第542話 助っ人 (2)
本来ならば、こんな危ない事をするな…と言わなければならないのかもしれないが、それは後ろに控えている両親達に任せるべきだろう。
それに、俺は三人の今回の行動は勇敢だと思っている。
まだ三人は盗賊に襲われたばかりだったし、恐怖が体に残っていたはずだ。それでも、Sランク冒険者を連れて行く事で、人々を助ける事に繋がる。そう考えて手を挙げたのだ。大人にだって出来る事ではない。
「まったく…ガキってのは……おい!何人か護衛に付けてテノルトまで頼む!」
ケビンが少し潤んだ目を隠すように大声を出すと、直ぐに何人かが動いてくれて、子供達と両親達に付いてくれる事になった。
部屋を出て行く時も、ラルクの顔は笑顔から警戒へと変わっていた。大した子供達だ。
将来、Sランク冒険者のパーティとして、その名を耳にする事が有るかもしれない。
子供達を見送った後…
「僕達の紹介は要らなさそうだし、早速話を聞きたいんだけれど…」
「ああ。」
イーグルクロウの事は、ここに居る人達に紹介しなくても、よく知っているみたいだし、早速、一通り今の状況をドンナテ達に説明する。と言っても、八方塞がりです。という事を説明するのに時間は必要無かったが。
「なるほど…かなり厳しい状況だね…」
「さっき、ラルクが壁を通り抜ける方法を知っていると言っていたが…」
説明やらで忘れかけていたが、確かにラルクは壁を通り抜けられる方法を知っているような事を言っていた。
「正確には、すり抜けるって話じゃないんだけど、それに近い事が出来る人達が、既にジャノヤの方に向かっているんだ。」
「「「「……??」」」」
ケビン達は盛大に頭の上に?マークを発生させているが、俺達には直ぐに誰の事だか理解出来た。
レンヤ達の事だ。
黒犬と同等かそれ以上の隠密術に戦闘力。イーグルクロウの五人がここに来てくれたとなれば、レンヤ達も来てくれたと考えて良いだろう。レンヤ達の実力は、オウカ島での一件と、こちらに来てからの数日間でよーく分かっている。
流石に彼等だけでどうにかしろというのは不可能な話ではあるが、裏方としてこれ程心強い者達は他に知らない。
恐らく、既に色々と準備をしてくれている事だろう。流石に、見知らぬ土地に来て、いきなりの事だし、相手の事も十分に理解出来ていないだろうから、今直ぐに何かを
俺とニルがドンナテに目を向けると、ドンナテは小さく頷いてくれる。俺達が想像している通りだと伝えてくれているのだ。
「それについては俺も保証出来るから大丈夫だ。流石に物理的にすり抜けるなんて事は出来ないが、思っているよりも簡単に中へ入れるかもしれない。」
「カイドーがそこまで言うって事は、かなりの
「ああ。これ以上無い程の助っ人だ。」
ケビンの質問に自信を持って返答する。
「それより、ここまで来てもらってだが、ハッキリ言って状況は最悪に近い。上手く中に潜り込めたとしても、そう簡単に落とせるような数じゃない。下手をしなくても死ぬかもしれない。そんな戦況なのは、ドンナテ達も分かっているよな?」
「ちょっと。もしかして…私達が相手の数を見て怖気付いて、このまま逃げ帰るとでも思っているわけじゃないわよね?」
「ふむ。それは心外だ。我々の為に何度も命を賭して戦ってくれたというのに、逆の立場になった時に、我々が命を賭けられないとでも思われているという事か。」
「僕達をそんな恩知らずだと、本当に思うのかい?」
「皆……」
「それに、アタシ達は、こう見えてもSランクパーティなんだよ!盗賊みたいなクズな連中が、いくら集まったって負けるはずないよ!」
「ペトロはいつも言い過ぎるんだから…でも、今回はペトロの言葉に賛成。お姉ちゃんもお世話になったみたいだし、ここで恩を少しでも返さないと、死ぬまでに返し切れなくなっちゃう。」
イーグルクロウの五人は、相手の数について聞いても、全く引く気は無く、戦闘への参加を言葉にしてくれる。
命を賭けて…とは言ってくれたが、勿論、彼等に死ぬ気は無い。それぐらいの意気込みでという意味であり、本当に死ぬまで引かないという事は無いだろう。冒険者というのは生きてこそと考えているのが普通だ。一度目の突撃で負けたとしても、生きてさえいれば二度目、三度目と攻撃を仕掛けられる。何度になるか分からないが、その最後に、相手を倒す事が出来れば良い。そう考えているはずだ。
イーグルクロウとは色々と有ったし、無理も無茶もしてくれるかもしれないが、死ぬ気なんて無いという事だ。
「と言っても、今回の事…自分達の為だけじゃなく、皆の為…よね?
