第91話 聖女

「んふふ…楽しみましょう?」


そう言うと、ジェイクは素早く腕を動かした。その軌道が鉄鞭へと伝わり、シャリシャリと互いにこすれ合う音が鳴る。


「っ?!」


向かって来た鉄鞭に対し、体を横へズラし避けたが、想像以上に速い。

特に先端部のスピードは異常だ。四メートル以上の長さを誇る金属製の鞭なんて、重た過ぎてなかなか使えないと思っていたが……見た目と違いジェイクはパワープレイが得意らしい。


ビリビリビリビリッ!


避けた鉄鞭てつべんは、天幕の白い布を引き裂き、外と開通する。


「っ!!愛聖騎士様!!」

「愛聖騎士様!」


外にいた兵士達が、騒動に気が付いて、俺を取り囲む様に近付いてくる。


「殺してはダメよ。私が愛してあげるんだから。」


「そんな…愛聖騎士の寵愛を…こんな男に…」


周りの兵士達が、ギリギリと歯軋はぎしりしながら俺の事をにらんでくる。


いや。マジでそんな愛は要らないんだが…


外の煙幕は既に晴れてしまったのか、続々と兵士達が集まってくる。全員抜剣済みだ。


ここで戦闘を開始するより、聖女の居場所を聞き出しておきたい。聖騎士を相手に戦いながら聖女を探すのはさすがに無理だ。

ジェイクは喋る事が好きな様だし…少しでも話を長引かせ、何かヒントでも聞き出しておきたい。


「随分と献身的けんしんてきな配下だな…」


「みーんな、私の愛しい子達だからね。」


近くに立っていた兵士の一人。その男の首筋に人差し指を這わせると、兵士の男は嬉しそうにニヤニヤと笑う。

洗脳せんのうされている様には見えない。吹聖騎士ネルクの時の様に、変に操られているという事も無さそうだ。ただただ、兵士の彼らが心からジェイクに陶酔とうすいしている。そんな印象を受ける。

ジェイクも、俺の言葉に随分と簡単に答えてくれる。この調子で喋ってくれると良いが…


「この部隊には女がいないんだな…?」


戦場に居た者達と、ここにいる兵士達。その中には女性が一人も居なかった。


「女…?」


ニヤニヤしていたジェイクの顔が、急に無表情に、そして怒りの表情へと変わっていく。


「女…女……あんな醜い生き物なんて、私が全て!全て殺し尽くしてやるわ!!」


先程までの表情は消え去り、感情が剥き出しになるジェイク。眉頭を寄せ、首に筋が浮かび上がる程に歯を食いしばっている。


鉄鞭が、ジェイクの手の震えに対応してチャラチャラと鳴る。それ程までの女性に対しての深い憎悪が見える。

…なんともチグハグな生き方だ。


「あれ?でも…シンヤ君からしたら、敵になるわけよね…という事は、シンヤ君も女を殺したいのね?!んふっ!そうだったのねぇ!」


怒りや憎しみに打ち震えていたジェイクが、その結論に至った途端…欣喜雀躍きんきじゃくやくし、小躍こおどりでも始めそうだ。

女性に対して、という意味では、そんな憎悪は全く持っていないが、これに乗れば、聖女とやらの居場所を探れるかもしれない。ものは試しだ。


「そ、そうだ。俺も女には酷い目を見せられてきてな…」


「んふぅぅ!そうよねぇ!やっぱり女なんて皆死ねばいいのよねぇ!」


眼球を上に向け、愉悦ゆえつの表情を見せるジェイク。神聖騎士団の連中には何度も思ったが、ここまで何かが欠如してしまっている人というのは、話をしているだけで恐怖を感じてしまう。


