第40話 黒幕

白き巨剣から放たれる熱風が俺の体を叩き付ける。


右腕に全力を込め、迫り来る白い刃に向かって刀を振り下ろす。


フッと目の前に、小さな影が横合いから現れる。


不意に現れた影がニルだと直ぐに分かった俺は、右腕を止める。


「ニル!!下がれ!」

ゴゴゴゴゴッ!


白き巨剣がニルの盾に触れた瞬間に、盾は一瞬で消し飛ぶ。


「ニル!!」


盾と同じ運命をニルが辿ると思った俺は、ニルを後ろから引き離さんと手を伸ばし……止める。


ゴゴゴゴゴッ!


ニルは目の前に迫る白き巨剣をその両手で受け止めている。


普通ならば、盾と同じ様にニルも消し飛ぶはず。ニルはこの魔法を受け止められるステータスなんて持っていないはずだ。

それなのに、ニルは消し飛ばず、受け止めている。


「何が……っ?!」


ポカンと理解出来ずにニルの後ろ姿を見ていると、全身から黒いモヤのような、影のような何かが現れる。それはニルを包み込み、そのまま白き巨剣をも包み込んでいく。


「なんだこれ…魔法…なのか…?」


白き巨剣が黒いモヤに包まれていくと徐々に光を失い、小さくなっていく。


「何が…起きているのかしら?」


カナリアも目の前の光景を理解出来ていないらしい。


全ての光が失われると、黒いモヤも霧散して消えていく。


「良かった…」


黒いモヤが晴れ、ニルがこちらを振り向いてニコリと笑う。そしてそのまま俺の方へと倒れてくる。


「ニル?!おい!大丈夫か?!」


「……」


ニルを受け止め、声を掛けると僅かに瞼が動く。気絶しているだけらしい。


「気になるわねぇ…」


嫌な視線をニルに送るカナリア。


「不思議な人族の奴隷…ふふ…ふふふ……気になるわねぇ……まずは男を殺して…それから…」

パァァン!


ニタニタと笑いながら物思いに耽けるカナリア。


「……あれぇ…?」


自分の胸の中心に空いた拳大の穴に手を当てる。


「いつの間に魔法なんて…」


「ずっと描いてただろ。」


差し出した左手の前から、水色の光と魔法陣が消えていく。

俺がニルとひたすら練習していたのは、戦闘中に魔法陣を描くという一種の荒業だ。まだ描き上げるまでに時間が掛かったり、気を緩めると間違えて発動しなかったりと難はあるが…成功して良かった。

