第142話 最終層 (2)

四対一でここまで見事に戦われるとは、さすがに思っていなかった。


ラトも居るし、正直それなりに戦える自信があった。第一段階程度ならば、簡単に倒せるだろうと思っていた。


それがただただ、傲慢ごうまんな考えだったと、この時初めて気が付いた。


「はぁ…はぁ…っ!!」


ガンッ!ギンッ!


ゴンゾーは肩で息をして、迫り来るダークデーモンの野太刀を受け続けている。あれだけの威力の剣を受け続けているのだ、手にはもうほとんど感覚が無くなってきているだろう。急いで何か手を打たなければ、いくら頑丈なゴンゾーとはいえ、危険だ。


俺が魔力を真水刀に込める。イメージは水弾。


ポヨポヨと現れた水弾は、しっかりと形を取っている。

魔法はニルに任せて、俺は素早く出せる真水刀の力でダークデーモンを押し切りに掛かる。


「はぁっ!」


ザンッ!


ダークデーモンの刀が届かない位置から、飛ぶ斬撃と共に水弾を飛ばす。


ダークデーモンは、飛ぶ斬撃が見えているかのような動きで、斬撃をかわすが、水弾までは避けられず、肩の部分と左足の太腿ふともも部分に被弾する。

貫通こそしなかったが、間違いなくダメージは入ったはずだ。


「はぁ…はぁ…」


ゴンゾーは既に立っているのも辛そうな状況。これ以上ゴンゾーだけを狙わせるわけにはいかない。


「こっちだ!」


俺はもう一度水弾を作り出し、ダークデーモンに向けて放つ。


普通のモンスターとは違い、傷付いても血は出ないし、痛みが無いのか、痛覚によって動きが鈍ったりはしないようだ。

今度は全ての水弾を避け、野太刀を俺に向けて構える。


「ゴンゾー!下がれ!」


俺はダークデーモンに向かって駆けながら、ゴンゾーに合図を出す。


ガンッ!ギンッ!


俺が縦、横と刀を振ると、野太刀を用いて攻撃を受け止める。これでゴンゾーからの注意は逸らすことが出来たはずだ。


ゴンゾーはニルに支えられて、ヨロヨロしながらも、少し離れた位置に移動した。


「次は俺が相手だ!」


ガンッ!ギンッ!


『僕とも遊んでもらうよ!』


ギンッ!


ゴンゾー程の猛攻とはいかないが、俺とラトでダークデーモンを抑えに掛かる。


ゴンゾーは休ませ、ニルも援護に入ってくれた。


そこからは三対一でひたすら刀を合わせた。


魔力を消費し、アイテムを使い切り、幾つもの傷を負って、幾つもの傷を負わせた。

今思えば、ゴンゾーが負わせてくれた、いくつかの傷によって、ダークデーモンの動きが、ある程度制限され、鈍くなっていたのだろう。

何度も危ないシーンがあったが…それでも何とか戦えていた。


しかし、そろそろ俺達の体力も限界が近い。それをラトも感じていたのか、大きく動く。


『シンヤ!』


バチバチバチッ!


ラトの声で、俺が数歩分下がると、雷撃が訪れる。


閃光がダークデーモンの全身を包み、光の線が表面をランダムに走る。


雷撃が収まると、所々から白い煙を出しながらも、ラトに向かって走っていく。


完全に効いていないわけではないと思うが、雷魔法もあまり効いていない様子だ。雷撃を行った時に筋肉が硬直するような特有の効果も無い。


ズズッ!


距離を取ろうとしたラトの足元に、シャドウハンドが出現する。雷撃を打たれながらも、魔法陣を描いていたらしい。


『このっ!』


拘束を解くのは難しい事では無いが、ダークデーモンが近い。俺の位置からでは、ラトとダークデーモンが重なってしまっている。もし、飛ぶ斬撃を出してダークデーモンが避けたら、ラトに当たってしまう。


「はぁ…はぁ…くそっ!」


恐らくはそれも狙ってやっているのだろう…とんでもないモンスターだ。このままではラトが…


ズガガッ!


