第三章 小さき戦士

第24話 金と全力

「俺はどこかの兵に組み込まれるのか?」


「いえ。シンヤ様は今まで通りに、冒険者として、思う様に動いて下さい。」


「自由だな…」


「兵に組み込むと、種族間の事等で色々と面倒がありますので。寧ろ冒険者という身分であるシンヤ様だからこそ協力をお願いしたいのです。」


「自由に行き来出来る奴が欲しいわけか。」


「言い方は悪いですが…その通りです。」


「分かった。元々ソロプレイヤーの俺にはその方が向いてるしな。」


「ソロプレイヤー?」


「こっちの話だ。気にするな。

つまり、俺はこの街を出て、世界各地を回る。それがこの街やポポルを守る事に繋がるわけだな。」


「……はい。酷な事をお願いしていることは承知しております…」


「やれるだけの事はやってみるさ。」


プリトヒュ達、獣人族の王族が後ろ盾になってくれるなら、当初考えていた事よりずっと大きな事が出来る可能性がある。


「……はぁ……シンヤは……はぁ…」


イーサが何度もわざとらしく溜息を吐く。


「そんな溜息吐かなくても良いだろ…?」


「良いか?絶対に死ぬなよ!分かったな?!」


「お、おう……」


「なら良い!あたしはギルドに戻る!」


バタンッ!


怒ったイーサが乱暴に扉を閉めて出て行ってしまった。


「…ふふふ。イーサ様も可愛いところがありますね。」


「姉さんらしいです。」


可愛い………?


「あ、そう言えば。神聖騎士団の連中が隠れていた屋敷って、誰のものだったんだ?」


「ナイサールという貴族のものでした。」


「出た!ナイサール!」


「なんだ?知っていたのか?」


「前にちょっと色々とあってな。あいつのせいで貴族が嫌いになったんだ。いけ好かない奴だったが、神聖騎士団と繋がってたとはな…本人はどうしたんだ?」


「恐らく、戦闘か始まる前にはこの街から逃げたと思われます。既にこの付近には居ないでしょう。

彼の罪はとても重いもの。見つけ次第捕えるつもりです。死刑は免れないでしょう。

それは他に逃げた貴族達も同様です。思った以上に神聖騎士団の根は深く広いみたいです。私の方でも父と連絡を取り合って入り込んでいる者達をあぶり出してみるつもりです。」