上級水魔法。水貫すいかん

高圧の水を一点で射出。高速で飛び出した水は人の胸部など容易く貫通する。


「完成してたんだねぇ……気になるのになぁ……」


ドサッ…


前のめりに倒れたカナリア。

その最後の瞬間までニタニタした顔は変わらなかった。


「……うぅ……」


「ニル!大丈夫か?!」


「…は、はい…」


抱きかかえられていたニルが立ち上がろうとして膝がカクンと折れる。俺はニルの体を受け止める。


「無理するな。」


「も…申し訳ございません…」


「……あれは…いや、後にしよう。

カナリアとかいう、ぶっ飛んだ女は倒したが、街はまだ戦闘中だ。王城に戻った連中の事もなんとかしないとな…

第一王子と王の事は…ペネタに説明しないとな。」


「それより先に…手当てを…」


ニルは、何より俺の傷が気になるらしい。


「自分でやるからニルは休んでろ。」


「……」


ニルは少しボーッとしている。


「魔力切れか?」


「…はい。」


「戦うのは無理そうだな。」


「戦えます!」


俺の言葉に強く反応するニル。


「自分の体力と魔力を管理して、無理な時は無理と判断出来ないと、死ぬぞ。」


「……申し訳…ございません…」


「それで良いんだ。

よし。手当ては終わった。ニル。背中に乗れ。」


「は、はい…」


恥ずかしがりつつも背中に乗ったニル。

最後の瞬間に見たあの黒いモヤ。あれが何だったのかは気になるが、聞くのは今でなくても良い。


カナリアの話では、門の守りは粘ってくれている。

ニルは魔力切れで、俺は手当てしたとはいえ結構な痛手を受けている。

こんな状態で役に立てるかは分からないが、魔力は残っているし、何か手伝えるかもしれない。


「それにしても、やっぱり聖騎士が入り込んでたか…」


「吹聖騎士と言っていましたね。」


「気色の悪い奴だったが、頭を潰せたんだから、後はそれ程……………」


「どうされたのですか?」


俺は動かしていた足を止めて頭を回す。


「おかしい…」


「何が…でしょうか?」


「なんであの女は第一王子と王を殺したんだ…?」


「王族は殺すつもりだったと言っていましたよ?」


「それはそうだが、なぜ今なんだ?第一王子を操っていたのは、誰にも怪しまれず、他の王族に近寄るためだよな?」


「カシュト王子ならばカナリアと他の王族を引き合せることが出来ますからね。」


「ならば、なんでペネタを先に殺らないんだ?第一王子を使ってペネタに近付いた方が安全だろう?」


「私達に気付かれたからでは?」


「俺達に気付かれたとして、それならば余計に第一王子を使った方がやりやすいだろ。人質としても使えるし、兵達の目をあざむくためにも使える。」


「確かにそうですが…後からでも、どうにかなると思ったのではないでしょうか?」


背中に居るニルが俺の疑問に逐一返してくれる。思考の助けになるから有難い。


「二年掛けて王族を誰にも気付かれない様に次々と殺し、街までをも制圧しようとしたんだぞ?そんな用意周到よういしゅうとうな奴が、そんな大雑把な事するか?」


「……変だと言えば変ですが……何か不測の事態が起きて、計画が狂ったのでは?」


計画が狂った……


「カナリアの計画を整理すると……まず、王城に入り込み、カシュト王子を操る。

カシュト王子を使って、他の王族の奴らを怪しまれない様に次々と殺害。それと同時に神聖騎士団の信者を街中や王城に配置する。

流石に侍女を族王に会わせるのは難しいから、騒動を起こし、王が出てきた所を殺害。

第一王子がそのまま操られるならば使って街を制圧。無理なら王子を殺し、外から入ってきた連中と連携して街を制圧。

という流れだと思う。」


「私もそう思います。」


ニルが背中で頷いているのを感じる。


「内部に神聖騎士団を潜り込ませたのは、街の護りが固すぎて外からではなかなか崩せないから。

わざわざ王族を暗殺したのは……逃がさない様にか。」


「逃がさない…ですか?」


「王族が残れば、明確な指導者が残る事になる。そうなれば、後々面倒が起きる可能性も高くなる。

だから確実に全員を殺したい…でも、街中で騒ぎが起きれば、最悪王を合わせて六人が逃げる事になる。そうなると全員を確実に殺せるか分からなくなるだろう。」


「王族という身分さえあれば、逃げた先のどこかで、またエルフ族をまとめあげる可能性が出てくる。王族と分かれば付いてくる者も大勢いるでしょうね。」


ペネタならば間違いなくそうするはずだ。


「ならばペネタは、他の兄弟姉妹同様に、王子と王を殺す前に殺すだろ?」


「そうですね。その方が自然ですね。」


「でも今回の騒動が起きた時、ペネタは俺達と居た。今はネルク達と居るはずだし…計画が狂ったにしては、ペネタの事を気にしていなかった。話にも出てこなかった。それに、王子を殺した時、これで終わり…とか言ってたよな?」


「…既にペネタ王女様を殺したということですか…?」


「…もしくは、ペネタを殺害出来る状況が整ったとか…?」


「もしその予想が当たっているならペネタ王女様が危険です!

