第39話 血塗れの王冠とカナリア

腰まである金髪に、黄色の瞳。端正な顔立ちの男性エルフ。

その後ろに付き従う様に現れたのは、肩まである緑色の髪に、緑色の瞳の女性エルフ。


「第一王子カシュト…それにカナリア…」


侵入した王城のベッドで見た二人だ。


「ん?誰だお前達は?」


「…あら。シャイな侵入者さんじゃないの。

確か名前はカイドーという人族の冒険者だったわね。」


「………」


「相変わらずシャイなのね。」


シャイと言うより、あまり言葉を交わしたくないだけだ。


「昨晩俺の部屋に現れた不届き者か?」


「はい。間違いないかと思いますよ。」


「第一王子である俺の部屋に侵入しようとするとは、なかなかいい度胸をしているな。しかも、カナリアから逃げおおせたとなると、小汚い冒険者にしてはなかなかだ。」


王族だから仕方ないが、とてつもなく上から目線。イラッとする。


「何故お前達がここに居る…?」


「カナリアに聞いて、地下道を通ってきたのさ。この国の次代を担う俺が死ぬわけにはいかないからな。」


「死なない為に王城から逃げてきた?…それは嘘だろう。」


「ほう。何故そう思う?」


俺の言葉に興味を示すカシュト王子。


「ここに出られても、その女と二人だけであの敵中を抜けるのは無理だ。」


「逃げる俺をいちいち追い掛けてくるとは限らんだろう。」


「ペネタの話では王族が次々と殺されている。ペネタも狙われた。

この国を乗っ取るのか、王族が憎いのか、理由は知らないが、神聖騎士団の連中がお前だけ見逃すとは思えない。

連中と繋がっているとしたら別だがな。」


俺の言葉に、ニッと笑うカシュト。嫌な笑みだ。


「なかなか面白い男だ。冒険者にしておくのは勿体ない。どうだ?俺に仕えてみないか?」


「肉親を殺し、国を売る様な奴の下なんて御免だね。」


「残念だ。」


「思ってもいない事を。」


「本当に思っているさ。残念だとな。」


パチンッと第一王子が指を鳴らすと、静かだった周囲から人影がゾロゾロと現れる。

信者服を着ているが、その上から深緑色のローブを羽織っている。種族はバラバラだ。


「神聖騎士団……」


「俺の下に入っていれば、こんな何も無い所で死ぬ事も無かったと言うのに。それではな。」


俺達を横目に見て去っていく第一王子。


「ふふ……気になるわねぇ…」


薄ら寒い視線を投げかけてから、第一王子の後ろを付いていくカナリア。


二人の後は追わせないと言わんばかりに出てきた者達が取り囲んでくる。


「数が多いですね…」


「その上、門前に居た奴らより強そうだ。」


俺達を取り囲む手際を見るに、しっかりと訓練されているらしい。


「中級魔法を使います。」


「なら俺はその時間を稼がないとな。」


「……」


ダッ!


合図も無いのに、敵全員が同じタイミングで動き出す。


前後左右全ての方向から走り込んで来ては、魔法陣を描いているニルに刃を振るう。


ガンッ!グシュッ!キンッ!


ニルの傍に立ってそれを防ぎつつ、甘い動きをした者には確実な一撃を入れていく。


ニルの魔法陣が完成するより僅かに早く、敵の後衛陣が魔法を放つ。

緑色の光を放った魔法陣から、各自、数本の固く鋭い木が伸びてくる。


中級木魔法、ウッドスキュア。硬質の木で対象を串刺しにする魔法だ。


ニルを後ろから抱きかかえ、全周囲から迫り来るウッドスキュアを斜め上に飛んで避ける。


ガコガコッ!


俺達のいた場所にウッドスキュアが収束する。あのままだったら間違いなく二人とも穴だらけになっていた。


これだけの事があっても尚、ニルは俺を信じて魔法陣を描き続けていた。


俺達の体に掛かる上方向への力が、ゼロになる直前に、ニルの魔法が完成する。

ニルの描いていた魔法陣は、中級火魔法、フレイムショット。

一発一発の威力は小さいが、散弾の様に無数の火球を放出する範囲魔法である。


「流石はご主人様です。」


「ここから撃てば最高の威力を発揮出来るからな。」


ジャンプの最高到達点に至ると同時に、ニルが下へ向けて魔法を放つ。


ゴウッ!!