「それで……」


一度生唾を飲み込んでから言葉を続ける。


「この場所に女がいるって聞いて来たんだが…」


「あー…あの女。」


吐き捨てるように言うジェイク。


「あの女は横の天幕にいるわよ。私も殺したいけれど…あの御方の愛を裏切ることは出来ないわ。仕方ないのよ。ごめんなさいね。」


俺から見て右側を指差して教えてくれる。親切な奴だ。

しかし…またか……

いや、今はそれより、聖女の居場所が分かった。その方が重要だ。ここを上手く抜け出して、横の天幕にいる聖女を殺す。これが達成出来ればこの戦況も一気に変わる。


「あの女は良い能力を持っているからねぇ。私の近くに女がいるってだけで虫唾むしずが走るけれど…」


ジェイクの話を聞いている振りをしながら、気付かれないように、ゆっくりと腰袋へと手を回し、球状のアイテムを二つほど手に取る。毒煙玉か、閃光玉か……視線はジェイクから離せない為、数種入っているアイテムの中から何を握り込んだか分からない。

次に作る時は表面に模様もようでも入れて触っただけで分かるようにしておいた方が良さそうだ。なんて考えているが、今は先の話ではなく、ここを生きて出る事を考えなければ、次に作る機会というのも来ないかもしれない。


「んふっ…だからシンヤ君も一緒に」

バァァン!


ジェイクが話している最中に、手の中に握り込んだ物を中央の地面に投げつける。このままジェイクの話に付き合い続けても、玩具おもちゃにされるのか、よく分からない扉を開かされるのか…何にせよろくな事にはならない。他人の好みにとやかく言うつもりは無いが、俺に向けられても困る。


爆音と閃光が同時に生じ、キィーーンと酷い耳鳴りがする。閃光玉の可能性も考えて目は瞑り横を向いていたから視界は大丈夫そうだ。

どうやら音玉と閃光玉を投げつけたらしい。


目を開けると、周囲にいた兵士達は音と光の攻撃に体を折り曲げ、顔の辺りに手を持って行っている。


上手く隙をつけたが、俺自身も音玉の効果を受けていて、足元がふらついて定まらない。

目も耳も利かない聖騎士を、ここで殺れるなら殺っておきたかったが…何かを叫びながら、鉄鞭を無茶苦茶に振り回しており、フラフラなまま近付くのは危険だ。ここは素直に聖女の元に向かおう…


千鳥足ちどりあしのまま、苦しむ兵士達の間を抜けて、聖女が居ると言っていた右手の天幕へと向かう。


体を支えるように天幕の布地を掴み、何も聞こえないまま、聖女がいるという天幕の中に入る。

視界の歪みは徐々に正常に戻ってきて、軽く頭を左右に振ると、やっと中の状況を確認出来る。


十人は入れるであろうサイズの天幕。その中には物という物が何も無く、僅かな灯りと、中心に大きな布を被された四角い物が置かれているだけだった。それを見た時、フッとニルを買った時の事が頭をよぎった。奴隷商でニルを買った時、彼女が入っていた入れ物…大きさは違うが、形は全く同じだ。


「もしかして…」


自分の声もまともに聞こえないが、そう呟き、ゆっくりと被せられた布に手を伸ばし、引っ張る。布地はほとんど抵抗も無く地面に落ち、その下にあった鉄製、三メートル四方のおりが姿を見せる。


「うっ…」


思わず鼻を覆う糞尿ふんにょうと、何かが腐ったような臭い。

大きな檻の中には、全身を鎖で繋がれたエルフ族の女性がいた。


俺が初めてニルを見た時よりずっと酷い。

服と呼べる物など無く、首、腕、手首、腰、太もも、足首に枷が付けられ、そこから伸びる鎖で、大の字に吊るされている状態。全身には汚れなのか、血なのか分からない黒ずんだ何かが付着しており、傷だらけ。骨と皮だけの体になり、まだ若いはずなのに、老婆の体のように見える。

俯く女性の顔を隠している長く真っ白な髪も汚れ、顔の両サイドから長く尖った耳が見えている。エルフの女性らしい。元々白髪だったのか…それとも白く変わってしまったのか。どちらだとしても、目をそむけたくなる光景だろう。