で、ですが、私達でも見付けられない相手を一体どうやって……?」


それを説明する為の唯一の回答は……


「………裏切り者。」


「まさか…あの中に裏切り者が混じっていたと言うのですか?!リョニート村の方々だけしかいませんよ?!」


「リョニート村の一件で、俺が現れたのは完全に不測の事態だったと思う。となれば、リョニート村は全滅させる予定だったはず。そんな奴らの中に紛れ込む必要は無いし、あの中に裏切り者が居るとは考えにくい……となると、残るは……」


「ネルク様ですか?!」


裏切り者である可能性が最も高いのは、ネルク。


「………あの地下道の鍵。ネルクがペネタの近衛兵になったから手に入れられたと思っていたが、元々持っていたとしたら…出入りは自由だし、誰かを送り込むことだって簡単だ…」


「で、ですが…あの夜は助けられましたよ?!」


「もしもネルクが裏切り者だとして、ここまでの行動を考えると…誰にも悟られない様にあらゆる手段を使っているはずだ。徹底的に自分という存在を除外させようとしている。

あの夜、俺とニルなら門を越えて姿を眩ませる事くらい出来た。どうせ逃がすなら、敢えて俺達を助けて、信頼を得たんだ。俺達に悟らせないために。」


「…あの夜、カナリアがご主人様に気が付いたのは…」


「気付かれたのではなくて、最初から知っていたんだ。

……ペネタが危ない。」


今ペネタはネルクと共にいるはず。裏切り者ならば、危険極まりない。


「地下倉庫に居ると言っていましたが…それが嘘だとしたらどこにいるか分かりません!」


「……自分が神聖騎士団の一員だとバレない様に、かなり徹底している。となれば、ペネタを殺す時も、誰にも悟られない様に殺すはず。

今、街中は敵味方がごった返しているし、リョニート村の連中にも見られる。確実に殺せて、他の奴らに見られない場所……地下道か。

カナリア達が出てきた場所に地下に繋がる道があった。東側に地下倉庫があるという話も、嘘では無いことに出来る。俺達をカナリアにぶつけ、生き残った場合の事まで考えてやがる。恐ろしく慎重な奴だ…」


「行きましょう!私ももう走れます!」


背中から飛び降りたニルと、あの夜に出てきた出入口を目指す。ここからならばその方が近い。

俺の考え過ぎだと思いたい。そんなはずは無い。という思いが何度も浮かんでは消えていく。


「ご主人様!」


「俺が先に降りる!」


辿り着いた地下道への入口。梯子も使わずに飛び降り、通路の前後を確認する。


誰もいない。


「ニル!」


「行きます!」


飛び降りてきたニルを受け止め、立たせる。


「どっちでしょうか?」


「この通路は世界樹の管理の為に作られた。出入口付近よりも、世界樹周辺の方が複雑な作りになっているはずだ。俺ならその複雑な通路を使う。こっちだ。」


俺が先頭に立って通路を進んでいく。


明かりが無ければ完全に真っ暗な通路。ライトを使って照らし出しても、細い道はグネグネと曲がり先の状況は読めない。


暫く歩き、予想が外れたかと不安になり始めた頃。


「や、やめてくれぇぇ!ぐぁぁ!」


通路の先から叫び声が聞こえてくる。


ライトの魔法を解除して、曲がった通路の先を覗き込む。


狭い通路の奥、倒れている男性エルフが持っているランタンが、ユラユラとした光で深緑色のローブを照らし出している。


刀を抜いて、狭い通路を一気に駆ける。


「誰だっ?!」


ザクッ!ザクッ!


「……ご………ぐふっ…」


喉を貫き、引き抜いた後に心臓を貫くと、声を出せずに、村人の遺体に重なって倒れる。


「……助けられたと思ってたのにな……遅れてすまない……」


既に死んでしまった村人に言葉を掛ける。


「神聖騎士団…ですか…」


「一人で事を進めるなんて馬鹿な事はしないか……これでネルクが裏切り者だと言うことはほぼ確定したな…」


「急ぎましょう。」


「あぁ。」


死んでしまった村人に一度だけ手を合わせ、通路を進む。


暗い通路の奥から、血の臭いと、いくつかの叫び声が聞こえてくる。

通路は入り組み、どこに居るのか判断出来ない。

出会った神聖騎士団の連中は即座に排除しているが、未だ無事に出会えた村人は一人もいない。


ズシャッ!


