第304話 地底
ヒュリナさんに用意してもらった物が有れば、ある程度ならば横にも移動が可能だ。痒い所に手が届くとは、まさにこの事。ヒュリナさんが居てくれて、本当に助かった。
「これを使えば、ある程度なら横方向に進める。小さな足場は必要だが、生活魔法程度の魔力で作った足場で事足りるだろう。」
ロープを壁に貼り付けるように、杭を使って打ち込みつつ、足場を使って移動する。その先にロックミミックとやらが居ない領域が有れば、そこに下りて探索する。一先ずの作戦としては、その程度だろう。
「それじゃあ、この高さを維持したまま先に進むって事で…下りてくるだけよりも疲れると思うから、定期的に休憩を挟みながら、慎重に進もう。」
ロックミミックは、ペトロでも気が付けない程に存在感が無く、全く動かない。獲物となる何かが近くに来た時だけ動き、擬態も完璧。
俺達が見ただけでは、それが岩なのかロックミミックなのかは分からないし、下りられそうな場所を見付けたら死骸を放り込んでみる…を繰り返すしかなさそうだ。
俺達は、横へ向かって移動を開始する。
先頭はインベントリから杭やロープを簡単に取り出せるという理由で、俺。後ろにニル、そしてイーグルクロウの五人の順番だ。
俺もニルも魔力は十分に残っているし、足場を作りながら進むのは任されている。
カンカンッ!
「よし……」
杭を打ち込み、ロープを通して先へと進む。
壁の材質はかなり硬いが、ヒュリナさんの用意してくれた杭は良い物らしく、しっかりと突き刺さってくれる。
定期的に下を見ているものの、ロックミミックらしき岩がゴロゴロと…かなり先まで続いている。
「ひー!思ったより大変だよー!」
「ターナは体力だけで言えば、この中で一番少ないからな。最悪、ドンナテか我が背負って進むしかないだろう。」
「わ、私だってイーグルクロウのメンバーなんだから、頑張るもん!」
後ろからは相変わらずの空気感を放つターナ達の声。
暫くそんな移動を繰り返していたが…
「横に移動するとしたら、地割れのサイズである五百メートル前後が最大のはず…それ程移動しなくても良いはずなんだが…」
既に何本もロープを継ぎ足して進んで居るが、まだまだ先に闇が続いている。
「五百メートルは過ぎたよね?ただの地割れじゃあ無いのかな?」
「別の空洞に繋がっているのかもしれないな。」
上を見上げると、見えていたはずの空が見えなくなっている。地割れの直下では無い証拠だ。つまり、地割れの下には、横穴が有り、その横穴へと入って行っている状況だと思う。
「ロックミミックは飛んだり跳ねたりする事が出来ないのに、何故こんな地下深くに居るのか疑問だったが、その答えが、この横穴かもしれないな。」
「別の場所から入ってきたって事?」
「地割れが起きた後に、この深さの穴に落ちて、ロックミミックが無事に底で生きているとは考え難いだろう。しかし、底面へ辿り着く別の抜け道が有ると考えれば、説明はつく。」
「……何か嫌な流れになってきたような気がするのは私だけかしら?」
「これほど深くまで続いている洞窟が、この辺りに有るなんて話は聞いた事が無いし、またしても未開拓領域の調査…という事になるかもしれないね。」
「例の森だけでも大変だったのに、またしてもこういう場所に来てしまうなんて…言っていても仕方の無い事だけれど、嫌な場所に落としてしまったわね。」
「あの時は、そうする以外の方法が無かったからね。
それに、プラスに考えれば、これだけ深くまで下りられる洞窟なら、色々と採掘出来る素材が有るかもしれない。また、街の発展に繋がる可能性が有るはずだよ。」
「そうね…私には土や石を見ても、どれが何かなんて分からないけれど、セイドルなんかは詳しいし、宝の山に見えるんじゃあないの?」
「そんな余裕は無いが、これだけ深い地層となると、金属や鉱石は豊富に取れるだろうし、しっかり掘り返したら、未知の素材だって手に入る可能性も有るだろうな。
職人としては血が騒ぐところだ。」
セナも素材についてはかなり詳しかったし、自分で取りに行く事もしていたと聞いている。職人全てがそうするとは限らないが、そこまで
「そろそろもう一度休憩を入れようか。」
ターナの額に汗が滲み始めた頃、もう一度休憩を挟む。
相変わらずロックミミックは足元に見えるが、数が減ってきているように見える。
