第28話 次なる目的地

「出る前に挨拶をしに来たんだ。」


「わざわざありがとうございます。」


「いえいえ。」


コンコン…


「はい。」


ガチャ…


「ドルトーさん!」


「シンヤさん。」


扉を開いたのはドルトーさん。このギルドのマスターであり、タヌキ親父だ。


「色々とお世話になりました。」


「いえいえ。こちらはその分儲けさせていただきましたからね。」


「相変わらず商人ですね。」


「はい。商人ですからね。

この街を出るのですか?」


「はい。」


「そうですか。寂しくなりますね。」


「またこの街に来た時は必ず顔を出しますよ。」


「よろしくお願いしますね。」


ドルトーさんはにこやかに返してくれる。タヌキ親父め…


「シンヤさん。登録証をお貸し頂けませんでしょうか…?」


ヒュリナさんからの突然の申し出。何か言いたいようだ。


「登録証を?」


「……私を、シンヤさんの専属商人に立てては頂けませんでしょうか。」


「専属商人?」


「専属商人というのは、貴族や店と、商人の間に結ばれる契約です。この契約が結ばれた場合、商人は、多額の報酬を受ける代わりに、その店や貴族から要求された物をどんな物であれ、全て揃えなければならないという義務が発生します。これは…」


ヒュリナさんが言ったことを要約すると、商人にとってはかなり綱渡りの契約となるし、本当に信頼した相手としか契約は結ばれない、かなり特殊な契約という事だ。変な物を揃えろなんて言われたら大変な事になってしまう。

それよりビックリしたのは、俺はこれから旅に出る。もし俺が旅先で何か揃えてくれとヒュリナさんに頼んだ場合、ヒュリナさんはこの街を出て俺の居る所に来る必要があるという事だ。


「いやいや!そんなのヒュリナさんが!」


「その覚悟があって申し出ております。」


「それに多額の報酬なんて…」


「それについてですが。これからシンヤさんが生み出した技術や物を私が商品化し、契約を結ぶ。これを報酬とさせて頂けませんでしょうか。もちろん取り分は今までと変わらない契約にします。」


「……それだけなら書簡でも伝える事は出来るか…いや、それだけなら別に専属商人にならなくても…」


「….シンヤさんには本当に感謝しているのです。契約の事もそうですが、個人的にも。」


「そんな事で…」


「私にとってはそんな事…ではありません。商人として、そして、一人の女として、シンヤさんに返せるものなど、私は持っていません。

私の感謝をこんな形でしか示せないのですが……」


「……」


「それに、商人として、ここでシンヤさんを手放すのは愚策以外の何ものでも無いと確信していますので。」


ヒュリナさんの中では覚悟が決まっているようだ。


「シンヤさん。うちの副マスターは優秀ですよ。世界的に見ても、ヒュリナさんの右に出る者はほとんど居ないと思います。私が保証します。それでも、不満でしょうか?」


「不満は無いけどさ…」


「商業ギルドに行けば、どの街からでもヒュリナさんに書簡を届ける事が出来ます。シンヤさんとしては、得が多い契約に思えますが?」


ドルトーさんからも援護射撃。


「シンヤさん。私はこの契約を心から望んでいます。」


「…分かったよ。俺の負けだ。」


ヒュリナさんに登録証を渡す。


「ありがとうございます!」


ヒュリナさんが部屋を飛び出していく。


「一個人の、しかも冒険者と、商業ギルドの副マスターがこんな契約結ぶなんて相当珍しいですよね…?」


「控えめに言って前代未聞ですね。」


「本当に良かったのだろうか…」


「シンヤさん。我々商人にとって、何が最も大切か分かりますか?」


「契約とか、儲けじゃないのか?」


「当然それも大切ですが、最も大切なのは…

全てを信用し、全てを信用して貰う事が出来る商売相手です。

掛け値なしに信用出来る相手は、人としても、商人としても、何にも替え難い特別な、大切なものなのです。

ヒュリナさんは、それを本能的に知っています。」


「…だから彼女を副マスターに?」


「人付き合いはまだまだですが、それもシンヤさんのお陰で少しずつ改善してきています。彼女はシンヤさんと共に商売をする事こそが自分の成長に繋がるのだと知っているのですよ。」


