07 悪の根城
正直に言うと、手詰まりだった。
あの2人がどこに行ったのか、飛鳥をどこに連れ去ったのか、全く検討もつかない。
まさか榎本モノエのマンションにいるということは万が一にもないだろう。というかそもそも、僕の中では榎本モノエの仕業でほぼ確定的なのだが、実は榎本モノエの仕業ではないという可能性もあるにはある。
だが、手がかりがなくとも僕が動かないわけにはいかない。
たった1人の肉親を容易く手放せるほど、僕は冷めきっちゃいない。
本当なら榎本モノエの元へ向かう前に、バトルになる前に病院へ駆け込んでこの腕の処置をしてもらいたいところだが、そんなことをしている時間はないし入院だと宣言されてしまう可能性も十分にある……それは、ダメだ。
「でもよ、実際のところ手掛かりゼロじゃなぁ。どうすることもできねえじゃんか」
「ええ……とりあえず、榎本モノエのマンションに向かうしかありません。ヒントならそこしかない。正直あいつと会うのは一番避けたいんですが、そうも言ってられない」
「相当嫌ってんな」
「当たり前です。こんなことを日常的にされて好きになれるはずがない」
如月さんはそれもそうか、と楽しそうに笑った。
今は奇妙な柔軟体操もどきをやめ、椅子に座っている。
服は僕のものをとりあえず着てもらった。淡い水色のシャツに、伸縮性のあるデニムパンツだ。幸い僕と如月さんの体型はほぼ変わらないので、問題なく入った。
「サイズは問題ないが、ちょいと胸がキツいな」
「それは我慢してください……」
僕はこれからどうするか考える。
今は深夜1時前。いくら元凶とはいえ、こんな夜中にいきなり訪ねてすんなり会ってくれることはないだろう。
僕が考えていると、僕のスマホがジョジョのセリフを鳴らす。着信だ。
「おい、鳴ってんぞ……はっ、こりゃあいい」
見ると、画面には榎本モノエのものである電話番号が表示されていた。
「くそっ」
僕の行動や心理なんて全てお見通しだとでもいうようなタイミングだ。決定的な敗北を実感し、自分の惨めさに嫌気が差しつつもすぐに電話をとる。僕が名乗る前に、榎本モノエから喋った。
「早いわね、威々野……まあ、状況が状況だけに電話をとるしかないわよね」
「……何の用だよ、榎本。何時だと思ってるんだ」
「あら、それは失礼したわ 。あなたがまごついてるだろうなと思ったから、こちらから掛けてあげたんだけれど……。本当は私と話したくてしょうがないんじゃないの?」
いちいち癇に障る言い方をする。
僕はスマホを握り潰しそうになる衝動を抑え(僕にそんな握力はないが、あの長身の男ならやってのけるだろう)、冷静であることを努めつつ応対する。
「まあ確かに、訊きたいことは山ほどある」
「じゃあ、電話で長話をするのもなんだし、家へ来ないかしら?」
おっ、と如月さんが隣りで声を上げる。どうやら漏れ出ている音声から会話を盗み聞いているらしい。
「それは願ってもない。ぜひお邪魔させてもらうよ。いつ、何時からが都合いいんだ?」
「この後、っていうのはどうかしら」
「いいね」
「インターホンを鳴らしてくれたらすぐに開けるわ」
「わかった、じゃあ。すぐに向かう」
「ええ……それから、如月さんも来ていただいて結構だから、伝えておいて?」
如月さんは嫌な笑顔を浮かべている。
「ああ……わかった。如月さんに伝えておく」
「ええ、よろしくね。それじゃあ」
プツリ。
僕はしばらくスマホの画面を見つめる。まだ通話画面になっており、そこには榎本モノエの電話番号が表示されている。
「おいおいおい、タっくん大丈夫か? えらい顔してるぞ」
如月さんにそう言われて、顔や肩に力が入りすぎていることを自覚する。僕はゆっくり深呼吸をして、徐々に身体の力を抜いていく。同時に、熱もすっと引いていくように感じる。
「さてと、私もご指名か。こりゃあ気合いを入れる必要がありそうだな」ボキボキと指の関節を鳴らす如月さんは、さながら北斗神拳の伝承者のようだ。
「僕は、元々喧嘩慣れしてない上にこの腕なので、全く使い物になりませんね」
「はっ、そこは安心しろ。元々あてにしてねえから」
おいおい……だが、それもそうか。
なんでも屋といっても如月さんは恐らく戦闘特化。もしかしたら僕という足手まといがいる分、逆に弱くなってしまうかもしれない。
「その腕、もう二、三重に巻いとくか?」
「いえ……、大丈夫です」
僕は鼓動に合わせ、ドクンドクンと痛む腕をそっと
反面、如月さんはとても楽しそうに、とても嫌な、いい笑顔で言った。
「さて、出撃するか。悪の親玉の根城にな」
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