魔法陣から生み出された真っ赤な炎が、いくつもの小さな火球に分かれ、その全てが地面に向けて降り注ぐ。

火球の雨が隙間なく地面を埋め尽くし、深緑色のローブを着た敵兵達が、見る見る真っ赤な炎に包み込まれていく。


「い゛ぁぁぁ!」

「ぬ゛ぁぁぁ!」


炎に焼かれ、地面の上を転がり回るが、転がった先も燃えている。逃げる場所など無い。

ウッドスキュアにも火が移り、辺りは火の海だ。


なんとかフレイムショットから逃れた者も居るが、三人だけだ。


ニルを抱えたまま火の無いところへと着地する。


「なんという…」


たった数秒で敵兵は残り三人。かなり驚いているようだ。


「同じ中級魔法でも、使い方一つで脅威度が全然変わるって、あのカナリアとかいう女に教わらなかったのか?」


「貴様…」


「それと、ちゃんと背後には気を付けないと駄目だぞ。」


俺が三人の背後に視線を逸らすと、三人が腰に下げた剣に手を伸ばし、視線が背後へと僅かにズレる。


「っ?!」

「どこへ?!」


ザンッ!


僅かに俺から視線が揺らいだ瞬間に、左側に立っていた男の首を飛ばす。


「この卑怯者が!」


ザクッ!


開いた口を横に割るように刀の刃が通り抜ける。


「お前達には言われたくない。」


「このクソ野郎」

ザクッ!!


