第23話 ビビット
それから僕はナイフを使う事に熱中した。
最初は小さな昆虫、次に小動物。ナイフが突き刺さる感触が手に伝わってくると、少しずつ…少しずつ…命が消えていくのを感じる。
そして、それに慣れて来た頃。頭がこういった。
「お前は森に捨てられていた。
今までは力が無かったせいで、奪われる側だった。だが、これからは奪う側だ。」
そう言われて連れて行かれたのは細い街道。
周りから見えにくい窪地。そこに一台の馬車が現れる。
「……奪う側……」
一斉に馬車へと飛び掛かり、御者、護衛、数人の人が死んでいく。
僕が飛び掛かった御者の男は、胸に刺さったナイフを、涙に濡れる目で見ながらヒューヒューと喉を鳴らして死んでいった。
ゾクゾクした。
僕の握りしめたナイフが命を奪っていく瞬間がたまらなく気持ち良かった。
それからは奪って奪って奪って奪って奪って奪って奪った。
楽しかった。
でも……
そんな生活が一年程続いた時、僕はまた奪われる側へと転落した。
あらゆる人達から奪いに奪った結果。討伐部隊が派遣され、僕達は呆気なく奪われた。
ギラギラとした鎧を着た、槍を持った奴らが、共に一年暮らしてきた男達を殺していく。
その光景を見て、僕は……別に何も思わなかった。
弱いから奪われる。世の中の掟だから。僕よりも弱い奴から奪い、僕よりも強いから、奴らは僕達から奪っていく。それだけの事だった。
最後に残ったのは、僕と、傷を負った頭だけ。
燃やされた拠点の片隅で、僕は頭に庇われる様にしてナイフを握りしめていた。
僕達を襲った兵士の一人が、目の前で頭に斬られ、息を止めた。
「……くっ……こんな所で……ついてねぇな。」
頭はふらついた後、その場に仰向けに倒れた。
「…何故僕を守ったの…?」
頭が受けた傷は、僕を庇って負ったものだった。
「あー…分からねぇ。なんとなくだな。」
「……」
「初めてお前に会った時からよ。その目が気に入らなかったんだ。その全てを見ている様に見えて何も見えてねぇ真ん丸の目がよ。」
「……」
「俺が真っ当な奴なら、何かを教えてやれたんだろうが……ナイフの使い方くらいしか教えてやれなかったな……すまないな……」
少しずつ声が小さく掠れていく。
何度も見てきた、死だ。
呼吸がだんだんとゆっくりになり、やがて止まる。
「……悲しい……のかな?何も変わらないけれど。」
頭の死体を見ても、特に何も感じない。いつもとなんら変わらない。何一つ…
逃げても行く宛などないし、その場に立っていたら、鎧の兵士に見つかった。
僕は子供だったからなのか、殺される事はなく、近くの街に連れて行かれた。
暗く湿っぽい石造りの部屋へと連れて行かれ、そこにあった牢の中へと押し込まれた。
弱い者の末路は、いつだって同じだ。強い者に搾取され続けるか、死ぬか。そのどちらかだった。
僕には人に奪われる様な物は無い。だから、末路は一つだけ。
そう思っていたのに……実際は違った。
僕はまだ、奪われる物を持っていた。
僕を捕らえた者の中で、一番偉そうな男が僕を鎖で繋ぎ、地下牢から屋敷へと連れて行った。
屋敷の地下室に繋がれ、最初は殴られたり、蹴られたりしていた。
その度に繋がれた鎖がチャラチャラと鳴り、その音はいつまでも消えなかった。
殴られたり蹴られたりしても、呻き声さえ上げなくなった僕を見て、男は一本のナイフを持ってきた。
「これが分かるか?」
目の前で鈍くギラつくナイフを見て直ぐに分かった。
それはずっと僕が使っていたナイフだったから。
「……これは、俺の嫁と娘を奪ったナイフだよ。」
そう言うと、グサリと僕の肩口に刃を埋め込んだ。
「ぐあぁぁぁあ!」
激痛に声を上げた。
「ふひひひひひひひひひ!」
その声をかき消す男の笑い声が響く。
その日から、僕は毎日毎日、体のどこかを切り刻まれた。
死なないように丁寧に。
食事も飲み物も、必ず毎日出された。死なないように。
食べる事を拒否すると、体を切り刻まれ、疲れ果てた僕の口を無理矢理開かせて喉の奥に押し込まれた。
こうして永遠にも思える時間、切り刻まれていると、最初は激痛だったはずの痛みにも慣れてしまう。
刺されようが、切られようが、抉られようが、僕は声を荒らげなくなった。
そして、僕は、痛みすらも感じなくなり、この時から体の成長も止まった。
ブチッ!
