第145話 鬼士

ゴンゾーが強くなって、剣で勝てないからダンジョンに置き去りにして、四鬼候補者から外そうと考えた…という事だ。

考え方が聖騎士並にぶっ飛んでいる奴らだな。


「それを見抜けなかった俺は師匠を名乗る資格なんて無いな…」


「あまり自分を卑下ひげしていると、ゴンゾーが泣くぞ。」


「ぐっ……」


「大体の事は分かった。それで、今後はどうするんだ?」


今肝心なのは、過去を振り返る事より、先の事だ。


確かにゴンゾーが帰って来られて良かったかもしれないが、ゴンゾーの地位が上がったわけではない。

三年越しに同じ立ち位置に放り込まれるというだけの事だ。


「同じ事は繰り返さない。それを明日ハッキリさせるつもりだ。」


「……そうか。それは絶対に見に行かないとな。」


どんな采配さいはいを振ってくれるのか、期待していよう。


ゴンゾーが本当に四鬼の最有力候補なのか…については聞かなかった。知ったところで俺達にはどうする事も出来ないし、聞くべきでもない。


「スッキリしたでござるよー!」


引き戸を開けて入ってきたのは…………


「……誰?」


「シンヤ殿!?酷いでござるよ?!絶対に分かっていてやっているでござろう?!」


「すまんすまん。あまりにも違ったから。」


黒い髪は後頭部で同じように纏められているが、綺麗に切り揃えられていて、髭は無くなっている。

思っていたより顔立ちは整っていて、少しゴツいが割とイケメンだ。


髭があって気が付かなかったが、右あごから右ほほにかけて小さな切り傷の跡がある。


「髭をると全くの別人ですね…」


「そこまで違うでござるか?」


「髭がある時はモンスターと間違われても文句が言えない程だったな。」


「そこまで違うでござるか?!」


正装せいそうと裸くらい違うな。」


「拙者は今全裸で歩いているでござるか?!」


「どんなボケにもちゃんと返してくれる…さすがゴンゾーだな。」


「変な評価の仕方しないで頂きたいでござるよ?!」


「ははは。冗談だって。」


「酷い冗談でござる!」


ゴンゾーは怒っている口調で怒ってはいない。こういう友達というのは本当にいつぶりだろうか…

もう覚えていない程に昔の事だ。


「師匠。今日はシンヤ殿達を泊めても構わないでござるか?」


「元々そのつもりだ。酒でも酌み交わそう。」


「あ、ああ。」


本当にこの島の者達は皆酒好きなのか…?