僅かに胸部が動いているから、息はしているのだろうが…これは、かろうじて生きているのではなく、死んでいないだけだ。

そして、彼女の目の前に大きな、見た事のない魔法陣が白く光り続けている。恐らく…それが治癒魔法で、彼女が聖女。それで間違いないだろう。この姿を見て、本当に彼女を聖女と呼べるのであれば…だが。


「どこが聖女だよ……」


チャリッ…


俺の呟きに気が付いたのか、吊るされた女性の顔が僅かに動き、鎖の音が鳴る。顔が少しだけ上向き、ボサボサの髪の奥に、にごった緑色の瞳が見える。

その瞳が俺の事を確認すると、口が僅かに動き、カサカサの唇が割れて血が滲んでくる。


止んできた耳鳴りの奥に、掠れた声が聞こえるが、声も小さくて、何と言っているのか判別出来ない。

何かを伝えたいのか、何度も同じ様に口を動かす聖女。

一歩、二歩と近付くと、やっと彼女が俺に伝えたかった言葉が分かった。


「……………こ…ろし…て……」


耳鳴りの合間に聞こえてくる、掠れて震える声。


あのジェイクだからこんな扱いをしているのだろうか…?誰がやったにしろ、この状況を許している神聖騎士団に、人の心など無い。

奴隷紋は入っていなくとも、枷をつけて奴隷と同じ様に扱うこと自体は出来る。枷に求める制約を調整すれば、命令に背き自殺する事も、当然逃げ出す事も、あらがう事も…そして自分自身に治癒魔法を掛ける事も出来なくなる。

その結果が……今の彼女なのだろう。


言葉が出ない。

見ず知らずの人に残った体力を振り絞って、と懇願する気持ちなど、容易に想像出来るものではない。


俺はこの時、生まれて初めて、殺してと思った。


薄明刀に手を掛ける。


ズガァァァン!!