僕の
気が付くと、僕の耳が千切られて、男の手の中で転がっていた。
僕はまた叫んだ。痛みにではなく……奪われた事に。
ブチッ!
頭の上から流れてくる血が目に入り、視界が赤く染まる。
そして、僕の尻尾を握る男の顔はとても嬉しそうだった。奪われたから、奪い返す。とても単純な事だった。
ザクッ!ブチッ!
中程で切り裂かれた尻尾の先を、男は嬉しそうに笑いながら振り回している。
奪ったから奪われた……奪ったから奪われた……
血が流れ出し、フワフワと気持ちよくなりつつある意識の中、むせ返る臭いと、ユラユラと揺れる赤い光を見た。
ゴウッ!
ユラユラと揺れた赤い光が、とても近くに見える。
ジュージューという音と、肉を焼く良い匂い。
ああ。焼かれているのは、僕の肉か……
そう納得したと思った時、目の前に光が差した。
ユラユラとした光が消え去り、僕の前には誰かが立っていた。ボヤけた視界で輪郭さえよく分からない。
「だ……れ……?」
「………」
人影は僕を見下ろしていた。
不思議と、その人が現れてから、僕の体からは気だるさが無くなっていた。
前に一度だけ酔った頭から聞いた事がある。
この世には神が居るらしいと。
なんでも、全知全能だとか、困った時に助けてくれる存在だとか。その時は信じなかった。信じられなかった。でも…
「神……なの…?」
「……」
微動だにしない人影に向かって、今まで答えの見えなかった疑問を投げかけようとする。
「………導いてあげよう。」
まるで水中に居る僕に、外から話しかけているようなくぐもった声。そういえば、僕の耳は…
人影が僕の頬にそっと手を伸ばす。
「っっ?!!!」
触れられた指先から伝わってくる温かさに心臓が跳ね上がる。
今まで何も感じなかったのに……
そして、いつの間にか疑問をぶつけていた。
ずっと疑問だった事を。
「僕は…何故いつも奪われるの?」
弱いから。
「僕は…何故いつも奪うの?」
弱いから。
「僕は…何故何も感じないの?」
弱いから。
「僕は………何故弱いの?」
信じていないから。
「信じる……?何を…?」
反対側の頬に、もう片方の手が伸びてくる。
指先が触れただけで熱く感じ、ピリピリとする。
信じなさい。
声はくぐもったままなのに、輪郭さえハッキリと見えないのに……その声は僕の中に放り込まれ、波紋となって広がった。
「ああ……ああ……」
止めどなく流れ出てくる涙。
記憶にある限り、僕は涙をこの時まで流した事は無かった。
そっと離れていく暖かな手。
何を信じれば良いのかは、答えてくれなかった。
でも、答えなど聞かなくても分かった。
この御方を信じれば、僕は得られる。誰にも防ぐ事の出来ない強さを。そして、奪う事も、奪われる事も無くなり、導く事が出来る。
そして、僕はまた、何かを感じる事が出来る。この御方に与えられた感動を感じる事が出来る。信じさえすれば。
「あぁ……あぁぁ……」
言葉に出来ないほどの幸福感に全身が震え、心までもが震える。
僕にはこの御方さえいれば良い。この御方に全てを捧げられるのであれば、他には何もいらない。
この御方以外のものは例え誰であろうと信じるに値しない。僕の言う事を忠実に守る人形でもない限りは。
「あぁぁ………絶対の……信仰を………」
それからその御方は僕の拘束を解いて下さった。
そして、僕にある物を手渡した。何も言わずただそっと。両手で受け取った玉は、何に使うのか分からなかったけれど、とても愛おしく尊い物だと分かった。
その御方はそのまま行ってしまわれたけれど、白い服の者達が残った。治療を終えると、そのうちの一人が僕に言った。
「その怨嗟の宝珠に見合うだけの力を手に入れろ。」
目の前に置かれたのは二本の曲剣。僕の体では持つのもやっとに見える。でも、それこそがあの御方の望むこと。ならば、僕は信じ、導く力を手に入れなければならない………
ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー
「…しん……こ…うを……」
ドチャッ……
イーサの鉤爪が死聖騎士の顔面を切り刻み、崩壊した頭部が石畳の上に飛び散る。
イーサの鉤爪からポタポタと血が石畳に落ちている。
「………」
「…………」
「やったな。」
「……やった…」
俺の言葉に反応しようとしたイーサが、膝から崩れ落ちる。
「おっと!」
直ぐに寄って、倒れそうになったイーサを支える。体が激しく痛むが、気のせいだ…気のせいだぁ!
