたから・・」
女の子は下を向いている。
「はぁ? 何言ってるんだよ。 俺とこいつはつき合ってるんだぜ」
男の子はニヤニヤしながら言う。
「はぁ?」
俺の方がびっくりした。
まさか電車の中で・・今どきの学生は凄いな。
「なぁ、ユミ。 お前が痴漢されてたのって、このおっさんだろ?」
男の子がニヤニヤしながら言う。
「はぁ?」
俺はさらに驚いた。
「そうだろ、ユミ。 このおっさんがやったんだよな!」
男の子がそう言うと、女の子が俺の顔を見てうなずく。
「そうよ! このおっさんが私のお尻を思いっきり触っていたのよ」
「え? マジですか・・」
俺はつぶやきつつも、他に言葉が見つからない。
すると、俺の後ろの方からザワザワとした雰囲気が近づいて来る。
「おう、ケン! どうしたんだ?」
ブレザー制服をだらしなく着た連中がゾロゾロと集まって来た。
「あぁ、あっちゃんか! このおっさんが電車の中でユミのお尻を触ってたんだよ」
「あぁ、マジかよ。 痴漢じゃねぇか」
「そうだよな、痴漢だよ」
・・・
学生連中が俺を取り囲むように集まって来た。
「おっさん、痴漢なんて恥ずかしくないか?」
「そうだぜ、マジかよ」
「こんな大人がいるからダメなんだよな」
「ユミ、きもかったわね」
・・・・
・・
なるほど、こうやってえん罪が作られるんだ。
俺はとりあえず聞いていた。
ケンと呼ばれる、実際にはユミのお尻をがっつり掴んでいた奴が言う。
「おっさん、どうするんだ? すぐに駅員を呼びに行ってもらうけど、恥ずかしいよな?」
ニヤニヤしているな。
俺はタイミングよく出てきた学生連中とこいつらを見ていて思った。
こいつらの芝居の登場人物にされているな。
俺の周りを囲んでいる連中の誰かが言う。
「おっさん、何か言ったらどうなんだ?」
俺はお言葉に甘えて言わせもらう。
「あの・・俺、やってないんだけど・・」
俺がそういうと、声を大きくしながら言葉を被せてくる。
「あぁ? ユミがやられたっつってんだろ! それにケンちゃんも目撃者だ」
「そうだぜ、おっさん。 何なら警察に電話してもいいぜ、なぁ?」
そう言うので、俺は答える。
「そうか、是非頼む。 警察に連絡してくれ」
俺の言葉にみんなが、え? と一瞬なるが、すぐにケンが言ってくる。
「おっさん、俺たちも暇じゃないんだ。 そうだなぁ、見逃す代わりに一人に2万円くらい小遣いくれねぇかな?」
「いや、見逃さなくていいから、すぐに警察呼んでくれ。 いや、俺が呼ぶよ」
俺がそう言って携帯を出そうとすると、ユミの横にいた女の子がいきなり叫び出した。
「キャー、このおやじ私の胸触ったよ~」
そう言って、自分の胸を俺に押し付けてきた。
そして、女の子が自分の手で俺の手を持ち、自分の胸に当てる。
パシャ!
パシャ!
