第3章 こんな結末
01 敵の正体
僕と榎本モノエは共通点がある。
目を逸らし続けていた、直視するのが嫌で嫌で仕方がなかった現実。目を逸らし続けることで、僕は自分が抱える欠陥を見て見ぬふりをしようとした。
榎本モノエを直視するということは、自分が抱える重大な欠陥をまざまざと見せつけられるということだ。僕はそれを避けた。大学に入って3年間、避け続けて逃げ続けた。
だが榎本モノエは違った。あいつは自分の欠陥と正々堂々、真正面から向き合った。
向き合って――抱擁した。
自分の醜い部分でさえ、汚物に塗れたと言っていいほどの汚点さえ、優しく、しかし激しく抱擁したのだ。
その時点で僕があいつに勝てる道理はない。まず心で負けている。
あいつが欠陥者として本物なら、僕は偽物もいいところだ。
僕は、榎本モノエは、生まれながらにして積極的感情を持つことができない。
誰かが好きだ。誰かが嫌いだ。
誰かが愛おしい。誰かが憎らしい。
誰かが羨ましい。誰かが妬ましい。
誰かが生きてほしい。誰かが死んでほしい。
誰もが心の内に秘める熱量が、僕と榎本モノエには一切ない。
それは、暑い日に誰かがアイスを食べていて羨ましいとか、新作のゲームをいち早くプレイしていて妬ましいとか、そういう話ではない。
もっと根本の、人間としての根元が腐りきって溶け落ちている。
僕はこれを欠陥と認識し、榎本モノエもこれを欠陥と認識した。
しかし例外はある。
そう、僕達お互いだけは、そうじゃない。
僕は榎本モノエを嫌いだと断言できるし、恐らく榎本モノエは僕のことを好きだと明言するだろう。
僕は榎本モノエを絶望の象徴だと認識し、榎本モノエは僕を希望の象徴だと認識した。
自分の醜さや汚さを正面から見せつけられる絶望と、自分の醜さや汚さを分かち合える希望。
あいつと僕の差を挙げるのならば、ネガティブかポジティブかで説明がついてしまう。
これが僕の敵の正体。
僕の敵は自分であり、憎むべき同類だ。
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