ドサッ…
二人して膝から崩れ落ち、その場に座り込んでしまう。
「くっはは…お互いにボロボロだな…」
「だな…」
互いに背中を預ける様に座る。
「おい!大丈夫かぁ!?」
アンデッドを片付けた兵士達が駆け寄ってくる。
「ダメだ。一歩も動けない。」
「あたしもだ。」
「姉さん!シンヤ!」
超速で走ってきたリサが俺とイーサに飛び付いてくる。
「いだだだだだ!」
「あだだだだだ!」
「あ!ご、ごめんなさい!直ぐに治療を!」
「リサ。そう慌てる必要は無いですよ。」
あたふたしながらその場でクルクル回るリサに、プリトヒュが笑いながら話し掛ける。
「よう。プリトヒュ。」
「よう。ではありませんよ!遠ざける為だとしても、やり方が悪すぎます!リサを
イーサを叱るなんて、プリトヒュとリサくらいにしか出来ないだろうな…
「す、すまん…」
「それでも…ありがとうございました。」
プリトヒュは俺とイーサに向かって深々と頭を下げる。本当によく頭を下げる人だ。
「あたしは自分の街を守っただけさ。礼ならこっちに言いな。」
イーサが顎をクイッと俺の方へ動かす。
「シンヤ様。ありがとうございました。」
「俺もやりたい様にやっただけだ。気にする……な…?」
突然視界がグラッと揺れ、体が言う事を聞かなくなる。
「シンヤ様?!シンヤ様!」
「おい?!大丈夫か?!」
意識が徐々に
あー。そう言えば全身切り傷だらけで、結構な量の血を流したからなぁ…
冷静に分析していると、視界が完全にブラックアウトする。
ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー
「………うっ……」
左肩に走る痛みと、
「気が付いたか?!」
「………」
目を開いて最初に見えたものは……
【イベント完了…デルスマークを襲撃した敵軍を全滅させた。
報酬…無名刀
報酬はインベントリに直接転送されます。】
イベント完了報告のウィンドウだった。
「聞こえている…のか?」
ウィンドウの奥に見えるリサが心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「おはよう。聞こえているぞ。」
「良かった…」
俺が声を出すと、心底ホッとしたような顔をする。
「ここは?」
ベッドから体を起こし、ウィンドウを消す。
見た事のない内装だ。俺の寝ていたベッドを含めて、派手ではないが、高そうな家具がいくつか見える。
「プリトヒュ様の別宅だ。突然倒れたからビックリしたが、疲れと貧血で倒れただけらしい。治療も終わったし、命に危険は無いから安心してくれ。」
体を確かめてみると、全身の細かな傷は治り、肩口には白布が巻き付けられている。
「肩は治るまでにもう少し時間が掛かる。派手に動いたりしないようにな。」
「そうか…助かったよ。ありがとう。」
「…助けられたのは私の方だ。あの時…あの目を見たら、頭の中にあの日の光景が浮かんできてな……我を忘れて斬りかかってしまっていた…」
眉を八の字にして耳も垂れ下がる。反省しているらしい。
「イーサも、大怪我負っているのに無理矢理参戦してきたからなぁ…姉が姉なら妹も妹か。」
「うっ……面目ない…」
尻尾まで垂れ下がる。
「まあ二人にとっては因縁の相手だったわけだし、仕方ないさ。」
「…いや。私の事もそうだが、姉さんを助けてくれて本当にありがとう。」
深々と頭を下げるリサ。
「姉さんとシンヤがあいつを止めてくれていなかったら、私含め多くの死傷者が出ていたと思う。
姉さんは私を守る為にいつも無茶をするんだ。シンヤがいなかったら、死んだとしても、あのまま立ち向かっていたと思う。」
「容易に想像できるな…」
あのイーサだからなぁ…
「姉さんは私を守ってくれるが、姉さんを守ってくれる人はいなかったから……ありがとう。」
「何度も言わなくて良いよ。それより、イーサやプリトヒュは?」
「姉さんは他で戦っている冒険者達の援護に、プリトヒュ様は街の防衛にあたっている兵達の所へ向かった。」
「イーサはあの傷で援護に?」