「…は……え?」


「だから言ったろ。背後には気を付けないと駄目だぞって。」


俺に意識を持っていかれた最後の一人。その後頭部から顔面を貫いたニルの刃。しっかりと飛んで頭を狙ったのは自爆対策だ。よく分かっている。


ドサッ…


最後の一人が地面に倒れ、未だ鎮火していない黒焦げの死体に目を向ける。


「カナリアという女の後を追いますか?」


「…そうだな。ここにガナライ達が見当たらないのは気になるが…ネルクが居るし大丈夫だろう。

今は、神聖騎士団と繋がっている事が分かった第一王子と、カナリアという女を追うべきだろう。足取りが掴めるうちにな。」


二人が向かった先へと俺とニルも向かう。


「第一王子は何故神聖騎士団なんかと…」


「騙されているのか、そもそもがそういう性格なのか…それも会えば分かるだろう。」


「…はい。」


第一王子とカナリアは街の南側へと向かった。この状況で南側へと向かう理由が分からないが…何か企んでいるに違いない。


俺とニルも、街の南側へと向かうため、悪臭が漂うその場を後にした。


「こちら側も酷い有様ですね…」


「ほとんどの家屋が破壊されているな…争った形跡としては、こっちの方が酷い。」


破壊された家屋の残骸が地面の上を覆い尽くし、その合間合間に敵味方双方の死体が挟まっている。


「いくつか無事な家屋もありますが…酷いですね…」


ニルは眉を寄せてその光景を見ている。


「戦場は移動したみたいだが、どこに隠れているか分からないからな。気を抜くなよ。」


「はい。それにしても…あの二人はどこへ行ったのでしょうか?」


「ここに居ても何も分からない。とにかく探してみよう。」


「「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」」


足を踏み出そうとした時、ここより更に南側から、大勢の人達による叫び声が聞こえてきた。

戦闘時の声とは違い、賞賛や歓喜のような叫び声に聞こえた。

ニルと共に声のした方へと向かい、遠目に映った光景を見て何が起きたのか大方理解出来た。


カシュト第一王子が、その手に血濡れの直剣を持ち、目の前に金髪で黄色の瞳を持った老人エルフが倒れている。

他のエルフ達よりも少しだけ豪華な服を身に付けている。地面にうつ伏せで倒れている老人エルフの体から、ジワジワと周囲に広がっていく血液。

老人エルフの顔付きは、カシュト第一王子によく似ている。いや、カシュト第一王子が老人エルフ…ガンダール-ヒョルミナ王に似ているのだ。


血濡れの直剣をゆっくりと掲げたカシュト王子に、円を作って取り囲んでいた者達が再度大声を浴びせる。


「この国の未来を奪わんとした、我が父ガンダールは……このカシュトが討ち取った!!」


「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


「たった今。この時より!私がエルフ族の族王となる!」


光の無い目を半開きにしたまま倒れているガンダール王。そのすぐ側に転がっていた王冠を手に取るカシュト。


「「「「カシュト族王万歳!カシュト族王万歳!」」」」


ガンダール王の血に濡れた王冠を自分の頭の上に乗せるカシュト。

美しい金髪に血が染み込んで、おぞましい光景に見える。カシュト王子も、周りの人達も、その光景に興奮し、叫び、拍手を贈っている。

俺から見れば、狂気に包まれた異様な光景だ。どう見ても普通の精神状態ではない。普通の精神状態では、自分の父を殺すことなど出来ないだろうが…


「気持ちが悪くなる光景だな……」


「王は何故こんな場所に居たのでしょうか?」


「王の死体の後ろに立っている奴は他の兵士達と鎧が違う。恐らくだが、ガンダール王の近衛兵だろう。

近衛兵にまで神聖騎士団の手が伸びていたと考えると、既に王城はカナリアとカシュトの手の中だったという事だろうな。

逃げて下さいとかなんとか言ってここまで連れ出し、ここに居る連中と他の近衛兵を殺し…」


「逃げ場を失ったガンダール王をカシュト王子が殺した…という事ですか…」


「信じ難い事だが、カナリアは二年そこそこの間に、王城に仲間を潜り込ませ、心変わりさせ…王城や衛兵の中にこれだけの人数を用意した事になる。」


熱気が渦巻く連中の中から、カシュトへ近付き、耳打ちするカナリアが見える。


「皆の者!一時王城へ帰還する!」


「「「「はっ!族王様!」」」」


ゾロゾロと兵士達が王城へと向かっている中、カシュトとカナリアだけは人気の無い方向へと歩いていく。

話を聞き取るために、瓦礫の影を移動して会話が聞こえる位置まで移動する。

カナリアは近付き過ぎると気付かれる可能性がある。慎重に……


「これで俺が族王となれたのだな。」


「おめでとうございます。」


「次はどうするのだ?」


「それでは、北にある門を開きに行きましょう。」


「なに?門は既に開いた状態の手筈だが?」


「それが、先程見た冒険者のカイドーという男が、阻止したとの事でして。

族王様が訪れれば、門で粘っている者達も大人しく引き下がるでしょう。」


「………少し待ってくれ。この段階で門を開ける必要があるのか?」


「現在街の南側と東側は制圧が完了している状態ですが、未だ西側と門のある北側は押し返されているという状況です。

門を早く奪取して、外から仲間を呼び込まなければ、こちらの手勢が足りなくなり、最悪制圧出来ない可能性も出てきます。」


「族王である俺が出向き、戦闘を止めるように言えばそれで終わりだろう?」


「それでは駄目なのです。」


「何故だ?」


カシュトの疑問顔に、カナリアが真顔で返す。


「それでは背信者が残る結果になりますでしょう?」


「待て……それではこの街のほとんどの者達が死ぬ事になるではないか…」


「今更何を言っているのですか?最初からそのつもりでしたが。」


「た、民のいない王など、なんの意味があるというのだ?!」


カシュトの様子が少し変だ。混乱しているように見える。


「何故怒っているのですか?族王にはなれたでしょう?

