第四章 十五歳
八、純情破情
とりあえず事実だけを報告しておこうと思う。おとつい火曜日の夕方、わたしはコウジと会ってきた。
会って、お酒を交わしながら三時間半しゃべり倒した。会って早々、お互いの記憶の答え合わせをし合った。最後に会ったのはいつだったのかから始まり、いついつ会ったのか、どこへ行ったか、など。
そして、今どうしているか。仕事、趣味、家族、無線、その他もろもろ。
コウジは、わたしと出会った時のこと、姫路方面にドライブに行ったこと、それからセーターのこと、さよならの電話のこと、全部忘れていた。覚えていなかった。ただし、わたしが忘れていたことを覚えていたりもした。私の実家に行って父か母に会い、借りていたゲームソフトか何かを返したらしい。
喋っている間はすごく楽しい時間だった。
帰りの電車に一緒に乗り、コウジが先に降りた。わたしはいつもの駅の一つ先で降りて、タクシーを拾った。
福岡神社の前でおろしてもらい、そこから20分ほど農道をボチボチ歩いて、家の前の田んぼを徘徊し、しばらくカエルの声を聴いていた。もう、時間的にいないのを判っていて、蛍のいる用水路のあぜ道まで足を伸ばした。
部屋に入っても、なんにもする気にならない。今日の、この日のことをすぐに書く気も起きない。なんなんだろう、頭の中がスッカラカンだ。虚無感?空虚感?いや、違う。適当な言葉が見つからない。
一時間ぐらいだろうか、着がえもせずわたしはベッドの上から動けずにいた。
夜の0時を過ぎてからお風呂に入り、長いこと湯船に浸かって思い浮かんだ言葉が『純情破情』という、自分でも聞いたことのない四字熟語だった。でもそれが一番しっくりくる。不思議な感覚だけがわたしの体を包んでいた。
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