第4話 初めての狩り
◇◇
<初めての狩り>
虫や害獣などを狩り俺の身体能力は、人間ではありえないレベルになっていた。
遅い買い物をして帰っていると、タクシー乗り場でみんなが待っている。
順番が来たので、疲れたあるおじさんが乗り込もうとすると、横から割り込んできた4人組の若い男たちがいた。
おじさんの肩を掴み、グイッと後ろへ突き飛ばす。
そのままタクシーへ乗り込んでいく。
誰も不満そうな顔をしているが、声を出すものはいない。
そりゃそうだろう。
怖いからな。
突き飛ばされたおじさんが、ゆっくりとタクシーのドアのところへ近寄って行き、乗り込もうとした若い連中の一人を掴んだ。
3人はもう乗り込んでいたが。
若い連中が全員おじさんを見た。
「おっさん、何か用か?」
そう言うなり、おじさんが掴んだ若者を背負い投げした。
とてもきれいに投げる。
俺もそれを見ていて驚いた。
やるなぁおじさん、柔道か何かをやっていたなと思って見ていた。
タクシー待ちをしている人たちも明るい顔になっていた。
ドサ!
「ぐはっ!」
背中から地面に落ちた若者がそのまま上向きで苦しそうだ。
まともに叩きつけられたからな。
普通、こんなコンクリートの上で投げられたら動けないぞ。
下手したら死ぬんじゃないか?
俺はそう思って見ている。
残りの3人の若い連中がニヤニヤしながらタクシーから降り、おじさんに近づいていく。
「おっさん、やるねぇ~」
「あぁ、やるねぇ。 だが、先に手を出したよな?」
「あぁ、先に手を出した。 これで正当防衛成立だ」
若い連中はニヤニヤしながら話している。
投げられた若い男もゆっくりと起き上がろうとしていた。
「いっってぇ・・この、おっさんがぁ・・」
そう言いながらおじさんを睨んでいた。
俺は驚いた。
あいつ、立ち上がれるのか?
きれいに受け身でも取ったのか?
そんなことが頭に浮かんだが、今はおじさんの方が気になる。
おじさんはまだまだやる気のようだ。
「君たちがタクシーの順番を守らないのがいけないぞ。 私もいきなり投げたのは謝る。 申し訳ない」
おじさんがそう言って頭を下げていた。
若い連中はお互いに顔を見合わせると、両肩をすくめてやれやれというジェスチャーをした。
その瞬間、一人の男がおじさんの顔を下から蹴り上げた。
おじさんは不意打ちは
思いっきり顔面に蹴りがヒット。
おじさんは後ろにヨロヨロと歩いて、そのまま尻もちをついた。
「おっさん、正当防衛成立っつたよな。 あぁ?」
タクシー待ちをしている連中はまた一気に静かになった。
全員硬直している。
若い連中はそんなものは眼中になく、おじさんに近寄って行く。
おじさんの髪の毛を掴んで、顔を引き上げる。
「おっさん、ミキちゃんのスナックに遅れたじゃないか。 どうしてくれるんだよ」
そう言うと、髪を掴んだままおじさんの顔をコンクリートに叩きつけた。
ゴン!
鈍い音が響く。
おじさんは蹴りのダメージが大きかったのか動けないようだ。
「ヒロシ、このおっさん連れて行け」
「おぅ」
そう言うと、ヒロシと呼ばれたラガーマンみたいなガタイの奴が、おじさんの足を引っ張って引きずって行く。
若い連中の一人が、タクシー待ちをしている連中を見て言う。
「お前ら、警察呼んだらおじさんと仲良くなってもらうぜ」
そう言って全員を舐めるように見た。
「全員、顔覚えたぜ」
タクシーの運転手にも同じように言っていた。
俺は少し離れたところから観察している。
そして思っていた。
全員の顔覚えたって、嘘だろ。
心で突っ込んでいた。
若い男たちはおじさんを引きずって、近くの公園に連れて行くようだ。
俺はその後を気づかれないようにつけて行く。
つけて行く前に、タクシー待ちをしている連中を見ていたが、本当に誰も通報している人たちはいないようだ。
・・マジですか?
少しすると、何事もなかったかのように、おじさんの次に並んでいた人がタクシーに乗って行ってしまった。
俺は驚きつつも、おじさんが気になるので後を追う。
あのタクシー待ちをしていた人たちって、自分には関係ない、たまたま運が悪い場面に遭遇したんだって思うのだろうか?