恐らくだが、縦穴の上から落ちてきた食べ残しとかを食べて生活しているのだろう。つまり、横穴に入ってしまうと、落ちてくる食料が手に入らない為、ロックミミックも居なくなるという事だ。
「もう少し先まで行けば、下りられる場所に出られそうだな。」
「やっとだー…」
「しかし、ここまで下を見てきたが、ベータは居なかったな。」
「そうね…落としたのは確実だから、壊れているならどこかで破片が見付かると思うけれど、一切見えなかったし、やっぱり壊れていないみたいね。」
「残骸を持って帰って終わりの依頼なら楽だったんだが…そうもいかないか。」
足場を作り、腰を下ろして体を休める。
ターナは結構辛そうだが、満身創痍という程でも無いし、底面に下りられれば、マシになるだろう。
「そう言えば、いきなりで悪いんだが…セイドルに見て欲しい刀が有るんだ。見てもらっても良いか?」
「
「それも有るが、本題は、オウカ島の名匠が打った刀の方だ。」
俺はインベントリから天狐刀と龍落を取り出す。
光が漏れないように壁を作り、明かりを強くして刀を見てもらう。
「オウカ島の名匠とは…気になる響きだ。どれどれ…」
俺が置いた刀を手に取ると、鞘から抜き取って中身を見る。
「こいつは……」
セナの打った刀が、大陸でどんな評価を受けるか聞いて、いつかこちらへ来た時に、話して聞かせたい。
「どうだ?」
「素材が凄いのもそうだが、本当に腕の良い職人なのだな。
素材の良いところを全て引き出し、悪い所を上手く補っている。造形も言う事無しの上、かなり念入りに鍛錬してある。
ドワーフの中でも、ここまでの武器を打てる奴はそういない。ハッキリ言って、今腰に有る真水刀より、上質な物だ。」
「本当か?!」
「鍛冶の事で嘘は吐かない。大真面目だ。
まさか島に居る職人がここまでの腕を持っているとはな…ドワーフの連中が知ったら、職人魂に火が入るだろう。」
正直、これはかなり嬉しい。
セナの腕は、間違いなく大陸でも通用する。世界最高峰の名匠として名を轟かせる日も、もしかしたら遠くは無いかもしれない。
「これは良い物を見させてもらった。我は鍛冶師の端くれだが、こういう武器が打てるように努力させて貰うよ。」
ニルは何も言わないが、後ろでドヤ顔をしているのを感じる。見なくても分かる。
インベントリに二本を仕舞うと…
「そいつを使わないのか?」
セイドルとしては疑問に思うだろう。
「迷ったんだが、このレベルの刀は、こっちではまず手に入らないからな。」
「そういう事か。まあ、その方が先程見せてもらった刀も、十分に威力を発揮してくれるだろうし、その方が良いだろうな。」
「ん?どういう事だ?」
「なんだ?もしかして知らないのか?」
「……???」
話が噛み合わず、何を言っているのか理解不能だ。
疑問顔を向けていると、セイドルが説明を始める。
「さっき見せてもらった二振の刀は、作ってから間もないだろう?」
「打って直ぐに貰ったからな。よく分かったな。」
「いくらシンヤの腕が良くても、傷一つ無かったからな。鍛冶師の端くれでも、それくらい分かる。
それでなんだが……これは鍛治職人の感覚的なものなのだが…剣や刀みたいな刃物ってのは、打って直ぐに使うよりも、暫く寝かせておいた方が斬れ味が増すんだ。」
「そうなのか?」
そんな話は初めて聞いたが…
「迷信みたいなものだがな。」
「迷信って事は、実証はされていないって事か?」
「まあな。
大切に打った刀を大切に扱え、という意味だとか、使わないならば使わない方が良い、だとか…色々と言われているが、実際のところはよく分かっていない。
ただ、寝かせておいた方が良いとされていてな。」
「何も聞いていないが…」
「元々予備として使う予定だと伝えてあるならば、その職人から何も言われていなくても仕方ない。
迷信や感覚的な事だし、人によっては打って直ぐの方がよく斬れるって奴も居るからな。
それに、これはドワーフに伝わるもので、鬼人族には、その迷信が無いのかもしれない。」
うーむ…セナからは、そんな事は聞いていないし、鬼人族には無い迷信なのかもしれない。
折角使うなら、ドワーフの迷信だとしても、最高の状態で使いたい。やはり暫くは真水刀を使う事にしよう。
ずっと頭の片隅に天狐刀の事があったから、これで踏ん切りがついたと考えて、納得しよう。
「それと、もう一つ見て欲しい刀が有るんだが。」