薄明刀を引き抜く前に、天幕が俺と聖女を分断するように落ちてくる。薄明刀で天幕を切り裂くと、近くに、鉄鞭を振り下ろした格好のジェイクが立っていた。


「シンヤくーん。」


ジェイクは俺の顔を見て、ニタァと笑う。


「女を殺そうとする気持ちは分かるけどぉ…さっきそれはダメだって…言ったよねぇ?」


顔の下半分は笑っているのに、上半分は怒りを表していて、変にチグハグな表情だ。


「……これが…聖女なのか?」


檻の中に目をやってジェイクに質問を投げ掛ける。


「そうよ。聖女である前に、女だけれどもね。」


「神聖騎士団は聖女を全員こんな風に扱っているのか…?」


「さぁ?どうかしら?知らないわ。興味も無いし。」


「お前達の仲間じゃないのか…?」


「この女が?んふふ。笑わせないでよ。治癒魔法を使えるから捕まえてきただけよ。」


つまり、聖女とは名ばかりの、道具としてここに彼女は置かれている…という事だ。

どこまでもクズを突き通す神聖騎士団に対する怒りで、頭が変になりそうだ。


「………」


「何よ。私の物を私がどう扱おうと、私の勝手でしょう?」


無意識に睨み付けていた俺に対して、ジェイクが返した言葉がそれだった。

そもそも神聖騎士団の連中と意見が合うとは思っていない。議論したいわけでもない。


檻の中にいる聖女を殺してやるタイミングを失ってしまった。聖女に斬りかかればジェイクが俺を殺すだろう。

こうなってしまっては仕方がない。聖女を殺してやるより先に、ジェイクを殺すしかない。


「聞いた俺が馬鹿だったな。」


薄明刀をジェイクに対して真っ直ぐに構える。


「せっかく愛してあげようと思っていたのに……こんなオイタをされちゃうと、そうもいかないわね。」


真顔で俺に向き合うジェイク。兵士達も集まってきてしまった。


「私の愛しい子達。その男を殺しなさい。」


「「「「はい!愛聖騎士様!」」」」


ジェイクの体を隠すように、兵士達が直剣を構えて出てくる。

総勢で四十人くらいか…


薄明刀を握り直し、ゆっくりと息を吐く。


「殺りなさい!!」


ジェイクの声が引き金となり、兵士達が一斉に襲い掛かって来る。


「死ねぇぇぇ!」

「愛聖騎士様の為にぃぃ!」


四十人に取り囲まれてしまったら、その時点で負け確定だ。ワーム戦の時の様に動き続けなければならない。

厄介な事になったとは思っていない。少し強引なやり方にはなってしまったが、こうなった以上、誰一人としてこの場から生きて逃がす気は無い。


地面を強く蹴り、囲まれないように突出した端の兵士を狙って一足飛びで近寄る。

兵士からしてみれば、俺が一瞬で目の前に移動したように見えただろう。


ザシュッ!


その兵士の頭部を確実に切断した後、俺の動きに反応できていない兵士を見つけては、次々と斬り付けていく。


ザシュッ!ガシュッ!


「速過ぎる!」


「落ち着きなさい!数人で固まるのよ!」


十人程切り刻んだところで、やっとジェイクの指示が飛ぶ。


確かにスピードのある相手に対して、数人で固まるというのは有効な手段だろう。

一人が殺られても、残った奴で斬りかかれば良いのだから。

だがそれは、一般的な話であって、今の俺にも有効な手段とは言えない。


高速で走りながら斬り付けていた俺は、左手でも魔法陣を描き出していた。


「まとまってくれて助かった。」


茶色に光った魔法陣。


三人が固まった頭上に生成された大岩が、逃げる間もなく落ちていく。


グシャッ!!


落ちた岩と地面の間から血や内蔵や骨が飛び出してくる。間違いなく即死だ。


「あの動きで魔法陣まで…報告は本当だった様ね…」


「愛聖騎士様!」


「私が止めるわ!動きが止まったら全員で斬り掛かりなさい!」


「「「「はい!」」」」


指示に疑問も不安も無く返事をする兵士達。


シャリシャリ!


ジェイクが腕を左右に振ると、生き物のように動く鉄鞭が、目の前で擦れ合い火花を散らす。


「そこよっ!」


ザンッ!!


地面を切り裂く程の勢いで、鞭が襲ってくる。だが、鞭という武器は腕を振った後、実際に斬撃が放たれるまでに時間が掛かる。

よく見ていれば避ける事はそれ程難しくは無い。


余裕を持って鉄鞭から離れようとした時。鞭の動きがグニャリと不自然に変わる。

どう見ても物理的におかしな挙動をした鉄鞭が、走り抜けようとしていた俺の顔面に向かって来る。


「っ?!」


無理矢理体を倒し、首を逸らすと、頬を掠めていくハート型の刃。


ザザザッ!


自分の体が、溶岩の固まった黒い地面の上を滑る。下手な突起とっきが無くて助かったが、動きが止まってしまった。


まずい!


そう思った時には、目の前に数本の直剣が迫ってきていた。


パキンッ!


ガラスを綺麗に割った時の様な短く鋭い音が鳴ると、兵士達の持っていた直剣が中程でいる。

当然だろう。鎧すらバターの様に切り裂く刀だ。刃を垂直に当てさえすれば、薄明刀は相手の武器さえ切り裂いてくれる。


ザンザンザンッ!!


自分の武器の先端がどこにいったのか、それが理解できないまま、兵士達は薄明刀に頭をも斬り飛ばされる。

倒れた兵士達は、聖女の治癒魔法も効かず、ピクリとも動かない。


「兵士は残り二十。半分になったな。」


「この…この…」


俺の言葉を聞き、鉄鞭を持つ手を震わせるジェイク。


「私の愛しい子達をぉぉぉぉ!!」


ザンッ!