「逃げて下さい!くっ…」


ラトとダークデーモンの間にストーンウォールが現れる。

ニルからの援護だ。いつも本当に最高のタイミングで援護をくれる。しかし、魔力がほとんど残っていないのか、少しふらついている。


ザンッ!!


ダークデーモンが一撃でストーンウォールを切り崩すが、ラトの拘束は既に解けている。


それでも野太刀を一文字に振る。


『くっ!』


ガギンッ!


ラトが野太刀を逸らすように爪で弾き、そのまま牙を首元に突き立てようとする。


ガチンッ!


しかし、ダークデーモンは後ろへと跳んでそれを躱す。


ラトのお陰でチャンスが生まれた。


着地のタイミングに合わせて、攻撃を仕掛ければ……


俺は突きの構えを取る。


剣技、貫鉄尖かんてつせん


少し離れた位置から、飛ぶ斬撃で狙うより、確実で強い一撃を放った方が良いはず。


グッと腰を落として、足に力を入れる。


俺に背中を向けて飛んで来るダークデーモン。


その軌道をよく見て、床を強く蹴る。


せっかく背後からの一撃を放つのに、無駄に声を荒らげたりはしない。


グングンと近付いてくるダークデーモンの背中。


ダークデーモンが着地するかしないかのタイミングで、体をひねって後ろを振り返り、俺の突きを受けようと、野太刀を真水刀へと振り下ろす。

俺の貫鉄尖を叩き落とすつもりらしい。


しかし…地に足も着いていない状態で振られた刀で止められる程、軽い攻撃ではない。


ギャリギャリッ!!


振り下ろされた野太刀は、真水刀の背をでるように移動し、弾かれる。


ザクッ!


真水刀はダークデーモンの胸の中心点に深々と突き刺さる。


「はぁぁっ!」


ザンッ!


そのまま真水刀を真横に向けて切り開く。


間違いなく、大ダメージの一撃。


想像以上の強さのダークデーモンに対し、長引いた戦闘で、体には疲労が溜まっているのが分かる。


息をするのにも、肩を動かさなければ辛い程だ。


だから…と言ってしまっては言い訳にしかならないだろう。


ダークデーモンがその存在を煙に変えて消えていった後…


ブンッ!ズシャッ!


即時、新しく生まれた、ダークデーモンの一撃に誰も反応する事が出来なかった。


「………ごふっ………」


ゴンゾーの胸部に、背後から中程まで突き刺さったダークデーモン腕。肘あたりから先が、ゴンゾーの胸部から出ている。

一番弱っているゴンゾーを狙われた…


黒いモヤのようなものが部屋の中心に現れたと思ったら、ゴンゾーの真後ろに移動した。

そして、ゴンゾーの背後で形取り、次の瞬間には…


「ゴンゾー!!」

「ゴンゾー様!」

『ゴンゾー!』


「……ごふっ………」


口から大量の吐血。


突き刺さった位置が悪過ぎる。


急所中の急所だ。


「……これ……しき……」


ブンッ!


ゴシャッ!


ゴンゾーはダークデーモンに投げ捨てられて、地面の上を転がり、仰向けになって止まる。


「ゴンゾー様!」


近くに居たニルが駆け寄る。


「はぁぁっ!」

ザシュッ!ガシュッ!


とにかくダークデーモンからゴンゾーへの注意を逸らすために斬撃を繰り出す。

斬撃を受けたダークデーモンは、後ろへと跳ぶが、ほとんど効いていない。


「ご主人様!」


俺を呼ぶ声に振り返ると、起き上がる体力も残っていないゴンゾーと、それを見て泣きそうな顔で首を横に振るニル。


「そんな…」


決して油断していたわけではなかった…と思う…ただ、反応出来なかった。いや、反応出来たとしても、ゴンゾーを助けられたかは分からない…


現れたダークデーモンは、先程とは大きく姿形が異なり、角は長く太く伸びていて、猫背。

甲冑のようなシルエットは消え去り、人型でありながら、人とは呼べないシルエット。

背も、体の大きさも二回りは大きくなっている。目だけは同じ青色に光っているが…


言うなれば、だろう。


今の状況でこいつとまともに戦う事は出来そうに無い。

ゴンゾーの状況も確認したいし、早く決着を…


キィィーーーン……


俺は迷うこと無く左腕の紋章に意識を向ける。


未だ前回の聖魂魔法から二十四時間は経っておらず、残り一回しかない聖魂魔法を発動させる。


今回力を貸してくれるのは、光鳥こうちょうと呼ばれる精霊だ。


つばめのような形と大きさの鳥で、光で出来ている為、シルエットしか認識出来ない。


常に群れで行動する者達で、よく喋って騒がしい…でも、気の良い連中だ。


ブワッ!


