ハムとセーター

那紀福(なきふく)

第一章 十四歳

一、免許皆伝

物心ついた頃から、父の実家にはアマチュア無線の大きなアンテナがあった。立派な鉄塔にバカでかいアンテナが備え付けられていた。いとこのたかちゃんとかっちゃんのものだった。


階段を上がったすぐの二畳ほどあるハム専用の部屋で、隆ちゃんたちのコールサインはJA4で始まる五桁であること、遠い外国の人とも話ができることなどを教えられた。無線機のマイクに向かって話す20ほど歳の離れたいとこ達が、まだ小学生だったわたしにはカッコよく見えたことは言うまでもなかった。

父も免許取得した数年後、三人の後押しもあってわたしが岡山商工会議所の会議室で電話級アマチュア無線技士資格試験を受験をしたのは、中学二年生から三年生になる春休みだった。


ところで、学校でもまだ習っていない電気回路等の知識がないわたしがどうやって試験を受けたのか。当時、講習会を受講したのちに試験を受けて免許を取得する方法もあった。わたしは講習を受けずに一発受験を選んだ。それはただただ『完マル』のお陰である。「アマチュア無線試験対策 完全丸暗記」という本を近所の本屋で買い、試験とその答えを丸暗記しさえすれば同じ問題が試験に出るという、今の令和の時代にはとても考えられないいわゆるカンニングが許されていたようなものである。

確か、完マルを一月の初め頃に買って三学期中は学校にも持っていき、授業の合間の休憩時間さえも惜しんで完マルと一人睨めっこした。もちろんバドミントン部の練習を終えて帰宅してからも、宿題を済ませた後に完マルをあくせく覚えた。何を覚えたかと言うと、問題の数字と答えの数字の選択肢番号をセットにして記憶するという、ほぼ一か八かのやり方であった。問題の数字が少しでも違うと答えも違ってくるはずなのに、試験当日に実際出た問題は、完マルと全く同じ問題と答えだった。ほんとうに同じ問題が出たことに少々驚きつつも、マークシート方式の解答用紙に答えを塗りつぶすのに制限時間いっぱい費やした。頭から湯気が出て口からは心臓が出そうなほどの緊張感を味わいながら、正直なところ、出来具合には全く自信がなかった。

終わって席を立ち、周りを見渡して初めて男の人が多いなと冷静になった。女性で受験している人はごくわずかで、それもそこそこ年齢のいっていそうな人しかいかなった。


中学三年生になり、ゴールデンウィーク前のある平日、学校から帰ってきたら自署の茶封筒が届いていた。試験会場で自分の自宅住所と名前を宛名書きしたものに合格通知と免許状が入っていた。あまりに嬉しくて、農作業中の祖父と両親に、田んぼにまで行って報告した。生まれて初めて国家試験に受かった。そしてやっと安堵できた。その日の夜、わたしは茶封筒を枕元に置いて寝た。


しばらくすると、父はわたしの無線局開局の手続きをしてくれた。わたしはわたしだけのコールサインを手に入れた。JF4で始まるその六桁はどんなお星様よりもキラキラしていた。

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