第四章 遺恨

第34話 タナルポ大洞窟

「す、凄いです…」


タナルポ大洞窟へ入って、ニルが最初に発した言葉がそれだった。


洞窟の大きさは縦横共に十メートルはあり、馬車も余裕で通れる大きさを誇っている。

壁面はゴツゴツとした岩肌が剥き出しになっていて、柱の様に削られた岩が無数に存在している。


どこかに地下水があるのか、洞窟内の空気は僅かに湿り気を帯びているが、蒸す程ではない。


壁や天井には黄緑色の光を継続的に放つ虫、淡光虫たんこうちゅうがポツポツと張り付いている。

洞窟の暗闇の中で見ると、星々の中に立っているような感覚になる。


「こんなに美しい場所だったのですね?!」


「淡光虫が居るおかげでランタンも必要無いんだ。中はもっと凄いって言っただろ?」


「はい!」


うっとりと洞窟の中を見回すニル。


景色を楽しめる様に、足取りを緩やかにして洞窟内を進んでいく。


「二時間程度で抜けるから、今のうちに楽しんでおけよ。」


「はい!」


洞窟内は、思ったより人が少なかった。


神聖騎士団の連中が動き出した事によって、商人の往来は減り、それに合わせて冒険者達の数も減っている。


「静かで良いけどな…」


「あの!」


暗がりの中、突然声を掛けられて、俺もニルもビクッとなってしまった。


洞窟の端、その暗がりに居たのは、一人の少年だった。パッと見では、ニルと同じくらいだろうか。


長めの青髪、青い瞳、ヒョロっとした体付き、そして長い耳。エルフの少年だ。

前ボタンの服に、ズボン。その上に皮の肩当てをした軽装。弓と矢筒を背中に持っている姿は、冒険者に見える。


ボタンを手で触りながら、キョロキョロと視線を動かして、小さな声で一言。


「た、助けて下さい…」


そう言った。


「突然助けて…なんて、どうしたんだ?」


「姉が…僕の双子の姉が………っ?!」


「姉がどうかしたのか?」


「………ひ、人族…?!」


フードを被っていたから気が付かなかったのか、俺とニルの耳が長くない事に気が付いたらしい。

一気に顔が青ざめていく。


「やっぱり今でも人族は嫌われているのか……エルフの誰かが通ると良いな。行こうか。ニル。」


「はい。」


少年から視線を外し、洞窟奥へと足を向ける。


「ま、待って下さい!」


「??」


少年は胸元の服を強く握り締めて、声を振り絞って叫ぶ。


「その……た、助けて下さい!」


「俺達は人族だぞ?エルフの誰かを待てるならそうした方が良い。後々君の立場も悪くなるかもしれないぞ?」


「……今まで数時間待って…エルフ族は誰も通らなかったから……」


彼が俺達を人族と知った上で頼るのは、かなり勇気のいる事だ。話くらい聞いてみよう。


「………何があったんだ?」


「あ、姉が!僕の姉が…この先の……ダンジョンに……姉が一人で…」


「ダンジョン?タナルポ大洞窟内にか?」


聞いたことが無い…な。


「五年程前に見付かったダンジョンです。ご存知ありませんでしたか?」


「五年前…となると、俺の知らない時に見つかったのか…まさかこんな場所にダンジョンがあったとはな。

それより、そのダンジョンに姉が一人で入ったって事か?」


「……はい…」


暗い顔で頷く少年。


「なんでそんな事になっているんだ?ダンジョン内に一人で入るなんて自殺行為だぞ?」


俺もゲーム時、一人でダンジョンに潜るなんて、散々やっていたし、人の事は言えないが…


「その……お母さんを…助けようとして……」


「母親を…?」


「お母さんが…捕まって…このダンジョンの報酬となら…取り替えても良いって…」


「捕まった相手は神聖騎士団か?」


「…はい……」


大体話は見えてきた。


「相変わらずやる事がエグいな…つまり、母親を人質に取られ、このダンジョンの報酬と引き換えになら返すと言われてここに来たと。

それで、姉だけ入って自分が入っていないのは何故だ?」


「もし、半日経っても出てこなかったら…誰か助けを呼べって……」


「…なるほど。お前の姉はしっかりしているらしいな。」


二人で入って全滅するより、助けを呼べる者が一人外にいた方が勝率は上がる。


「お願いします!どうか…姉を……」


「分かった。協力しよう。」


俺は即答する。こんな事を許せるはずかない。


「本当ですか?!」


「本当だ。俺はカイドーだ。」


「僕はダニル…ダニル-ネビヤンです…」


「取り敢えず、ダンジョンまで案内してくれ。」


「はい!」


ダニルは急ぎ足で洞窟の中を進んでいく。暫く行くと、大きな通りから外れ、立て看板のある方へと入っていく。

ダンジョンは危険な施設である反面、報酬や素材、そして自分の腕を磨く為にはもってこいの場所。見つかったダンジョンは、こうして冒険者ギルドの管理の元、一つの資源として扱われている。


大人一人が通れるギリギリの空洞を通って行くと、目の前に突然、暗緑色あんりょくしょくの扉が現れる。


「ここです。」


ダニルの案内の元、ダンジョンの入口に辿り着いた俺達は、入口前に貼られている掲示板に目を通す。

何度もクリアされているダンジョンは、ダンジョンの構造や、出現するモンスター、報酬等、細かい情報まで集められ、こうして開示されているのだ。


「入ったら出られないタイプだな……」


ピコンッ!


【イベント発生!…タナルポ大洞窟内のダンジョンをクリアしろ。

制限時間…1日

達成条件…ダンジョンボスの討伐

報酬…無名の小太刀


受諾しますか?

はい。 いいえ。】


ピコンッ!


【イベントを受諾しました。】


小太刀とは、なかなか渋い所を攻めてくる。使った事…というか、持った事すら無いが、あればあった方が良いのだろうか…?