「逃げた奴らは戻って来ないだろうな……」


「見付けたら死刑の前に私が斬ってやる!」


「リサ。言葉が過ぎますよ。」


「うっ……」


リサはいつになったら落ち着くのだろうか…


「シンヤ様。この屋敷は自由にお使いください。」


「分かった。ありがとう。」


「いえ。それと、この街を出る際には、またお声掛け下さい。」


「了解した。」


「それでは。」


プリトヒュが一つ頭を下げ、リサと共に出ていく。


「……俺の力…ねぇ。」


左肩に残る傷に手を当てると、ズキズキと痛む。


「もっと頑張らないとな……」


今回の死聖騎士との戦い。武器が砕けたのは、全力の…最後の一撃の前に、何度も攻撃を受けた事が原因だ。

攻撃を受ける事は出来たが、反撃は出来なかった。


もし、死聖騎士が俺でなく、イーサを執拗に狙っていたら…俺を無視して後ろの兵士やリサ達を狙っていたら…


「全然足りていないな……」


ベッドから降りて部屋を、そして屋敷を出る。自由に使ってくれとは言われたが、俺には豪華過ぎる。


「よし!激しく動けなくてもやれる事はある!」


俺はまず、商業ギルドへと向かう。


「シンヤさん!」


カウンターに近付くと、俺に気が付いたヒュリナさんが駆け寄ってきてくれる。


「体は大丈夫なのですか?!倒れたとお聞きしましたが!」


「大丈夫大丈夫。それより、今回はありがとう。ヒュリナさんのお陰でかなり被害が小さく済んだって聞いたよ。」


「いえ。私達は戦う事が出来ませんから…出来ることをしただけですよ。」


「出来ることをした…か。」


「シンヤさん?」


俺の態度にヒュリナさんが不思議そうな顔をする。


「いや、なんでもない。俺も出来ることをしようかと思ってな。工房を使わせてもらっても?」


「何か作るのですか?!」


「食い付き凄いなっ?!」


「良い香りがします。」


「お金の匂いですか?!商人怖いっ!」


「ふふ…」


横に居た受付嬢が口に手を当てて笑っている。


「??」


「あっ!申し訳ございません!」


隣の受付嬢が頭を下げながらも笑っている。


「ヒュリナさんのせいで笑われ者になった…」


「私のせいですか?!」


「ふふふ。副マスターってやっぱり可愛いですね。」


「そ、そうかな?」


「はい!」


彼女が前にヒュリナさんの髪型に触れた人だろうか。ヒュリナさんも普通に喋れている。


「副マスター。ここは私に任せて下さい!」


「良いのっ?!」


「はい!」


「俺の意見は無視か…まあ良いけどさ。」


「行きましょう!」


最初に会った時と比べると、随分雰囲気が変わった。きっと横にいた彼女のお陰だろう。

ヒュリナさんの前にあった長蛇の列…本当に彼女だけで大丈夫だろうか…?


工房は小さいものだったが、俺一人が使うくらいならば事足りる。


「それで、何をお作りになるのですか?!」


「テンションぶち上がってんな……

今回は、販売を目的とした良い物を作ります!」


「販売を目的としたっ?!」


「上手く出来たらヒュリナさんに売ってもらうつもりだったから、来てもらって逆に手間が省けたよ。」


俄然がぜんやる気が出てきました!」


「それは良かった。結構大変な作業があるからね。」


これから色々と面倒な事に首を突っ込んでいく事を考えると、必要になってくるものがいくつかある。


第一に、もっと体を上手く使いこなし、いつでも全力戦闘が出来るようになる事。

第二に、自分の限界を知ること。

そして第三に、金。


この三つは確実に必要になる。


前の二つは言わずもがなだが、金は何をするにもあったほうが良い。既に結構な額を持ってはいるが、使い方次第では直ぐに無くなる。金とはそういうものだ。

だからこそ、定期的に入る収入源は必要不可欠。今回はその為に作りたいものがある。


「使うのは、まずこいつ。」


背負っていたバッグから荷物を取り出す。


「これは…あぶらですか?」


「そうだ。動物型のモンスターには必ず入っている部位だな。ラードとも呼ばれる部分だ。」


この世界の脂の使い道は、食用はもちろんのこと、ランタン等に使われている固形の油や、扉等の木材の滑りを良くするための潤滑剤じゅんかつざいとしても使われている。


ただ、そのどれもがそのまま使われていて、加工するという概念は無い。


「あとは、これと、これ。」


「これは…海藻ですか?」


「よく知ってるね。この辺は内地なのに。」


「ポポルの東側にある内海で取れた海藻を乾燥させた物がたまにこの街に入りますので。ですが…生の海藻をシンヤさんはどうやって?」


「ドルトーさんがマスターなら知っているだろうけど…俺は渡人。インベントリって魔法が使えるんだ。

前に手に入れた海藻をインベントリにね。」


「そうだったのですか?!」


口に手を当てて驚いているヒュリナさん。


「あれ?聞いてなかった?」


「はい……」


「てっきり話しているものだと思ってたけど…」


「き、聞いて良かったのでしょうか…?」


「ヒュリナさんなら問題無いよ。誰にも言わないで欲しいけど。」


「承知しました。それで…こちらは…アーマーベアの外殻でしょうか?」


「その通り。これは貝殻でも良いから、デルスマークで作るなら手に入りやすい貝殻の方がいいかもね。」


「ゴミでしかない貝殻を使うのですか…」


「じゃあ、この三つを使って良い物を作ります!」


「どんな物が出来るのか全く想像できませんが…」


「きっとヒュリナさんも気に入ると思うよ。早速作っていこうか。」


「頑張ります!」


ナトリウム成分の多い土壌で育った海藻の灰からは炭酸ナトリウム。

貝殻と同じ素材で出来ているアーマーベアの外殻からは水酸化カルシウム。

この二つを混ぜて作られるのは、炭酸カルシウムと、水酸化ナトリウム。

水酸化ナトリウムは別名、苛性かせいソーダと呼ばる危険な物だ。取り扱いに気を配る必要があるが、それさえ気を付ければ……ラードから煮出した油に加えると固まり、石鹸せっけんを作る事が出来る。