俺と似たり寄ったりだった気がするが…
「戦ったりはしていないはずだ。私との約束だから間違いないぞ。」
「そうなのか?」
「姉さんと別れたあの時から、姉さんが私との約束を破った事は一度もない。私との約束を破ったのは、あの時の一度きりだ。後にも先にもな。」
「…そうか。プリトヒュは何をしに行ったんだ?」
「激励みたいなものだな。今回はプリトヒュ様が独断で動かした兵士ばかりだからな。戦闘には参加出来ないとしても、顔を出す必要はある…との事だ。
姉さんもプリトヒュ様も、そろそろ戻ってきても良いはずだが…」
俺の目の前にイベント完了のウィンドウが出てきたということは、敵は全滅しているはず。待っていてれば良さそうだ。
数分後、予想通り、イーサとプリトヒュが戻ってきた。
「おー!シンヤ!起きたか!くっはははは!」
「起きても大丈夫なのですか?!」
帰ってきて早々騒がしい奴らだ。いや、騒がしいのはイーサだけか?
「大丈夫だ。そっちはどうだった?」
「余裕余裕!あたし達は冒険者だ!モンスターの討伐は十八番さ!」
イーサは笑顔を見せているが、どこか影が見える。
「…村人達の腹にあった…」
「……他の奴らにも埋め込まれててな……何人か犠牲になった。」
「…くそっ!」
死体の腹の中に爆発魔法を仕掛けるなんて……しかも被害が出てしまった…
「だが、情報が渡ってからは大丈夫だ。爆発しないように上手く取り出したよ。」
「………」
少しでも被害が抑えられたなら良かったのだろうか…?いや、気休め…だな…
「街の被害はほぼありません。リャクチ村、ショポカ村、共に動き出しが早かったので、被害は少なく済みました。」
「そうか…最後まで手伝えなくてすまなかったな。」
「何を仰いますか!シンヤ様の御力添えが無ければ今頃街は
鼻息を荒げてプリトヒュが迫ってくる。
「謝るならあたしの方さ。あの時無理を言った自覚はあるんだ。あたしのせいでシンヤが傷を負った……本当にすまない…」
リサと同じように耳と尻尾を垂らして頭を下げるイーサ。
「………なんかイーサがしゅんとしていると面白いな。」
「なっ!?本当に申し訳ないと思ってるんだぞ!馬鹿にするな!」
「別に馬鹿にはしてないって。俺がやりたくてやった事だ。それに、イーサが居なければ最後の最後、やられてたかもしれないしな。」
「……ちっ。」
照れているのか、横を向いてしまうイーサ。
「……ふふ。姉さんのそんな顔初めて見た。」
「リサ!何言ってんだ!」
「二人共。騒ぎ過ぎですよ。」
「怒られてやんのー。」
「誰のせいだ誰の!」
「あはは!」
三人のやり取りに、思わず笑ってしまった。
「………シンヤ様。」
プリトヒュが真剣な顔で俺の方を見る。
「どうした?」
「少しお話……いえ。お願いがあります。よろしいでしょうか?」
「…聞こう。」
「イーサから聞きましたが、今回の件。相手が聖騎士と呼ばれていたとの事ですが…」
「死聖騎士と呼ばれていたな。」
「やはりそうでしたか…」
プリトヒュの顔が暗くなる。
「何か知っているのか?」
「…私の知る限りの事をお話します。
まず、聖騎士というのは、神聖騎士団の中でも上位に位置する者達だということはイーサから聞いて、ご存知かと思います。
神聖騎士団は、下から赤騎士、銀騎士、金騎士、そして聖騎士と順位がついております。より上位に位置する者達は、力も強く、聖騎士ともなると、街を一つ壊滅させるだけの力を持っているとされています。」
「死聖騎士とやらはそこまで強い相手では無いように見えたが…」
「いや、そんな事は無い。あの時、あたしとシンヤで死聖騎士を止められなければ、兵士達も死に、その死体がアンデッド化、街に流れ込んだと考えてみろ。
街の中の連中が次々と死んでいき、それがまたアンデッド化する。その連鎖が出来上がれば、街は確実に壊滅していただろう。」
「……」
想像すると、ゾッとする話だ。
「聖騎士と呼ばれている者達は全部で八人居ると言われておりましたが、これまで、ほとんど姿を現しませんでした。その存在自体があやふやな者達で、都市伝説に近いものでしたから。」