「……」


随分と買ってくれているようだ。俺はそんなに凄い人間では無いのだが…


「シンヤさん。無理でも、無茶でも、彼女が必要な時は頼ってやって下さい。それが彼女の為にもなるのです。」


「…約束は出来ないが、善処するよ。」


「本当に、冒険者の方とは思えない程に優しい方だ。」


そう言うと、ドルトーさんは部屋を出ていく。


入れ替わる様にヒュリナさんが戻ってくる。


「登録証をお返し致します!」


「これからもよろしくな。」


「はい!よろしくお願い致します!」


こうしてヒュリナさんと契約を終えた俺は、ニルと共に大通りへと戻った。


「さて。次に向かう前に朝飯だな。ニル。何か食べたい物はあるか?」


斜め後ろにいるニルを見て声を掛けると、少し近寄ってきて、小さな声で俺に言ってくる。


「ご主人様。奴隷だとバレていないとしても、従者に食べたい物を聞くのは…」


「そうなのか…」


うーん。難しい…


「私はご主人様の余り物で十分です。」


「…んーそれだとなー……そうだ!ニル。少しここで待ってろ!」


「ご主人様?!」


俺は少し先に見える出店に走って向かう。

香ばしい肉の焼ける香りと、パンの匂い。

パンの間に肉と野菜を挟んで売る出店だ。何回か食べに来たが、割といける。


「おっちゃん。二つくれ!」


「おう!坊主!また来たか!」


「ここのは美味いからな!」


おっちゃんに二つ分のダイスを渡すと、それを受け取りニカッと笑う。


「嬉しい事言うじゃねぇか!ちょっと待ってな!」


店のおっちゃんはいつもより少し多めに肉を入れて渡してくれる。


「サービスだぃ!持ってけ!」


「良いのか?!ありがとう!」


「また来いよー!」


出店のおっちゃんの声に手を振り、ニルの元に戻る。


「待たせたな。」


「いえ。」


「んー…しまった。」


「どうされたのですか?」


「おっちゃんにオマケしてもらっちゃったから、一人では多くて食べに切れん。食べられて一つだなぁ…そうだ!ニル。一つ食べられなくてんだ。」


そう言ってニルに向けて差し出す。


「困っているんだが、助けてくれないか?」


「……ふふ。はい!ご主人様の為ならば喜んで!」


わざとらしく言った俺に、ニルは笑顔で応えてくれる。


「良いか?これは温かいうちに食べるのが礼儀だ。その礼儀を失する事となれば、主人の名折れ。俺の食べ終わりを待たずに食べるのだぞ?」


「はい!」


人通りの少ない道の端に寄って、買ってきたパンを二人して齧る。


「美味いか?」


「…はい!とても美味しいです!」


「そうかそうか!それは良かった!温かいうちに食べちまうぞ!」


「はい!」


そうそう。これくらいの女の子はそうやって楽しそうに笑っているのが一番だ。うん。勘違いして欲しくないのは、俺は決してロリコンではない。姪を可愛がっているのと同じ様な感覚だろう。姪がいないから分からないが。