何かあると直ぐ酒だな…大丈夫なのか?鬼人族よ…


「とりあえず、まずは昼飯にしよう!」


パンッとゲンジロウが手を叩いて立ち上がる。


「ゴンゾー。客室に案内してくれ。」


「承知したでござる。」


俺達はゲンジロウに言い付けられたゴンゾーの案内で、またしても別の建物へと移動する。

今度は温泉旅館のような雰囲気がある落ち着いた建物だ。


ガラガラッ…


引き戸を開けて中に入ると、この建物を切り盛りしている女性の方々、女中さんというやつだろうか。淡い水色の着物を全員が着ている。


そして、その中央に一人だけ赤色の着物を着ている女性がいる。恐らくは女将おかみ


青色の綺麗な長い髪を頭の後ろで纏め、水色の宝石が入ったシンプルなかんざしっていて、角は前髪で見えない。

顔は、キツめのツリ目。真っ赤な口紅を引いていて、薄い唇に目が行ってしまう。


その女性が頭を下げると、後ろに並んでいた数十人居る、水色の着物を着た女性達が一斉に、ピタリと息の合ったお辞儀をする。


「いらっしゃいませ。シンヤ様、ニル様、ラト様。わが門下生、ゴンゾーの救出及び、ダンジョンの攻略。感謝とお祝いを申し上げます。」


女将が顔を上げると、その直ぐ後に、全員が頭を同時に上げる。


先程話が終わったばかりなのに、もう既に名前やらなにやら色々と把握しているらしい…


「す、凄いな…」


「格好良いですね…」


「あら。嬉しい事を言ってくださるのね。」


ニルの言葉に反応した女将が、そう言ってニルに笑いかける。


「えっ?!あ!はい!」


聞こえないと思っていたのか、反応されないと思っていたのか…ニルはかなりビックリして背筋を伸ばし、シャキッとしてしまう。


「気に入っちゃったわ。お姉さんが可愛い服を着せてあげるからいらっしゃいな。」


「え?!で、でも…私なんかじゃ…」


自分の枷に手をやると、少し暗い顔をするニル。


「とってもお洒落しゃれな飾りね?」


「え?!」


女将がアクセサリーと間違えている…なんて事は有り得ない。やり手の女将に見えるし、先程俺達の事を把握しているような口振りからして、ニルの事も知っているだろう。

枷については気になる人も居るだろうからと、先にどんなものかは説明しておいたから、それを知った上で、女将が気にする事は無いと言ってくれているのだ。


「素材が良いから、きっと似合うわよ。ほら。いらっしゃいな。」


「え?!あっ!ご、ご主人様!」


女将が少し強引とも思える感じでニルを誘って何処かへ行ってしまう。ニルを連れ去る時に、後ろを振り返った女将がウィンクしてくる。


「そういう事か。」


ニルの話を、ゲンジロウにした時、奴隷とはどういう存在なのかと同時に、ニルは奴隷としてではなく、仲間と考えていると伝えた。

その事も女将だけは知っているのだろう。奴隷として生きてきたニルに、女性としての楽しみを教えてあげようといういきな心遣いだ。


「楽しんでこいよー。」


「ご主人様ー?!」


連れて行かれるニルに手を振る。


「シンヤ様はこちらへどうぞ。お部屋までご案内致します。」


水色の着物を着た女性の一人が建物の中を案内してくれるらしい。


「ラト様はこちらへどうぞ。」


『うん!』


ラトは庭の方かららしい。人の生活の中に入るにはラトは大き過ぎる。手間を掛けさせるし、ラト自身にも少し申し訳ない気がしてしまうが…

どちらもあまり気にしていないようだ。


ゴンゾーと共に建物の中を女性に案内されて辿り着いた先は、それはそれは立派な部屋だった。


ゆったりとした、大部屋とまではいかないまでも、大きめの部屋に、派手過ぎないが高価そうな置物。畳張りの純和風な落ち着く部屋だ。


まだ日は高く、部屋の奥にある障子を女性がスーッと開くと、庭が一望できる。


砂利じゃりの敷き詰められた大きな庭に、池があり、そこには石橋。

広葉樹が程良く立ち並び、石材で出来た複雑な形状の灯篭とうろうのようなものまである。


「これは圧巻あっかんだな…」


「この周辺の屋敷では一番の庭でござる。師匠が東の守り人でござるから。東側では一、二を争う大きさの屋敷でござるよ。」


東の守り人というのは、担当区域の事だ。


四鬼はそれぞれ東西南北に自分の担当区域を持っていて、日頃はその区域の統治に尽力しているとの事だ。


大きな揉め事が起きたりすると、その区域を担当している四鬼の一人が現れる…という事らしい。


「美しい庭だな。それに部屋も落ち着く。」


「ありがとうございます。」


水色の着物を着た女性が深く頭を下げる。


「御要望が御座いましたら、いつでもお呼びだて下さい。」


「ありがとう。早速で悪いんだが、お茶を貰えるかな?