俺の周囲から現れたのは、そんな光鳥の形をした聖魂魔法。


光鳥来爆こうちょうらいばく


光鳥を模した形の鳥達が数十体現れ、次々と鬼になったダークデーモンへと飛んでいく。


ダークデーモンは、その光の小鳥の一体目が飛んで来たのを見て、太くなった腕を振る。


ボガンッ!!


しかし、ダークデーモンの腕が触れた瞬間。


光の鳥は綺麗な球状の光球へと変化…いや、爆発し、ダークデーモンの腕先を消し去る。


驚いたのだろうか。本来であれば魔法は効きにくいはずの体を持っているのに、それがまるで機能していない。


それはそうだろう。魔法とは違う力であり、強度も段違いなのだ。腕くらい簡単に吹き飛ばせる。


その威力を目の当たりにしたダークデーモンは、素早く後方へと下がり、魔法陣を描き始める。


しかし、相手は鳥。空中を群れで移動し、更に素早くなったダークデーモンを簡単に追い回す。


数秒後。


ダークデーモンの魔法陣が完成するかしないかのタイミングで、光鳥達がダークデーモンの元へと到達する。


ボボボボボボボボボボンッ!!


ダークデーモンの全身に集まった光鳥達が、一斉に爆発し、一つの大きな光球を作り出す。


数瞬、強く光った光球が中心に収束し、完全に消え去る。


そこにはダークデーモンの姿は無かった。


「ゴンゾー!!」


直ぐにゴンゾーへと駆け寄る。


「や……やはり……友魔の…力は…偉大で…ござゴホッゴホッ!」


仰向けになったゴンゾーの口から飛び出した血が、頬を伝って後頭部へと流れていく。


まずい。


医学の知識が無くても、これがどれ程危険な状態か一目で分かる。


血のにおいと、僅かに震えるゴンゾーの手が、それを物語っている。


『ゴンゾー!死んだら駄目だよ!』


「ここまで…来て……うっ…」


そこまで言って、ゴンゾーは苦しそうに顔を歪める。


「ご主人様!!」


彼を助ける方法はある。


例の、治癒の羽衣だ。


サクラに使ってくれと言われていた…あの羽衣ならば、助けられる。


でも……ゴンゾーは自分が死んだとしても、サクラを助ける為に使って欲しいと言っていた。


それがどれ程の想いかは分かっているつもりだ。


彼がここで三年間の辛く長い時間を過ごせたのは間違いなく、そのサクラという女性が居たからだ。


彼の心の支えとなっていたサクラ。


ゴンゾーがサクラを命に替えても助けたいと願っている事は痛い程分かる。


でも………いや………


「ご主人様!!」


既に涙をポロポロと落としているニル。


チャリ…


そんな時、胸元から下を覗き込む俺の目の前に現れたのは、真っ青で透明な石と、ニルの黒い角。

ネックレスが垂れ下がってきたのだ。


それを見た時、シルビーさんとプカさん。そして目の前に居るニルにしかられた気がした。


「シンヤ君!!迷ってる場合じゃないでしょ?!