タクシーにしても通報することはできただろうに。
それとも、ある程度時間が経過してから通報するのだろうか。
まぁ、いい。
おじさんはやはり公園に連れて行かれていた。
意識があるのかどうか怪しい。
4人組の男たちが何やらじゃんけんをしている。
「よし! 俺が最初な。 このコンボ試してみたかったんだよ」
「ツヨシ、できるのか?」
「だから試すんだよ」
「おっさん、起きろ。 ほら、起きろ」
男がおじさんのほっぺをペシペシと叩いている。
おじさんは言葉にならない声で唸っている。
「・・うぅ・・あぁ・・」
「ダメだな、こりゃ。 ヒロシ、このおっさん抱えてろ」
そう言われると、ラガーマンのようなガタイのヒロシがおじさんを抱えて立たせる。
「よし、そのまま抱えてろよ」
男がそう言うと、軽くステップを踏み出した。
ここまでだな。
俺はそう思うと、石を拾い、ステップを踏んでいる男に投げつけた。
ゴン!
きれいにヒット。
!!
「グッ、あいった~!」
男が片手で頭を抑え、片膝をついている。
「「「誰だ?」」」
男たちが周りをキョロキョロと見渡している。
俺が街灯の下へとゆっくりと出て行く。
!!
「なんだてめぇは? お前が投げたのか?」
頭に小石が当たった男が、頭を抑えながら言う。
額に少し血が流れていた。
なるほど、赤い色なんだなと俺は感心していた。
「あのぉ~、そのおじさん死にそうですけど・・」
俺はそんな言葉をかけながら近寄って行く。
「はぁ? 知るかそんなこと! それよりも石投げたのはお前かって聞いてんだよ!」
頭を抑えた男が声を荒げながら言う。
ったく、血が流れてるじゃねぇかよ、ともつぶやいていた。
俺は男たちにゆっくりと近づいて、3メートルほどの距離で立ち止まる。
おじさんを見てみるが、完全に動けそうにない。
ま、死んではいないようだ。
そのおじさんを抱えていたラガーマンみたいなガタイの男が、おじさんを離す。
ドサッとおじさんが地面に崩れ落ちた。
糸が切れた人形みたいに落ちたな。
男たちが全員俺を見つめる。
男に見つめられてもうれしくないんだが。
そう言おうかと思ったが、やっぱりちょっと怖い。
「おっさん、石投げたのはてめぇかって聞いてんだろ! 答えろ!!」
「はい!」
俺は思わず元気に答えてしまった。
小学生が先生に注意されたような感じだ。
男たちは一瞬だが、ポカンとしてたように思う。
すぐに笑い声が聞こえた。
「ギャハハハ・・・ハイ! っだってよ」
「元気いいね、おっさん!」
「ったく、ガキの返事かよ。 それにしても人に向けて石投げるなって教わらなかったのかよ」
石を投げつけられた男が言う。
いやいや、お前こそ人を殴るなって教わらなかったのか?
俺は思わず心で突っ込んだ。
それが妙に可笑しく、俺はプフッと噴き出してしまった。
「プフッ・・」
俺の声に男たちの顔つきが変わった。
!!
「あぁ? 何笑ってんだ、おっさん」
「そうだよ、人に石投げて何笑ってんだ、あぁ!!」
そういって近寄って来る。
俺は身体を軽く揺すって、身体の力を抜いていた。
そんな俺を見て、男の1人が言う。
「お、このおっさん、やる気なんですか?」
「こんなチビに何ができる」
「おっさん、俺たちこれでもシュ〇トボクシングに通っていたんだぜ」
男たちはニヤニヤしながら近寄って来る。
なるほど、それでか!
背負い投げされてもすぐに起き上がって来ていた。
ダメージをうまく逃がせていたんだ。
身体の使い方は上手なようだ。
俺はそんなことを思っていた。
俺も空手を学生自体に習わせてもらっていた。
帯拳といって、黒帯になると特別なメニューをする指導がある。
俺の通っていた道場は、佐藤〇の流れから完全に独立して個人で指導している人だった。
近所の人というのもあり、親も身元が分かる人がいいということで通わせてもらっていた。
全然流行らない道場だった。
だが、その教え方は普通に護身術程度だが、黒帯となると極端に変わる。
むごいほど丁寧という考えの元、教えられる。
当然、黒帯の塾生はいなくなる。
俺くらいしか残っていなかった。
そんな中、この人も病気で亡くなった。
もしかして、強烈な教えは自分の寿命を感じていたのかもしれない。
俺はその時にそう思ったが、その修練のおかげで自分の身くらいは何とか守れるようになっていたと思う。
さて、このバカ4人組だ。
俺は1歩後ろへ下がる。
「おっと、おっさん。 今さら逃げようなんて・・逃げれるわけねぇだろ!」
男たちはそういうと俺を囲むように広がる。
俺は余裕で逃げれたのだが、少し迷っていた。
最初はこいつらを全員始末するつもりだった。
だが、猿やイノシシ、昆虫とは違う。
「ツヨシがまずやれよ。 被害者だからな」
