十二、無我夢中
たかだか十四歳のわたしは、その時に持ちあわせていた勇気やら瞬発力やら行動力、その他言葉にもならない全てのものをぶちまけて人生初CQを出した。半年ほど前、無謀にも生徒会の副会長に立候補した時より何倍も、何十倍も振り絞ってしゃべった。むしろ度胸がついたその経験があったから、初CQを言えたのかもしれないが。
なのに休む間もなく、次の展開が起こってしまった。なんと、あのかっこいい声が無線機のスピーカーから聞こえてきたのだ。
「こちらJF4ooo。JF4xxxさん、よろしかったらお願いします。どうぞ!」
え?まじ?
あの人?
わたしは耳を疑い、無線機をしばし見つめてしまった。しかし、ここは驚いている場合ではない。何か返事をしなければ。わたしは無我夢中でマイクのボタンを再び押した。
「こ、こんにちは。JF4xxxの〈本名〉です。JF4oooさん、どうぞ」
声はうわずり、手指と腕の震えはいまだ止まらない。かっこいい声の人が誘導してくれて、出会いの周波数から別の周波数に移動した。
そのかっこいい声の人とは30分ぐらいは話しただろうか。いや、一時間だったかもしれない。ただ、手に汗握ってしゃべったことは事実だ。結構長く交信したという記憶をどうにかたぐり寄せたところで、当時のことを日記に書いていないかと、中学校の時の連絡帳兼日記帳の冊子『
何ページか繰って書かれていたのは、コールサインが来たのが、1986年6月28か29日。
そして、初CQを出したのが翌日の7月1日。
なんと、34年前の昨日ではないか?!
コールサインが来てから何日も傍受傍聴だけしていたと思っていたのは勘違いで、速攻でしゃべっていた。それに二日も続けて交信したとも書いている。
そうだった、そういえば、そうだった。
連続してしゃべったのも思い出した。
記憶なんていい加減もんだわ。
せっかくなので、その日記をここに書き記しておこう。
6/30 月曜日の自由欄
とうとう無線のコールサインがきました。わたしのコールは、JF4xxxです。とっても気に入って、よろこんでいます。
早く、CQを出して、いろんな人と話をしたいです!
ハムへの夢は限りなく広がるようです。
7/2 水曜日の自由欄
初めて無線でCQ出したら、高校生がとってくれました。これはきのうの話でした。
今日〈2日のこと〉は、その人と話していたら、途中で3人も入ってきて、話の内容はこんらんするやら、なんやらかんやらで、ごちゃごちゃでした。
この日の前後も読むと、ちょうど期末試験前の部活が中止となるタイミングで、家に早く帰って初CQを出していたようだ。
そして、この一週間後には筆が止まってしまっている。日記を書くことより交信のほうが楽しかったのだろう。
ま、とにかく。
この初CQがかっこいい声のコウジとの出会いであったわけで、そしてそれが最初で最後のCQとなった。更には、二日目に芋づる式に入ってきた複数の高校生のお兄様達からは怒濤の質問攻めに遭ったことも、のっそりと記憶のはじっこから顔を出してきたので書き添えておこう。
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