第715話 鳩飼とは
「皆の腕を疑うなんてとんでもない。分かった。ぶっ壊れる程ガンガン使うよ。」
「へっ!壊せるもんなら壊してみろってんだ!」
自分達の作った物への絶対的な自信。それを感じる。
そして、それは装備を見れば当然だろうなと思わされる。それ程の一品なのだ。
「しかし…すまねぇな。武器の方は作れなかったぜ。」
「そう言えば…確かに防具ばかりだな。やっぱり時間が足りなかったか?」
「まあそれも有るが、一番はカタナって武器の特殊性だな。
普通の剣とは違い、カタナってのは何度も鍛錬し、長い時間を掛けて打つものだろう?」
「あ、ああ。」
シドルバ達に刀の説明はしていなかったのだが、俺達の持っている刀を見てどういう製法なのか一目で分かったらしい。
「カタナの製法を簡略して作るって事も出来るかもしれねぇが、それをしちまうとカタナの良さが半減以下になっちまう。
カタナは時間を掛けてじっくりしっかり打つからこその武器だ。下手に真似てもクズ鉄が出来上がるだけだ。
それでも、ある程度の物を模倣するくらいは出来るだろうが…シンヤ達が使うとなると、その道の専門家、カタナ鍛冶ってやつじゃなきゃ作れねぇ。職人としては言いたくねぇ一言だが、カタナは俺達が見ただけで作れるような代物じゃねぇ。
アースドラゴンの素材を使った直剣を作っても良かったが、武器は使い慣れた形の方が良いだろうからな。悪いがそういう理由で武器は作らなかった。」
「そこまで考えてくれているのに悪いなんて事はないさ。確かに刀は特殊な武器だからな。気を利かせてくれて助かるよ。」
「おうよ!その分色々と作ったから期待してくれ!」
色々と装備を作ってもらい、俺達の装備はかなり充実した。元々持っている防具も有るには有るが、自分専用に作ってくれる装備とは全くの別物だ。
見ただけで俺達の戦闘スタイルに合わせて作ってくれた事が分かる。
「ふむ。これでお主達に少しは礼が出来たか。」
ドームズ王はそんな事を言っているが…
「いやいや…それ以上の物を貰ったよ。十分どころか十二分だ。」
「そう言ってもらえると九師に作らせた甲斐が有るというものだな。」
「本当に助かるよ。ここを出立しても厳しい状況が続くだろうからな。」
魔族に神聖騎士団、ギガス族に鱗人族。後どれくらいの死線を越える必要が有るのだろうかと憂鬱になる程だ。
しかし、そんな俺達に対してドームズ王が助け舟を出してくれる。
「ふむ……その事だが、お主達に伝えたい事が有る。」
「??」
「お主達は、
「ああ。どうしても魔界へ行きたくてな。鳩飼とやらが筋道を付けてくれるという話を聞いたから探していたんだ。だが、どうやらそれもただの噂でしかないみたいでな。結局見付からなかった。」
鳩飼の事は気になっているが、現時点で見付かっていないとなると期待薄だろう。こちらにはエフも居るのに情報を集められないとなれば、その噂自体が怪しいと言える。
「まあ…何とかするしかないな。」
「その事だが、鳩飼は居る。そして、その者はこの場に居るのだ。」
「「「「「っ?!」」」」」
俺達全員が驚愕した。
鳩飼が居るという事についてドームズ王が認めたのはまだ分かる。ドームズ王と鳩飼について話すのは二度目であり、ドームズ王も鳩飼の事を口にしていた。しかし、まさかその正体を知っていた上にこの場に居ると言われれば驚かない方が無理だというものだ。
しかも、彼は王という立場であるのだから、彼が鳩飼が居ると口にする事は、種族単位で魔界へ入る手伝いをしているという事になるからだ。それは元の世界で言うところの国家間の問題という程に大事である。
「どういう事だ?!」
「すまないな。これは魔族との関係性にも大きく関わってくる事であるが故に簡単に話す事が出来なかったのだ。」
「いや…それは分かるが…ここに居るって事は、つまりドワーフ族全体として動いているって話になるよな?」
「一般に知られているわけではないが、ワシが関わっている以上言い訳は出来ぬな。」
「ど、どういう事なの…?」
「詳しく説明しよう……と言っても、実際に鳩飼が居るのにワシから説明する事は無いだろう。」
そう言ってドームズ王が視線を向けた先は、俺達の後ろ。
そこにはシドルバ達九師が居るだけ。他には誰も居ない。
「よろしいのですか?王よ。」
言葉を発したのは……何とシドルバ。
「当然だろう。我々を救ってくれた英雄には最大限の感謝を。
それに、お主達も助けたくてうずうずしているように見えるぞ。」
「流石は我等が王でございます。」
シドルバとドームズ王の掛け合いが終わると、俺達の方へと視線を向ける九師達。
「ま……まさかシドルバが?!」
「あー…いや。正確に言うと俺だけじゃねぇ。実は俺達九師が鳩飼なんだ。」
「なっ?!」
「嘘でしょ?!」