周りの連中が、ご丁寧に写メを撮影していた。
・・・
アホか。
付き合っていられるか。
俺はだんだんしんどくなってきた。
だが、この女の子・・結構ボリュームある胸だったな。
違う展開ならラッキースケベだろうに。
「あのなぁ、お前ら・・」
俺はそう言葉を出そうとすると、写メを撮っていた男が言う。
「おっさん、現行犯だぜ」
「そうだ、証拠もばっちりだぜ!」
学生連中は盛り上がっているようだ。
俺たちのいる場所は、登り階段の裏になっていてそれほど人が通過することもない。
ただ、電車から降りて来る人がいると少しは目に留まるが、みんな我関せずで行き過ぎてしまう。
駅員からは見えていない。
「さて、俺は行かせてもらうぜ」
俺は一言そう言うと移動しようとした。
学生たちは一瞬動きが止まった。
まさかそのまま行くとは思っていなかったらしい。
「ちょ、おっさん。 頭悪いのか? バッチリ証拠あるんだぜ。 それに声も録音している」
「おっさん、この状況でどうやって行こうってんだよ」
学生たちが息巻いている。
ケンとユミを含めて全員で8人。
俺はふぅ・・と息を吐き集中。
写メを撮った連中のところへ行き、スマホを取り上げた。
無論、俺以外の時間はほぼ停止している。
後、写メと録画した奴は・・そう見渡して、全員から携帯を取り上げ、データを確認。
確かに撮られているな。
4台の携帯だが、すべてデータを削除。
あ、こいつのデータも消してしまった。
ま、いっか。
そう思い、全員に携帯を返す。
俺はケンと呼ばれた奴の後ろに移動。
俺は集中力を緩める。
時間の流れが戻る。
「そうだ、この状況でどうするって・・・」
??
学生全員がキョロキョロしていた。
「こうやって行くんだよ」
!!
俺がそう言うと、ケンがビクッとなって振り返る。
他の連中も全員が声の方を向いた。
「な、なに?」
「どうやって・・」
「今、そこに居たよな?」
・・・
・・
ザワザワしている。
ケンが一歩後ろへ下がって俺の方を見る。
明らかに焦っている。
「お、おっさん。 どうやったか知らないが、証拠があるんだ。 どうしようもないぜ」
ケンが少し震える声で言う。
「そうだぜ、このスマホにきちんと・・」
・・・
「あれ? ない・・」
「俺のもない・・なんで?」
「あ~、あたしのも録画無くなってる・・」
俺は軽く笑いながら、
「そうか、ま、勝手にやってくれ。 じゃあな」
そう言って俺は歩いて行こうとした。
「おっさん、ちょ・・待てよ!」
ケンが俺の肩を掴む。
俺は少しカッとなった。
掴まれた手をギュッと握った。
ミシッと
「うぐがぁぁ・・いってぇ」
ケンが手を抑えながらしゃがみ込んだ。
「ケン!」
「ケンちゃん!」
・・・
学生たちがケンのところへ近寄っていった。
俺はそれを見ながら言う。
「お前ら、ゆすりだろ? そんなんで大人から金を取ろうなんて・・カスだな。 文句があるならかかってこい!」
みんな少し怯えたような表情をするが、その中の1人が立ち上がる。
「おっさん、調子に乗るなよ・・」
少し震えながら言う。
男の中の1人がポケットに手を入れ、バタフライナイフを取り出していた。
パチン!
「シュウ君・・」
ナイフを取り出した男の後ろの女の子が言葉をかけていた。
「へへ、おっさん・・死んだな。 まぁ、死なない程度にやってやるよ」
シュウと呼ばれた男はそう言うと、ナイフを俺の左肩めがけて斬りかかってきた。
この程度の動きなら、集中するまでもない。
普通に
だが、圧倒的に避けてやりたい。
そう思って、俺は集中した。
ふぅ・・・。
バタフライナイフが俺の少し前で止まっている。
俺はそのままナイフを取り上げて、危ないので刃を収納。
ナイフをシュウのポケットに返す。
シュウの後ろ側に移動して、足を引っかけておいた。
そのまま通常の流れに戻る。
シュウはナイフを持っていない手を振り抜きながら、俺の足につまづいて大きく前に転んだ。
俺はゆっくりと転んだシュウのところへ歩いて行く。
シュウがゆっくりと起き上がろうとするので、軽く蹴飛ばした。
「ぐはぁ・・」
・・・
いやいや、それほど強く蹴ってないですけど。
反対に俺が焦ってしまった。
シュウはその場でもだえている。