「クソッ!キリがない!」


進む先進む先に神聖騎士団の団員は居るが、肝心のペネタは全然見当たらない。


「ご主人様!これを!」


ニルが手に持っているのは、弦の切れた弓。

ダニルが持っていた弓だ。


「こちらへ向かったみたいです!」


「行こう!」


踏み出す度にベチャベチャと血溜まりが音を立てる。


死体を飛び越え、通路を進んだ先に、突然大きな空間が現れる。

腐敗した木箱が数個置かれているだけのだだっ広い部屋。直径五十メートル程、円柱状の空間で、高さは四メートルといったところ。

部屋の中には何本かの柱が立っていて、天井を支えている。


「ここは…?」


「昔の地下倉庫みたいですね…」


「村長!」


部屋の奥から聞こえてきた声は、パピルの声だ。


声のする方へと走っていくと、壁に背を預け固まっている人影と、それを取り囲む数人の人影が見える。

壁際にペネタ、それを守るようにダニル、パピル。更にその前に、三人を庇うように立っているのはガナライだ。


「ひゃはは!死ねぇ!」


剣を振り上げている人影に走り寄り、一閃。


ザンッ!


ガナライに向かって振り下ろされた腕の先に剣は無く、それが誰かを傷付けることは無かった。


「あれ…?」


剣を振り下ろしたはずなのに、かすり傷一つ付けられていない事を疑問に思ったのか、自分の腕を見ている。肘から先が無くなった腕を。


「……ぐぁぁぁ!」


ザンッ!


後頭部を切り開くと、叫ぶのを止めてうつ伏せに倒れていく。


「何者だ?!」


「殺れ!」


ザクッ!ザシュッ!


襲いかかってきた残りの二人を素早く片付ける。


「大丈夫か?!ガナライ!」


「は…はい…」


ガナライは安堵の表情を浮かべる。


「シンヤ!」

「シンヤさん!」


ダニルとパピルが二人が同時に抱き着いてくる。


「ダニルもパピルも無事だったか。良かった……

弓が落ちてたから肝を冷やしたよ。」


「た、助かったのね…」


一番奥で安堵しているのはペネタ。傷は受けていない様子だ。


「ペネタも無事で何よりだ。」


「三人が守ってくれたのよ…」


「そうか。よく守ってくれたな。」


ダニルとパピルの頭を撫でてやる。


「死ぬかと思いました…」


「何があったんだ?」


「ネルクの案内で、この地下道へと逃げ込んだのですが、突然あちこちから神聖騎士団の連中が現れて……この場所は神聖騎士団にも知られてはいないはずなのに…」


「ネルクはどうした?」


「それが、最初のゴタゴタではぐれてしまいまして…」


「はぐれた…ねぇ。」


ペネタ王女の親衛隊員が、護衛対象から離れるなんてことは有り得ない。戦った感じ、怪我した俺でも勝てるのだ、ニルを軽く組み伏せたネルクなら余裕だろう。


「他の…他の皆は?」


「……残念だが、無事なまま出会えたのは、今回が初めてだ。」


「そう…ですか…」


ガナライが悔しそうに俯く。


「ネルクは無事なのかしら…」


「……ネルクについて、少し話しておきたい事がある。」


「ネルクについて…ですか?」


「俺の考え過ぎなら良いが…恐らく、この状況を作り出したのは…」

「俺だよ。」


入ってきた方から声が聞こえてくる。緑色の髪を後頭部で縛った黄色い瞳の男。


「ネルク!無事だっ……たの……」


ネルクの後ろからゾロゾロと入ってくる信者服を着た神聖騎士団員と、深緑色のローブを着た者達。

ペネタは言葉を続けられず、明るい表情から驚きの表情へと変わっていく。


「なに…?どういう事なの…?」


「ネルク!お前まさか!?」


「さすがはガナライ。察しが良いな。」


「え…?なんで…?」


「後ろの馬鹿な王女様は、まだ理解出来ていないらしいな。」


「ネル……ク?」


「俺はこっち側なんだよ。ペネタ王女。」


「そんな……」


ペネタは信じられない…信じたくないという顔をしている。


「まさかここまで来るとはな。冒険者シンヤ。

最近色々と暴れているらしいな。」


「知っていたか。」


「まったく…お前のせいで計画がめちゃくちゃだ。本当ならばお前と会った日に殺るつもりだったのによ。

予定を変更して、ここで死んでもらうつもりが、俺まで顔を出す事になったじゃないか。同じ聖騎士の連中にも姿を見せた事が無いって言うのに。」


「……やはり、お前は聖騎士だったか。

自分は完璧に姿を隠して、矢面に立たせるのはカナリアの方。って所か。」


「あいつはなかなか使える女だったからな。暗示を掛けて自分を聖騎士だと思い込ませておいたんだ。

結構楽しめただろう?