散々街中を探し回っていたのに、目的の人物は目の前に居て、更にその家に泊めてもらっていたという事になる。
「すまねぇな。この件については王からの許しを得ないと喋れねぇ決まりになっているんだ。」
「ま、まあ…種族全体に関わる話だし、それは分かるが……」
「まさか目と鼻の先に目的の人物が居たとはねー…」
「騙されたわ…」
嫌な気持ちは全く無いが、やられたー!という気持ちが強い。
よくよく考えてみれば当然なのかもしれない。
鳩飼という人物は、魔界への橋渡しをする。言わば密入国みたいなものだ。
普通、そんな事をして魔族に迷惑を掛けてしまうと分かっていて、俺達の目的さえ把握していたドームズ王が放置するわけがない。正体が分からないなんて事有り得るはずがなかったのだ。
「すまぬな。いくらシドルバが信用する者達だとしても、そう簡単に教えるわけにはいかなかったのだ。」
「いや…まあそれは仕方が無い事だろうし、簡単に気付かれるようでは逆に心配になるからな。それにしてもシドルバとジナビルナがな…」
「なんだ?本当に気が付いていなかったのか?」
シドルバは、不思議そうに俺の顔を見る。
「そんな仕草全く見せなかっただろ?」
「いや。そもそも鳩飼と九師と聞けば分かると思ったんだがな。」
「???」
俺含め、全員が頭に?を並べる。
「鳩飼……九師……………あぁぁっ!!そういう事か!!!」
いち早く気が付いたのはスラたんだった。
「ど、どういう事ですか?」
「鳩飼!鳩という字と飼という字を別の読み方にするんだ!鳩はキュウとも読むよね?!鳩を飼う小屋の事を
「
「うわー!僕!なんで気が付かなかったんだよー!考えてみれば簡単な事だったのにー!」
スラたんがくるくるパーマの頭を抱えて嘆いている。
ただの言葉遊びにかなり時間を割いてしまった。まあ、それが有ったからこそ、今こうしてスムーズに事が運んでいると言えるし良しとしよう。
「してやられた感は有るが、シドルバ達が鳩飼ってのはどういう事なんだ?シドルバ達が助けてくれるって事なのか?」
「いや。この鳩飼ってのは、そもそも魔族に仇なす可能性の有る者を見付け出す為に考えられた噂なんだ。
魔界へ渡ろうとする者達が、魔族と親しいドワーフ族を利用する事は予想出来る。」
「つまり…あの噂はわざと流したもので、本当は魔界へ入る方法など無いと?」
「いや。魔界へ入る方法は有るぞ。正規の方法ではないが、間違いなく入る事は出来る。」
「本当か?!」
俺達にとっては正規の方法ではない方が嬉しい。
「ああ。覚えているか?俺達の事を救ってくれた人族がいるって話を。」
「ああ…確かクルードだったか。」
シュルナの名前は、そのクルードという男の亡くなった娘から貰ったと聞いた。
「そうだ。その彼が魔界へ入るのを手伝ってくれる。」
「クルードは人族だと聞いたが…魔界へ普通に入れるのか?」
「色々と有ったらしくてな。自身は魔界への出入りが自由に出来るとの事だ。個人的な話になるし、詳しい事は俺の口から話す事は出来ねぇが間違いねぇぞ。」
「まさか聞いていたクルードという人がこんな形で関わって来るなんて思わなかったわね…」
「シュルナも知っていたのか?」
「うん。クルードさんは何度も家に来てくれているから…ごめんね。私も鳩飼の事は言っちゃいけなくて…」
「いや。それについては誰も責められないと分かっているから気にする事はないさ。
それより、そのクルードが俺達を魔界へ案内してくれるんだよな?いつ頃になりそうだ?」
どうやって連絡するのかとか、その他諸々の事を考えると今直ぐに案内を頼むというのは難しいだろう…と思っていたのだが…
「頼むだろうと思ってな。先に連絡をしておいた。ここから魔界へ向けて真っ直ぐに進むと、パピルという小さな村がある。そこでクルードが待ってくれているはずだ。」
「既にそこまでしてくれていたのか…」
「シンヤ達が悪さをする為に魔界へ行きたいなどと考えているとはとても思えんからな。」
「それに、今現在の魔界は何やらごたついている様子。お主達がそのごたつきに関与するのかどうかは分からぬが、ワシは魔王と知らぬ仲ではないし、ドワーフ族は魔族の恩恵を受けている部分も大きい。ワシに出来る事などたかが知れているであろうが、お主達を送り届ける事が助力となるというのであれば、喜んで手を貸そう。」
ドームズ王がそう言うと、シドルバ達も、ジュガルも大きく頷く。
ドワーフ族がこれまで中立を守れていたのは魔族の存在がかなり大きい。それに感謝をしているから出来る限りの事をしたい。そんな感情だろう。
「本当に助かるよ。これで何とか停滞せずに済みそうだ。」
「本来ならばもっとこの街に滞在してもらい礼を尽くすのが筋というものだろうが、お主達の旅路を邪魔してはいかんからな。」
「いや。本当に十分礼はしてもらったよ。