救える命は全部救うって決めたんでしょ?!」


聞こえないはずのシルビーさんの声が聞こえた気がした。


その声が、俺の手を取ってインベントリの魔法陣を描かせた。


息も絶え絶えのゴンゾーの上に、サクラ色の羽衣を被せる。


すると、フワッとサクラの香りがして、羽衣が淡く光る。


羽衣は数多あまたの桜の花弁へと姿を変えると、ゴンゾーの傷口へと集まっていく。


「はっ………はぁ……はぁ……」


辛そうに息をするゴンゾーの傷口に集まった桜の花弁は、ゆっくりとゴンゾーの体へと溶け込んでいき、傷口を癒していく。


「はぁ……はぁ……………」


ゴンゾーの顔が苦痛から安楽あんらくの表情へと変わり、苦しそうな呼吸から、スースーという寝息へと変わる。


「…………」


「……………」


ゴンゾーの怪我は完治し、容態も安定した。


「………すまない……」


俺は眠りに落ちたゴンゾーに向けて、一言だけつぶやいた。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



眠っているゴンゾーをラトが背に乗せて、最後の部屋を出た。


そこにはいくつかのダンジョン報酬が置いてあり、それを入手し、目の前に現れたイベント報酬の表示を確認し、両方を受け取った。


クリア時間は、六日と十時間。


聖魂魔法を回復してから、二回連続で使う策も取れたが……いや、イベント報酬なんて気にせずにそうするべきだった。少なくとも、半日以上の時間が余ったのなら……そうするべきだった。


自分の力やニル、ラト、そしてゴンゾーがが居れば、クリア出来る。そう思っていた。信じていた。

甘かった。傲慢だった。浅はかだった。


予想外の動きに、誰一人反応出来なかった…疲れていたから…中央に出現するという情報があったから…理由は色々と考えられるが、俺の判断が間違っていた…のだろう。


後悔は尽きないが…やった事をやり直す事は出来ない。


それは元の世界でも、この世界でも同じ事だ。


自分のした事、過去は何があっても変えることが出来ない。それがどれ程辛く苦しい過去だったとしても。


気分は最悪とも言える状況だった。


最終層を乗り切って出てきた先には、緩やかに登っていく長い通路。


入口から入った時とあまり変わらない構造。


「……ご主人様…」


俺の気持ちを感じ取ったニルが、斜め後ろから声を掛けてくる。


「私が…私が頼んだのですよ!だからご主人様は!」


「それは違う。」


「っ!!」


「羽衣を使うと決めたのは俺だ。使ったのも俺だ。

ニルの気持ちは嬉しいけど、これは俺の責任だよ。

それをニルのせいにするなんて格好の悪い真似はしないさ。

ゴンゾーの目が覚めたら俺が伝える。」


「ご主人様…」


「でも、ありがとう。ニル。」


「…………」


多分、ゴンゾーは怒り狂うだろう。


何故?!と。


それでも…あの時ゴンゾーを見捨てて、サクラを助けたとしても、それはそれで後悔していたはずだ。


目の前に繋がる通路。このまま進もうか迷っていたが、体の疲れも限界が近い。


ダンジョンを今日中に抜けるのは諦めて、俺達はダンジョン内より狭い通路で一夜を明かす事にした。


適当に焚き火を作り、体を休めていると、眠っていたゴンゾーが目を覚ました。


「うっ………」


「ゴンゾー様?!」


「………ニル…殿……?