鉄鞭が振るわれ、それを避けた俺の方へと向かって軌道を変える。先ほどのは見間違いではなかったらしい。魔具なのか…魔法なのか…どんな原理なのかは分からないが、鉄鞭はジェイクがある程度自由に動かせるようだ。

鉄鞭の範囲から飛び出すことで避けたが…かなり面倒な武器だ。


一度避けたとしても、背後から戻って来る可能性もあるし、変化が一段階とも限らない。もし完全に自由な動きを与えられるのだとしたら、鉄鞭の届く範囲は、どのタイミングでも危険な領域という事になる。それに、グネグネと曲線で動く鞭に対して、薄明刀は相性が悪すぎる。理由はワームの時と同じだ。


「んあ゛ぁぁぁぁ!」


ザンッ!ザンッ!


目を見開いて、汚い叫び声を上げながら、何度も届かない鉄鞭を振り続ける愛聖騎士ジェイク。


「愛聖騎士様!」


「我々の事は気にしないでください!」


ジェイクの周囲に居た兵士達が、俺が見ていると言うのに武器を下ろし、背を向け、ジェイクに駆け寄る。


「愛聖騎士様!」


「ダメよ…このままでは私の愛が……愛がぁ…」


ジェイクは取り乱し、完全に我を見失っている。


「大丈夫です。」


「我々は分かっていますから。愛聖騎士様の愛を。」


何がどうなってこんな忠実な配下達になったのか分からないが…………


だ。


俺の目には未だ治癒魔法を展開している聖女の姿がうつっている。情を挟む余地など微塵もありはしない。例え俺が悪人に見えたとしても、手を緩めてやるつもりは無い。


ジェイクの目の前に、背を向けて立っていた兵士二人。後方からその二つの頭を水平に切り裂く。


ザシュッ……

カランカランッ!


刀を振り抜いた後、二人が被っていた兜の一部が切り離され、地面に落ちる。


ジェイクの目の前でゆっくりとズレていく頭部。

切り口から吹き出した血の数滴が、ジェイクの頬を赤く濡らす。


「……いや……いや゛ぁぁぁぁ!愛がぁ!私の愛がこぼれ落ちていくぅぅぅ!」


涙を流し、既に死んだ二人に手を伸ばそうとするジェイク。

その手は届かず、二人の死体はその場に崩れ落ちる。


「ん゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


ザンッ!ザンザンッ!


俺に当てようとした鉄鞭は地面と空しか斬る事が出来ない。


「キサマァァァ!!」


兵士達が激怒の表情で襲い掛かって来る。


ザシュッ!ガシュッ!


いくら怒りのボルテージが上がったところで、アニメのように突然強くなるわけではない。ただ動きが単調になり、俺の薄明刀を当てやすくなるだけだ。


ブシュッ!グシュッ!


俺の動きに全く付いてこれていない兵士達は、一人、また一人としかばねに変わっていく。


「やめてぇ!私の愛がぁ!!」


ジェイクが大きく腕を振ったタイミングで、目の前に居た兵士の腹を蹴り飛ばす。


グシュッ!


「あぁ……ああぁぁ……」


ジェイクの振った鉄鞭が、蹴り飛ばした兵士の胸を背後から貫き、血が鉄鞭に滴っていく。


「…ゴブッ……」


大量の血を吐いた兵士が、後ろを振り返る。


「愛……せ…い……」


ザシュッ!


言葉を待たずに背後から頭を縦に割る。


ドチャッ…


胸を貫いた鉄鞭を受けたまま、その場にうつ伏せに倒れる兵士。


「いや゛ぁぁぁ!!やめてって言ったのにぃぃ!」


ボロボロと涙を流しながら倒れた兵士に駆け寄るジェイク。


「お前達は、あの人がそう言った時、やめたのか?」


俺は吊り下げられた聖女を指差して問い掛ける。


「あんな……あんな物は……」


言葉が見付からないのか、出てこないだけなのか、ワナワナと唇を震わせるだけのジェイク。


「死ねぇぇ!」


ガシュッ!


馬鹿みたいにただ剣を振り上げて近寄ってくる兵士をまた一人斬り殺す。


「お前達がやめていたら、あの人はあんな事にはなっていないだろう。」


こいつらの言葉は何一つ俺の心に届く事は無い。

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