と言っても、分量の調整は割と面倒だった為、結構な時間が掛かってしまったが…


「これが石鹸…ですか?」


「これで体を洗うと、とっても綺麗になるんだ。使ってみて。」


「わわっ!凄い!

でも…少し油臭いですね…」


ヒュリナさんの、汚れていた手が見る見る綺麗になっていく。


「香り付けしてあげればそれも解決だろうな。」


「こ…これは!売れますよ!」


「ふっふっふっ。どうだ!」


「凄いです!」


両手を叩いて喜ぶヒュリナさん。それは俺に対する拍手…で良いよな?


「平民には必要の無い物だし、貴族を中心に売る事になると思う。ガッツリ金を稼いで欲しい。」


「ふっふっふっ。お任せ下さい!今すぐ契約を!」


「ヒュリナさんに任せるよ。」


「ありがとうございます!」


それから直ぐに契約の話を詰める。まだまだ改善の余地はあるが、石鹸の基盤は出来上がった。

これである程度の収入源は確保出来た。後はヒュリナさんがどれだけ売り込めるかだが、そこは心配無用だろう。


「本当にシンヤさんは凄い人ですね…」


「いや、昔先生に習った方法だから、俺から生み出された物じゃないよ。」


「そんな凄い方がいらっしゃるのですか?出来ればお名前だけでもお聞かせ下さいませんか?」


「えっ?!えーっと…グー〇ル先生。」


「グー〇ル先生…聞いた事ありませんね。グー〇ル先生…」


「俺が悪かったから…そんなに連呼しないで…」


これにて三つのうち一つは取り敢えずクリア。

後の二つは俺自身の頑張り次第だ。


翌日、冒険者ギルドへと向かう。

直ぐにイーサが駆け寄ってきてくれる。


「シンヤ!傷はどうだ?」


「イーサ。もう大丈夫だ。」


「シンヤの作ったっていう傷薬。本当に凄いな。あの大怪我がこの時間で治るんだから。」


「俺の収入にもなるから、これからも愛用してくれよ?」


「なんかしゃくだが…良い物は良いからな。それより、今日はどうした?」


「ちょっと自分を鍛えようと思ったんだが、折角ならクエストを受けようかとな。

討伐依頼ってあるか?出来れば簡単な物が良い。」


「肩口に風穴空いたばっかりだってのに何言ってんだこの馬鹿!じっとしてろ!」


「いや、もう治ったぞ。」


肩を回して見せる。


「自分鍛えたいだけなら訓練所使えば良いだろ!」


「いや。色々な環境下で、モンスター相手に試したいんだ。」


「……はぁ。シンヤも大概頑固者だな…分かった。いくつか見繕みつくろってやるから待ってろ。」


「え?イーサが見繕ってくれるのか?」


「シンヤの現状とか実力とか、色々と把握している方が良いだろ。分かったら黙って待ってろ。」


「お、おう。」


何かをブツブツ言いながらだが、クエストを選んでくれるイーサ。なんだかんだ言いながら、一番面倒見が良いんだよなー。


「ほら。この中から一つ選びな。」


「んー……そうだな…」


「おっ!シンヤもこのクエスト受ける気なのか?!」


横から手を出してきたのは、ディニズ。


「俺達も受けようと思ってたんだよ。ブラウンスネーク。」


「ディニズ!」


「あれだけ派手な戦闘があったのに、直ぐにクエストなんて、働き者だねぇ。」


「ディニズ達も同じだろ。」


「ははっ!違いねぇな!