それを考えるより先にダンジョンの事だ。掲示板に再度目を移す。


「ダンジョンの難易度はBランクか。」


ダンジョンにもランクが設定されている。出てくるモンスターの最高ランクがそのまま当てられる場合が多い。

つまり、このダンジョンのボスは、Bランクという事になる。


「三部屋が連続して繋がっている形か。一部屋目ではCランク、ケイブリザードが、入った人数の倍現れる。

二部屋目ではCランクのケイブフロッグ。これは入った人数と同数。

最後の部屋、ダンジョンボスはランクB。ブラッドサッカー二体か。

姉はどれくらいの腕なんだ?」


「…僕と同じ…Cランクです…」


Cランクで単身突撃か…母の命が掛かっているから仕方ないのだろうが、なかなか無茶をする…


「…足を止めているとしたら、一部屋目と二部屋目の間にある安全地帯か?ケイブフロッグ一匹程度なら…いや、ここで考える必要は無いな。

ニル。行くぞ。」


「はい!」


「えっ?!カイドーさん?!」


「なんだ?」


「お二人ですか?!パーティの方は…?」


「二人だけだが、大丈夫。必ず連れて戻るから。

ダニルはここで待っていれば良い。」


普通冒険者は四人以上のパーティで動く事が多い。彼が心配するのも無理はない。


「……僕も…僕も連れて行って下さい!」


「……構わないけど、本当に待ってても大丈夫だぞ?」


「…僕の姉です…僕だって戦います…」


「…分かった。ダニルは何が使えるんだ?」


「弓と魔法を…」


自分の弓に手を当てて俺を見る。当てる自信はあるようだ。


「分かった。それじゃあニルの後ろ……いや。ニルが前衛、俺が中衛。そしてダニルが後衛で行く。

ニル。出来るか?」


「はい!お任せ下さい!」


ニルの目にも自信が見える。任せて大丈夫そうだ。


「よし。行こう。」


ニルがダンジョン入口の扉を両手で押し込むと、ズズズッと音を立てて滑るように開いていく。

中は扉と同じ深緑色の石材で通路が作られており、所々に淡光虫が張り付いていて、慣れると数メートル先まで視界が通る。

扉が閉まると、カチャンと音がする。鍵が掛かったらしい。


「ニル。」


「はい。進みます。」


「ダニル。付いてこいよ。」


「は、はい!」


緊張した声が、後ろから聞こえてくる。

自分のランクより高いダンジョンに入るなんて、普通は有り得ない。

母親を人質に取られていなければ、ダニルはもちろん、姉も入る事は無かっただろう。


数メートル歩くと、正面にまた深緑色の扉が現れる。


「開きます。」


ニルが扉を開くが、中は真っ暗。


「暗いな…明かりを付けるぞ。」


「はい。」


俺はライトの魔法を、ニルとダニルは腰に下げたランタンに火をつける。


部屋の中が照らし出されると、十メートル四方の真四角の部屋だと言うことが分かる。

部屋の真ん中、天井部分に丸い穴が空いている。


ドサドサッ!


穴の上から全長で三メートルのケイブリザードが落ちてくる。全部で六体。掲示板の情報通りだ。


洞窟に好んで住み着くトカゲ型モンスターで、土色の皮膚と、大きな背ビレ、細かく鋭い牙を持っている。

見た目はデカいイグアナだ。ベタリと腹を床に付けた状態で走り、三メートルの図体にしてはかなり速い。


「結構速いから気を付けろよ。」


「はい!」


