十、傍受傍聴

アマチュア無線は、技士資格の免許証があるだけでは始められない。無線局開局の免許状も必要である。コールサインと呼ばれる個々の呼出符号が免許状とともに与えられる。

わかりやすく言うと、警察が発行する自動車運転免許証が無線技士資格免許証で、無線の免許状とコールサインは車の車検証とナンバープレートみたいなものだ。


父が届け出をしてくれたことで、わたしにも当時の郵政省より免許状とコールサインが与えられた。コールサインは一人に一つ。何度も何度も口にして言ってみた。最後がX(エックス)で終わる。いとこ達や父のとも違う、言い慣れない、聞き慣れない。なんか、気恥ずかしい。しかし、もう一人、誰も知らない、わたしという人間が増えたようなどこか誇らしい感覚がした。


父所有のモービル型と言われるタイプの車載用小型無線機を借りて自室の学習机の本と本の間に挟んで設置し、アンテナも庭にある5mほどの木にくくりつけてもらって高さを確保。わたしのハム生活は勉強の合間に人のやりとりを傍受傍聴するところからスタートした。

なお、自室と言っても古い農家のこと、家族が自由に出入りする床の間のある座敷の仏壇に背を向けるように学習机を置いているだけで、わたしが学校に行っている間に、勝手に教科書やノートをのぞき見していた曽祖母をよくとがめたと、あとから母に聞かされた。


そんな自由往来される部屋なものだから、傍受傍聴していると当然その音や声が筒抜けになる。夜はふすま一枚隔てた周りの部屋に弟や両親が寝ている。最初は音を小さくしたり夜9時くらいで切ったり多少の遠慮をしながら聴いていた。

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