実際は聖騎士でもなんでもない、ただの道具だ。姿が綺麗でよく喋る。まさにカナリアだろ?」


俺の腹に空いた穴に目を向けてニヤリと笑うネルク。


「暗示は魔法で掛けたのか?」


「いやいや。そんな都合の良い魔法なんか無いさ。ただの技術。心の弱い奴ってのは思っている以上に沢山いるんだぜ。

特にエルフってのは皆プライドの塊だからな。そういう奴の方が実は心が弱いんだよ。」


手をヒラヒラと振って半笑いで言ってくるネルク。


「最後に一つだけ聞いてもいいか?」


「良いぜ。俺の事を初めて暴いた褒美としてなんでも答えてやるよ。」


「カナリアや外の連中とはどうやって連携を取っていたんだ?あまりにも情報の伝達が速すぎる。」


「へぇ。そこにも気が付いたか。

答えは簡単だ。魔具だよ。」


ネルクが取り出したのは、掌の上に乗る大きさの半球状の何か。

周りには色とりどりの魔石が嵌め込まれている。


「同じ物を持っている奴と連絡を取れる物だ。光魔法が使えないと意味が無い物だがな。」


「なるほど。納得したよ。」


あの魔具があれば世界的にタイミングを合わせて進行を開始出来た事や、情報の伝達が早かった理由が説明できる。


「随分と親切に教えてくれるじゃないか。」


「お前達はここに骨を埋める事になるからな。冥土めいどの土産ってやつだ。」


ネルクの後ろに居た神聖騎士団員達が、部屋の中へ広がっていく。


「ネルク!止めてこんな事!」


「ペネタ様。残念ですが、ここでお別れです。私の正体を知った者は、誰一人生かしておくつもりはありません。

安心して下さい。街の者達は苦痛なく殺しますから。」


ニヤリと笑い、ペネタに言い放つネルク。


「ネルク。私との約束も……嘘だったと言う事なのだな…?」


「ガナライ。嘘ではないぞ。しっかりとエルフ族の意識を変えられる。だろう?」


「そんな変わり方誰が望むというのだ…」


「望もうと、望むまいと、これはあの御方の意思だ。決定事項なんだよ。」


「……お前と過ごした数十年は………いや、もう言うまい。」


スラリと腰から直剣を引き抜き、こちらへと刃先を向けるネルク。


「さあ。始めようぜ。」


人数は二十人程度だが、本当の吹聖騎士であるネルクもいる。何より、この体で、ガナライ達を護りながら戦うのはなかなか厳しいものがある。

この部屋は出入口がネルクの後ろにある一箇所だけの袋小路ふくろこうじ。絶体絶命とはまさにこの事だ。


「ご主人様。私を使って下さい。」


「ニル?」


俺の前に立ったニルが小太刀を構える。


「魔力は無くなりましたが、まだ動けます。」


「僕達も援護します!」


「よし!なんとか全員で切り抜けるぞ!」


「姉さんも前を!」


「分かってるわ!」


ガンッ!キンッ!


ニルとパピルが前に出て、迫り来る剣をなんとか凌いでくれている。ネルクは俺達の動きを観察しているだけだ。

ニルを組み伏せた時の事を考えれば、ネルクが動き始めたら前衛は一瞬で瓦解してしまうだろう。動かないというならば、今のうちに人数を減らす!


魔法陣を描いていると、ダニルとガナライが初級魔法を発動させる。

地面から伸びた蔦が迫り来る神聖騎士団員の足に絡み付き、二人をその場に固定する。


ガンッ!

キンッ!


ニルは万全ではないし、魔力切れによって、施された防護魔法も作動していない。盾もカナリアとの戦闘で消し飛んだ。パピルはそもそもCランクの腕前。その場を守るだけで精一杯だ。

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