そういう人達だから、私達も思いっ切り力を貸そうと思えるのよね。」
プロメルテが俺にウインクする。
「………本当に助かるよ。」
「任せてー!」
「たまにはSランク冒険者パーティだっていうところをビシッと見せておかないとね。僕達の方が助けられてばかりだし…」
「それは言えてるわね…」
「い、いや、そんな事は無いと思うが…」
そこまで言われてしまうと流石に恐縮してしまうが、今回は本当に助かった。
正直なところ、ここに来てイーグルクロウとレンヤ達が来てくれたのはかなり有難い。数としては、全体的に見ればたったの数人程度。それでも、一騎当千レベルの者達が数人増えたとなれば、それだけでも戦力差がグッと縮まる。
イーグルクロウの五人の強さは、間違いなくSランクだ。経験も豊富だし、未開拓地の調査を依頼される程の実力を持っている。街に居る有象無象の相手をするくらいならば、欠伸をしながらでも出来てしまうだろう。
それに、彼等五人のパーティは、実にバランスが良い。
セイドルが盾直剣、ドンナテが大剣、ペトロがダガー、プロメルテが弓、そしてターナが魔法だ。五人パーティという人数で考えた場合、いくつかのテンプレートな役割分担が有るが、バランスの良いパーティとして挙げられる代表例の一つと言って良い。
遠近共に火力を出す事が出来て、一人一人の攻撃力が高く、また、防御力も高い。簡潔に言ってしまえば、ただただ強いパーティであると言える。地力が高いパーティは、それだけで非常に怖い。
「いや、今回は素直に感謝しておくとするよ。
助けに来てくれて本当にありがとう。」
「私達からも!本当にありがとうございます!!まさかイーグルクロウの皆様に御助力頂けるとは!」
「この辺りで活動はしていなかったと思うけど…」
「Sランクの冒険者パーティともなれば、色々な場所に話が行くわよ。ましてやこの辺りはそう離れているわけでもないのだから、私達を知っていてもおかしくはないわ。」
「それもそうか…まあ、僕達の力がここに居る人達の助けになるなら、喜んで力を貸すよ。よろしくね。」
「はい!!」
ハナーサも、イーグルクロウの五人が来てくれた事に対して、かなり有難く思っているのか、泣きそうな程に喜んでいる。
「さてと……こうなってくると、話が大きく変わるな…」
イーグルクロウの五人とレンヤ達の合流。これによって、戦略が一気に広がった。
「こっちの連中をまとめる事になるケビンだ。助力に感謝する。」
俺が悩んでいるところで、ケビンがドンナテ達に挨拶を入れて話し掛ける。
「うん。」
ドンナテとケビンが握手をした後、直ぐにケビンが口を開く。
「俺は頭が悪くて策を練るなんて事は出来ないんだが、戦う事に関してはそれなりに自信が有る。この村に集まってくれた連中も、大抵の者達がそんな感じだ。
遠回しに言わず、ハッキリ言ってしまえば、指揮を執る者が少ない。」
「なるほど…僕達にその役目をやって欲しいって事だね。」
「見ての通り、カイドー達はもう限界だ。少しでもカイドー達の戦闘回数を減らしたい。」
「僕達もそれには賛成だね。ここまで疲弊しているとなると、そう何度も戦えないだろうからね。」
ドンナテが俺の方をチラッと見てくるが、俺は自分の状態が分かっているから、苦笑いで返す事しか出来ない。
「連中を攻める際、二手に分かれるという策は変わらないだろう。そうなると、半数は俺が指揮するとして、もう半数を指揮する者が欲しい。
この村に集まってくれた連中は、あまり大人数の戦闘というのを経験したことがない無い連中ばかりだ。ましてや指揮なんてした事が無いだろう。だから、半数の指揮を頼みたい。」
「ざっと五百人…というところかな?」
「ああ。」
「僕達もここまで大人数となると経験が無いけれど…パーティ合同の大きな戦闘自体は経験も有るし…分かったよ。僕達がもう半数の指揮を任されよう。」
Sランクパーティともなれば、大規模戦闘の指揮も何度か経験しているはずだ。イーグルクロウが指揮を執れば、五百人を上手く指揮してくれるだろう。
「助かる。」
イーグルクロウを指揮役として配置出来れば、俺達が表立って動く必要が無くなる。俺達に有無を言わさないように、ケビンがイーグルクロウを指揮役に推したのだろう。