ニル殿も死んでしまったでござるか?!」


「え?生きてますよ?」


「へぁ?」


現状を把握出来ていないゴンゾーが体を起こし、俺達の顔を見て、周囲を確認し、自分も生きている事を認識する。


「生きて…いるでござる…?」


「……ゴンゾー。」


「??」


「ゴンゾーに……治癒の羽衣を使ったんだ。」


「なっ?!」


俺の言葉に酷く驚くゴンゾー。


それはそうだ。約束はしていないが、ゴンゾーが羽衣をサクラに使って欲しいという気持ちは聞いていたのだから。


「…………そうで…ござるか。」


思っていた反応とは全く違った。


もっと責められるかと思っていたのに、ゴンゾーはただ顔を伏せただけ。俺を罵倒ばとうしたりはしなかった。


「怒らない…のか?」


「…何故でござるか?拙者は助けられた身。感謝こそすれ、怒る道理は無いでござるよ。」


そう言ってニカッと笑うゴンゾー。


それが本心かどうかは分からない…今はラトではなく、ゴンゾーとの精神的な繋がりが欲しいと思ってしまう。


「……すまない……」


「シンヤ殿。謝らないで欲しいでござる。」


目を見れず、頭を下げた俺に、ゴンゾーはしっかりとした声で言ってくれた。


「あの時、拙者があの攻撃を避けてさえいたら…いや、そもそもあれ程疲れ切るまで強引な攻撃に出ていなければ、こんな事にはならなかったでござる。

全ては拙者の力不足がまねいた結果でござる。」


眉を八の字にして笑うゴンゾー。


自分の力不足?いや。違う。もっと上手く出来た可能性はあった。間違いなくもっと上手く出来た。それをしなかったのは俺の怠惰たいだだ。


「シンヤ殿。何を考えているかは分からぬでござるが、自分を責めないで欲しいでござる。」


俺の心を見透かしたような一言に、顔を上げて毛むくじゃらの顔を見る。


「もっとこうしていれば、もっとああしていれば…なんてものは、どんな時でも、どんな所でも、有るものでござる。上を見たらキリがないでござるよ。

全員が生きて出られた。そう考えて欲しいでござる。

ともすれば、全滅さえ当たり前のダンジョンを、たったの四人で攻略したでござるよ。これは本当に凄いことでござる。」


「…………」


「サクラ殿の事は…きっと他にも手が有るでござる。病状が変わっていなければ、後七年、猶予ゆうよがあるでござる。

拙者は諦めたりしないでござる。どれだけ辛くても、苦しくても、サクラ殿を助けられるのであれば、必ずその方法を見付け出してみせるでごさる。

それに、最悪、このダンジョンでもう一度あの羽衣が手に入る可能性に掛けて、何度も攻略する覚悟だって有るでござる。」


ゴンゾーの瞳には強い力を感じる。


事実上…このダンジョンを何度も攻略するのはかなり難しい。

それに、ここを試練に使っている鬼人族でさえ知らない羽衣は、かなりのレアアイテムのはず。何度攻略しても、手に入らない可能性も大きい。


でも……多分、ゴンゾーなら一縷いちるの望みさえあれば、それに賭けるだろう。


「だからそんなに落ち込まないで欲しいでござる。

共にこの巨大ダンジョンを踏破し、同じ釜の飯を食った仲でござろう?」


そう言ってまたニカッと笑うゴンゾー。


これが…ゴンゾーという男…いや。おとこなのだ。


正直なところ、泣きそうになった。


こうして気丈きじょうに振舞っている今でさえ、サクラの事を考えているゴンゾーが、あの羽衣さえあれば…と考えないはずがない。

俺を責め立てて羽衣が戻ってくるならそうする……いや。それでも、ゴンゾーは俺を責め立てたりはしないかもしれない。そういう漢なのだ。


ゴンゾーを置いていった者達がここに居たら、俺がゴンゾーの代わりに死よりも辛い恐怖を、一生消えない傷を負わせてやるのに。そう思わずにはいられなかった。


「ゴンゾー。」


「何でござるか?」


「もし他にもサクラを助ける方法があるなら、何を差し置いてでも、ゴンゾーを手伝うと、ここに誓う。」


「それは嬉しいでござるが…シンヤ殿達にもやる事があるでござろう?」


「確かに有るが、それだってゴンゾーありきの話だ。それに、の為に動く以上の理由なんて、この世には無いさ。」


「シンヤ殿………かたじけないでござるよ。

もしそんな方法が見付かれば、遠慮無く…に頼らせてもらうでござる。」


「ああ。」


少し気恥しい気もしたが……俺は心から信頼出来る友を得た。そう確信していた。


そして、必ず、ゴンゾーの想い人であるサクラの事も、助けてみせると、心に誓った。


「私も微力ながらお手伝いさせていただきます。」


『僕もー!』


ニルも、そしてラトも同じ気持ちだったらしい。


「ぶっふぁっふぁっ!拙者は本当に良い友達を得られたようでござるな!辛いダンジョンではあったでござるが、これ程の褒美が貰えるならば、拙者の三年間も無駄では無かったでござるよ!」


そう言って、またニカッと笑うゴンゾー。


本当に、俺には勿体ない程の友だ。

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