話詰めで喉がカラカラ…」


そこまで言って、後から現れたもう一人の、水色の着物を着た女性がお茶とお茶請けを持ってきてくれている事に気が付いた。


「はは。かゆい所に手が届くね…」


俺が何か言わなくても、全て察知して先回りで用意してくれそうな人達だぜ…


「こちらの建物には浴場がございまして、本日はシンヤ様、ニル様、ラト様の貸切でございます故、どうぞお楽しみ下さい。」


「貸切?!」


「はい。」


凄い待遇だな…

こんな部屋に泊まるのも産まれて初めてだし…いたれりくせりだ。

ゲンジロウが何かこの人達に言ったのだろうが…まあ、たまの贅沢ぜいたくくらい許してくれるか。お言葉に甘えておこう。


「ありがとう、」


礼を言うと、頭を下げた二人の女性がスススッと退室していく。


俺…VIPな扱いに慣れていないから、ソワソワしちゃう。


『シンヤー!見てー!』


外からラトの声が聞こえてくる。


障子の先、庭にラトが立っている。


「これって庭に出ても大丈夫なのか?」


「もちろんでござるよ。」


障子の先に進み、板張りのえんまで行くと、その下に平らで大きな石があり、その上に何足かの簡単な履き物が置いてある。


ここから外に出る事も想定済みらしい。


本来であれば、縁の外周に木戸きどをはめ込むのか、溝が彫ってあり、足の裏にその凹凸を感じた後、履き物に足を入れる。


『広くて気持ち良いよー!』


ラトは嬉しそうに庭の砂利の上を胸を張って歩いている。


「確かに気持ち良いな。」


庭に出ると、広葉樹が風に揺らされてザワザワと音を出し、その少し後に心地良い風が頬に当たる。

木造建築に、木々まであるからか、空気も美味しい気がしてくる。


「ラト様は、同じお部屋で宜しかったでしょうか?」


ラトを連れて行った女性が声を掛けてくる。


「ラトが入っても十分な広さがあるから大丈夫だ。ありがとう。ラトはちゃんと足を洗ってから部屋に入れるから安心してくれ。」


「ありがとうございます。」


深く頭を下げた女性が、頭を上げた後、俺の方を見る。


「あ、あの……」


「どうした?」


不躾ぶしつけで申し訳ありませんが……」


チラリとラトを見る女性。


「ラト様に…触れても宜しいでしょうか?」


『僕は構わないよー!』


「良いってさ。」


「本当ですか?!ありがとうございます!」


ラトが頭を下げて女性の前に顔を持っていくと、少し緊張しながらも、女性が手を出す。


「わぁー…」


「モフモフで気持ち良いよな。」


「はい!」


そう言いながら細く白い指で優しく撫でる女性に、ラトも満足しているらしい。


「あ、ありがとうございました!」


暫くモフモフを堪能たんのうした女性は、頭を下げた後、テンション高めで去って行った。


「我々鬼人族にとっては、ラト殿のような存在は神に近い存在として扱われている故、触るだけで絶大な幸運が舞い降りると言われているでござる。」


「なるほどなー。それであの反応だったわけか。」


街中でラトを見た者達は、ビックリはしていたが、あまり恐れているようには見えなかった。そこにはそんな理由があったのか。


暫く、庭の中を堪能していると、後方から聞き慣れているのに、どこかしおらしい声が聞こえてくる。


「ご、ご主人様……」


声の方へと振り返って、ニルを見た時、俺は声を失ってしまった。


銀色の髪は、後頭部で纏められているが、全てではなく、前髪と、少しの横髪が肩へと流れている。

薄く化粧をしたのか、赤みの増した唇と、よりハッキリした目立ち。


瞳の色と同じ、真っ青に染められ、黄色い小さな模様がいくつか入った着物。派手過ぎない落ち着いた金色の帯。そこに少し暗めの赤の帯紐。

どこを切り取っても美しい出で立ちのニルは、俺がニルにあげたレッドダイアモンドのピアスをしている。


少し横を向くと見えるかんざしには、ピアスと同じような、赤色、小さめの宝石が入っていて、シンプルなデザイン。


全体的に柄も少なく、シンプルだが、何故か華やかに見えるのは、ニルの容姿が原因だろう。


美し過ぎるとも言える、そんなニルなのに、顔から火が出る程に赤くなり、恥ずかしがって、モジモジしながら俯いている。


「やっぱりニルは綺麗だな。よく似合っているよ。」


可愛いというのとは違うと思い、言葉は選んだ。


「きっ?!」


俺の言葉に奇声を発して下を向いて動かなくなってしまうニル。何か間違えてしまったか…?