「あったり
ツヨシと呼ばれた男がそう言いながらステップを踏む。
「ミキちゃんのところへ行くんじゃなかったのかよ」
「ツヨシはバトルするといつもビンビンだものな」
男たちが笑いながらしゃべっている。
「ハッ、言ってろ! こんなのバトルでも何でもねぇぜ、なぁおっさん!」
ツヨシはそう言うと、右回し蹴りを俺に向けて出してくる。
俺はすでに集中していた。
完全に相手の動きが停止したように見える感じだ。
どうしようかと迷っている。
目の前の男を見てみる。
まだ右足は地面を離れているかいないかのところだ。
1センチくらいは動いたかもしれない。
う~ん、始末すると決めたものの、いざやるとなると・・なぁ。
そう思いながら蹴りを避け、はぁっと息を吐く。
ツヨシの蹴りが俺をかすめて通り過ぎていく。
ツヨシはそのまま身体を捻り、後ろ回し蹴りにつなげるようだ。
俺はその蹴りも余裕で
「あれ? 距離を間違えたかな」
ツヨシがつぶやきながらステップを踏んでいる。
「おいツヨシ、何やってるんだ?」
「うるせぇよ、距離間違えたんだよ」
ツヨシはそう言って、前蹴りを放ってきた。
俺を目掛けてまっすぐに蹴りが飛んでくる。
無論、俺には止まったような感じで見える。
俺は、ツヨシの蹴りの外側に避け、膝の外側に片手で触れ、ツヨシの軸足を軽く蹴り払った。
ツヨシは見事に背中から地面に倒れる。
「ぐはっ!」
「「な、なんだ?」」
「あのおっさん、いきなりツヨシの右側に移動したぞ!」
「いや、動きが速いだけだ!」
「チビのくせに!」
男たちが騒がしくなった。
「おい、ツヨシ大丈夫か? 手を貸そうか?」
俺を囲んでいる男たちが言う。
「ったく、やってくれるぜ。 舐めやがって・・」
ツヨシはスッと立ち上がり、身体を揺すってチェックしているようだ。
「おっさん、死んだな」
ツヨシが真剣な顔になって言う。
「ツヨシ、早く終わらせてくれよ。 あの本屋の女子高生バイト、いなくなっちまうだろ?」
「うるせえよ。 だったら先に行ってかっさらってろ!」
ツヨシがそう答えながらも俺との距離を測っているようだ。
「ハハハ・・俺もやりたくなってきたな。 そのおっさんをサッサとやって、女の子といっぱいやりてぇ!」
「アツシ、お前は
「あれ? そうだっけ? 俺、犯ったら覚えてねぇからな・・あはは・・」
「おとといさらった女、お前グランフロントの横に捨てただろ、裸のままで・・ギャハハハ・・」
俺はそんな会話を聞いていて吹っ切れた。
こいつら人間じゃない。
そこら辺の犬の方がまだマシだ。
そう思った時だ、背中にトンと軽く壁に当たったような感じがした。
後ろを振り向くと、ヒロシと呼ばれていたラガーマンみたいな男が俺の後ろにいた。
そのまま俺の両肩をがっちりと抑える。
結構力強いな。
「よーし、ヒロシ。 そのまま持ってろ」
ツヨシがそう言って、そのまま前蹴りを俺に出してくる。
俺はふぅ・・と息を吐き集中する。
ポケットから軍手を取り出し、両手につけた。
そしてそのままヒロシの両腕を下から持ち、握りつぶす。
両手に嫌な感触がするが、気にせずに俺の肩から外しツヨシの方へ向かって移動。
ツヨシの足をデス・ソードで切断。
そのままツヨシの身体の心臓辺りにデス・ソードを突き入れる。
俺は少し距離を取って、集中力を緩める。
「ツヨシ、今度こそ当たったな・・」
俺を囲んでいた男たちがニヤニヤしながら言っていたが、静かになる。
!!
「ツ、ツヨシ・・足が・・」
「ヒロシ! その腕・・」
男たちが少し前のめりになり言葉を出していた。
!!
「「あのおっさんはどこだ?」」
男たちが首を振ると、すぐに俺を見つける。
そして驚いていた。
俺の右腕に青白く光るデス・ソードがあった。
「な、なんだ、あれ?」
「おい、それよりツヨシが・・」
「うわぁ! ツヨシが・・死んだ?」
「うがぁぁぁ、痛ってぇ!!」
ヒロシが叫んでいる。
俺はそれを見ながら思っていた。
案外、平気なんだな。
初めて人を斬ったが、こいつらは人じゃない。
さて、騒がれても面倒だ。
俺はそう思うと、一気に残りの3人を片づける。
本当に一瞬と呼べる時間だろう。
全員心臓に突きを入れた。
俺は少し興奮しながらも、おじさんの方へ近寄って行く。
おじさんの顔に耳を近づけると、呼吸はしていた。
生きているな。
それを確認すると、俺は辺りを見渡す。
誰もいない。
それにこの公園には監視カメラもないようだ。
ホッとしながら俺はその場から去った。
その後数日は事件として騒がれていたが、知らない間に違う話題で世間は塗りつぶされていた。
◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます