第29話 小人族

一人は男の子、一人は女の子みたいだ。子という表現が正しいかは分からないが…


女の子は真っ赤な、ピンピンと跳ねた短い髪に、真っ赤な瞳。気の強そうな顔立ちだ。小さい事を除けば人族とほとんど変わらない。


男の子は長めの真っ青な髪をしていて、前髪が左目を隠している。真っ青な瞳でタレ目。優しそうな顔立ちだ。


二人とも茶色のチョッキを着ていて、女の子は赤いスカート、男の子は真っ青なズボンという格好だ。


「ご主人様…小人族です…私初めて見ました。」


「わぁっ?!」


ニルの声にビックリした女の子の小人が飛び上がって男の子を盾にして後ろに隠れてしまう。


「ぼ、僕が相手だ!」


男の子は腰から小さな剣を抜き取って、カタカタと震える手で俺達に向けてくる。


「待て待て。取って食ったりしないから。言い争ってる声が聞こえて来たから気になって見に来ただけだ。」


「……」


二人は警戒心MAXで俺とニルを見ている。


「小人が菌糸の森を出るなんて……何があったんだ?」


「僕達の事を知ってるの?」


俺の言葉に男の子が少しだけ警戒を解く。


「昔、一度だけ入った事がある。綺麗な場所だったからよく覚えているよ。

俺はシンヤ。こっちはニル。小人族を助ける為に菌糸の森へ向かっている途中なんだ。」


「……本当に?」


「本当ですよ。」


ニルがやんわりと受け答えすると、男の子がゆっくり頷く。


「カラ。多分大丈夫だよ。もし僕達を殺すつもりならとっくにやってるだろうから。」


「う、うん…」


男の子の影から出てくる女の子。まだ怖いのか男の子のチョッキを握り締めている。


「僕の名前はライ。こっちはカラだよ。」


「よろしくな。二人はどうしてこんな所に?」


「僕達は、特別な任務を受けて…」


「神聖騎士団の連中が来ている事は聞いていたが、そこまで切迫した状況なのか?」


「………」


詳細な状況は分からないが、二人だけを森の外に出し、向かう先にはデルスマーク。

考えられるのは、デルスマークにこの二人が行って援護を要請する。というところだろう。

今会ったばかりの人族にそんな大切な任務内容を明かすわけにはいかない。それが沈黙という答えに繋がったと考えるのが自然か。


「二人の任務に口を出すつもりは無いが、デルスマークに行っても、援護は恐らく受けられないぞ。」


「えっ?!」


カラが目を丸くして驚いている。


「デルスマークも、他の街も神聖騎士団に襲われていてな。他の街に戦力を回せる余力が残っている場所はほぼ無いだろう。」


「そんな……」


「だが何もしないのは色々な意味で良くない。という事で俺が駒として動かされたんだ。獣人族王からの書簡も持っている。」


「書簡……見せて貰えるかな…?」


「これだ。」


そのまま渡すと押し潰されてしまいそうなので、書簡を開いてライに見せる。


「………ライ?」


「…間違いない。これは獣人族王からの書簡だよ。」


「じゃあ…本当に…」


書簡が真実となれば、先程の言葉もまた真実となってしまう。


「あの…二人だけで…?」


「すまないな…今のところ俺達だけだ。デルスマークに援護を要請しても、大軍の援護は望めないだろう。」


「……」


俺の言葉に、二人は沈黙してしまう。


「カラ。シンヤさん達を森に案内しよう。」


「え?!でも!」


カラは俺達をチラチラ見ながら眉を寄せている。信用するには時間が短か過ぎる…か?


