第235話 ダンノ

ガギィィィィン!


今まで戦ってきた者達の中で、最も重い一撃を受け止める。


流石は兄弟子。卓越した剛剣術の腕だ。


俺も日々、強く在る為に、腕を磨く事を怠らなかったが、それでも、恐らくはほぼ互角。

更に、俺の方が勝っていた神力の強度も、ほぼ互角になっている。例の寿命を縮める薬は使っていないと思う。おかしな強度上昇の仕方はしていない。かなりの鍛錬を積んだのだろう。


選定戦で俺が勝った時と実力差は変わっていない…と言える。


ギリギリッ…


擦れ合う刃が、音を立てる。


「どうやら地位に胡座あぐらをかいていたわけでも無さそうだな。」


「そういうのが、一番弱い奴だと、教えてくれたのはあんたでしょう。」


「そうだった…かっ!」

ギィィーーン!


擦れ合っていた刃が、弾け、甲高い音が響く。


ダンノが先に動き、下段からの斬り上げ、剛上の姿勢に入る。


「剛上!」

「剛下!」


俺は逆に上段からの斬り下げ、剛下を放つ。


バギィィン!!


互いの刃が接触すると、周囲の者達が、一歩下がってしまう程の音が響く。


「オラァァァァ!」

「おおおぉぉぉ!」


バギィィィン!ガギィィン!


互いが互いに、一撃で相手を真っ二つに出来る斬撃を放ち、刃がぶつかり合う度に、空気を揺らす衝撃が放たれる。


これだけの戦闘になると、周囲の者達は、近寄る事さえ出来ない。


バギィィィン!ガギィィン!


刀が折れないのが不思議な程の打ち合い。


剣術の腕はやはり互角。


押して押されてを繰り返しているが、体力を削られている分、俺の方が不利。

どこかで手を打たなければ、負けるのは俺だろう。


下民の皆があれだけのものを見せてくれたのだ。ここで俺が負けては、全てが無意味になってしまう。


「おおおぉぉぉ!」


ガギィィィィン!


ダンノの刀を、全力で弾き、互いが一歩引いたところで、仕切り直しとなる。


「やはり強いな。ゲンジロウ。」


「四鬼だからな。」


「くくく…悪くない。」


ダンノは嬉しそうに笑い、刀を握り直す。


「……………」


「………………」


「………はあぁぁっ!」


ダンノが斜め上から刀を振り下ろし、交差するように俺も刀を振り下ろす。


ガキ…ギィィン!


「なにっ?!」


「おおぉぉっ!」

ザシュッ!