俺が首を傾げていると、後ろに居た女将に、親指を立てて、グッジョブとジェスチャーされた。

間違ってはいなかったらしい。


「いやー。ここまで綺麗な女性ともなると、立っているだけで、眼福がんぷくでござるな。」


「ゴンゾー様。そんなに舐め回すように見るなんて…変態的ですよ。」


キツいツリ目でにらみつける女将。


ニルは胸元を隠すように手を添えて横を向く。


「なっ?!そんな目で見ていないでござるよ?!拙者には心に決めたお方が!」


「あらまぁ。ゴンゾー様。大胆です事。ふふふ。」


「レ、レイカ殿?!」


「ニルちゃんはご主人様の為に頑張ったのですから、しゃしゃり出て来ないで下さいな。」


いつの間にちゃん呼びになったんだ?急接近だな。


「ぬぬぬ…褒めるくらい良いではないでござるか…」


「そういう言葉はサクラ様に渡して下さいな。意気地いくじ無しのゴンゾー様。」


「ぐぬぬ…言い返せぬでござる…」


どうやら、ゴンゾーがサクラに想いを寄せているのは周知の事実らしい。それに、意気地無し…と言われているし、まだ想いは伝えていないのだろう。


「いえ。ありがとうございます。お世辞せじでも嬉しいです。」


「世辞などでは無いでござるが…これ以上は止めておくでござる…

折角なら、シンヤ殿も着替えてはどうでござるか?着物ならいくらでもあるでござるよ。」


「それは良い案ですね!

