第49話 心石

ワマラが走り寄るが、それよりも早く、割れ目の上に複数の影が現れる。


ヒュンヒュンヒュンヒュン!

ドスドスドスドスッ!


上部から矢を撃たれ、その殆どはエメトの体に突き刺さる。ワマラとエメトは、その強さ故に、敵にも広く知れ渡った将の首だったのだ。

狙われた…


「……ごふっ……」


エメトの口から大量の血が吹き出し、地面に染み込んでいく。


「エメトォォォ!!」


「お姉ちゃん!!」


ワマラの届かなかった手と、イナヤの小さな手がエメトを求める。


「うあああああああああ!!」


ワマラの叫び声が、周囲に響き渡る。


ガンッ!キンッ!


地上に迎撃に出たアマゾネス達が戦っている音が聞こえてくる。


下へ向かって撃ち込む暇が無くなったのか、矢はそれ以上降っては来なかった。


「お姉ちゃん!!」


「エメトォ!」


全身に矢を受けたエメトに駆け寄るワマラ。二人は小さな時から、どんな時でも一緒に居た親友だ。


「…ワマ……ラ……」


エメトは全身に矢を受けていたが、それでもまだ息があった。


「エメト!しっかりしろ!あたいを置いて先に逝くなんて許さないぞ!」


「イナ…ヤを……」


振り絞った声で、エメトが最後に言ったのは、妹の名前だった。


「自分でなんとかしろよ!逝くな!逝くなよぉ!」


「…………」


「おい…エメト…?おい!起きろ!起きろよ!」


「………」


「死ぬなよ!エメト!エメトォォォ!」


ワマラの涙がポタポタとエメトの頬に当たるが、エメトはもう瞬きさえしない。


「ワマラ!ここに居ては危険だ!とにかく奥に進むぞ!」


「………」


ヤナシリの言葉に、ワマラは一切反応しない。


「ワマラ!しっかりしろ!」


バチンッ!


ヤナシリの平手がワマラの頬を打つ。


「姉…さん…?」


「イナヤを任されたんだろ!?だったら今はイナヤ達を避難させる方が先だ!九石らしくしろ!」


ヤナシリは、自分がどれだけ薄情な事を言っているのかを理解していた。それでも、今は他の者達を避難させねば、全滅は必至。


「あ、ああ……」


エメトを抱き上げてフラフラと歩いていくワマラ。


「お姉ちゃん……お姉ちゃん……」


うわ言の様に姉の姿を見て呟くイナヤは、その場で動けなくなっている。


「イナヤは私が担ぐ。急ぐぞ!」


「なんで…なんで…エメトが……」


「ワマラ!お前がしっかりしないと、皆死ぬ!今はとにかく全力で走れ!!」


「っ!!」


皆死ぬという言葉で、残った力を振り絞るワマラ。


谷間を一気に駆け抜けると、アマゾネス達が更に後退している所に到着する。ここより先はありの巣と呼ばれる地下洞窟へと続いている。

長年住んできたアマゾネスだからこそ抜けられる場所であり、中は上下左右に入り組んだ、蟻の巣の様な迷路になっている。アマゾネス以外が入れば二度と戻っては来られないとも言われている場所。

しかし、アマゾネスにもその全貌までは分かっておらず、出来る限り入りたくは無い場所であった為、その前で留まっていたのだ。


「イナヤ?!」


エメトの死によって、イナヤは我を失っている。ぼうっとどこかを見ているだけだ。


「ナナヒ……」


「そんな……まさか……エメト様が……」


ナナヒもエメトの死を受け入れられないと言いたげだ。


「すまない……守れなかった……」


「ワマラ様……」


「ナナヒ!アタニ!チクル!イナヤを連れて避難しろ!他の者達も荷物は全て捨てて避難だ!一石でも持っている者達はここで相手を食い止めるぞ!」


「「「「はい!」」」」


「くそ…まさかここがバレていたとはな…ワマラはナナヒ達を連れて行け。」


「そんな?!」


「今のお前には、前線に立って戦うのは無理だ。」


「出来るって!」


「いや。無理だ。そんなほうけたつらでは何も出来ん。ナナヒ。ワマラを連れて行け。」


「姉さん!」


「…たまには姉の言う事を素直に聞いてくれ。」


「っ!!」


ヤナシリの優しい顔。ワマラはそれを見て言葉を詰まらせる。


「他の者達は、我と共にここを死守する!ここならば上から死角になっている!前から来る奴らを片っ端から片付けていくぞ!」


「「「「おおぉぉぉぉ!」」」」


「ワマラ様!」


ナナヒがワマラの手を掴む。


「っ………行こう。」


「はい!」


ナナヒとワマラはイナヤを連れて蟻の巣へと入っていく。どこを見ても同じ様な空洞があるだけ。目印も何も無くどちらへ進んだら良いのかなんて、この場所を知らなければ分かるはずもない。


「ナナヒ!」


「アタニ!チクル!」


ナナヒを待っていたアタニとチクルが、ワマラの抱えるエメトに目をやる。


「エ…エメト様……?!」


「そんな…エメト様が…」


「すまない……」


「ワマラ様!もっと奥へ行かなきゃ!」


「ナナヒ…そうだな。姉さんの指示に従おう。」


ゴゴゴゴ……


「…激しい戦闘が起きているみたいですね。」


「あいつら…私達の事をなんだと!」


「…………」


「ワマラ様?」


全員で奥へと向かっていたのに、ワマラが足を止めた。何か思い至った顔をしている。


「………まさか……」


「ワマラ様?早く奥へ行かないと!」


「…あいつらがあたい達を追ってこなかったのは…ここを突き止める為に…?」


他の四人には聞こえない程の小さな声で呟くワマラ。


「あたいが……あたいがまた皆を危険に……」


「ワマラ様!!」


「……ナナヒ。」


「なに?」


「この先の道は分かるな?」


「え…分かるけど…」


「イナヤと…エメトを頼む。」


「ワマラ様は?!」


「あたいは…自分のした事の責任を取ってくる。」


「責任……駄目だよ!ヤナシリ様がワマラ様と一緒にって!」


「あたいがやらなきゃならないんだ。姉さんが…族王がこんな所で死んで良いはずがない。」


「ワマラ様!」


「ナナヒ!?」


入口に走り出したワマラ。それを追ったナナヒ。


「はぁ…はぁ…」


全速力で入口に向かったワマラ。やっとの事で辿り着いた先に見えたのは、大量の血と、死体の山。


奥に見えるのは鎧を着た兵士達。


その前に、傷だらけの体で、唯一立っているヤナシリの姿。


「まだ……まだ…」


無骨な分厚い剣を杖代わりに持ち、入口の前に立ちはだかっている。


「姉……さん……」


ゆっくりと近付きつつある兵士達。もうヤナシリには、剣を振る力は残っていない。


「させるかよ……これ以上好きにさせてたまるか!」


入口から飛び出したワマラは、朦朧もうろうとしているヤナシリの体を掴み、蟻の巣内へ向けて放り投げる。


「なっ?!ワマラ?!」


宙を飛びながら、ヤナシリがワマラを認識して声を掛ける。


「いつも姉さんの言う事を聞かなくてごめん。姉さんは皆の為に生きてくれ。」


「ワマラ!っ!!」


敵中に走っていくワマラを止めようにも、体が言うこと聞かず、その場から前に進む事が出来ないヤナシリ。


「うおぉぉぉおおお!!」


ガンッ!ギンッ!


「あの馬鹿っ!くそっ!こんな時になんで体が言うこと聞かないんだ!ワマラを死なせるわけにはいかないってのに!」


ガキンッ!グシュッ!


「っ!!ワマラ!ワマラァ!」


敵兵を次々と切り捨てていたワマラだったが、多勢に無勢。取り囲まれたワマラに刃が突き刺さる。

それでも倒れないワマラは、体に剣が何本も刺さっているのに、大剣を振り続ける。


「ヤナシリ様!!」


「ナナヒ?!」


「そ、そんな…ワマラ様が……」


取り囲まれ、刃を突き立てられたワマラ。全身から血が吹き出し、コポコポと音を立てて口から血が流れ出している。


「ワマラ…ワマラァァ!」


とっくに死んでいてもおかしくは無い。体中に突き立てられた刃の数は一目では数えられない。


しかし、ワマラはそれでもゆっくりとヤナシリとナナヒの方を向き、微かに口角を上げ、目尻を下げた。


「っ?!」


「ワマラ様ぁぁぁ!!!」


「いかん!」


飛び出そうとしたナナヒを無理矢理引き止める。


ワマラの胸周辺から橙色の光が溢れ出していた。


ナナヒを庇って、蟻の巣の中、地面に伏せたヤナシリの耳に、聞いた事の無い轟音ごうおんが届く。


衝撃と、光と、音。それらに襲われたヤナシリとナナヒは、簡単に空洞の奥へと吹き飛ばされる。

強く体を打った二人が、意識を保つのは不可能だった。


「……様!……ヤナシリ様!」


「……うっ……」


「ヤナシリ様!ご無事ですか?!」


「……チクル…?」


「起きられましたか!」


ヤナシリの周りには、チクル、アタニ、そしてイナヤが立っていた。


「ナナヒは…?」


「気を失っていますが、無事です。」


「…そうか…それは良かった……」


「その……何があったのですか?」


「………ワマラが、心石を使った。」


「…え?!」


全員の目が蟻の巣の入口へと向かう。衝撃で崩壊した入口。塞がれた土をアタニとチクルが必死に退ける。


少しすると、光が差し込む。


「そんな……」


チクルの声に目を向けると、外は想像を絶する光景へと変わり果てていた。


この入口は、地殻の割れ目、その谷間に存在していた。しかし、今は、周囲一キロに渡り完全に平らな大地へと変わっている。


「心石の効果をこの目で見たのは二度目だが…凄まじい物なのだな……」


「ワマラ様が…これを…?」


「これ以上の心石を渡さない為、そして、我等アマゾネスを守る為に。」


「そんな……」


アタニ達は、目の前の光景に言葉を失っている。


「うっ……」


「ナナヒ!?大丈夫か?!」


ナナヒが意識を取り戻した。


「ヤナシリ…様……?……ワマラ様…ワマラ様は?!」


「………」


「そんな!ワマラ様…ワマラ様ぁ!」


ヤナシリの手を振り払い、外に出たナナヒは、言葉を失い呆然とする。


「……すまない。」


ヤナシリに言える言葉は他に無かった。


「なんで……なんでワマラ様が!」


「………」


「なんでこんな事!ワマラ様…ワマラ様ぁ!」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「それからどうなったんだ?」


「その後、騒ぎに気が付いた獣人族王の使いが来てくれました。」


「あたい達アマゾネスは、その時から獣人族王の後ろ盾を得たから、狙われる事は無くなったけど…」


「どちらかと言えば、ワマラ様が与えた影響の方が大きかったと思います。」


「それだけの破壊が起きれば、周囲に居た兵達は跡形も無く吹き飛んだだろうからな…」


「その時にヤナシリ様を除く髪飾りを持ったアマゾネスは一人も居なくなり、人数もかなり減りました。」


「その後は静かに暮らしていたけれど、最近になって神聖騎士団の者達が現れる様になったの。」


「二度とあんな事を起こさない為に、私達は必死に自分達を鍛えましたが……」


「まだまだ足りない…って事か。」


「はい。」


それだけの威力がある心石。他の種族の者達が欲しがったのは、抑止力として…だろう。

元の世界で言う所の核兵器みたいなものだ。他の種族が持っているのに、自分の種族には無いとなれば…嫌な話だが、どうやってでも奪いに来るだろう。


だが、今回の場合は、神聖騎士団は使う為に欲している。

そして、世界を相手にしている神聖騎士団にとって、獣人族王の後ろ盾など関係がない。


今は逃げ回っていて被害は無いが、神聖騎士団が諦める事はまず無いだろう。だからこそ、救援要請が来たのだ。そして、それを知っているからこそ、彼女達はこうして俺に頭を下げている。という事だ。

荒地を出てどこかに逃げれば良いと思うかもしれないが、彼女達にとっては、他種族は危険な生き物。獣人族王の後ろ盾を貰っていたとしても、獣人族全てが信用出来るという事にはならない。

つまり、彼女達はここで逃げ回りながら、神聖騎士団との戦闘を続けるしか無い。ヤナシリの考えはこんなところだろうか。


「神聖騎士団の奴らは必ずまた来る。私達が強くならないといけない。」


「そういう事なら、俺に出来ることはさせてもらうよ。自分達の身を自分達で守れるという事が一番だからな。」


「ほんと?!」


「ヤナシリと、それからニルにもちゃんと許可を取れよ。」


「やったぁ!」


ナナヒが露出度高めで抱き着いてくる。


「おい!飛び付くな!」


「あはははは!」


「でも、ヤナシリには教えて貰えないのか?俺よりアマゾネスのヤナシリに教えてもらったほうが良い気もするが?」


「ヤナシリ様は色々と忙しいから!」


「それに、ヤナシリ様は…教える事が苦手でして…」


「苦手?」


「教えてもらおうとすると、大体最後には試合になっちゃうんだよ!」


「……面倒臭いから自分で学べ。とか言われる。」


「なんとなく想像出来るな……分かった。それじゃあ明日から早速始めるか。」


「うん!」


「ナナヒ。うん!ではありません。お願いします。ですよ。」


「お願いしまーーす!」


「お願いします。」


「……お願いします。」


「………お願いします。」


「さてと、ニルも心配しているだろうし、そろそろ戻るかな。」


「他の子達にはあたし達から言っておいてあげるよ!このままじゃ寝られなくて朝の特訓に支障が出るからねぇー!」


「怖っ!言ってくれなきゃ俺寝られなかったの?!」


「あはは!大丈夫大丈夫!じゃあまた明日ねー!」


一抹の不安を置き去りにするナナヒ達。


そろりそろりとニルの待つテントへと帰ったが、アマゾネスの女性達はチラチラ見てくるだけで追っては来ない。


「ご主人様!ご無事でしたか?!」


「なんとかな……物凄く疲れたが。」


「申し訳ございません…」


「ニルのせいじゃなだろ。それに、あの波に対抗出来る奴なんか居ない。恐ろしいぜ…

それより、ナナヒ達からは聞いたか?」


「朝の修練に参加するという話ですよね?聞きました。明日からは人が沢山ですね!」


「ナナヒはタイプが違うが、短剣の使い方は秀逸しゅういつだ。小太刀と似た武器として学ぶところも多いだろうから、吸収できる事は吸収するんだぞ。」


「はい!」


「さてと……今日は疲れたから前に作った焼き鳥で腹拵はらごしらえするか。」


「醤油の魔法ですね!」


「ははは。ニルも既に醤油のとりこだな。」


「はい!」


「なになに?!凄く良い匂いがするけど!」


どこから現れたのか、ナナヒが突然話し掛けてくる。


「おわっ?!ナナヒ?!いつの間に来たんだ?」


「今後ろを通り掛かったんだよ!それより!この匂いは何?!」


「焼き鳥だよ。俺とニルで作った特製タレ付きだ。欲しければいくらかやっても良いぞ。」


「えっ?!良いの?!」


「ほれ。」


ナナヒにあげようと渡そうとするが、ナナヒは口で受け止める。


「はぐっ!…………美味しーーー!」


「自分で持て、自分で。」


「なになに?何が美味しいの?」


「この焼き鳥!すっごく美味しいよ!」


「良い匂いね?」


ナナヒの宣伝によって続々と集まってくるアマゾネス達。ずっと俺達の様子を伺っていたので、ここぞとばかりに集まってくる。


「私にもちょうだいな!」


「私にも!」


「お、おう……」


次々と差し出される手に焼き鳥を渡していく。


「あ…あ……」


ニルはそれを眉を寄せて見ている。自分の分が無くなってしまうと考えているのだろう。これくらいならばいつでも作れるからそんなに物欲しそうに見なくても良いのに…


「ニル。また作ってやるからそんな顔するな。」


「っ!!そ、そんなつもりでは…」


ボッと赤くなるニル。


「ははは。真っ赤だな。」


「うー……」


ニルは下を向いて黙ってしまった。


「美味しー!」


「これシンヤが作ったの?!」


「俺とニルでな。」


「料理も出来るなんて素敵ねぇ!」


「あ!コラコラ!あたい達と約束したでしょ!シンヤには手を出したら駄目!」


「えーー!」


「約束は約束!守らないならあたいが相手になるけど?」


「わ、分かったわよ…じゃあまたねシンヤ!」


「お、おう……」


「嵐のような人達ですね…」


「だな…」


「シンヤ!我にも焼き鳥をくれ!」


ニカニカと笑いながら現れたのはヤナシリ。


「ヤナシリ…」


「なんだ?我にはくれないと言うのか?」


クネクネしながら近付いてくるヤナシリ。


「やるから寄るんじゃない。」


「つれないなぁ。」


「ほら。」


「あむっ……んー!んんん!」


あげようとすると、口で受け止めるヤナシリ。……流行りなのか?


「せめて飲み込んでから言え。そして、自分で持て。」


「美味いな!」


「それは良かった。」


「そう言えば、さっきナナヒ達が来て明日からシンヤに稽古をつけてもらうとか言ってたが、良いのか?」


「色々と話を聞いてな。」


「あー…ワマラ達の話か。」


ヤナシリは少し暗い顔をする。


「実妹だったらしいな。」


「…まあな。」


「すまん。安易に踏み込んで良い話題ではなかったな。」


「いや。良いんだ。もう随分と前の話だからな。我もそれなりに気持ちの整理はついている。

本当に最後まで我の言うことを聞かない馬鹿者だったが…あいつのおかげで我は今生きているのだ。あいつの分まで生きていかねばならん。」


「そうか…」


馳走ちそうになったな。」


「これくらいどうって事ない。俺達はもう寝るよ。」


「うむ。」


テントに入り、横になる。


「よいしょっと。」


「……何故ヤナシリまで入ってくる?」


ナチュラルに入ってきたから一瞬反応が遅れた。


「当然だろう?我に勝った男はシンヤが初めてだからな!」


「当然だろう?じゃない!出てけ!」


「おぉぉお?!」


ヤナシリを追い出すと、ブツブツ文句を言いながら自分のテントに帰って行った。


ヤナシリは気持ちの整理は出来ていると言っていたが、そんな事は絶対に有り得ない。大切な者の死というのは、そんなに簡単なものでは無い。俺もそれはよく知っている。

だからと言って、俺に何ができるわけでもないのだが、せめてナナヒ達の訓練に全力で取り組んで、少しでもあの両肩りょうけんに掛かる重荷を軽くしてやれれば……そんな事を考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。


因みに…その日焼き鳥が好評だったため、次の日から夕食を俺達のテント前に来て分けてもらうアマゾネスの行列が出来たのは、また別の話だ。


そして、翌日。


「おっはよーぅ!!」


「ナナヒはいつでも元気だなぁ…」


「うん!それが取り柄だからね!」


昨日試合を行った場所に集合したナナヒ達四人は、かなりやる気満々らしい。目がギンギンだ。


「早速始めるが……最初に言っておくが、俺の技術とか、教えられる事は全て独学…みたいなものだ。偏った意見とかも多いと思う。だから、自分で取捨選択してくれ。」


「分かったよ!」

「分かりました。」

「……分かった。」

「……………」


「じゃあ始めよう。まずはナナヒ。」


「はーい!」


「昨日の試合で分かったが、ナナヒは戦闘が怖いだろ?」


「っ!!………やっぱりわかるんだね…」


元気だった顔が暗くなる。それでも聞いておかなければならない。


「話を聞いて確信したんだ。ナナヒは攻撃が素早く鋭いが、あと一歩の踏み込みが足らない。それが原因で、と思う攻撃が極端に少ない。」


「……」


「ワマラやエメトの死が原因か?」


「……多分……」


自分が強いと信じていた人達が死んだのだ。ワマラの死を目の前で見てもいる。話によれば、相手の剣にこれでもかと刺されていた場面もその目で見ている。

そんなシーンを見たら、戦闘そのものが怖く感じるのも無理はない。完全なトラウマだろう。


「先に言っておくが、ナナヒの場合は、イナヤと同じくらいのセンスと腕を持っていると思う。本当の実力ならば、二石は上ってことだ。」


「え?!」


ナナヒは随分と驚いている。


「俺の体感だけどな。ただ、その実力を発揮する為には、そのトラウマ…戦闘に対する恐怖に打ち勝つしか道は無い。打ち勝たずに強くなるのは…多分無理だ。」


「………」


「その方法は、俺が教えられるものじゃない。自分で見付けて打ち勝つしかない。」

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