ニルは小盾を構えて腰を落とす。


「ダニルは援護できる時にだけしてくれ。」


「わ、分かりました!」


少し距離を取ったダニルが、弓を構える。


「行きます!」


ニルが離れている一体に向かって走っていく。


「左は任せろ。」


「お願いします!」


「シャー!」


口を大きく開いて噛み付いてくるケイブリザード。

避けると、真横でバクンッと激しい音がする。しかし、Cランクに相当するモンスターであり、俺にとっては強敵にはなり得ない。


ガンッ!ブシュッ!


ニルが盾で攻撃をいなすと、それと同時にケイブリザードの体に深い切り傷が生まれる。

ニルの防護魔法が発動しているのだ。見た限りかなり深い傷だ。相手が人ならば大怪我と言えるだろう。

どういう魔法なのかさっぱり分からないが、反撃している事は確かだ。


「はぁっ!」


ザクッ!


しっかりと攻撃を盾でいなして、短剣を急所に突き立てているニル。Cランクのモンスター程度ならば簡単に対処出来るらしい。


「ニル!一気に片付けるぞ!」


「はい!」


結局、一部屋目は俺がケイブリザードを四体、ニルが二体倒して終了した。


「強い……何も出来なかった…」


ダニルは弓を下ろして呟いている。何もせずに終わるならその方が良い。今は母親を助ける為に動いているのだから。


カチャンと先に続く扉の鍵が開いた音が聞こえてくる。


「扉を開けば直ぐに安全地帯だったな。さっさと行こう。」


「はい。」


捕まっているという母親の事も心配だ。出来る限り急いだ方が良い。扉を開き、そこにダニルの姉が居ることを期待していたが…


「姉さん……」


部屋の中には誰もいなかった。ダニルが暗い顔で俯く。


「まだ落ち込むには早い。さっさと次に行くぞ。」


「分かりました…」


この先にいる可能性も十分考えられる。今は早く先に進むべきだ。

安全地帯をそのまま通り過ぎ、扉を開く。


「いきなり部屋になっているのか…」


先程モンスターが現れた部屋と全く同じ造りの部屋だ。


「手抜き工事か?」


ドサドサッ!


俺の呟きに反応したかのようにケイブフロッグが三体現れる。

全長三メートルのカエルだ。俺は平気だが、嫌いな人は卒倒するだろう。鮮やかな赤色と、緑色が入り乱れた模様が特徴的で、全身はネバネバした粘液で覆われている。

全身を覆う粘液には毒が含まれており、下手に触ると針で刺された様な激痛に襲われるとの事だ。放置していると死に至る。外の掲示板の受け売りだが。

粘着性の高い唾液を持っていて、伸ばした舌で獲物を貼り付け、絡め取り、丸飲みにする。


「あんなネバネバの中に入っていくのを想像すると…寒気がするな…」


「絶対に捕まるわけにはいきませんね……行きます!」


「援護します!」


ダニルが三体のうちの一匹に矢を射る。


「グェッ!」


「ググェッ!」


ケイブフロッグが跳ね回りながら舌を伸ばし、矢を叩き落とす。残念ながらダニルの矢は効果が薄いらしい。


「ダニル!魔法を使って牽制してくれ!」


「はい!」


「ニル!盾は使うなよ!巻き取られるぞ!」


「はい!」


二人に指示を出しながら、一匹のケイブフロッグが伸ばしてきた舌を切り離し、怯んだところに刀を突き立てる。


「行きます!」


ダニルの声がすると、後ろから火の玉が飛んでくる。


ジュッ!