イーグルクロウが指揮役を受けた後、少しの間具体的な策について話をする。
時間が無いのは間違いない為、出来る限り急いで、作戦の外枠を作り上げる。
「相手の数は馬鹿みたいに多いし、外壁の事もあります。正面衝突はとにかく避けないと、一瞬で押し潰されてしまうかもしれません。」
話の論点を、ハナーサが提起する。
「それなんだけど…先程話していた、別で動いてくれている人達が壁内に侵入して、中へ入るための手引きをしてくれる手筈になっているんだ。」
「確実に上手く行く…のですか?壁内に侵入して…なんて、そんなに簡単な話じゃないと思いますが…?」
「そこは安心して良い。さっきも言ったが、間違いなく仕事をこなしてくれるはずだ。信用してくれて良い。」
「…分かったわ。カイドーさんがそこまで言うなら、もう心配しないわ。
でも、手引きしてくれるとは言っても…何人か先に入るくらいしか出来ないですよね?」
「もし先に誰かが侵入するという作戦にするのなら、入れるのは多くても数人くらいかな。」
「そうなると、腕の立つ人達を侵入させて、開門させてしまうのが最も効率的ですね。」
「そうだね。中に入った者達が二手に別れて、二つの門を開くのが良いかな。門が開いてしまえば、中に入るのはそれ程難しいことじゃないだろうし。
ただ、そんな事をする必要も無いかもしれないかな。」
「??」
「中に入ってくれた人達が、僕達が突撃しても上手く入れるように援護してくれるはずだよ。」
「援護…?」
「細かい事は後で話すけど、取り敢えず、難しい策を考えなくても、簡単に入れるかもしれないと思ってくれて良いよ。」
「す、凄い自信ですね…」
「それくらい優秀な人達なのさ。」
レンヤ達は、イーグルクロウから絶対的な信頼を受けているらしい。流石は忍だ。
「上手く入れるとした場合…問題は入った後ね…」
「そこからは俺達の仕事だ。」
共に頭を悩ませていた者達が、立ち上がりながら言い放つ。
「ジャノヤに生まれてジャノヤで育った者達も多いんだ。街中での戦闘ならば、人数差も上手く戦えばカバー出来る。」
「中に入っちまえばこっちのものだよな。」
「建物も在るし、戦い易い場所に誘導すれば良い。一人で百人は斬ってみせるぜ。」
「ははは!大きく出過ぎだろう!老いぼれのくせに!」
「まだまだ若い者に負ける程
少しずつ光が見え始めて、表情に明るさが見え始める。
「人質はどうする?」
「人質救出部隊を別で編成しよう。隠れるのが上手い連中を二手に分けて部隊に組み込んで、門を通り抜けた段階で、即座に救出に向かってもらう。
他の者達は、門を守りながら、救出した者達を逃がしていく。」
「まあ、それが妥当だな。」
思っていたよりもずっと作戦は早く決まった。
「俺達も、門を通り抜けた段階で、別で動くとしよう。」
話がまとまった所で、俺は俺達の動きを一応伝えておく。
「出来る限り戦闘を避けて進み、頭を取りに行く。
相手側に居る上位の連中は、想像よりずっと強い。相手にするのは俺達が適任だ。」
「何言ってんだ!そんな事させるわけには!」
「ケビン。これは恐らく俺達にしか出来ない仕事だ。」
俺達の事を止めようとしたケビンに、真剣な表情で言う。
相手が吸血鬼だったりプレイヤーだったりすると、流石にイーグルクロウやケビンでも辛い相手になってくる。
その点、吸血鬼族ならばハイネとピルテ。プレイヤーならば俺、ニル、スラたんが相手をする事が可能だ。そう何度も戦うのは無理だが、残っている強者も残り僅か。ギリギリではあるが何とかなるはずだ。
「相手は盗賊ではあるが、間違いなく強い。この作戦も勝算で言えば三割程度。失敗する方が確率としては高いはずだ。」
大雑把に決められた計画、人数差、その他諸々を考慮すると、俺達の勝ち目の方が低い事は、誰の目にも明らかだ。
「それでも、勝算が有るとしたら、素早く相手の首を落とす。これしかない。」
俺は首に手刀を当てて言う。
「だが、首を落とすには落とせるだけの力で刃を振り下ろさなければならない。」
「………チッ。自分の力の無さが恨めしいぜ。
…………確かに、それが出来るのは、ここに居る者達全ての中でも、カイドー達だけだろうな。