「…あんなのがまだ七人かよ……そんな連中が現れた…となると、大きく動き出したってことか?」
「はい。今までは徐々に勢力を広げてきた神聖騎士団ですが、一気に勢力を広げるつもりかと思います。」
「魔族にも、神聖騎士団にも属さない勢力を取り込むつもりか。」
「神聖騎士団に全て取り込まれたならば、魔族との均衡も崩れ、全世界が神聖騎士団一色に染まる事になります。」
「それが狙いか。今まで温存していた聖騎士達を動かして、一気に勢力を拡大し、そのまま魔族をも飲み込む…」
「死聖騎士とやらが、出て来たのであれば、ある程度の下準備は既に整っていると考えるべきでしょう。」
「そうなると、死聖騎士を討ち取ったこの街って、結構危ないんじゃないか?」
「はい。確実に敵視されると思います。攻めてきた者達は全滅させましたが、今回の件は神聖騎士団にも話が行っているはずです。」
「大軍で来たらまずいよな?」
「もしそうなったら、抗う術は無いでしょう。ですが、直ぐにという事は無いと思います。」
「何か根拠でも?」
「先程父から書簡が届きました。その内容は、世界各地に聖騎士と呼ばれる者達が現れ、暴れ回っているというものでした。」
「俺でもそうするから当たり前だろうな。つまり、他を攻めている奴らがわざわざこちらに舵を取ることは考えにくいと?」
「他を取ってしまえばこの街程度は、直ぐに潰せますからね。当然各地の者達は神聖騎士団と事を構えて奮戦していますが…」
「危ない状況ということか。」
「はい。」
「…それはつまり、ポポルを守る為には、この街を守る必要があり、この街を守る為には、世界各地の戦闘を勝利させるしかない…って事だよな?」
「……はい。」
「プリトヒュ様!何をお考えですか?!」
リサが話に割って入ってくる。ここまでの流れを聞いていれば、その後の話も予想出来る。
「聖騎士の一人と互角以上に戦える者は世界広しといえど、それ程多くはありません。シンヤ様のお力は、私達にとっては重要なものなのです。」
「一冒険者に頼む事じゃねぇぞ?!」
イーサも反対の意志を語気に込めている。
「分かっています…王族でありながら……私はなんと無力なのでしょうか……」
ドレスをギュッと握っている拳がプルプルと震えている。
「どっちにしても、俺は神聖騎士団を潰すつもりだったし、後ろ盾としてついてくれるって言うなら願ったり叶ったりだ。」
「シンヤ?!もうちょっと現実的に考えろよ!お前一人に出来ることなんてたかが知れてるだろ!」
「…だろうな。」
言われなくても、それはポポルの街で学んだ…いや、教わったと言うべきだろう。
「分かっているなら、なんで!」
「別に俺だけで神聖騎士団を完全に潰せるなんて思っていないさ。先頭に立つつもりも無いし。
プリトヒュだってそこまで望んでいるわけじゃないだろ?」
「はい。単純に、我々に力を貸してほしい。というお願いです。」
「な?」
「な?じゃない!な?じゃ!
言ってる事分かってんのか?!」
イーサは随分と俺の事を心配してくれている。ありがたい…だが…
「積極的に打倒神聖騎士団に関わるってだけだろ。今までとそんなに変わらん。」
「……馬鹿だ…シンヤは馬鹿だ。間違いない。」
イーサは諦めた様に溜息を吐く。
「酷い言われようだな…馬鹿だけども。
それより、積極的に関わるとして、具体的に俺はどうしたら?」
「世界各地で起きている神聖騎士団との紛争に手を貸して欲しいのです。かなりフワッとした内容ですが…」
「さっきもイーサが言ったけど、俺の力なんてたかが知れてる。
行きました、でも何も出来ませんでした。負けました。
なんて事もあると思うが?」
「それならそれで仕方がありません。その責務は私達王族が背負う物ですから。」
「凄く過大評価されている気がするが…分かった。それが目的なら約束しよう。」
「ありがとうございます!」
またしても深々と頭を下げるプリトヒュ。本当によく頭を下げる人だ。
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