ダンノの刀が大きく後ろへと弾かれ、追撃の一撃が、肩口に触れる。


「ちっ!浅かったか!」


今ので決めたかった。


ダンノは直ぐに距離を取り、構え直す。


「……なんだ今のは。」


「……シンヤという男を倒す為に考え出した技だ。」


「ほう……面白い。」


純粋な剣術勝負で負かされたのは、随分と久しぶりの事だった。

ほぼ互角の試合内容ではあったが、一歩及ばず…だった。

悔しい思いをさせられたのだし、近々再戦を申し込むつもりだった。シンヤは嫌がるかもしれないが、勝ち逃げなどさせてなるものか。

引き受けてもらえるまで、付きまとってやろう…とまで考えていた。

シンヤの事だから、何だかんだ言いながらも受けてくれると思っていたし。


その時に使おうと思っていた剣技を、ダンノに使う事になろうとは…


俺がやった事を説明すると、互いの刃がぶつかり合う瞬間。打点を僅かにズラす…というだけの事だ。


刀を振る速度は、剛剣術とは言え、かなり速い。

その中で打点をズラすというのは、簡単な事ではないが、それが出来れば、相手の隙を作る事が出来る。


自分の刀と、相手の刀が打ち合う時、交差する点を見て、腕に伝わってくる衝撃を、人は無意識下で予測する。

刃の先端の方なのか、腹部分なのか、それとも手元に近い部分なのか。


どこに当たるかによって、腕に伝わってくる衝撃というのは異なり、受ける方もそれに適した力の入れ方をする。

日頃から、そのような部分を意識している者は少なく、無意識に行っているのが普通だ。


そこで、俺は刃同士が当たる瞬間に、交差する点をズラす事が出来れば、相手の予想を、ほんの少しだけ外せるのではないかと考えた。

そこであれこれ考えながら作り出した技が、剣技、剛変ごうへん


相手が認識出来ない、刃と刃が当たる前、僅かな時の中で、無理矢理打点をズラすのだ。当然、ぶつかり合う時の威力をそのままに。

あまりの難しさに音を上げそうになったが、練習に練習を重ね、どうにかものにした。

新たな剣技を作り出したのだ。


剣技自体が使えるようになった後は、神力を使って、更に練習を重ねた。


神力を使えば、打点を大きくズラす事も出来るし、この剣技は、予想より遥かに強力なものになった。


ダンノから見た場合、互いの刃が、刃の中腹に当たると思っていたのに、打ち合う瞬間、それがズレて、手元近くで刃が交差した事になる。

力の入れ方が違う場所で打ち合った事で、上手く力が伝わらず、押し負けた…という事だ。

それもこれも、ダンノが打ち合いの際に、無意識下で力の入れ方を変えられる程に、卓越した腕を持っていたから有効だったのだ。

ダンノの事をよく知っているからこそ、成功したと言える。


「……くくく。これは良い。それでこそゲンジロウだ。

これならば、俺も本気を出して良さそうだな。」


ダンノが本気を出していなかった…とは思えない。

間違いなく互いに全力で打ち合っていたはず。


ダンノの言っている事は、多分もっと別の…


ダンノが取り出したのは、小さな小瓶。

少量の、何か禍々まがまがしい…黒と、濃い赤と、濃い紫色が混じった液体が入っている。

どう見ても普通のものではない。


「おい!」


ゴクッ…


俺が止めるより早く、ダンノはその液体を


パリンッ!


ダンノの手から滑り落ちた小瓶が、地面に当たって砕け散る。


「ぐ……おぉ……」


「ダンノ!」


「…くくく……これが…四鬼華の力か。」


「ちっ…鬼士隊は馬鹿ばかりなのか。」


恐らく、たった今、ダンノが飲んだのは、神力を増強させる、四鬼華二種を混合した液体だろう。

点眼薬だと聞いていたが…


「本来は飲むものじゃあないらしいが…」


ゴウッ!


