第42話 ネルク

衛兵になってから数年。俺はいつもの雑務をこなしながら、日課の観察を行っていると、不思議な人が居ることに気が付いた。


その人の言動からは、何も読み取れず、何を望んでいるのかまったく分からない。


気になって、暫く観察していると、その人はスっとこちらへ流れる様にやって来て、短い言葉で話しかけてきた。


「何を見ている?」


「…あ、すいません!ちょっと気になってしまって…」


「君は、他人に何を見ている?」


「…え?」


その人がさも当然かのように指先を俺の頬に這わせると、体に電気が走った様な衝撃を受けた。

実際に電気が流れたわけではないが、そう感じたのだ。


「君は、何を見ている?」


「……お…俺は……」


目が離せない…


「………」


「何を……」


「何も見えていない。」


「っ?!」


言葉がストンと入って落ちる。


「………」


「見えて……いない……」


その人の言葉は、何故か俺の心に重くのしかかった。


今まで誰の言葉にも、何も感じなかったのに…


その人の言葉は何故か俺の奥底に届いた。


「どうすれば…?」


「信じなさい。」


もう片方の手が反対の頬に触れると、今度は暖かく包まれる様な感覚に落ちていく。


「信じる……」


「私が導いてあげよう。」


その言葉がまたストンと入って落ちる。


「ああ……」


今までずっと、俺はこの世界でたった一人だと思っていた。明確にそう思っていたのではなく、俺と同じ感性の持ち主はいないと暗に思っていたのだ。


だが、その全てを見透かし、その上俺の事を導いてくれると言う。


感動だった。涙が溢れて止まらなくなるほどに…


両手を離すと、振り返り、そのまま何処かへと行ってしまう。


その時から、俺はその御方への忠誠を誓った。


何かを見る為に…いや、俺はその御方に会った時、初めて他人に何かを見た。

それが何なのかを知るためだったのかもしれない。


それから数日後、俺の元を一人の女エルフが訪れた。


神聖騎士団員だという女で、名は持っていなかった。そこで俺はカナリアと名付けた。俺の代わりに表に立って声高々に鳴いて貰うために。


魔法が得意で、金騎士という立場だった。


その女が持ってきたのは、黒い刺繍の入った信者服。聖騎士として俺を迎えたいと伝えてきた。

そして、エルフ族を完全に征服しろという事も。


俺はその申し出を受け、その日から少しずつカナリアへの刷り込みを行った。


自分が吹聖騎士であり、俺は唯一無二の相手であり、俺の言う事を全て聞き、俺には何でも話すように。


弱い心の持ち主に暗示を掛けるのは容易たやすかった。

特にカナリアは実に扱いやすかった。


数回体を重ねただけで、依存し、何もせずとも俺の言う事は何でも聞いた。

恐らくあの御方は、それを知っていてカナリアを送ってきたのだろう。


後は簡単だった。


心の弱い奴を選び、暗示を掛け、仲間が増えてきたら神聖騎士団から団員を潜り込ませる。


少しずつ少しずつ、王城内へと手を伸ばし、カナリアを送り込む。


ある程度暗示の心得を教えて、カナリアを第一王子へと近付ける。


ゆっくりと氷を溶かすように第一王子の心を溶かし、カナリアへ依存させていった。


何度かあの御方と話をしたが、短い言葉でしか話をして下さらないのに、俺の事は全て見透かしていて、たった一言放つだけで、俺の心に波紋を広げた。


この御方の為に俺はるのだと理解していた。


必ずこの御方が導いて下さると信じ、疑いなど微塵も無い。

それは死を間近にした時も、きっと変わらないだろう。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



ドサッ……


俺の水魔法、水貫によって胸部が丸く切り取られたネルクが瓦礫の上に倒れる。

ジワジワと広がるネルクの血は瓦礫の下へと流れ込んでいく。


「うっ…」


カナリアから受けた横腹の傷がズキリと痛み、視界が一瞬歪む。


「ご主人様!」


ニルが俺を心配して近寄ってくる。


「…大丈夫だ。それより、ガナライは?」


「…………」


横になっているガナライ。その横にペネタ達が座り、俺の声にこちらを向くと、ゆっくりと顔を横に振る。


「……」


「シンヤ…様……」


ガナライが、消え入りそうな声で俺を呼ぶ。


「ガナライ。」