それに、この街はとても良い街だ。出来ることならばもっと居たいところだがそうもいかなくてな。だから、また必ず来るさ。必ずな。」
「そう言ってもらえると、この街を取仕切るワシとしては鼻が高い、また来た時は、必ずワシにも顔を見せてくれ。」
「ああ。約束する。」
その後、ドームズ王が最後にもう一度俺達に向けて正式に感謝を述べて見送りを終えた。
玉座の間を出ると、俺達はシドルバ達に連れられて別室へ。
貰った装備の事やアイテムの事、何よりシュルナの事も有る為、九師と俺達だけで少し話をする事になったのだ。
「これはこうやってメンテナンスするんだ。間違えるなよ。」
「うん!」
装備の専門的なメンテナンスとなると、俺達が聞いてもよく分からない為シュルナに任せる。何やら色々と言われていたみたいだが、俺には半分も分からなかった。
一通り九師全員からのアドバイスを受け、感謝を受けた後、シドルバとジナビルナ、そしてシュルナのみを部屋へ残して全員退室する。
シュルナにとっては独り立ちの時であり、シドルバとジナビルナからすると一人娘が親元を離れる時だ。そんな場所に残ろうとする無粋な者は一人もいない。
「親元を離れるというのは、本来、こうして寂しがって貰えるものなのですね。少しだけ羨ましいです。」
ニルは部屋を出た後、そんな事を呟いた。
いつものニルならばこういう弱気な言葉を吐かないのだが、ニルにとっては故郷である魔界へ向かうという状況では、やはり自分の覚えていない生い立ちが気になるのだろう。
ニルの両親だってそうだったはず。という言葉は出なかった。その言葉は……あまりにも無責任だ。
「俺はニルが居なくなったら凄く寂しいぞ。」
「えっ?!あっ……は、はい……」
ニルとしては無意識に呟いた言葉だったのだろう。俺が代わる言葉を贈ると、ニルは頬を紅色に染めて俯いてしまった。
ガチャッ…
そうして少しすると、部屋の扉が開いて中からシドルバ一家が現れる。
「待たせちまったな。」
「気にするな。親子の別れを邪魔する程無粋じゃないさ。寧ろ、もう良いのか?」
「長く話せばより一層別れ辛くなる。こういうのはスパッとした方が良い。」
シドルバは何でもないように言っているが、心中はそうでもないらしい。ギュッと握り締める拳がそれを物語っている。
それに対して、ジナビルナとシュルナの目元には涙の跡が薄らと見える。
「そうか。シュルナも良いのか?」
「…うん!大丈夫!」
ほんの少しだけ震えた声ではあるが、元気な声で言うシュルナ。
「それなら、そろそろ出発するぞ。」
「うん!」
名残惜しい気持ちは全員が持っていた。それでも成さねばならない事が有る。
後ろ髪を引かれる気持ちを押し込め、俺達は王城を出て馬車に乗った。
「おっとー!おっかー!行ってくるねー!!」
王城の門前で俺達を見送るシドルバとジナビルナに向かって手を振り続けるシュルナと共に俺達はザザガンベルを出る事となった。
ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー
シンヤ達がザザガンベルを旅立つ丁度その頃……
「ホーローさん!こいつを見て下さい!」
魔王の住む城。その資料庫で二人の人狼族が闇に紛れ、小さな灯りを頼りに何かを探していた。
一人は人狼族の頭であるホーロー。もう一人は、ホーローと共に魔界をどうにかしようと集った仲間の一人である。
「……これは?!」
「はい!間違いありませんよ!」
資料庫の中にしか聞こえない小さな声ではあるが、何かを見付け出した事で興奮している様子だ。
「よし…これを持って」
「おい!誰か居るのか?!」
「「っ?!」」
二人は大きな声を出したわけでもなく、灯りも自分達の周囲を照らすだけの小さなもの。それなのに、勘の良い兵士の一人が資料庫の扉の奥からこちらへ声を掛けて来る。
ホーローともう一人の人狼族の男は灯りを消して息を殺すが、不審に思った兵士が扉を開けるまでもう数秒も無いだろう。
「隠れろ!」
ホーローと男は即座に身を隠す。
ガチャッ!
直ぐに扉が開くと、キョロキョロと辺りを見渡しながら兵士が入ってくる。
「……………」
「………………」
「………そこに居るのは誰だ?!」
兵士が照らし出した先に居たのは仲間の人狼族。ホーローは直ぐに助けに入ろうとするが、それを人狼族の男が視線で止める。
ダッ!バリィン!
仲間の人狼族は資料庫の窓を派手に割って飛び出す。
「待てぇ!」
兵士が後を追い、その後直ぐに警報が鳴り出す。
「クソッ!」
ホーローは自分を生かすために囮となった彼の想いを受け取り、割れた窓から飛び出すと逆方向へと走り出す。
ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー
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