「な、なんだ、このおっさん」
「変よ、何か変よ」
「やべぇよな・・」
「ケンちゃん・・私、もういいよ、行こうよ」
・・・・
・・
学生たちがオロオロとしながら、シュウを回収してその場から去っていった。
せっかくヨドマシカメラに気持ちよく行くつもりだったのに。
仕切り直しだ。
そう思って俺は次の電車を待っていた。
時間は午前9時30分。
◇◇
<逃げ出した学生たち>
駅の改札を通過して、駅の外へ出ていた。
はぁ、はぁ、はぁ・・。
「シュウ、大丈夫か?」
「あぁ、何とかな・・」
「しっかし、何だあのおっさん」
ケンが言う。
「あぁ、そうだよな。 変な感じだった」
「私も確かに撮影したはずなのに・・」
・・・
いろんな言葉が飛びかっていた。
そんな中、シュウが1人固まっている。
「どうした、シュウ?」
「・・・」
シュウは言葉が出ない。
その手にはバタフライナイフがあった。
「シュウ?」
「俺、確かにバタフライナイフを持って刃を出したはずだ。 それであのおっさんの肩を目掛けて斬りつけたんだ・・」
シュウが小さな声でつぶやいていた。
他の連中は変だなぁ、変ねぇと言い合っている。
シュウの横にいたケンとユミがシュウを見ている。
「シュウ君、確かにナイフを持っていたわよ」
ケンもうなずく。
「そうだよな。 それがさ・・俺の胸の内ポケットにきれいに収納されていたんだよ」
シュウがそうつぶやきながら、ブルッと震える。
「気持ち悪いな・・」
シュウはそう言って吐きそうな顔をしていた。
「ああー!!」
男の中の1人が叫ぶ。
全員がその声をの方を向いた。
「「どうしたんだ?」」
みんな驚いている。
「お、俺のデータが・・全部消えてる・・」
男はスマホを片手に震えていた。
他の連中も少しホッとした顔をした。
だが、お互いにわけがわからないままだった。
ただ、小遣いが得られなかったのは事実だったが。
◇◇
<再びヨドマシカメラに向かって>
俺は来た電車に乗り、当初の目的通りヨドバシカメラに向かう。
もうすぐ、新しいタイプのゲーム機が販売されるが、どうしようか迷っている。
まだ店頭でも見本はないが、その情報がないかと思っていた。
ヨドマシカメラに到着。
中に入っていろいろ見て歩いていた。
ゲーム機のところも後で行くとして、テレビのエリアが気になった。
有機ELテレビ、画面がきれいだよな。
これって、かなり前に日本で開発された技術だったはずだが、隣の国に持って行かれたよな?
今また話題になってきているが、いったい日本って何やってるんだろ?
まぁ、いい。
テレビの画面を見ていると、確かにとてもきれいだ。
そんな中、芸能人MCのテレビ番組が流れていた。
『・・〇〇さん、今アメリカでヒーローが現れたって話知っています?』
『えぇ、ヒーローというよりスーパーマンですよ。 僕も始めて見た映像は、CGかと思いましたからね』
『はい、はい、私も見ました。 でもやっぱりあれって、CGでしょ?』
『それがCGじゃないみたいですよ』
笑いながら会話が弾んでいる。
『CGじゃなかったら、本物のスパイダーマンやスーパーマンだとでも言うんですか? まさかバイオ技術でそんな超人が誕生したとでも・・』
『さぁわかりませんが、とにかく車を軽くひっくり返していたんですから』
・・・・
・・
俺は、そのテレビエリアの前を通っていて、車をひっくり返したという話題に足を止めた。
テレビ画面を俺が見ていると、そのひっくり返るシーンが配信されるようだ。
!!
俺は驚いた。
人が歩いていると、ダットサンのような車が突っ込んでくる。
その前に立ち、片手で車の動きを制止した。
車はまるで壁にぶつかったように揺れると止まった。
運転手が中から降りて来ようとすると、軽く車をひっくり返すシーンが流れている。
少し映像は悪く、本当に車を持っているのかどうかわからない。
だが、人が車の前に立ち、その人が手を振り上げると同時に車が持ち上がってひっくり返る。
まるで畳でもひっくり返しているようだ。
俺は瞬間的に思った。
俺と同族じゃないのかと。
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