「気に病む必要はありませんよ……私の自業自得ですから……」


ネルクに刺された傷は深すぎる。これは流石に治らない。


「……」


「何十年も共に居て……気が付けなかったのは…私ですから……

それに…最後に女王様を…守れたので…」


満足そうに笑うガナライ。


「村長!」

「しっかりしてよ!」


ダニルとパピルは涙を流しながらガナライに触れる。


「…ダニル…パピル……強く生きるんだぞ…」


「そんな……村長…」

「嫌だよ…」


ダニルとパピルにとっては唯一残った村の大人…あれだけ小さな村ならば、大人は皆、親のような存在だっただろう。


「……貴方に救われたこの命…絶対に無駄にしないと誓うわ。」


ペネタが自分の胸に手を当て、ガナライに声を掛ける。


「ありがとう…ござい……ます……ペネタ……王女……さ……」


ゆっくりと、唇の動きが弱くなり、最後には完全に止まってしまう。


「王女なんて……呼ばれる資格…私には無いのに……何一つ出来ない…守れない王族なんて…」


「………」


ペネタは、そう言って涙を流す。


結局、リョニート村で生き残れたのは、ダニルとパピルの二人だけになってしまった。

少しの間だけ、ガナライとの別れを惜しむ。


「…ペネタ。」


「………救われた命…だもの。しっかりしなきゃいけないわね。

シンヤさん。詳しい話を聞かせて貰えるかしら。」


ペネタは涙を拭いて、強くあろうと背筋を伸ばす。


「…分かった。」


第一王子とカナリア、そして族王について詳しく説明する。


「兄様が…」


「カナリアに操られていたみたいだ。」


「…いえ。操られていたとはいえ、やった事は取り返しのつかない事。

もし、生きていたとしても、許されなかったでしょう。」


涼しい顔で言っている様に見えるが、手は震えている。


その場の皆が気が付いていただろうが、それに触れることは無かった。


「つまり、エルフ族の王族は、私一人となってしまった…というわけね。」


「その通りだ。」


「分かったわ。それでは、ここから先は私が族王として立ち上がるわ。

賛否両論さんぴりょうろんあるとは思うけれど、今はとにかく誰かが先頭に立って、皆をまとめる必要があるわ。それが私の役目と言うのであれば、やるしかないわよね。」


「もうこれ以上大して動けないが…出来る限り手伝うよ。」


「…ありがとう。今は何より先に、神聖騎士団の連中を排除する事が最優先よ。

ネルクやカナリアが倒れた今、指揮系統は崩壊しているはず。バラバラになった神聖騎士団の連中を確実に潰しましょう。」


「それが良いだろうな。」


「まずは防衛の要となっている門へ向かおうかと思うのだけれど、どう思うかしら?私はこういう事に疎いの。」


「良いと思うぞ。俺でもそうする。」


「では、門へ向かうわよ!」


ペネタの号令で、街の北にある門へと向かう。

街の至る所に死体が転がっていて、血の嫌な臭いが充満している。


「……」


それを見て目を伏せるペネタ。


「ペネタ。」


「…分かっているわ。今は死をいたむより先にやるべき事がある。」


ペネタは背筋を伸ばして門前へと歩く。


「お、おい!あれって!」


「ペネタ王女様…?」


「ペネタ様だ!」


門前は、守りを任せた兵士達と、街の人達が死守してくれていたらしく、生きた敵の姿は見当たらない。

彼らはペネタを見ると、疲れきった顔をほころばせ、大いに喜んだ。


「皆。よくぞ今まで門を守り抜いてくれたわ。」


「ペネタ様!」

「ペネタ王女様!」


「……皆の者!よく聞け!」


ペネタが凛とした声を門前に響かせると、集まってきていた者達がシンと静まり返る。


「残念ながら、私の父であるガンダール族王は戦死なされた!」


「えっ?!」

「そんな!」


「更に……私の兄弟姉妹も全員戦死なされた!」


「……嘘だろ…」


「じゃあ……カシュト様まで…?」


「どうするんだ…?エルフ族はこれからどうなるんだ…?」


見る見るうちに門前に居た全員の顔から明るさが消え、顔が俯いていく。


狼狽うろたえるな!」


「ペネタ様…?」


「お前達の前には王族最後の生き残りである、私ペネタ-ヒョルミナが居るであろう!」


下を向いていたエルフ達が再度ペネタの顔を見る。


「まだエルフ族は終わってなどいない!終わらせてなるものか!

この私ペネタ-ヒョルミナが族王を継承けいしょうし、世界樹の元に、再度エルフ族を繁栄させるとここに誓う!!」


「……ペネタ様。」


「…ペネタ族王…」


「私は皆の怒りを!悲しみを!体現せし族王として皆の先頭に立ち続ける!

皆の者!顔を上げろ!剣を持て!反撃の一撃を振り下ろす為に!」


「「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」」


高々と掲げられた民の剣が、ギラギラと反射する。


少し過激な宣誓せんせいだとは思うが、多くのエルフが殺された今、生き残り続ける為にはそれなりの覚悟が必要なのも事実だ。

過激過ぎる方が良いのかもしれない。


「おい!お前達!今の話を皆に伝えてこい!」


「任せとけ!」


「神聖騎士団の連中なんかパパッと片付けるぞ!」


民衆は力を取り戻し、次々とその勢いは伝播していった。ネルクとカナリアが死んだ事で、瓦解しつつあった神聖騎士団を、殲滅するには十二分な威勢となって。


ここまで勢い付いた群衆を止める手立てなど、今の神聖騎士団には無く、数時間後、見事に街の制圧は完了した。


リョニート村の人達が居る、地下道も完全に制圧が完了した。残念ながら、生きていたのは神聖騎士団の連中のみだった。


最後に、残すところは王城内に戻っているはずの兵士達だけとなっていた。


街の中にいた兵士をかき集め、王城の門前へ立ったペネタ。


「…………私は、同族を殺せと、彼らにまた指示しなければならないのか…」


「嫌な役回りだと、族王を辞めたくなったか?」


「…そうね。こんな役回り、嫌でしかないわ。」


「……」


「でも、誰かがやらなければならない。誰かがやらなければならないなら、それは私の役目。

そして、私の役目であるならば、完璧にこなしてみせるわ。」


「…非情…だな。」


「…そうね。でも、神聖騎士団はもっと非情だわ。

それなら、私は非情な道を歩むしかない。」


「…………」


これがエルフ族の新しい族王、ペネタ-ヒョルミナ。


「ならば、ペネタ様の……いえ。ペネタ族王様の非情の道。我らが共に切り開きましょう。」


ペネタの後ろに片膝をつくエルフの兵士達。


「我らは族王様の剣であり、盾であります。」


いばらで道が歩めぬならば、我らが剣となりて、茨を斬り取りましょう。」


「茨でその身が傷付くならば、我らが盾となりて、茨からその身をお守りしましょう。」


「我らが剣と盾を、ペネタ族王様に捧げます。」


「……こんな小娘に………いえ。違うわね。」


片膝をつく兵士達の前に立ち、いつもの涼し気な顔を見せる。そして、そのまま真っ直ぐに兵士達の目を見る。


「貴方達の剣と盾を信じるわ。私に付いてきてくれるかしら。」


「「「「仰せのままに!!」」」」


そこには、族王とその臣下の姿があった。


「信じられる従者なんて二、三人とか言っていたが、本当はこんなに居たんだな。」


彼らは、これから先もきっと、ペネタの強い味方で居てくれるだろう。


「……現在!王城が神聖騎士団の団員達に占拠されている!

この様な蛮行を許すわけにはいかない!これより王城を奪還する!

突撃ぃ!」


「「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」」


城門を開き、中へと流れ込んでいく兵士達。


昨日までは同じ場所に立っていた仲間だって沢山居るだろう。

それでも彼等は、族王の剣として、族王の盾として、一切の躊躇も無く王城を奪還した。


王城を完全に制圧し終えた時、この一連の事件はやっと幕を閉じた。


街の外を彷徨うろついていた神聖騎士団員達もいつの間にか姿を消しており、一時的にだが、エルフ族は安寧あんねいを得る事になった。


騒動が終結した時、街と、その周りの村々に居たエルフの総数。その約半数が犠牲となっていた。


制圧された王城の、被害が無かった部屋に通された俺とニルは、久しぶりに落ち着いて座る事が出来た。


ピコンッ!