「グェェッ!」


火の玉が飛んできたのはニルの前に居たケイブフロッグ。ニルの方が援護が必要だと判断したらしい。良い見立てだ。


ケイブフロッグがファイヤーボールを横腹に受けた事によって一瞬隙が出来る。その隙を逃さず、ニルがケイブフロッグの首筋に短剣を滑らせ、横腹から短剣を突き刺す。


ブシュッ!


綺麗に急所を切り裂き、ケイブフロッグはその場に倒れ込む。


その間にもう一匹は俺が片付けた。二人共怪我は無さそうだ。


カチャン…


奥に続く扉の鍵が開いた。


「…姉さん…」


ダニルの姉が居る可能性があるのは、この先にある安全地帯。入れ違い……もしくは死んでいなければ、だが。

因みに、もしダンジョンで死ぬと、死体はダンジョンの床や壁に飲み込まれていき、残らない。どこに行くのかは分からないが、その光景を見た者がゲーム時に多数いたから恐らく間違いないだろう。


「開けます。」


ニルが深緑色の扉に手を掛けて押し込むと、ズズズッと滑るように開いていく。


「………姉さん!!」


ダニルが安全地帯に横たわる人影に走り寄り抱き上げる。


ダニルと同じ格好に、同じ長さの外ハネした青い髪。レイピアを腰に差している。

そして、外傷は見当たらないが、大量の汗を額から流している。


「姉さん!姉さん!」


「………ダ…ニル……?」


息も、意識も絶え絶え。かなり危険な状態だ。


「ご主人様!このままでは!」


「分かっている!」


直ぐに駆け寄って姉の様子を見る。


「やっぱり外傷は見当たらない。毒だ。」


腰袋に入れておいた毒消しを探す。

この世界には毒を持ったモンスターも多いが、即死級の毒を使うモンスターは少ない。そして、即死でなければ、大抵の毒に対して効果のある毒消しが有効だ。傷薬と合わせてどこでも取り扱っていて、毒消しを持っていない冒険者はまず居ない。

