第43話 エルフ族と人族

ペネタと共に小人族王と獣人族王に宛てた書簡を作成した後、ニルが紅茶を淹れてくれた。


「ペネタ族王様。紅茶を淹れましたので、どうぞお飲み下さい。」


「良い香りがしていたと思ったら、ニルバーナちゃんだったのね。

ありがとう。嬉しいわ。」


トポトポとカップに注がれる黄金色の液体が、湯気を上げる。


「いい香りね…」


「小人族の街で手に入れた物です。」


「小人族……それで。」


「??」


納得したような顔をするペネタにニルが疑問顔を返す。


「あ、いえ。私達エルフ族は、小人族とは古くから仲良くしてきたの。だから、この紅茶の香りも、よく知っているのよ。」


「そうだったのですか。」


「中立ではあったけれど、小人族の作る物はどれも質が良いから、貿易は盛んに行ってきたわ。と言っても、私達エルフ族から渡せる物なんて、食材くらいしか無かったけれど。」


「そう言えば、エルフ族は米とか醤油しょうゆとかも作っていたんだったな。」


「そうよ。世界中に出回っている米や醤油は、全て私達エルフ族が作り出した物よ。」


「確かご主人様はそういった物が好物だったと思いましたが?」


「好物だぞ!大好き!」


ここは全力の肯定!


「それは良い事を聞いたわね。食物はあまり被害が出なかったから、好きなだけ持っていくと良いわ。」


「良いのか?!」


「それくらいで喜んでくれるならば、いくらでも構わないわ。」


「いや、本当に嬉しいよ!それじゃあ少し分けてもらうとしよう!」


ルンルンだぜ!


「それと、これを受け取ってほしい。」


「これは?」


ペネタが丸めた紙を渡してくれる。


「こんな瀕死の種族の族王の書簡なんて、必要無いかもしれないけれど、一応…ね。」


「書簡…いや。エルフ族の族王が書いた書簡だ。優劣なんて無いさ。有難く貰っておくよ。」


ありがたく受け取ると、ペネタが一仕事終えたと背もたれに体重を乗せる。


「……ふぅ…」


「疲れたか?」


「そうね。正直、疲れたわ。動き出したばかりだと言うのに、やる事は山積みで、人手は足りない。

一人一人が背負う分量が多いのね……それでも、皆文句も言わずに動いてくれているわ。泣き言なんて言っていられないわよね。」


「だとしても、休息は必要だぞ。休息無しで働くと効率はむしろ落ちるからな!」


適度に休憩しないと永遠に働かされて、効率はダダ下がり。間違いない。


「な、何故か物凄く実感のこもった言葉に聞こえるのは気のせいかしら?」


「実体験だからな!

そんな事より、この辺りで静かで人の来ない場所ってあるか?」


「何か企んでいるの?」


「言い方悪過ぎるだろ…ちょっと静かに話がしたいだけだ。誰にも聞かれずにな。」


「……そうね、それなら、良い場所があるわよ。

王城の裏手へ出ると、世界樹を上がっていける様になっているから登ってみて。」


「そんな所があるのか…知らなかったな。」


「世界樹の管理に使う場所だから、昼間は人が出入りするけれど、日が落ちたら静かよ。それに、大切な人とお話をするにはとってもいい場所よ。」


「それなら、日が落ちた後に行ってみるよ。」


特に何も聞いてこないところは、ペネタらしい。


「それまではどうするつもりなの?」


「さっき話していた食料を取りに行って、その後工房を使いたいんだが…」


「工房ならこの王城にもあるから使っていいわよ。誰かに聞けば直ぐに答えてくれると思うわ。」


「そう言ってくれるなら有難く使わせてもらうよ。」


それからペネタに聞いていた食料庫へ向かうと、既にペネタから指示を受けたと言う兵士に会い、食料を少しだけ分けてもらった。

その帰り道、改めてゆっくりと街の様子を確認してしまうと、受けた傷が大きかった事を知る。


「やはりこうして見ると、街は悲惨なものですね…」


「そうだな…まともに建っている家屋の方が少ないだろうな。」


「木魔法で簡単に再建するという事は出来ないのでしょうか?」


「建築には専門的な知識とか技術が必要になるから、簡単にはいかないだろうな。」


「そうなのですね…」


荒れた街を見て眉を八の字にするニル。ここに居ても自分達の無力さを痛感するだけ。そう思った俺はニルを連れて足早に王城へと戻った。


「あ!シンヤさん!」


「お、ダニルじゃないか。こんな所で何しているんだ?」


城に戻ると、ダニルが忙しそうに動き回っていて、俺を見付けると、近寄ってくる。


「今は姉さんとお城の手伝いをしている所ですよ。大した怪我は無いですから、せめて何か手伝えないかと。と言っても、荷物を運んだり、探し物を見付けてきたりの簡単なものですけれど。」


「それだって立派な仕事だ。」


「…ありがとうございます。」


「ダニル!何しているのよ!って…シンヤ!」


やはりパピルも来たか…


「パピル。体調はどうだ?」


「もうすっかり元気よ!シンヤは動いても大丈夫なの?」


「激しく動き回ったりしなければ大丈夫だ。」


「シンヤは私達と違って大怪我なんだから、大人しくしてなさいよ。傷口が開いたらどうするのよ。

ほら!さっさと戻った戻った!」


パピルに背中を押されて皆が作業している場所から無理矢理引き離される。

二人なりに俺とニルが嫌な思いをしないようにと気を使ってくれたのだろう。


「それならお言葉に甘えて…あ、そうだ。工房ってどこにあるか分かるか?」


「工房なんて聞いてどうするのよ?」


「怪我が治るまでもう少し掛かりそうだし、その間に色々と作ってみようかと思ってな。」


「ふーん。工房ならこの先を左に曲がった所にあるわよ。ニル。あんまり無茶な事しない様に見張っているのよ?」


「はい。お任せ下さい。」


ニルが軽く頭を下げる。


「俺はそんなに無茶な事をするつもりは無いぞ?」


「地下で天井を落としたりする人の言う事を信じられるとでも?」


「いや、あれはだな…」


「そんなことは良いから!ほらほら!行った行った!」


結局またパピルに背中を押されて話が途切れてしまった。せぬ…


工房の中へ入ると、今まで使ってきたギルド据付すえつけの工房とは違って、色々な器具が揃っている。何に使うか分からない器具も多い。


「設備が段違いだな…」


「そうなのですか?」


「ニルは工房に入るのは初めてだったか?」


「はい。初めて見ました。不思議な道具が沢山ありますね…」


「繊細な物も多いから、あんまり触るなよ?」


「わ、分かりました。それで、まずは何をなさるおつもりですか?」


「工房を使うのも良いが、まずは俺とニルの装備だな。ニルは盾が無くなっただろ?」


「う゛っ……申し訳ございません…」


「存分に使ってくれたんだ。あの盾も本望ほんもうだったさ。謝る必要なんて無い。

代わりの盾なんだが、実はイベント報酬で盾を手に入れたんだ。それを見て良さそうなら使ってもらおうかと思っててな。」


インベントリを開き、報酬を確認する。


黒盾くろたて…黒盾……あった。これだ。」


インベントリから取り出した盾は、今までニルが使っていたものより僅かに大きいが、小盾の領域内だろう。

全体が真っ黒で、正面から見た形は正六角形。表面は湾曲していて、重さも前の物より僅かに重い。


「形は違うけれど、扱いやすそうだぞ。持ってみてくれ。」


「はい。」


盾を受け取ったニルは盾の使い勝手を確かめる。


「前に頂いた盾より少し重いですが、これくらいの方がむしろ使い易いです。」


「……持たせておいてなんだが、小太刀に西洋盾って異様な光景だな…一人和洋折衷わようせっちゅうだ。」


「??」


そういえばこの世界には和と洋という概念が無かった。


「いや、なんでもない。

これからはそれを使ってくれ。大丈夫か?」


「はい!」


「さてと、次は俺だな。」


「ご主人様も何かを?」


「刀だよ。」


腰から抜いた刀を机に置くと、刀身には亀裂が入り、修繕不可の刃こぼれも多数。あと一回何かを斬ったらバラバラになるだろうと思わせる状態だ。


「す、凄くボロボロですね…」


「よくバラバラにならなかったよ。修繕しようとしたんだが、無理そうでな。」


「買いに行くのですか?」


「いや。インベントリ内に入っている武器を使おうと思っている。」


この体にも慣れたし、ステータスを存分に発揮した動きも出来るようになってきた。今ならインベントリ内に眠っていた武器も使えるだろうと思い至ったのだ。


「そうだな…これにしようかな。」


取り出した刀の名前は断斬刀だんざんとう

強度に重きを置いた刀で、刀身が分厚く重い。ステータスが低いとまともに振ることさえ出来ないという刀だ。


朱色の鞘と朱色の柄糸つかいとになっていて、見た目はかなり鮮やかで主張が激しい。


「長さはあまり変わらないが、今までの物より頑丈だ。」


「重そうですね。」


「持ってみるか?」


「は、はい……っ?!」


俺がゆっくりとニルの手の上に刀を置くと、目を丸くする。


「どうだ?」


「わ、私には振れそうにありませんね…」


「この断斬刀は鋭く斬るというよりは、叩き切る様な感じだからな。」


「刀と一言で言っても、色々なものがあるのですね。」


「難易度の高いダンジョンで手に入れたんだ。今なら振り回されることなく使えるかと思ってな。」


「他にもあるのですか?」


「インベントリ内にはいくつも入っているぞ。面白い効果を持っている刀もあるけれど、それはまた今度な。」


「はい!楽しみにしています!」


キラキラとした目で見てくるニル。本当に楽しみにしているらしい。


「それじゃあ本題に入ろうか。」


「何をお作りになるのですか?」


「基本的にはイガルテで入手したキノコやカビの加工だな。王城に侵入した時にも使ったが、やっぱりそのまま使うのは結構難しい。

小人族の人達に加工の方法は聞いてあるから、それを実践してみよう。ニルも手伝ってくれ。」


「もちろんです!」


ニルのやる気は十分みたいだ。


「まずは、カビ型の物から始めよう。安全な物からやっていきたいから、イエローモールド辺りからだな。」


「光るカビでしたよね。」


「その通りだ。出来ればこのままじゃなくて、コンパクトにしてもっと使い易い形状にしておきたい。」


「投擲しやすい形にするという事ですか?」


「それも一つだな。」


「そうなると、砕いて小瓶に詰めたり……でも衝撃で反応が進んでしまいますよね?」


「普通に加工しようとしても無理だな。そこで、小人族の知恵を借りたわけだ。

まず、カビを熱湯につけて、しっかりと煮沸しゃふつする。その時にこれを入れるんだ。」


「これは…ガラスみたいですが…?」


「これはクリアモールドっていうカビの一種だよ。因みに効果は…」


【クリアモールド…他のカビと共に煮沸すると、その効果を奪い取る。乾燥後は奪い取ったカビの色になり、衝撃で効果を発動する。】


「イガルテの至る所に生えていたカビですね!?」


「その通りだ。数の多いカビだが、何の効果も持っていないんだ。

先にこのクリアモールドのカビ玉から、必要な形状のカビを切り出して、能力を奪い取らせれば…」


「思い通りの形に出来るのですね!」


「その通りだ。何にでも成れるカビってところだな。

それじゃあまずは、クリアモールドを粉末にしてイエローモールドと一緒に煮沸してみよう。」


「はい!」


クリアモールドを粉末になるまで砕き、イエローモールドと共に煮沸し、乾燥させる。


「黄色になりました!」


「どれどれ……」


粉末を少しだけ摘み、すり潰してみると…


「うあっ?!」


「ま、眩しいです!」


指先がパッと光り、目をやられる。


「カビ玉よりも光量や持続時間はかなり落ちるけど、予想していたよりずっと眩しいな。

一摘みでこれなら、球状に固めて光玉とか出来そうだな。」


「やってみますか?」


「そうだな。二人で色々と試してみようか。」


「はい!」


因みに、粉末を固める為に使うのは、キャピラノと呼ばれている昆虫が体内で作り出す粘液だ。

巣を作る為のものだが、空気に触れ続けると固まる性質から、この世界では接着剤として利用されている。


固める形状を変えてみたり、粉末のまま小瓶に入れてみたり、そもそも粉末にせずに一つの結晶のまま煮沸してみたりと、色々と試していく。


「キノコも沢山貰っていましたよね?あれはどうするのですか?」


「キノコは基本的に中に入っている胞子を取り出して、容器に詰め込むんだよ。やり方は簡単だ。

密封出来る容器を用意して、キノコと容器をガラスの管で繋げる。」


「あれ?キノコが割れません!」


「キノコの傘の頂点部は少し厚くなっててな。慎重に差し込めば割れずに差し込めるんだよ。」


「な、なるほど。」


「後はゆっくりとキノコを絞っていくと…」


ガラスの管を通って容器の中へと流れ込んでいく胞子。


「これで密封すれば大丈夫。直ぐに割れてしまうキノコより扱いは簡単になる。」


瓶に入った胞子を揺らしてニルに見せてやる。


「はい!」


「よし。それじゃあ昼休憩を終えたら暗くなるまで色々作ってみよう。」


「分かりました!」


一時工房を離れ、昼食をどうしよかと考えながら歩いていると、城内で仕事をこなしていた女性エルフの一人がキョロキョロと周りを確認しながら歩いている。誰か探しているのだろうか?