俺達も街から逃げ出して来る時、ヤバい奴と顔を合わせたから分かる。あの連中は俺達にはどうする事も出来ない相手だってのがな……」
ケビンは辛そうな顔をした後、真剣な表情になって、俺達の方へと体を向けると、勢い良く頭を下げる。
「すまない!最後まで頼りにするしかない情けない俺達だが…どうか…どうか力を貸してくれ!」
ケビンの姿を見て、後ろに居た冒険者達やハナーサまでもが頭を下げる。
「や、やめてくれ!俺達は俺達の為に戦うって言ったろ!そういうのは必要無いっての!」
「…いや。本来ならば、カイドー達は、ここで引くべき状態なんだ。そう出来ないのは…戦うしかないのは、俺達が弱いからだ。
止めたいのに、止めたら街の皆が死んでしまう…だが…止めなければカイドー達が…」
俺達の戦闘を止めてしまえば、街の人達を助けようにも、ケビンの言う強者達に蹂躙されて終わりだ。上手く行って人質を救出出来たとしても、その後の事はどうする事も出来なくなる。強者を抑える役が居ないのだから、当然救出した後は、その強者連中が追って来る。一度は逃げられても、勝ち目は全く無くなる。
逆に、俺達が戦えば、一先ず人質は助けられるし、俺達が生きて帰って来る可能性も有る。というか、勿論俺達はそのつもりだ。
「俺達が頭を落とせば済む話。単純明快だ。」
「………………」
単純明快ではあるが、なかなか厳しい戦いになる事は分かっている。だから、ケビンは黙って俯いてしまったのだろう。
頭を取りに行くとなれば、大人数では目立つ。俺達五人に加えて、数人が限度。隠密優先で戦闘を避けて通り抜けるとはいえ、行き着く先を考えると、俺達と同等の能力を持った者でなければ足手まといになる。そうなると…同行出来るとしたらケビンとイーグルクロウくらいだろう。だが、そのどちらも指揮役として戦場に出るわけだから同行不可。そうなると、共に戦えるのはレンヤ達の内の一人か二人くらいだが…彼等の本業は忍。裏方が前に出て戦うのはあまりにも無謀過ぎる。
要するに、結局はこの五人でどうにか頭を仕留めなければならないという事になるわけだ。
「……すまない…」
「皆が居るなら勝ち目は有る。」
確かに辛い戦いになるだろうが、イーグルクロウとケビン達が戦ってくれる事で、ある程度安全に街に入る事が出来る上に、レンヤ達が裏で動いてくれる。五人だけで街に入ろうと考えていた時に比べれば、雲泥の差だろう。
「これで方向性は決まった。後はそれを実行するだけだ。」
「…………………っ!!」
バシィィン!!
その場の全員が驚くくらい、自分の頬を強く叩いたケビン。
「うっし!!カイドー!絶対に死ぬなよ!」
「…ああ。」
ケビンは気合いを入れ直し、拳を握る。
あれだけ俺達が戦う事に反対していたケビンだが、それでは現状を打破出来ないと理解して、折れるしかなかった。そこで折れた事を後悔させない為にも、五体満足で帰って来なければならない。
「カイドー達はイーグルクロウの部隊に入ってくれ。俺の指揮下より安全なはずだ。」
「…分かった。」
「私は行っても戦力にならないから、残った人達をまとめて避難するわ。」
「頼む。気を付けろよ。ハナーサ。」
「ケビンの方が気を付けてよ。元気なまま戻って来なさいよ。」
「……ああ。」
これで全ての話し合いが終わった。
「よぉぉぉっしゃあああぁぁぁっ!」
「あんな連中なんざぶっ殺してやるぜ!」
「俺達に手を出した事を後悔させてやる!」
次々と気合いを入れ直した者達が、家から飛び出して行く。
俺達も外に出ると、慌ただしく動き回る人々が見える。
イーグルクロウの五人も、指示を出して部隊を簡単にまとめてくれているようだ。
「これで、どうにか形にはなりそうですね。」
それを見ながら、ニルも気合いを入れ直すようにグッと腕を曲げて拳を握る。
「ああ……スラたん、ハイネ、ピルテ…ニル。」
俺は四人の名前を呼ぶ。
何事かと俺に目を向ける四人。
今更四人に再確認なんてするつもりは無い。ここまで一緒に戦ってくれたのだ。最後まで一緒に戦ってくれる事くらい俺にも分かる。
だから……
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