それに、神聖騎士団の一員となった者達は殺さないという約束も守っていますでしょう。約束は全て守っていますよ?」


「何故だ…何故こうなった…?いや…そもそも何故俺は…」


「…………チッ。暗示が解け始めているのね。」


「暗示…?どういうことだ…?カナリア?」


真顔だったカナリアは、面倒臭そうに顔を歪める。


「はぁ……毎晩、解けないように暗示を掛け続けて来たのに…やはり父親を自分の手で殺させるのは刺激が強かったのかしら?私もまだまだね…」


「父を…あれ?…俺は…」


「こいつにも飽きてきたところだし、ちょうど良かったわね。」


ザクッ……


「…は…?……え……?カ…ナリ……ア?」


自分の胸から飛び出している短剣の柄を両手で触れて後ろへ二歩、三歩と下がるカシュト。


「……ふふふ…こんな状況で心臓を刺された王族は、そんな顔をするのね……ふふふ…あぁ…良いわぁ…満たされるわぁ…私の好奇心が満たされていくわぁ!」


顔を僅かに上に傾け、満足感に顔を歪ませるカナリア。


その目の前で地面に両膝を落とすカシュト。


「ふふ……ふふふ……ふふふふふふふ。良いわぁ!今まで見た中で一番最高の表情よ!今なら喜んで抱かれてあげるわぁ!」


カシュトの顔を、愛おしそうに両手で優しく挟み込むカナリア。


「クソッ!どうなってんだ!?」


「ご主人様!」


唐突な行動で割って入る事が出来なかった。

瓦礫から飛び出すが、カシュト王子の目からゆっくりと生気が消えていく。


「あらぁ?あなた達は…」


涎を垂らし、満足感に溢れた顔を、こちらに向けるカナリア。

背筋が凍るような表情だ。


「生きていたのねぇ……どうやって……気になるわねぇ…ふふふ…」


「完全にぶっ飛んでんな……」


「女性にその言葉は少し失礼よ?」


「お前が全部やったのか?」


「そうよ…えぇ。楽しかったわぁ…ずぅっと気になっていたのよ。王族が死ぬ時って、どんな表情をするのかしらって。

知りたくて知りたくて……ふふ…第一王女は強気だったけれど、死ぬ時は顔をクシャクシャにしてねぇ…泣き叫んでいたわぁ。どれだけ叫んでも声は届かないと言ったのにねぇ…

第三王女と第二王子は最初から泣いていたわねぇ…まだ小さかったし、仕方ないわよねぇ…でも、いぃぃぃ顔してたわぁ…」


その光景を思い出しているのか、目を上に向けて愉悦の表情を浮かべるカナリア。


「お前の好奇心を満たす為だけに殺したのか…?」


「だけではないわよ。王族は残っていると後々厄介だからねぇ。どちらにしても殺すつもりだったわよ。だから………これで終わり。ふふ。」


「相変わらずクズだな…神聖騎士団は。

一連の事件の黒幕はお前ということか。」


「えぇ。私はすい聖騎士。カナリア。

私の事を聞いたからには、私の好奇心の為に死んでもらうわよぉ。」


「ニル!」


「はい!」


ニルは後ろへ下がり、俺がカナリアの元へと走る。


「積極的ねぇ…」


俺の動きに合わせるように後ろへと大きく下がるカナリア。距離を取ったカナリアが、素早く魔法陣を描き上げていく。

今まで見た者の中でも、ダントツのスピードだ。

中級魔法の魔法陣を、ものの数秒で描き出す。


「行くわよぉ!」


緑色に光り出した魔法陣から風の刃が連続して射出される。ランブルカッターだ。


「避けないと死んじゃうわよぉ!」


魔法陣の前に立たないように、左右に全力で走り回る。


「ふふ…どこまで出来るのかしら…気になるわねぇ…」


ランブルカッターは完全に回避した。今がチャンスだと近付こうとした時、カナリアの指先は既に次の魔法陣を半分以上描き出していた。


「速いっ?!」


「遅いわよぉ?」


俺が近付く前に魔法陣が完成し、白く光る。


ゴゥッ!


魔法陣から発射された光の柱が、回避した俺の真横を通り過ぎていく。ホーリーライトだ。


「そんなに簡単に私に近付けるわけないでしょう?」


魔法陣を描くスピードは圧倒的にカナリアが上。あのスピードで魔法陣を描かれたら、魔法での勝負はまず負ける。

つまり、なんとか近付いて、魔法陣を描くより速く斬るしかない。


俺が回避行動をしている間に、既に次の魔法陣を描き出している。


「くっそ!速いっ!」


「いつまで避けられるかしらねぇ?」


手元の魔法陣が白く光る。


「またかよ?!」


ゴゥッ!