「ご主人様。この後は何処へ向かうのですか?」


「まずは服と靴を買おう。その後は冒険者ギルド。最後に貴族街の方に向かおうと思っている。」


「た、沢山知り合いが居られるのですね。」


「成り行きでな。皆良い人だから安心しろ。」


「不安などありませんよ。」


俺の目を見るニルは、本当に不安を感じていない様に見える。ニルの心境に何か変化があった様だ。

俺達は食事を終えると、そのまま子供用の服が売っている店へ向かう。


「いらっしゃいませ。」


店内には他の客はいないらしい。これはラッキーだ。


「これから旅に出るんだが、この子に合う服と靴を見繕ってくれないか?数着あると嬉しい。

それと普段着も何着か頼む。」


「かしこまりました。」


ニルがローブを外すと、店員が一瞬動きを止める。枷を見てだろう。

しかし、何も言わず、顔にも出さず、そのまま採寸する。


「少々お待ち下さい。」


店員がいくつか服を選んで持ってきてくれる。


「着てみろ。」


「はい。」


子供を連れた旅というのはあまり珍しい事ではない。そういう時の為の服というのも大抵の店で取り扱っている。

シンプルで動きやすいデザインに、丈夫な素材。ポケットが付いていたりと、普段着とはまた違う。色も茶色とか黒とか暗い色の物が多い。


逆に普段着となると、フリフリしていたり、スカートだったり。色も赤や黄色等の派手な物も多い。


「んー…これとこれとこれをくれ。」


「ありがとうございます。」


「普段着は分からないから似合うのを四着頼む。靴は旅用と普段着様に二足ずつ。

今着ているのはそのまま着せて行くから合わせてで考えてくれ。」


「かしこまりました。」


何度かニルにどれが良いか聞きそうになったが、なんとか乗り切った。


ニルがローブとフードを羽織り直すと、店内に客が入ってくる。

実際のところ、別にバレたとて問題があるわけでは無い。俺がロリコン変態クソ野郎という認識が広まる事を看過できるのであれば…だが。


俺には看過出来ない!