「書簡まであって、シンヤさんが援護は難しいと言っているんだ。ここからデルスマークを目指すより、シンヤさん達を案内した方が良いと思う。」


「そう…だね。うん。私もそう思う。」


カラはライの言葉に弱いらしい。直ぐに頷いてくれた。


「シンヤさん。僕達を…」


「行こう。馬車に乗るぞ。」


「うん!」


頼まれなくてもそのつもりだ。

カラとライを馬車に乗せ、菌糸の森へ向けて馬車を走らせる。


「凄い!速い速い!」


カラが馬車の縁から身を乗り出してはしゃいでいる。


「カラ!危ないよ?!」


「平気平気ー!おわわっ?!」


「だから危ないって言ったでしょ?!」


落ちそうになった手をライが引っ張る。


「あははー…」


「大人しく座ってて!」


ライの後ろに隠れていたカラだったが、慣れるとお転婆娘に変身するらしい。いつもの事なのか、ライが溜息混じりにカラをたしなめている。


「ニルは小人族に会うの、初めてって言っていたな。」


「はい。今回初めて見ました。本当に小さいのですね。

こんなにも小さな種族を攻めるなんて…許せません。」


御者をしながら、手綱をギュッと握り締めるニル。


「確かに小さいけれど、彼らには彼らなりの生存術があるから、悲観する事は無いよ。」


「生存術ですか?」


「彼らは決して弱い種族じゃないよ。

…って、彼らの心配より、俺達が先に生存する必要があるみたいだな。」


太い木の根元から、一つの大きな影が現れる。


「オーガです!」


「二人を頼む!」


ニルが叫ぶと同時に馬車から飛び出し、オーガの前に躍り出る。


緑色の体躯は二メートル近くあり、全身が分厚い筋肉で覆われている。口の中には、上下に生える大きな牙と、手には鋭い爪。Bランクに指定されるモンスターであり、物理的な攻撃力は恐ろしく高い。それに加えて魔法まで使う。

よくゴブリンの親玉的な感覚で捉える人も居るが、俺から言わせてもらえば、完全な別物だ。そんな甘い考えで相手をしたら、痛い目をみる程度では済まなくなる。


「オーガ!?」


「こんな場所にどうして!?」


「ご主人様!」


のそりのそりと歩いてくるオーガの右手には、どこかから拾ってきたのか、それとも魔法で作り出したのか、石柱が握られている。

口からは真っ赤な血が滴り、喉から胸へと流れている。

血はオーガのものではなく、左手に握られている獣人族の死体のものだろう。冒険者なのか、商人なのか…首から上しか無くて判別は不可能だ。


「まだ練習が足りないと思っていたところだったんだ。練習台になってもらうぞ。」


「グガキッ…ガッ!」


左手に持った生首を、俺の顔面目掛けて投げ飛ばす。俺は顔が入れ替わると元気になるアンパン男ではない!


グジャッ!


後方でスイカが潰れる様な嫌な音がする。


「グガッ!」


ブンッ!ブンッ!


木の棒でも振り回しているように軽々と石柱で殴り付けてくる。しかし、死聖騎士との戦いで目が慣れたのか、その攻撃のどれもが遅く感じてしまう。


刀を縦、横と順に振ると、まずはオーガの腕が飛び、次に首が飛ぶ。


オーガの肉体は筋肉で覆われている為、断ち難いと言われているが、ブラウンスネークと比べればどうということはない。

ビッと刀に付着した血を振り払い、鞘に納める。


「危ない!!」


カラの声で、やっと、オーガが一体で無いことに気が付いた。

俺の真後ろ。少し離れた所から巨石が真っ直ぐに飛んでくる。魔法を使ったらしい。


「っ?!」


ガンッ!ガラガラッ!


衝突音と、巨石が砕け落ちる音がする。


「…これは…」


激しい音がしたにも関わらず、俺の体には一切の衝撃が伝わって来なかった。それもそのはず。俺の目の前には、石で出来た壁が垂直に形成されているのだから。


「考えるのは後だな!」


残ったオーガも、不意打ちでなければ大した相手ではない。息をしていられたのは、数秒の間だけ。


「…なんとかなったな。まさか二匹居たとは…」


「ご主人様!」


刀を納めると、直ぐに走り寄ってくるニル。表情が曇っている。


「ニル。さっきは助かった。まさか魔法が使えるとはな。言ってくれれば良かったのに。」


「も、申し訳ございません…言うタイミングが無くて…」


「聞かずに使えないと判断していた俺も悪いが…」


大岩によって半壊した石の壁を見る。

初級土魔法のストーンウォールだ。難しい魔法でも無ければ、珍しい魔法でもない。使える事自体に疑問は無い。ただ、小さな女の子が使い、魔力が余っているというのは珍しい。