「その前に。シンヤ。真水刀をもう一度見せてくれ。」
「構わないぞ。」
俺は腰から真水刀を抜いてセイドルに見せる。
「……………やはりか。」
「なんだ?」
「シンヤ。最近、かなりの強敵と打ち合っただろう?」
言われて思い付くのは当然、天狐。強敵中の強敵だった。
「相手…というか、SSランクのモンスターと戦ったな。」
「天災級のモンスターか?!よく生きていたな?!島を一つ救ったという話は聞いたが…まさかSSランクのモンスターと戦ったとは…我等が思っているより、シンヤ達は異常なのかもな…」
異常とは随分な物言いだな…
「しかし、まあ、それなら頷けるな。」
「なんだ?」
「この刀、そろそろ寿命だぞ。」
「えっ?!全く違和感無く使えているのにか?!」
「材質に粘りが有るから、折れるって事は無いだろうが、斬れ味が落ちる頃だ。
かなり強い衝撃を受け止めたりしたのか、強い打ち込みをして受け止められたのか…全体的なバランスが微妙にズレている。」
「良い刀が手に入らないからと言ったばかりでこれか…」
薄明刀の寿命も言い渡されたセイドルに、またしても刀の寿命を言い渡されるとは…
セイドルの目利きは信用しているし、今更疑ったりはしない。彼が駄目だと言ったなら、駄目なのだろう。
「真水刀は、特殊な能力を持っているから、使えなくはないだろうが、刀本来の使い方が出来なくなるのは辛いだろう。
持ち替える事を勧める。」
「そ、そうか…」
こんな事になるなら、島を出る前に、セナに見てもらっておけばよかったかもしれない。いや、見てもらったとしても、天狐と打ち合った時点でアウトなのだが…
「分かった。残念だが持ち替える事にするよ。」
「なんだ?さっきの刀に持ち替えるのか?」
「いや。あれは寝かせて、最善の状態で抜くと決めたから、今はまだ使わない。」
セナが精魂込めて打ってくれた刀を、妥協案で使うなんて、俺は絶対にしない!というか、そんな事したらニルが怒る。口を利いてくれなくなったら、俺は泣く自信がある。
「実は、丁度一振、別の刀が手に入ってな。
さっきは、それを見せようとしていたんだ。」
「また怪しい入手経路で手に入れた刀か?」
「怪しいとは失敬な。」
イベント報酬だから怪しくはない。いや、セイドルからしてみれば怪しいのかもしれないが…
「これだ。」
俺がインベントリから取り出したのは、
『サクラ散る頃に』のシークレットイベントの報酬で手に入った刀だ。
因みに、オウカ島での一件が終わった後、報酬については一通り確認した。
まとめておくと、『サクラ散る頃に』のイベント報酬は、友魔システムの解禁、魔力増強剤、真実の指輪、桜色の肩当て。
友魔システムの解禁は良いとして、その他のアイテムを鑑定魔法で確認したところ…
【魔力増強剤…魔力を増強する。】
【真実の指輪…目に見えない真実を見る事が出来るようになる。】
【桜色の肩当…精神干渉系魔法への耐性を上昇させる。】
という結果だった。
魔力増強剤は、単純に魔力を増加させる為のアイテムだ。これは迷うこと無く、ニルに使った。
丸薬型のアイテムで、数は一つだけだったから迷う必要は無かった。
どれくらい魔力が増加したのかというと…中級魔法一回分くらいと、効果は正直微妙。だが、魔力を増加させるアイテムなど、見た事が無い為、レア度で言えば、魔力回復薬同様かなりの物だと思う。
使った後に、ニルに聞いて効果の程を知ったのだが、中級魔法一回分でも、飲むだけで魔力が増加されるなら、儲けだと考えるべきだろう。
未だ、毎夜、ニルは気を失うまで魔力を使って鍛錬しているが、その鍛錬をせずに魔力が上がったと考えれば、素晴らしいアイテムだと言える。
真実の指輪というアイテムは、説明を見てもよく分からないが、指輪を装着すると直ぐに効果を理解した。
ニルの姿が尻尾と角の有る、魔族の姿として目に映ったからだ。ニルに使ってもらうと、俺の偽見の指輪による変装も意味が無くなり、元々の姿が目に映ったらしい。
つまり、幻影の類を、魔法であれ、アイテムの効果であれ、無効化する能力を持っているアイテムという事だ。ただ、物理的な変装は見破る事が出来ない。覆面をしていて、その奥が見えるということは無いという事だ。
このアイテムについては、必要な時に使う事にした。
常に装着しておいた方が良いのではないかと思うかもしれないが、俺やニルに変装して近付いてくる様な輩は、悪い事を考えているとしか考えられない。