「全部で…十万ダイスです。」


「っ?!」

「分かった。」


「ありがとうございました。」


店を出た後、邪魔な荷物をインベントリに入れるため人目の無い裏通りへ移動する。


「さてと、これでニルの荷物は揃ったな。」


「あ、あの……」


俺のローブの端を引っ張るニル。顔が信じられないくらい青くなっている。


「どうした?!大丈夫か?!」


「そ、その…服…じゅっ…十万ダイス…」


「子供服は意外と高いとか言うけど、まあこんなもんじゃないか?靴とかベルトとか色々と必要な物も追加で買ったしな。むしろ安いくらいだろ。

旅をするなら必要な物だし、金のことは心配するな。それより、冒険者ギルドへ行くぞ。」


「………」


俺が歩き出すとテトテトと後を付いてくる。

冒険へ一緒に出ると決めてから、これくらいの出費は覚悟していたし、必要経費をケチるつもりは無い。というか、この程度痛くも痒くも無いし。


冒険者ギルドへは、当たり前の顔で裏口から入った。


当然。入った瞬間にイーサから怒られたが。


「それで?その子は?」


「えーっと、話すと長くなるんだが、連れて行く事にした。」


「連れて行くって……シンヤ。今から行く旅がどんな旅かくらい分かってるだろ?」


「何があったにしろ、こんな小さな子を………って、もしかして!」


イーサがニルのフードを外すと、首に付けられた枷が見える。


「シンヤ……」


「いや。誤解だぞ?イーサの想像しているような事では決して無いぞ?」


イーサが拳を震わせて俺を殴ろうと前に出た時。


「………」


俺の前に無言で両手を広げて立つニル。


「ご主人様を傷付けようとする者は、例えそれが友であっても、許しません。」


「………」


「…………」


「なるほどな。大体理解した。」


「え?」


イーサが拳を引っ込める。


「奴隷ってのはな。こういう時、二種類に別れるものなんだ。

自分の主人を守らねば、後で自分が酷い目を見るから仕方なく体を張っている奴と、自分の命よりも主人の命の方が本当に大切だと思って体を張っている奴。

この子は間違いなく後者だ。目を見れば分かる。

少なくともシンヤが無理矢理この子を連れて行こうとしているわけではなさそうだ。」


「むしろ逆です。私が嫌がるご主人様に、無理矢理連れて行って欲しいと頼み込みました。」


「……奴隷紋の無い奴隷か。

何か事情があるんだろうが、付いて行く以上死ぬ覚悟は出来ているんだろうな?」


「はい。」


二人の間で真剣なやり取り。俺、蚊帳の外。


「……なら良い。

まさかシンヤがこんな小さな女の子をねぇ…変態。」


「違うからね?!間違いなく誤解だからね?!」


「くっははは!シンヤは変態だったかぁ!」


「声デカいからな?!そして変態じゃないからな?!」


ガチャ…


「シンヤ様は変態だったのですか?」


「プリトヒュ?!」


悪意ある登場。勘弁してくれ。


「外まで聞こえていましたよ?」


「イーサ!このっ!」


「あら。可愛い子が……なるほど。シンヤ様は変態だったのですね。」


「シンヤ!貴様なんということを!」


「頼むから話を聞いてくれぇ!」


「くっははははは!」


プリトヒュとリサにも説明して、なんとか誤解を解いた。


「という事で、俺とニルで旅に出る。準備もほぼ整ったからな。これから出るつもりだ。」


「シンヤ様。馬車は用意したのですか?」


「いや。今から探そうかと思ってたところだが。」


「であれば、私が用意させた馬車を使っては頂けませんでしょうか?」


「プリトヒュが…?」


真っ白な馬車が頭に浮かんでくる。


「大丈夫ですよ。の馬車ですから。」


「良いのか?」


「これくらいの援助はさせて下さい。」


「助かるよ。」


「はい!」


プリトヒュとリサの後ろから、裾がボロボロにほつれた茶色のローブに身を包む獣人が現れる。


猪の獣人で、フードから覗く少し長めの茶髪、茶色の瞳。細長く、先にボンボンの様な毛を付けた尻尾の男性だ。


「彼はナーム。私とシンヤ様を繋ぐ為の伝令役の隊長です。」


「ナームです。よろしくお願い致します。書簡や伝言をお伝えして頂ければ、必ずプリトヒュ様にお伝えします。」


「シンヤだ。よろしく頼む。」


俺の言葉に頭を下げるナーム。


「ナーム。用意させた馬車を裏口に頼みます。」


「はっ。」


ナームはきびすを返し外へと出ていく。


「さて、まず俺はどこに向かえば良いんだ?」


「現状、早急な援護が必要とされているのは、南西にある菌糸の森です。」


「菌糸の森か…確か小人こびと族の住処すみかだったな。」


「はい。小人族は数が少なく、善戦しているものの、危うい状況にあるとの事です。」


「ここから馬車だと一週間ってところか…急がないとな。」


「これから先、スムーズに事が運ぶ様に、これをお持ち下さい。」


プリトヒュが手渡して来たのは、丸められ、紐で結ばれた書簡。


「これは、父である獣人族王の後ろ盾がシンヤ様にある事を記した書簡です。」


「族王の?」


「父に今回の件を報告したところ、上手く使って欲しいとこの書簡が届けられました。」


「それはありがたい。慎重に使わせて貰うよ。」


プリトヒュの手から書簡を受け取る。


「菌糸の森へ向かわせる兵は…」


「この街の守りを解いてまで向かわせるのは厳しいか。」


「…申し訳ございません……父に兵を回して貰える様に進言しておりますが……父の居場所はここからでは遠いので…」


「来る頃には更地になってるだろうな。」


「………」


「やれるだけの事はやってみるさ。元々一人でやろうとしていた事だ。プリトヒュが落ち込む必要は無い。」


プリトヒュとしてもやり切れない思いなのだろう。仕方の無い事だとも思うが…


「行くか?」


「あぁ。元気でな。イーサ。」


「ご武運を…」

「気をつけろよ。」


「プリトヒュも、リサも元気でな。」


三人と別れを済ませ、ナームの用意してくれた馬車に乗る。貴族街に行く必要は無くなった。


「シンヤ様。これを。」


旅立とうとしている俺に、ナームが何かを手渡してくる。


「これは?」


「我々を呼ぶ為の笛です。何か用がある時は吹いて頂ければ私の隊の者が参上致します。」


見た目は木彫りの小さな筒状の笛。犬笛の様にも見える。


「分かった。」


笛を受け取ると、数歩下がって頭を下げる。


パシン!