ランカのように感覚が鋭くなくても分かる。

神力の強度が一気に跳ね上がり、周囲に盛れ出している。


「…悪くない。えも言われぬ味だったが。

どうやら、飲んだ方が効果が高いらしいな。」


「…その分。寿命も縮まるだろうが。」


「……元々有って無いような寿命だ。今更惜しむ気は無い。」


そう言って、ダンノが着物のえりを引っ張ると、桜の花弁のような形をしたあざが見える。


「お前…桜点病だったのか。」


「ゲンジロウに選定戦で負けた時に、治療で医者に行ったら、発覚してな。」


「……………」


「別に嘆いてはいない。むしろ感謝しているくらいだ。

最期に、お前ともう一度本気で刃を交わす事が出来たのだからな。」


「……鬼士隊に入った理由は、それか。」


「一世一代の大勝負。命が尽きかけてる男にとって、これ程甘美かんびな響きもあるまい。」


「お前の大勝負に、他人を巻き込むのは違うだろう!」


「…確かに、その通りだ。」


「ならば何故!」


「……今のこの島の制度では、身分差が曖昧あいまいで、そのせいで死ぬ者が数多く居る。

……ホナミもその一人だった。」


「ホナミ…?」


確か…選定戦前の、ダンノの婚約者だったはず。

何度か顔を見た事がある。


「ホナミの身分は、鬼士の中でも低い方だった。

そのせいで、平民との区別が曖昧な、微妙な立ち位置だったのだ。

そういう立場の者は、上からも下からも、色々な意味で狙われやすい立場なんだ。」


「………………」


「それ程名家の出でもない俺には、どうする事も出来なくてな…悔しい思いをしたものだ。」


「…確かに、そういう事も有るだろう。だが、それは逆もまたしかりだろう。

身分差がハッキリしているせいで、犠牲になる者だって出てくるはずだ。」


「それは今も同じだろう。

身分差が曖昧なせいで、死んでしまう者達だけでも減らせるならば、そうするべきだ。

事が成れば、皆納得するはずだ。最初は受け入れられないかもしれないが、人は馴染なじんでいくものだ。」


「例えどれだけの犠牲が出ても…か?」


「それが正しい方法かと聞かれたなら、首を横に振る。

だが、汚い者達で上位を占められたお上に、話をしても、秘密裏に消されるだけだ。それこそ無意味な死だ。」


ダンノの言葉を、自信を持って否定出来ない。お上はそんな事をしない…と、言い切れない。


「間違った方法かもしれない。だが、何もせずにいる事や、無意味な死を迎えるより、ずっと良い。」


「お前はそうかもしれないが、街の人々はどうなる?!今街がどうなっているのか分かるか?!

死体の山だぞ!!」


「分かっているさ。俺は間違いなく地獄に落ちるだろう。

だが……いは無い。」


どれだけ話し合っても、多分、ダンノとは平行線を辿るだけだろう。

最優先に考えているものが違うというだけなのに…これ程食い違うものなのかと、歯痒はがゆくなる。


「それに、俺はどちらにしろ、そう長くはない。

この大義たいぎの元、最期にお前と戦えるのは、悪くない。」


「自分勝手な…」


チャキッ…


刀をしっかりと握り締める。


本当に、どいつもこいつも、身勝手な言い分だ。


この島の制度の在り方を変えなければならないのは、よく分かった。

でも、それは死んで行った街の人々には、関係の無い話で、理不尽りふじんな死だ。


「お前も、神人様と話し合えば、少しは納得してくれるのかもしれないが……俺の言葉では難しいようだな。」


「ガラクか……話す気も、話す事も無い。」


「くくく…相変わらず真っ直ぐ過ぎるほどに真っ直ぐな奴だ。」


「それが俺の取り柄だからな。」


チャキッ…


ダンノも、刀を握り締める。


「ならば…どちらの大義が上か……」


「……勝負!!」


ダンッ!!


互いの足が地面を蹴る。


「はあぁぁ!」

「おおぉぉ!」


バギィィン!


全力の一撃。


互角だった力は、神力の増強によって、ダンノに傾く。


「ぐおっ!」


体が後ろへと数メートル吹き飛ばされる。


「いくぞ!」


ダンノが吹き飛ばされた俺に向かって走り寄り、横薙ぎの一刀。


バギィィン!


刀を立てて、刃を受け止めるが、地面に着地する前に斬撃を受けた為、踏ん張る事も出来ず、今度は横へと吹き飛ばされる。


ゴンッ!ガンッ!


地面の上をまりのように跳ね、背中を強打する。


ズザザ…


痛みなど感じていないと、自分の脳に言い聞かせ、地面に手足をついて勢いを止める。


「はあぁぁ!」


更に近寄ってきていたダンノが、低い姿勢で耐えた俺に、大上段からの振り下ろし。剛下を繰り出す。


「っ!!」


後転するように、刃を避けると…


ズンッ!バキバキッ!


地面に当たった刀と神力が、地面を凹ませ、表面にヒビを入れる。


神力の範囲が広い為、斬撃というより、デカい戦鎚せんついか何かで地面を打ったような、打撃に近い効果になっている。


刀を振っているはずなのに、斬られる事より、押し潰される事を心配した方が良いとは…

神力を強化させ、それを使いこなす相手だと、ここまで化けるのかと、冷や汗が止まらない。


「どうした?来ないのか?」


「…今考え中だ。」


「そんな暇…あるのか?!」


ドゴッ!ビキビキッ!