シンヤ様!どうぞこちらへ!」


「えっ?!ちょっ!」


返事すらしていないのに、強制連行…俺にまで飛び火するとは…別に着物が嫌ということもないが、俺の意志を確認して欲しい…


結局、俺も深緑色の帯びと草色の着物を着せられ、髪を軽く切って整えられた。ありがたいけれども、何か釈然しゃくぜんとしないというか……まあ良いか。


「わぁ……ご主人様!素敵です!」


着替えは直ぐに終わり、そのまま庭で待っているニル達の元に戻る。


自分の恥ずかしさはどこかへ行ってしまったのか、ニルは俺の格好を見て、手を合わせて喜んでいる。


「そうか?ありがとう。」


「はい!」


「折角なら、外でも散策しに行ってみるでござるか?拙者も三年越しのオウカ島を見て回りたいでござる。」


「そうだな。昼飯を食ったら外に行ってみるか。」


着替えてから飯を食うというよく分からない順序になってしまったが、汚さないように気を付けて食べれば良いだろう。


「そろそろ昼飯が運ばれてくると思うでござる。一度中に入ってゆっくりするでござるよ。」


「そうだな。ニル。下駄げたなんて履きなれないだろう。捕まれ。」


俺も二本下駄だが、珍しく、何度か履いたことがあるし、まだニルよりはマシだろう。さすがにゴンゾーのように飛んだり跳ねたりは難しいが…


「見ましたか?シンヤ様はやはり分かっていらっしゃるわ。こういう細かいところが大事なんですの。ゴンゾー様もサクラ様に…」


「わ、分かったでござるよ!そう責めないでほしいでござるよ…」


「いつまでも不甲斐ふがいない姿ばかり見せているから、言っているのですよ。

嫌ならバサッと思っている事を伝えてくださいな。」


もうボロクソに言われているゴンゾー。どれくらいの時間、想いを寄せているのか分からないが、女将がじれったく思う程の時間なのだろう。


「さて。そろそろ御食事の準備が出来た頃だと思いますので、どうぞご賞味くださいな。」


レイカと呼ばれていた女将は、ゴンゾーを散々イジり倒した後、スタスタとどこかへ行ってしまった。


「レイカ殿には敵わないでござるなぁ…」


「皆応援してくれているんだな。」


「いや…レイカ殿は特別でござるよ。」


「そうなのか?」


「残念ながら…それも簡単な話ではないでござる。」


何か事情が有るようだ。まあ不治の病…という事もあるのだろう。複雑な話みたいだし、下手に首を突っ込むのは止めておこう。


俺はニルに手を貸して部屋の中へと連れていく。


いつの間に用意されていたのか、既に全員分の料理が用意されていた。

ラトの分もしっかりある。


「美味そうだなー!」


豪華な和食…?のような何かに見える。


新鮮な魚の刺身、サザエに似た貝を焼いたもの、葉物の御浸おひたし、天麩羅てんぷらのような揚げ物…他にも数点皿が置いてある。

何より目に入ったのは味噌汁にご飯。湯気が立ち上っている。


どうやらオウカ島には米や味噌、醤油あたりが有るようだ。もしかしたら、こっちが元祖か…?その辺の事は分からないな。


「美味そうだな。」


「くー!久しぶりにオウカ島の飯を食うでござるよー!しかもこんな豪華な飯を!」


良かった。これが普通ではないようだ。


「冷めないうちに食べようか。」


一応、酒を飲むか聞かれたが、遠慮しておいた。

真昼間だし、この後外に出掛けるのに、千鳥足では色々と良くない。


「「「いただきまーす!」」」


「うん!美味い!」


ザ・和食といった感じの味付けで、日本を思い出す。美味い上にホッとするような…とにかく最高だ!


「………っ!!」


そんな中、ゴンゾーが一人、歯を食いしばって下を向いている。


「ゴンゾー…様…?」


「も、申し訳ござらん……」


ゴンゾーは何故か謝っているが……下を向いたゴンゾーの頬を伝う涙が見える。


「やっと……やっと帰って来たのだと……うっ……」


今まで、ダンジョン内のモンスターしか食べていなかったゴンゾーが、やっと帰って来て、懐かしい味を感じたのだ。

帰って来られた。そう感じるのは当たり前の事だ。

色々な感情が溢れ出て、それが涙となって頬を伝っているのだろう。


「ゴンゾー様…」


ニルも、感極まって手を口元に当てて、目をうるませている。


「…う、美味いでござる!美味いでござるよー!死ぬ程食ってやるでござるー!」


涙を隠すように、ゴンゾーは箸と器を持って飯を頬張る。


「よーし!俺達もモリモリ食うぞー!」


「はい!」


『僕もー!!』


しんみりさせたくないというゴンゾーの思いに、俺達は笑って返す。帰って来られたのだ。泣く時間より、笑う時間を沢山感じて欲しい。


ただ、ゴンゾーの事を陥れた連中には、その分の罰を受けて欲しい。その思いは強まった。


結局、俺達は言葉通り目一杯食べてしまった。


「た、食べ過ぎたでござるよー…」


パンパンになった自分の腹をさするゴンゾー。


「これがご主人様の故郷の味ですか…難しそうですね…」


「ここまでのものを作れるようになったら、俺は確実に太る自信がある。」


毎日出されても毎日美味しく食べられるだろう。


「腹が落ち着いたら外に向かうでござるよー…苦しー…でござるー…」


仰向けに寝転がるゴンゾー。


「こうして飯が食える事が、どれだけ幸せな事だったかを思い出した気分でござる…」


天井を見詰めてボソッと放つゴンゾー。明日の事でも考えているのだろうか…


「想い人には会いに行かなくて良いのか?」


「…サクラ殿にはそんなに簡単に会えないでござるよ。」


羽衣を自分が使ってしまったという負い目……


「…すまん…」


「いや!そういう事ではないでござる!羽衣の件とは関係無しに、単純に簡単に会える相手ではないでござるよ!」


体を起こしてブンブンと両手を振るゴンゾー。


「どういう事だ?」


「サクラ殿は鬼士きしの家系でござる。拙者とは立場が違うから、会いたいと思って会える相手ではないでござる。」


「鬼士の娘に恋をした平民の男って事か…難儀なんぎな相手を好きになったもんだなぁ…」


色々とオウカ島の事が分かってきた今なら、ゴンゾーとサクラという女性が結ばれる事の難しさが分かる。


「少なくとも、今の拙者にはサクラ殿に会いたいと言って会える資格は無いでござる。」


「……へぇ。つまり、四鬼になれば、会いたいと言えば会える立場になる…って事か。まさかそれが目的で?」


「いやいや!誤解しないでほしいでござる!そんなよこしまな考えはないでござるよ?!」

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