この世界では、魔力も使ったら使った分だけ成長していく。それはプレイヤーだろうが、NPCだろうが、設定は同じだったはず。

プレイヤーが作り出したキャラクターとは違って、NPCには、生まれつき魔力が多かったり、無かったりの個人差がある。だが、いくら魔力が多かったとしても、この歳で、しかも奴隷としての時間が長かった少女が、初級魔法を使ってフラつきもしていない。

防護魔法についてもそうだが、普通の少女では無さそうだ。


「……今はニルが魔法を使えるという事が分かっただけで十分だ。質問は止めておこう。」


ニルの申し訳なさそうでありながら、質問を怖がっている様な顔を見て、話題を変える。


「カラ、ライ。この辺りにオーガが出るという情報は無かったはずだが…?」


「僕達は基本的に菌糸の森からは出ないから、詳しい事は分からないけれど…少なくとも、街道沿いにオーガが出現するという話は一度も聞いた事が無いよ。」


「私も。」


カラもライも、何が起きているのか分からないという顔をしている。


「前に来た時も、この道沿いは出てきてもCランクのモンスターだった。」


「……もしかすると…神聖騎士団の連中が菌糸の森付近を荒らしたせいで、オーガが出てきてしまったのかも。街道から外れた所にはいくつか林や森があるから。」


「いや、一つ二つ荒らされたくらいでオーガが街道まで出てくるなんて有り得ないだろ。」


「……僕達がここに来るまでの間…いくつかの森や林…そして村があった………痕跡だけ……」


ライの言葉に、カラも暗い顔をする。


「痕跡だけ?どういう事だ?」


「神聖騎士団の連中が荒らした場所は、痕跡だけを残して綺麗に更地になっていたのよ。」


「多分…焼失したのだと思う。焦げ跡がいくつか残っていたからね…」


「一体なんのためにそんな事を…いや、死聖騎士の事を考えると、まともな思考回路だと思わない方が良いな。理解しようとするだけ無駄か。」


「死聖騎士?」


俺の放った単語に、ライが反応する。


「デルスマークを襲った聖騎士の一人だ。何人かで討伐した。」


「聖騎士を倒したの?!」


「紙一重だったがな。」


「……ライ!やっぱりシンヤ達を連れ行くのは正解だったよ!」


「そうだね。まさか聖騎士と互角に渡り合える人がこんな所に居るなんて思わなかったよ。」


カラは飛び跳ねて喜んでいる。


「その言い方からするに、聖騎士の一人が来ているのか?」


「偵察に出ていた仲間の一人が、黒い刺繍が入った信者服を見たらしい。」


「黒い刺繍か…」


「聖騎士の証でしたよね?」


「そうだ。居る可能性は考えていたが、こんなに近くにもう一人来ているとはな…

それだけ小人族の力を重要視しているという事か。」


「小人族の力ですか?」


「その話は先に進みながらするとしよう。」


「はい!」


その後、菌糸の森へと馬車を走らせているニルに、小人族の話を続ける。


「小人族は他の種族よりずっと非力で、魔力も少なく、数も少ない。しかし、今まで淘汰とうたされずに種族として残ってきたのには理由があるんだ。」


「何か特別な力があるのですか?」