再度振り下ろされた攻撃を大きく避ける。


普通に打ち合えば、押し潰されて終わりだ。最初の二撃を受けた手が、未だにしびれている。

既に力では勝てない相手となってしまった。

そして、剛剣術において、力で勝てないという事は、かなり致命的だ。


自分の得意分野で勝てないという事なのだから当然だ。

しかし、勝てないものは勝てない。そこは意地になるところではないし、素直に受け止め、どうするかを考える。


この馬鹿げた力を振り回すダンノに有効なのは…

まず、先程使った剛変ならば、多少は打ち合いが出来る。ただ、刀を合わせられても、二、三度が限界だろう。

次に、鬼火。魔法ならば、神力で軽減されても、ある程度は有効な一撃を放てる。ただ、魔法を放つ時と、どのような魔法を放つかが肝心となる。

下手な使い方をすれば、消し飛ばされて終わりだ。


体力的にも、鬼火の残った魔法回数的にも、俺が反撃出来るのは、あと一度だけ。二度目は無いだろう。

ダンノを倒して、更に先へと進むつもりだったが…ここで出し切るしか無さそうだ。


ズンッ!バキバキッ!


神力が増強されたというのに、それに頼らず、隙の無い動き。


戦い方の方針は決まったが…まずは隙を作る所から始めなければならない。はてさてどうしたものやら、と考えていると。


「まだまだぁ!……ぐっ!グホッ!」


突然、ダンノが口から血を吐き出す。


どうやら、神力増強の効果が覿面てきめんだった分、体に掛かる負荷も想像以上だったらしい。

あんなに禍々しい色の液体を飲めば当然だ。


ダンノが足をよろめかせて、僅かに姿勢が崩れる。


ここしかない!


「鬼火!ちらしだ!」


鬼火特有の魔法。散。


俺を中心とした半径数メートルの空間に、小指の先程の小さな火玉が無数に現れる…だけの魔法。

引火性も低く、殺傷力はほぼ無いに等しい。


ただ、暗闇の中、突然周囲に小さな火玉の集団が現れると、明暗めいあんの差によって、俺の姿を見失うはず。


ダンッ!


俺は地面を蹴って、ダンノの左側へと回り込む。


「この程度で倒せると思ったか!」


ブンッ!


ダンノが刀を横薙ぎに振ると、周囲の火玉が、全て掻き消される。いくら強いとはいえ、反則級だろう。


「そこかぁっ!」


刀を振り下ろそうとしていた俺に向かって、ダンノは刀を切り返し、水平に刃を振る。


ここは引くところでは無い!押す!!


「はあぁぁ!」

「おおぉぉ!」


刃が当たる瞬間。神力を操作して、打点をズラす。


バギィィィィィィィン!!


目の前に、金属の破片が散る。


俺の手に持っていた刀が、ダンノの一撃を受け、粉々に砕け散ったのだ。


よく頑張ってくれた方だ。

ここまでどれだけの数を斬ってきた事か。

そこへ来て、ダンノの馬鹿げた神力と腕力による剛撃。折れない方がおかしい。


「取ったぁぁぁ!!」


ダンノは、自分の折れていない刀を振り上げ、俺の脳天目掛けて振り下ろす。


避けられない。


それを直感で理解した。


どう足掻あがいても、この一撃を完全に避け切る事は叶わない。


ならば!


まとい!!」


鬼火に向かって叫ぶ。


ボウッ!!


青白い光が、俺の左上腕を包み込む。


ジュゥゥゥゥゥウ!!


肉が焼ける激しい痛み。熱さは感じない。ただ痛いだけ。


それでも、ひるむ事なく、体を右へズラしながら、左拳をダンノの顔面目掛けて突き出す。


振り下ろされてきた刀は、俺の左の肩口辺りに食いこんでいく。


逆に、俺の拳は、ダンノの右頬を捉え、顔の形をグニャリと変形させる。殴った感触は……もう無い。


ドゴォッ!!

ザシュッ!!