それより、ブラウンスネークはBランクのモンスターだぞ?」


「シンヤは先の戦闘で活躍してくれたからね。Bランクに昇格したんだ。あんた達と同じにな。」


「そうだったのか?!」


本当はイーサに頼んでCランクのままでいさせて欲しかったが、目撃者があれだけ居たとなると、隠すのは難しい。諦めてBランクに昇格した。


「残念ながらな…」


「ははっ!こりゃ良い!それなら一緒に行かないか!?」


「討伐クエストにか?」


「一緒にクエスト行くって約束してくれたろ?」


「そうだな……分かった。行こうか。」


「おいっ!シンヤ?!」


イーサは俺の素性の事で、心配をしてくれているらしい。


「大丈夫。チャムの三人には色々と話をしてあるからな。」


「そ、そうだったのか。」


「ギルドマスターと仲良く話すとか、シンヤって本当に不思議にゃ。」


「そうか?」


「…ディニズ。」


「はい?」


「シンヤの実力はどれくらいか知ってるのか?」


「強いだろうなって事は知ってるぞ。間違ってもDランクやCランクの実力じゃないだろうな。」


「…その程度の認識か。」


「へ?」


「シンヤ。」


「なんだ?」


「悪いんだが、この三人に実力を見せてやってはくれないか?」


イーサの目は本気のようだ。


「どういう事ですかにゃ?」


「お前達三人はこのギルドの若い連中の中でも期待しているからな。実力も上がってきているし、性格も好ましい。だが、まだまだ必死さが足りない。

だから、本当の強者というものを一度見ておくと良い。目標が出来れば姿勢も変わる。」


「シンヤが目標って事か?」


「少なくとも、私を目標にするよりずっと高いぞ。」


「えっ?!」


「隻眼の女豹にここまで言わせるにゃんて……」


三人は俺とイーサを何度も見比べる。


「いや、さすがにそれは持ち上げ過ぎだから。まだまだ足りていない。剣もろくに振るえてないくらいだからな。」


「それでも、刺激にはなるだろ。街を出る前に、商業ギルドだけじゃなくて、冒険者ギルドにも貢献してくれないか?」


ここまで言われたら断るのは難しそうだ。


「…貢献出来るように善処するよ。」


「くっははは!よし!決まりだ!」


嬉しそうにカウンターから離れて奥に消えていくイーサ。


「うーん……ギルドマスターは今日もセクシーだったな。」


指を加えてイーサの後ろ姿を目で追うディニズ。


「ディニズ。死ぬにゃ。」


「なんだと?!あの格好を見ておいて感想を言わない方が失礼だろ?!」


「言うなら本人の目の前で言うにゃ。」


「バカかっ?!そんな事したら間違いなく昇天するぞ?!」


「いっそ昇天した方が世のためにゃ。」


「だす。」


「ベルドまでかよっ?!同じ男として同意するだろ?!なっ!シンヤ!?」


「イシテリア。このブラウンスネークはどこに行けば会えるんだ?」


「それはだにゃー。」


「あっ!おい!無視するな!置いてくなー!」


かくして俺とチャムの三人はブラウンスネークが出没しているという、デルスマーク西へと馬車で向かう事となった。

場所は、先の事件で被害のあったシデ村のもう少し奥にある小さめの沼地地帯だ。


「本当に良いのか?」


「大丈夫だ。」


「折角馬車を用意したんだから乗れば良いのにゃ。」


俺は馬車に乗らず、走っていく。


「全力に慣れるために、走る必要があるんだよ。」


「全力に慣れる…?」


「疲れたら乗せてもらうから大丈夫だ。」


「よく分からんが、分かった。シンヤがそう言うなら従おう。」


街から離れ、人が居なくなった所で馬車を降りる。


全力を出して走ると、意識や体の操作が慣れておらず、ド派手にコケる。それはもう盛大に。

これを克服するには、何度も挑戦して慣れるしかない。


パシンッ!


ディニズが馬に手網たづなを打ち付けると、馬が前へと進み出す。


「右足を出して、左足を出す。それを繰り返すだけがこんなに難しく感じる日が来るとはなぁ……」


足にグッと力を入れて地面を蹴る。

自分の予想を遥かに超えるスピードで体が前身し、足を動かす意識が追い付かない。


ズガガガガガガガッ!