【イベント完了…ヒョルミナを守り抜いた。

報酬…黒盾

報酬はインベントリに直接転送されます。】


ウィンドウをサッと消してソファに座る。


「確認は後だ後!…ぐはぁぁ……疲れた……」


「やっと終わりましたね…」


「一先ずはな。だが、ペネタにとっては、むしろこれからの方が大変かもしれない。やらなければならない事は山積みだし、戦力が激減した今の状態で皆を守っていくのはなかなか難しいだろうからな。」


「よく分かっているのね。」


ギィィ…


部屋の扉が開くと、ペネタが入ってくる。


「休めているかしら?」


「あぁ。助かるよ。」


「お礼を言うのは私の方だわ。」


「気にしなくて良い。それより、これからもっと大変になる。ペネタも休めよ。」


「そんな暇は無いわ。ここまでも当然大変だったけれど、ここからは、また違った意味で大変になるのよ。

街を再建出来たとしても、ここまでの痛手を受けた私達は恰好かっこうの的。冗談抜きで、今攻められたりしたら直ぐに落とされてしまうわ。」


「そんな事人族の俺達に言って良いのか?」


「今更何を言っているのよ。シンヤさん達に隠す事なんて何一つないわよ。なにより、全てを把握しているでしょう。」


今は族王…というより、ペネタだ。


「はは。まあその通りだな。

それで?こんな状況を打破する策はあるのか?」


「…そうね。私達が神聖騎士団と対抗する為に必要な行動は決まっているわ。」


「他の種族を頼るのか?」


「頼る…とは少し違うわ。同盟を結ぼうと思っているの。」


「同盟か…」


「世界中が神聖騎士団と戦争をしている事は私でも知っているわ。既に取り込まれてしまった所もあるし、他の種族を気にしている状況では無いことくらいは分かっているわ。

でも、だからこそ、今は神聖騎士団に抗う為に種族間での同盟を結ぶ必要があると思うの。」


「口で言うのは簡単だろうけど、それを行うのはなかなか難しいぞ?」


「分かっているわ。でも、やるしか私達が生き残れる道はないのよ。ただボーッと世界をながめていても、いつか必ずまた私達の番が回ってきてしまう。

そうなれば、次は確実に滅ぶわ。そうなる前に最善の手を打つ。それしか方法が無いのよ。」


「もう決めたんだな?」


「ええ。もう決めたわ。」


「そうか。それなら成功を祈っておくよ。必要ならば、俺が一筆書いても良いぞ。」


「私達の力だけで…と言いたいところだけれど、小人族と獣人族に関しては、シンヤさんの力を借りたいわ。

今はとても切迫した状況なの。」


「分かった。手伝うよ。」


「ありがとう。」


微かに笑った顔は、やはり疲れて見える。それでも、族王に休む暇は無さそうだ…


「ダニルとパピルはどうしたんだ?」


「今は別室で休んでいるわ。余程疲れていたのか、部屋に入って直ぐに眠ってしまったわ。」


「随分と無理をさせたからな…

落ち着いた後はどうするつもりなんだ?もうリョニート村は無くなっただろう?」


「そうね…出来得る限りの事はしてあげようと思っているのだけれど、結局本人達がどうしたいか…だと思うわ。」


「それもそうか…母親を亡くし、村の人達も亡くし、最後には村長まで亡くしたんだ…あまり急がない様にな?」


「言われなくても分かっているわ。あの子達の思いが決まるまで、ここで一緒に居るつもりだから安心して。」


「それは良かった。」


二人にとっては、もう頼る場所も人も居ない。あまりにも悲し過ぎる現実だ。ペネタが居てくれれば、その悲しみも少しはマシになるだろう。


「シンヤさん達も、ゆっくりとして行って。街はめちゃくちゃだし、寝泊まり出来るのはこんな所しか無いけれど。」


「俺達にとっては贅沢な部屋だよ。少しの間世話になる。」


「ええ。」


一度笑顔を見せて部屋を出て行くペネタ。


「ペネタ自身も親兄弟を全て亡くして辛いはずなのにな…」


「とても疲れた顔をしていらっしゃいましたね。」


「ペネタにも休息は必要だと思うが…今は休んでいる暇なんて無い…か。何か手伝ってやれれば良いが…さすがに俺達に出来ることなんて無いわな。」