俺の拳がダンノの顔面を殴ったと同時に、左腕は、肩口辺りからスッパリと切り取られる。


「ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


俺の殴ったダンノの顔面が、青白い炎に包み込まれていく。


「ぐぅっ…」


切り取られた肩口から、血が吹き出し、痛みに膝をつく。


「鬼火…止血を頼む。」


鬼火は、俺の顔を見ると、切り取られた左の肩口に寄り、青白い炎を出す。


ジュゥゥゥゥゥウウウウ!


「ぐっ!ううぅぅ!」


冷や汗が止まらなくなる程の痛みだったが、歯を食いしばり、何とか意識が飛ばないように耐え抜く。


「はぁ……はぁ……」


体力も、もう限界だ。

足元がフラついているのを、自分でも感じる。


「……さあ。来いよ。」


俺は、叫ぶのを止め、既に命尽きたダンノの手から落ちた刀を拾い上げ、残った敵兵に向かって突き出す。


「まだまだ俺は戦えるぞ。死ぬ気で来い。」


「「「「…………」」」」


残ったのは数人。


今の俺が戦って、何とか勝てる…はずだ。多分…


「どうした?」


俺から歩いていくのはもう無理だ。多分敵の位置まで歩く前に倒れる。


向こうから来てくれなければ、残った体力が本当に空になってしまう。


「い、いくぞ!」


「………」


すり足で、ゆっくりと近付いてくる敵兵達。

ギリギリ勝てればもうけ。

負ければ……後は若い連中に任せるとしよう。


腹を決めて、残った右腕で刀を構える。


「来いやぁぁぁ!!」


ブンッ!!ゴシャッ!!


俺が意気込んだ瞬間。目の前に居たはずの敵が、俺の真横を凄い速さで飛んでいく。


『ウォフッ!』


「ゲンジロウ様!ご無事ですか?!」


目の前には黒いモフモフと、それに乗った女子おなご。いや、もう女性か。


「ラトとセナ?!何でこんな所に?!」


「そんな事より腕がっ!ラト!少し待ってて!」


セナがラトから降りて、俺の方へ走ってくる。


「おい!こんな所でラトから降りたら!」


ザシュッザシュッザシュッザシュッ!


「危な……い………」


本当に、あっという間に敵を殲滅してしまった。


『ウォフッ!』


自慢気に胸を張るラト。


「はは…っ!!」


「ゲンジロウ様!動かないで下さい!今傷薬を塗りますから!」


「すまないな…」


「謝られないで下さい…こんな大怪我…」


「そう泣きそうな顔をするな。皆を救うための負傷だ。名誉の負傷というやつだな。」


セナは強い子に見えて、結構繊細な子だ。俺が弱い所を見せれば、動けなくなってしまうかもしれない。


「俺なら大丈夫だ。傷薬も塗ってもらったし、これくらいでくたばる様なヤワな鍛え方はしていないからな。」


「……分かりました。もう言いません。ただし!ゲンジロウ様は城へ強制送還です!」


人差し指を立ててそう言ってくるセナ。

俺が相手でも、物怖じせずに言ってくるところは、父であるトウジの血を受け継いでいるからだろうな。


セナの世代が先頭に立つ日が、とても待ち遠しいな。いや、もう直ぐそこまで来ているのかもしれない。


「ラト!ゲンジロウ様を連れて行くわ!」


「ワフッ!」


ラトがガパリと口を開くと、俺を咥え、背中に乗せる。よだれが凄いな…文句を言える立場でもないし、大人しくしていよう。

それに、ラトに乗せて貰いたいと、少し思っていたし。


セナも背中に乗ったところで、俺達は一度城へと戻る事になった。


去る前に、ダンノの遺体を一度だけ見たが、何とも言えない気持ちになった。


戦場はまだまだ激化しており、そこら中で剣戟の音と叫び声があがっている。


「あれは…」


「ランカ様!通ります!」


ランカは出入口の前から前線を押し上げ、大きく相手を後退させていた。俺の派手な攻撃も、意味があったのだと思えて、少し安心した。

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