「どんごぼれぷろぽ!」


「なんだっ?!敵か?!」


「凄い音がしたにゃ!」


盛大にコケた。


地面の上を数メートル転がり、先に行った馬車の前まで行くとやっと止まった。


「な、なにしてんだ?」


「いや。ちょっとアクロバティックな進み方を研究してるんだ。気にするな。」


「確かにアクロバティックな格好だにゃ…」


ステータスのお陰で痛くは無いが、精神的なダメージが大きい。


「何のこれしき!」


ズガガガガガガガカッ!


「負けるな俺ぇぇ!」


ズガガガガガガガカッ!


「な、何故だ…死聖騎士と戦った時は上手くいったのに…

いや、一度出来たんだ。必ず出来る!

信じる者は救われ」

ズガガガガガガガカッ!


「……シンヤが狂ったにゃ…」


「きっと辛い事があったんだ。見て見ぬふりをしてやるのも、友の務めだぞ。」


「そう…だすな。」


ズガガガガガガガカッ!


「もう少しな気がするな…もっと速く足を回転させるべきか。」


「逆さまになって独り言なんて、余程辛い事があったのにゃ…可哀想にゃ…」


その後、何度かコケた後、遂にその時が来た。


「想像よりずっと速かったから感覚が分からなかったが、やっと掴めてきたな。次で成功させる!」


右足で地面を蹴り、左足を前に出す。そして右足、左足………


「来たぁぁぁぁぁ!」


あっという間に馬車を追い越して数メートル先まで走り抜ける。


「なんだっ?!」


「速いにゃ!」


「これが全りょ」


気を抜いた瞬間。俺の体が宙に舞う。


ズガガガガガガガカ!

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


「顔面から行っただす。」


「潔いコケ方だな。子供以外であんなコケ方する奴初めて見た。」


「ダメにゃ…シンヤはもう手遅れにゃ…」


「聞こえてるっての!誰が手遅れだ!」


「アクロバティックな姿勢で凄まれても怖くないにゃ。」


「でもコケる前までは凄かったぞ。人ってあんな速度で走れるんだな。」


「確かに速かったにゃ。」


「ふっふっふっ。シデ村まではもうすぐだし、一気にそこまで行くか!」


「コケるなよー。」


もう一度地面を蹴る。

一度全力を体験したからか、体が覚えたのか、次はコケることなく一気にシデ村まで走り抜けられた。


ズザザザザッ!


地面に両足を着地させ、ブレーキを掛けると、シデ村手前でピタリと止まる。

少しの余韻を噛み締め、目を開く。


「止まるところまで完璧!俺は遂に風になったんだ!」


「何馬鹿な事を言ってるのにゃ。」


「間違ってはいないが、もう少し遠回しに言って欲しかったな。」


「そんな事より…ここの連中は皆…」


「……」


シデ村の中を見ても、居なくなった村人達は帰っては来ない。

冒険者達によって討伐されたアンデッド。判別出来るのはゾンビとなった者達だけだ。全体の四分の一にも満たない数。更に、その中でも身元が分かったのはほんの一摘みの者達だけ。

レイスになった死体は、遺品さえ残っていない。


「……守りたかったな。」


「出来ることと出来ない事があるにゃ。」


「………」


誰も居ない村に手を合わせ、先に進む。


「沼地ってのは近いのか?」


「直ぐそこだ。馬が怖がると逃げちまうから、馬車はここに繋いでおく。歩いて接近だ。」


「ここからはどうするにゃ?ブラウンスネークは、全部で三匹という話にゃ。」


「最初の一匹は俺一人でやる。」


「大丈夫なのか?」


「イーサにも約束したからな。それに…走るだけと戦闘じゃ大きく違うからな。」


全力の戦闘も体験しておかなければ話にならない。


「??」


「二匹目は三人で抑え込んでくれ。俺が魔法でとどめを刺す。かなり複雑な魔法を使うから、時間が欲しい。」


「その時間を作れば良いんだな?」


「頼む。三匹目は全員で行こう。」


「分かった。」

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