人族の俺達が手を出せば、また厄介事になりかねない。


「気が休まる様に、紅茶でも差し上げてみてはどうでしょうか?」


「それは良い案だな。明日にでもペネタに持って行ってみようか。」


「はい!」


ニルも何かしたかったのだろう。元気の良い返事だ。


「今日はさっさとサッパリして寝よう。」


「………ご主人様。」


「どうした?」


ニルの顔が笑顔から真顔へと変わる。


「……近いうちに、私に少しだけ時間を頂けませんか?」


「…分かった。近いうちに必ず時間を取るよ。」


「ありがとうございます。」


何かを決心した様なニルの顔。


しっかりと時間を取って、ゆっくりと話を聞いてあげようと心に決める。


その日は傷の治療をしてから、ニルと共に大きなベッドに入り、泥の様に眠った。


翌日から、街や城内は慌ただしく動き始めた。


街の内外に放置されていた遺体の火葬。壊された建物の修繕。兵士達の再編成。


街の中に居るエルフは子供も大人も無く、全ての者が忙しそうに動いている。


それ以上に忙しく動いているのは城内の者達だった。


「おい!あの資料どこやった?!」


「知らないわよ!自分で探してくれる?!」


「おーい!こっち手伝ってくれ!」


目の下にクマを作った人達が忙しそうに動き回り、怒声に似た言葉が飛び交う。


「こ、この光景は色々なことを思い出してしまう…精神衛生上良くないぜ…」


「お城というのは、こんなにも忙しいものなのですか…?」


「いや。ここまで忙しいのは普通では無いと思うが……」


「今は他に場所が無くて……騒がしかったかしら?」


後ろから声を掛けられ、振り向くと、そこにはペネタ族王の姿。


「いや。様子を見に来ただけさ。

ペネタはこんな所に居て良いのか?」


「あら。客人の応接も大事な仕事よ?」


「俺達は一応客人として扱われているのか…」


「当然でしょう!私達の街にどれだけシンヤさんとニルバーナちゃんが貢献したと思っているのよ!誰がなんと言おうとシンヤさん達は賓客ひんかくよ!」


「声大きいから…」


作業していたエルフ達が何事かとこちらを向いて静止している。

俺とニルは人族だ。門にいた兵士の様に割り切ってくれる者は珍しい。それが目の前に居る人達からの視線で伝わってくる。


「邪魔しちゃ悪いから俺達は行くよ。」


下手に動き回って気分を悪くさせてはいけないとその場を去ろうとするが、ペネタは動かない。


「……この際だからハッキリさせましょう。」


ペネタが全員に聞こえるように大きい声で注目を集める。


「我々が今、こうして目まぐるしく動いていられるのは、ここにいるシンヤさん。そしてニルバーナちゃんの多大な助力があったからこそです。

人族に対する感情はそれぞれあるとは思いますが、シンヤさん達に失礼を働いた者を、私は決して許しません。」


「そ、そんな強制する事でも無いだろ。俺達が大人しくしていれば良い話だからさ。」


シンと静まり返ったその場に居づらくなり、俺はニルと静かに退散したら、直ぐにペネタが後を追ってきた。


「あんな事言って大丈夫なのか?」


「私達はこれから同盟を結ぼうとしているのよ。他種族の方に失礼となるような言動は厳しく指摘しなければならないわ。王城に居るのであれば尚更によ。」


「エルフ族の根底にあるものだし、徐々にやっていかないと、皆付いて来れないだろ。」


「そんな悠長な事を言っていてはならない所まで来ているのよ。いくら反発があろうとも、ここだけは引き下がってはならないわ。

それより、小人族と獣人族に宛てた書簡をお願いしても良いかしら?」


「…分かった。直ぐに書くよ。」


話の変え方が少し強引だが…これ以上話す事は無いと言いたいのだろう。


「何から何まで本当に助かるわ。返せる物は何も無いけれど…」


「別に必要無いさ。」

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