「僕達には、特別な力なんて無いよ。あるのは経験と知識だけさ!」


ドンッと胸を叩くライ。小人がやると可愛いな。


「小人族は大昔から菌糸の森に住んでいる種族なんだ。ニルは菌糸についてはどれくらい知っているんだ?」


「菌糸……正直よく分かりません。」


「それでは、僭越せんえつながら僕達が説明致しましょう!」


ニルの前、馬の背に飛び乗ったカラとライが大仰なお辞儀をする。

彼ら小人族は、菌糸の森からは基本的に出ない。体の小さな彼らにとって、外界は危険過ぎる。

外に出ないが故に奴隷という制度は認識していても、奴隷を奴隷として扱わない。日本にいた俺とあまり変わらない感覚を持つ、数少ない種族なのだ。


「菌糸っていうのは、カビやキノコなんかを構成している糸の様な物の事を言うんだ。菌糸、菌の糸。そのままでしょ?」


「菌の糸…菌というのはどういった物なのでしょうか?」


「物を腐らせたり、病気の原因にもなる目に見えない程小さな生き物。と思ってくれれば分かりやすいわね!」


「病気の原因になる小さな生き物…怖いですね…」


「確かに怖いけれど、悪い事ばかりでも無いんだよ。菌を用いた有用な物だって沢山あるんだ。

例えばお酒。あれは菌が腐らせた結果、アルコールを生み出して作られるんだよ。」


「菌がアルコールを?」


「そうよ。腐らせると言うと、嫌なイメージしか出来ないかもしれないけれないけれど、菌が無ければお酒は出来ないのよ。」


「僕達は、人に有用な腐敗の事を、発酵と呼んでいるんだ。」


「発酵…菌って凄いですね。目に見えない程の小さな生き物が、そんな事を出来てしまうなんて、思ってもいませんでした。」


「でしょう?私達は、菌糸の森に生息する沢山の菌を、日々研究して、色々な事に役立てているのよ!当然、お酒だって私達が他の種族に教えたんだから!」


カラはこれでもかと大袈裟おおげさな身振りで自慢気に話す。


「正確には僕達の祖先が…だけどね。」


「凄いです!全然知りませんでした!」


「俺の知る限りでは、パンにもイースト菌っていう菌がいたはずだぞ。パンをふっくらさせるために必要だったはずだ。」


「パンにもですか?!」


「思っているよりも、小人族の研究成果は生活に大きな影響を与えているんだよ。」


「へっへーん!どうだ!」


「カラもライも凄いです!」


カラの堂々としたドヤ顔に、ニルは手を叩いて素直に返す。


「そ、そんなに真っ直ぐに褒められると逆に照れるわね…」


恥ずかしそうに横を向くカラ。なかなか面白い性格らしい。


「人々にとって有用な物を生み出す種族だから、淘汰されないのですか?」


「それもあるが、それだけじゃない。

彼らは菌を誰より良く知っている。特に菌糸の森の事をね。

有用な菌の使い道も、使い道も全てね。」


「危険な…」


「目に見えない程小さな生物なんだ。最初にニルが言ったように、使い方を変えればこれ程怖い物は無いさ。

菌糸の森には多くのキノコが生えていて、その全ての特徴を知っている。菌糸の森で小人族相手に喧嘩を売る事がどれだけ恐ろしい事か……神聖騎士団の連中が攻めているなら、現在進行形で思い知っているだろうな。」