光の柱が再度魔法陣から現れる。

だが、これなら横っ飛びで避けられる。


そう思った瞬間。目の前の光の柱が、細かく分裂し、散乱する。


ホーリーショット。中級光魔法で、魔法陣がホーリーライトと酷似している為、戦闘中に見分けるのはほぼ不可能。


散乱した光のいくつかが、俺の方へと飛んでくる。


これは死ぬかも…


ズガガガガッ!


光が、地面や周囲の瓦礫、建物に当たって焦げ跡を残す。


「うっ……」


ジクジクと音を立てる自分の横腹に目をやると、一センチ程度の穴が空いている。

貰ってしまった。

目の前には半壊した石の壁。ニルがタイミング良く防壁を作ってくれた事で、なんとか死なずに済んだらしい。


無ければ死んでいたかもしれない。


「ふふふ…ふふふふふふ……凄いわぁ!今ので死なないなんて!」


「これはヤバいな……」


何とか立ち上がったが、横腹が痛む。


「興味は尽きないけれど…そろそろ行かないといけないから。お別れしましょう?」


「まだ不安はあるが…やってみるしかないな…」


地面を蹴ってカナリアに接近を試み、左手で魔法陣を描き始める。ズキズキと痛む横腹は無視だ。


「近付けさせないわよぉ。」


カナリアの手元が黄緑色に光ると、地面から何かが顔を出す。


「っ?!」


ガガガガガッ!


咄嗟にその場を離れると、地面の下から背の低い、無数の木の棘が現れる。ウッドグラスという中級木魔法だ。遅れていたら足がズタズタになっていた。


だが避けた。俺は走りながらも左手を動かし続ける。


「あなた…動きながら魔法陣を描けると思っているのかしら?そんなに私は甘くないわよ!」


複雑な魔法陣を描き上げたカナリア。

緑色に魔法陣が光ると、俺の周囲に竜巻が発生する。周囲の物に傷を作りながら進んでいる所を見るに、八個のカッターサイクロンが対象に向かって集結する上級風魔法。ギャザーサイクロンだろう。

説明しなくても分かるだろう。あんなものに巻き込まれたら四肢どころか身体中がバラバラになってしまう。


「うおぉぉぉ!」


全身に細かな切り傷を受けるが、無理矢理竜巻の間を走り抜ける。

しかし、まだ安心は出来ない。


出現した八個の竜巻が集結すると、相乗効果そうじょうこうかによって竜巻が一瞬だけ巨大化するのだ。


全力で両足に力を込めて地面を蹴る。

後方でズガガッと音がして後ろへと引きずり込まれる様な豪風が発生する。


地面に刀を刺し、なんとか耐えた。

急激に巨大化した竜巻は、数秒で自壊していく。


残った風に飛ばされた土埃が頬に当たり、目を細める。


「ふふふ……本当に好奇心を掻き立てる男ねぇ……でも。これで本当にお終いよ。」


土埃の向こう側に立っているカナリアの手元から白い光が現れ、真っ白で巨大な剣をかたどる。


上級光魔法、白き巨剣。攻撃力に特化した魔法で、大抵の防御魔法は簡単に消し飛ばす威力を持っている。


光が剣の形に収束した魔法で、超高温の白い刃は、周囲を簡単に焼き尽くす。


ゴウッ!


白き巨剣が放たれ、地面を溶かしながら俺の方へと進んでくる。


逃げようと足に力を入れると、横腹に空いた穴がズキリと痛み、血が服に滲んでいく。


「ぐっ…こんな時に…」


目の前に迫り来る白い刃。逃げるには遅すぎる。受けるには威力が高過ぎる。左手で用意していた魔法では止められない。

それでも、諦めるつもりなど微塵もない。シンヤのステータスならば、防御力ならば、なんとか出来る可能性が残っている。


「やってやる……

うおぉぉぉぉぉ!!」

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