ニルの持った手綱によって馬車が走り出す。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



その頃、菌糸の森付近では…


「おい。」


「は、はい!」


「まだ進めないのか?」


「それが…なかなか厄介な森でして……」


「めんどくせぇ場所だな……さっさとここを制圧してデルスマークに行かなきゃなんねぇのによ。」


「……」


「あのクソチビが死んだりするから俺の仕事が増えちまったじゃねぇか。弱いくせに出しゃばるからこんな事になるんだよ。

めんどくせぇ……」


「き、気をお鎮めください!我々が必ず突破してみせますので!」


「……だったら早くしろ。俺は寝る。起きた時進展してなければお前達の事も導いてやる。」


「必ず!」


「あーめんどくせぇ。」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「今日もいい天気だなぁ。」


「ポカポカしていて気持ちが良いですね。」


デルスマークを出て、既に四日が経っていた。

草原と僅かな木々が乱立している地帯が続いており、視界はかなり開けている。急いではいるが、馬の体力もあるから限界はある。


「毎日御者やらせてすまないな。」


「いえ。私が望んだ事ですから。」


俺も御者を学ぼうかと思っていたのだが、ニルは私の仕事ですからと、手網を渡してくれなかった。

その顔に仕事を取らないで!と書いてあったので、それ以上何も言えず、荷台で寝転ぶという日々が続いていた。


「モンスターも全然現れませんね。」


「臆病な奴らが多いみたいだな。来ないならその方が楽で良いだろ。」


「はい。ご主人様は何をなさっているのですか?」


「俺はインベントリの中を眺めて何か作れないかなぁと思案中だ。」


「ご主人様はその様な事まで出来るのですね。」


「子供の遊びみたいなものだけどな。

ニルの防具でも作れないものかなぁ…」


「私の防具ですか?ご主人様の貴重な素材を私の為に使うのはダメですよ。」


「どんな基準で言ってるのかなんとなく分かるが、前も言ったように、ニルが危険から遠ざかった分、俺が戦いやすくなる。あまり気にするな。」


「は、はい…」


「と言っても、まずはニルが体力を取り戻さないとな。」


「体力ですか?」


「ずっと食べて来なかったせいで体が痩せ細ってるだろ。そのせいで短剣にも振り回されているしな。」


「うっ…」


「よく食べて体力を戻せば振り回される事も無くなると思うぞ。」


「は、はい。頑張ります!」


ガラガラと車輪が土を踏み付ける音に混じり、何かの音…いや、声が聞こえてくる。


「声…?」


荷台から顔を出してみるが、周りには何も見えない。


「どうかされましたか?」


「今声が聞こえなかったか?」


「声…ですか?」


ニルが馬車を止め、耳を澄ましてみる。


「………」


「…………」


「あっ!確かに何か聞こえました!誰も居ないのに……」


「話し声みたいだな。」


「どこから聞こえてくるのでしょうか?」


「んー……」


道の左右に広がる膝程の高さを持った雑草。

ポツポツと立っている木。


誰か居れば見えるはずだが…


それに、話し声はどこか焦っている様な雰囲気を受ける。放っておいても良いのだが、気になる。


「少し調べてみるか。」


「分かりました。」


ニルが近くの木に寄って馬を繋ぐ。


「声は向こうから聞こえてきますね。」


草の生い茂る奥の方。細い木が立っている辺りだ。


「行ってみよう。」


「はい。」


別に悪い事をしているわけでもないのに、何故か足音を消してしまう。


「…………のよ!」


「そんな事………」


近付くと話し声は明瞭になっていく。


「やっぱり誰か居るみたいですね。」


「姿が見えないのに不思議だな…」


更に声のする方へと近付いていく。


「だから!絶対向こうだって!」


「その根拠がよく分からないって言ってるのよ!」


木の根元。そこには掌程の大きさの人。つまり、小人が二人立って言い争いをしていた。

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