ゴクッっと生唾を飲み込む音がニルの喉元から聞こえてくる。


「多くの種族が彼らの知識と技術を盗もうとしたが、今まで一度たりとも成功した者はいない。だからこそ、聖騎士が来たんだろう。」


「ぬ、盗まれたりしたら…」


「考えたくも無いな。」


「急ぎましょう!」


事の重要性に思い至ったニルが馬を走らせる。


今はちょうど道程みちのりの半分を消化したところだ。

カラとライも明るく振舞っているが、内心、気が気では無いだろう。俺にどれだけの事が出来るかなんて分からないが…少しでも早く状況を把握しなければ…


気持ちばかりが急いてしまうが、もう一つ確認しなければならない事が残っている。


その日の夜。夕食を終え、カラとライが眠りについた後……焚き火の前で顔を伏せるニルに声を掛ける。


「…ニル。」


「っ!!」


強く目を瞑り、怒られる前の子供そのものだった。


「何を怯えているか知らないが、俺は怒る気なんか無いぞ。」


「…えっ?!」


俺の顔を見上げて驚きを隠せないでいる。


「意外そうだな。」


「そ、その…魔法が使えること…黙っていました…」


「ニルは見た目よりずっとしっかりしている。何か理由があったのだろう?それとも、本気で俺をおとしめようとしたのか?」


「そんな事は断じてありません!ご主人様を貶めようなど!」


その目は真剣だった。最初から疑ってなどいなかったが。


「信じるよ。そんな事思っていないさ。黙っていた理由があるんだろう?」


「……魔法を使える奴隷は…貴重ですから…」


「…そういう事か。害する事が出来ない魔法を掛けられたニルが、魔法を使える。それを知った俺が高値で誰かに売り飛ばすかもしれないと考えたのか。

確かに買った時の倍…いや三倍以上の値はつくだろうな。」


「……」


俺の言葉に下を向いてしまうニル。少し意地悪が過ぎたらしい。


「そんな暗い顔をするな。ニルを売る気は微塵みじんも無いから。」


「本当ですか?!」


「ニルを連れて行くと決めた時から、そんな無責任な事をするつもりは一切無いよ。」


「…良かった……」


暗くなった顔が明るくなり、ホッとした表情へと変わる。百面相ひゃくめんそう……


「ニル。」


「…はい。」


「俺はパーティをずっと組まずに来た。理由は…また話す機会があれば話すとして、今回伝えたいのは……

言いたい事があるならなんでも言ってくれないか?」


「言いたい事……」


「奴隷という身分で生きてきたニルには難しい事かもしれないが、俺はニルが嫌がる事はしないし、話したくない事を無理に聞き出したりしない。それは、短い時間しか共に行動していないが、ニルの事を信用しているからだ。奴隷とか枷とか関係無しにな。」


「ご主人様……」


「俺はニルに対して無責任な事は絶対にしないつもりだ。それだけでも、信じては貰えないだろうか。

パーティとして動くなら、信用は何よりも大切な物だからな。

だから、言いたい事は怖がらずに言って欲しい。俺達の旅に関わる事なら尚更言って欲しい。

今回は…魔法が使える事は俺達の戦い方に大きく関わってくる重要な事だから話題にしたが、それだけじゃなく、なんでも言って欲しい。

腹減った!とか、疲れた!とか。なんでも良いんだ。」


「……私は…」


「??」


小さな声で呟くニル。俺は聞き逃さないように耳を澄ませる。


「今まで色々な人の顔色を伺いながら生きてきました。静かに、息をすることさえも慎重に…それが奴隷が生きる為に唯一必要な事でしたから。

いかに他人に対して不快に思われない様に行動するか、いかに人の視界に入らない様にするか。それだけを考えていました。」


「………」


「ご主人様のように、私の事を考えて下さる方は一人もいませんでした。当然です。それが奴隷ですから。

これから先も、一生私はそのように振舞い続けるのだろうと思っていましたし、それが奴隷のあるべき姿です。

でも、ご主人様にお会いして、こんなにお腹いっぱいに食べられて、綺麗な服や靴まで…どれだけの恩を受けたのか、馬鹿な私でも分かっています。

それに加えて、私自身の…奴隷ではなく、ニルバーナとしての事まで……」


「当然だろう。ニルはニルだからな。奴隷として見た事は無い。」


「それが普通でない事は、ご主人様にも分かっているはずです。奴隷がご主人様に意見するという事がどれだけ異常な事なのか。」


「……」


「奴隷の私が…そこまで望んでしまっても良いのでしょうか…」


どこまで踏み込んで良いのか…分からないでいる。そんなところだろうか。


「俺から頼んでいる事なんだが…

重要な事は……望んで良いかどうかじゃなくて、ニルは、そうする事が嫌か?」


「嫌なんて事はありえません!私には勿体ないと言いますか…」


「ならそうしてくれ。俺からの願いだ。」


「……分かりました。ご主人様の願いとあらば。」


ニルは微笑を浮かべて、俺の目を見てくれる。


「助かるよ。

それじゃあ早速なんだが、ニルはどれくらい魔法が使えるんだ?見たところ、初級魔法一回程度なら魔力量的には余裕に見えたが。」


「選んで使えば、中級魔法数回分はあります。」


「それは心強いな。そうなると、後方支援という形も作れるな。」


「私はご主人様の前で盾になりたく思いますが…」


「ニルの体格では盾役は難しいかな…それよりも…」


こうして俺とニルの戦術を語り合う夜が更けていった。


やはり二人になると、戦術の幅は大きく広がる。

ニルが魔法を使えるという事も大きい。例え初級の魔法だとしても、使えるのと使えないのとでは全く次元の違う話になる。

ニルの援護が有れば、今までよりずっと楽に戦えるはずだ。


その考えが正しい事は、次の日直ぐに分かった。


道すがら出てくるモンスターが増えだし、何度か戦闘を行ったが、かなり楽に倒せた。まだまだぎこちない連携だが、数をこなせばそれも変わっていくだろう。

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