そんな奴が変装して近付いて来た時に、指輪を装着していたら、それが変装を見破っているのかどうかも分からず、地雷を踏み抜く可能性が高い。
騙そうと思っている相手に変装して近付き、それを見破られていると気付いたら、そのまま戦闘に発展するか…しなくても大事にはなるはず。
変装を見破っていたとしても、それを悟らせず、利用した方が俺達としても都合が良い。
という事で、常時装着するという選択肢は消えたわけだ。
そして、桜色の肩当てというアイテム。これはかなりの収穫だった。
精神干渉系の魔法耐性を上げてくれる上に、防具としても使える優れたアイテムだ。
精神干渉系魔法というのは、気を強く持つ…というフワフワした対策法しか無かったが、アイテムによって、耐性を手に入れられるという事になる。
無効化ではないというところが不安要素ではあるものの、耐性が少しでも上がるならと、俺が装着する事になり、今は桜色の肩当てを装着している。
これだけでもかなりの収穫なのだが、俺達は、これに加えて、『サクラ散る頃に』のシークレットイベントの報酬まで手に入れている。
シークレットイベントの報酬は、ワールドイベントの活性化、紅き神玉、
ワールドイベントの活性化については、よく分からない為、保留。
他のアイテムについては、鑑定魔法を使って調べてみた。
【紅き神玉…神が作ったとされる遺物で、底知れない力を感じる。】
【無知者の盃…特殊な材料で作られた盃。】
【桜咲刀…魔力を吸収すると、刀身が桜色に変化。刀身全てが桜色に変わると、使用者の周囲に特殊な木魔法を発動する。】
という結果だった。
まず驚いたのは、紅き神玉。
俺がこの世界に来る直前に手に入れた、蒼き神玉の説明文と一言一句同じ物だ。
ワールドイベントと聞いて、このよく分からないアイテムの事は頭に浮かんではいたものの、魔力を込めようが、神力を込めようが、全く反応無し。未だこのアイテムがどう機能するのか謎のまま。その上、今度は色違いの別の神玉まで手に入れたのだから、俺の頭はパニックだ。七つ集めると、ドラゴンが召喚されて願いでも叶えてくれるのだろうか?
そんな事は無いと思うが、とにかく、謎のアイテムなので、これも保留。
次に、無知者の盃。
これの説明文は、短い上に全てが謎。素材の事ですら特殊な…なんて曖昧なもので、何一つ分からない。
見た目は、十センチ程度の平たい盃だ。神事の時に使うような盃と言えば分かるだろうか。
色も朱色で、ザ・盃。という感じのアイテムだ。
但し…この盃は、中心に小指程の穴が空いている。
欠陥品だ!と言いたいが、後々空けられた穴では無さそうだから、恐らく、そういう物なのだと思う。
シークレットイベントのアイテムだし、普通の盃では無いと思うが…使用方法は謎。
この手のアイテムは、何か新事実を俺が知ると、鑑定魔法の内容が書き変わる為、今は保留。
桜咲刀は、また凄い能力を持った刀が出てきた!と驚いていたが、色々と試してみたところ、自分の魔力を注ぐタイプではなく、他者の魔法を斬る事で、初めて魔力を吸収するタイプである事が分かった。
ニルに魔法を撃ってもらって、斬ってみたところ、刀身が手元の方から桜色に変わり始め、何度か斬ると、刀身の先端の方へと向かって色が変わっていった。刀身の全てが変色するには、それなりに魔法を斬らなければならない為、バンバン特殊な木魔法とやらを使えるようではないみたいだが、使えた時はかなりの効果を期待出来る。
当然、その特殊な木魔法も確認済みだ。刀身の全てが桜色に変わった後に、刀身を地面に突き刺すと、俺を中心とした範囲に木魔法が発動する。囲まれた状況で使えば、かなり有効な一撃になるだろう。
桜咲刀は、普通の刀のような銀色で、波紋が三本杉と呼ばれる形状。凹凸の三本目の凸だけ長く突き出している波紋だ。
実に面白い武器ではあるが…刀自体の性能についてはよく分からない為、どれくらいの物か、セイドルに確認して欲しいのだ。
と、オウカ島での報酬はこんなところだ。
これがディスプレイ越しならば、報酬が少ないぞ!と怒りたくなるが、俺もニルも、オウカ島ではイベント報酬以外に、本当に多くのものを貰った。それ故に、文句は無い。
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