「どうされましたか?」


「え?あ!」


俺とニルの顔を見て、驚いた女性エルフ。

聞いた所で力にはなれないだろうが…無視して通り過ぎるのもさすがに意地が悪い。


ペネタが大声で俺達を擁護ようごしてくれた件もあるし、王城内の人達はあまりいい顔をしないだろうと思っていた為、反応次第では直ぐにその場を去ろうと思っていたのだが…


「シンヤ様!ニルバーナちゃん!見付けました!」


パッと明るくなる女性の顔。


「え?俺達を探していたのか?」


「はい!その……実は、一緒に昼食でもどうかと…」


「誘いに来てくれたのか?」


「はい!」


「……本当に良いのか?」


「…他の人達は分かりませんが…私はシンヤ様とニルバーナちゃんに感謝しているのです。

父の命を救って下さったので。」


「父を…?」


「門兵として働く父から、人族の男性と、奴隷の女の子が、門を守るために来てくれたんだって聞きました。

その二人が来なければ、街には今頃神聖騎士団の連中が溢れ、誰も生き残る事は出来なかっただろうとも。

その人族の男性と、奴隷の女の子というのは、シンヤ様とニルバーナちゃんですよね?!本当にありがとうございました!」


頭を下げた女性の顔を見ると、門で俺達に礼を言う為に引き止めてきた男性とよく似ている。


「私以外にも同じ様に感謝している人はいるんですよ!御一緒して頂けませんか?!」


「ニル。行こうか?」


「はい!」


俺達はその女性に付いて王城の食堂へと向かう。


「こちらへどうぞ!」


俺とニルが通されたテーブルには十人程のエルフの男女が立っていた。


「シンヤ様!ニルバーナさん!ありがとうございました!」


「私の息子が命を救われたんです!ありがとうございました!」


「私の母も!ありがとうございます!」


次々と俺とニルに頭を下げてくるエルフ達。

俺は少しポカーンとしてしまっていた。


「シンヤ様…?」


「あー…いや。すまない。ちょっと驚いてしまって、まさかこんなに感謝されるなんて思っていなかったから。

人族とエルフ族の遺恨が深いという事はこの街に来てよく分かったし、それが簡単に消えるものではない事も分かったから…」


「…確かに私達エルフ族が、人族に対して恨みを持っているのは確かです。多くの仲間が奴隷にされたり、殺されたりするのを見てきましたから。」


エルフ族は長寿…人族が忘れた過去の出来事も、彼らにとっては自分事なのだ。その長い寿命の中で、何度も人族から酷い仕打ちを受ける者を見れば、恨むのも当然の話だ。


「ですが、そうではなく、私達の為に命をしてまで戦って下さる人族の方も居ると…知りました。」


「人族もエルフ族も変わらない…色々な人が居て成り立っているのだと、気付かされました。」


「朝はペネタ様に気押されて何も言えませんでしたが、本当に感謝しています!」


皆が揃ってお礼を言ってくれる。


「……まさかネルクの言葉がこんな所で現実になるとはな…」


「え?」


「いや。そう思ってくれて本当に嬉しいよ。俺とニルも救われた気がする。」


「はい!」


「それではささやかですが、昼食を用意しましたので、どうぞお召し上がりください!」


「うおぉ!米だ!」


ずっと見えていたが…米だ!!


「シンヤ様は米がお好きなのですか?」


「大好きさ!ペネタに頼んで分けてもらったくらいだからな!」


「恩人の方が自分達の食を好きだと仰ってくれるのは嬉しいものなのですね。どんどん食べて下さい!」


「皆も食べないと午後になって倒れちゃうぞ!ほらほら!」


「え?あ!はい!」


俺に急かされて食事を始めるエルフ達。

最初こそ態度が固かったが、徐々に打ち解けてくると、笑顔も増えた。ニルなんかは可愛い可愛いと女性陣に大人気。それが緊張を解す切っ掛けにもなってくれた。


「それではまた明日も!」


「約束ですよ!またね!ニルちゃん!」


食事を終えると、手を振りながら去っていく。明日もまた昼食を共にしようと約束までした。


「……嬉しいな。」


「…はい。」


「失ったものも多かったけれど、守れたものもあったんだな。」


「はい。」


街の光景を見て酷く辛い気持ちになっていたが、少しだけ和らいだ気がした。


「……よーし!午後からはじゃんじゃん作るぞ!ニル!手伝ってくれ!」


「はい!」


工房へと戻り、アイテムの作成をビシバシ進めていると、いつの間にか日が落ちつつあった。


「今日はここまでにしようか。」


「はい。そうですね。」


バンッ!


「シンヤさん!ニルバーナちゃん!」


豪快に扉を開けて、大声を出しながら入ってくるペネタ。


「っ?!び、ビックリした…ペネタか…ノックくらいしろって。」


「聞きましたよ!城内の者達と楽しそうに昼食を摂ったそうね!?」


「誘われてな。」


「………羨ましい!」


ハンカチでも噛みそうな勢いで羨ましがるペネタ。


「は?」


「私も一緒に食べたいわ!」


ツカツカと近寄ってきて、ニルの手を掴むペネタ。


「えっ?!あの!ペネタ様?!」


「行くわよ!ニルバーナちゃん!」


「ご主人様ぁ?!」


「行かないとダメな雰囲気だな。」


ニルが軽く拉致され、俺も付いていく事になった。


「へぇ。族王ってのはこんな所で食べてるんだな?」


族王専用の部屋。と言えば良いのだろうか。

一人で使うには少しだけ大きめの丸テーブルに、ちょっとした飾り気のある椅子。

静かな空間で、来るのは料理を運んでくる者だけ。


「もっとこう…ドーンとデカい部屋の、ドーンとデカい机の端で食べているイメージだったが。」


「それは来客が多い時に使う物よ。一人でそんな大きな机なんて使わないわよ。一人の時はここを使うのよ。」


「それもそうか。」


デカいテーブルに一人って実に寂しいもんな。


「さ。ニルバーナちゃんはここよ。」


ペネタはニルを半強制的に椅子に座らせる。


「は、はい。」


「ふふふ。可愛いわねぇ。」


「うー…」


「ニルが困っている姿というのも珍しいな。」


「ご主人様ぁ…」


困っている…というよりは少し恥ずかしそうにモジモジしているニル、それを無視して甲斐甲斐しく世話する族王ペネタ。なんとも不思議な光景だ。

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