彼女が飲まなかったのは、使い切ったのか、準備する時間さえ無かったのか…恐らくは後者だろう。


腰袋から不透明な紫色の液体が入った小瓶を取り出して、姉の僅かに開いた口の中に流し込む。


「うっ…ゴホッゴホッ!」


俺はまだ飲んだ事が無いが、とても苦いらしい。今の彼女には少し辛い液体かもしれない。


「姉さん!飲んで!このままじゃ死んじゃう!」


「もう一度いくぞ。辛いかもしれないが飲み込むんだ。」


もう一度口元に小瓶を持っていき、口の中に流し込む。


「ん………ゴクッ…」


吐き出しそうになった毒消しを、無理矢理飲み込んだ姉。手遅れでなければ、これで毒は消えるはずだ。


「姉さん……」


ダニルが姉の頬に触れて心配そうに眉を寄せる。


暫く様子を見ていると、少しずつ姉の様子が落ち着き、苦しそうだった表情も、寝顔へと変わっていった。


「呼吸も安定してきたし、大丈夫だろう。」


「良かった…姉さん……」


涙ながらに姉の手を握り、心底ホッとした顔をしているダニル。本当に間に合って良かった。


その後、ダニルが少し落ち着いたタイミングで、話を切り出す。


「ダニル。何故姉は一人でダンジョンに入ったんだ?母親が捕まっているとはいえ、誰か頼れる人は居なかったのか?」


「………今…ヒョルミナ以外の街や村は…ほとんどが神聖騎士団の連中に…制圧されています…」


「助けを呼んでも、取り合ってくれる状況じゃなかったって事か…そこまで酷い状況になっているとは…」


「僕と姉さんは…次の日の出までに戻らなければ…」


母が殺されるのか……


「ここからどのくらい掛かるんだ?」


「北西に一時間歩いた所にある…リョニート村という…小さな村です…」


「時間的にはまだ余裕があるが…ダニル。姉を担げるか?」


「…はい。」


「少しでも早く村に向かうべきだと思う。ダンジョンボスはブラッドサッカー二体。ダニルは姉と一緒に隅で大人しくしていてくれ。俺とニルでなんとかする。」


「そんな!二人でなんて危険です!」


「いつ起きるか分からない姉を待つか?」


「…それは……」


ダニルが寝ている姉を見て眉を寄せる。


「ニル。やれるか?」


「やります。」


「カイドーさん…ニルさん……」


「ダニル。行くぞ。」


「…はい!お願いします!」


ダニルも決心が出来た様だ。今までで一番の顔をしている。


ズズズッ……


扉の先に広がっていたのは、さっきまでの倍、つまり二十メートル四方はある広い空間だった。


見たところ、まだブラッドサッカーは居ない。


「ダニル。そこを動くなよ。」


「はい。」


ドチャッ…ドチャッ…


湿った物が地面に落ちた音。部屋の中央に焦げ茶色の塊が見える。

ニュルニュルとした動きで立ち上がり、その姿を見せる。


人型…と言っても良いものか分からないが、指の無い、手足に見える部位と、アリクイの様に細長い口。その口の先端はラッパ型になっており、無数の小さな歯が奥まで並んでいる。

人族の成人男性とほぼ同じくらいの大きさで、ニュルニュルと動く手足が気色悪い。

ブラッドサッカーは魔法を使わないモンスターだが、動きが速く、細長い口で食いつかれると、血液どころか、体の中身を一気に吸い取られる。


「ニル!」


「はい!」


ニルは右手、俺は左手側にいるブラッドサッカーに詰め寄っていく。


バチィン!


ブラッドサッカーの手足が地面を打つと、跳ねるように移動する。


ここまでに相手してきたケイブリザードとケイブフロッグ。その二種と大きく違うのは、ブラッドサッカーには僅かながら知能があるという事だ。

単純に突撃してきたり、ただただ攻撃を繰り返すモンスターではなく、距離を取ったり、弱い部分から攻めてきたりする。

つまり、今の場合、ダニルとその姉が狙われる。


「っ?!」


「させるか!」


この展開を予想していた俺は、描き出していたマジックシールドの魔法陣を完成させる。


ガリガリガリッ!


マジックシールドに食い付いたブラッドサッカーの口元から音が響く。


ザンッ!


ドチャッ…


後ろへ向かったブラッドサッカーの首を狙うのは簡単な作業だ。ダニルはチビりそうな顔をしていたが、怪我は無い。


ガンッ!ガンッ!


後ろを振り返ると、ニルが盾でブラッドサッカーの攻撃を受け止めている。その度にブラッドサッカーの体に切り傷が増えていくが、痛みを感じないのか、気にせず何度も盾の上から手足を打ち付ける。


援護に向かおうと足を出した時、ニルの表情が横から見える。

焦ってもいない。力んでもいない。彼女は淡々とブラッドサッカーの攻撃をいなしている。


「駆け引き……」


ニルが呟くと、短剣をブラッドサッカーの首元に向けて突き出す。

無防備に突き出された短剣は、ブラッドサッカーにとってのチャンス。甘い攻撃にブラッドサッカーが反応した。


ガンッ!


短剣に反応したブラッドサッカーを見て、即座に短剣を引き、盾でブラッドサッカーの顎を突き上げる。


「ここっ!」


ブシュッ!


喉元に深く突き刺さった短剣が、そのまま首を半分切り開く。


ドチャッ…


何度かニュルニュルと手足を動かしたが、そのまま後ろへと倒れ、動かなくなる。


「や…やった……やりました!」


「今のは良かったな。攻撃を誘ったのか。」


「はい!」


「まだ荒いけど、良くなってきているな。」


「ありがとうございます!」


笑顔のニルに笑顔を返す。

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