第20話 貧困

食べ物を探して走り回っていたが、なかなか手に入りそうな所が見当たらない。


「くそっ!雨さえ降らなければ……っ?!」


あたしが見付けたのは荷馬車。荷台には布が被せられているが、食べ物の匂いが漂ってきている。奥にもう一台、真っ白な馬車が見える。恐らくは貴族の馬車だ。

貴族に手を出して捕まったりしたら、間違いなく殺される。それでも…


「やるしかない…」


直ぐに物陰に隠れて周りを見る。

馬車の死角に見張りが二人立っている。馬車の持ち主は、どうやら店の中に入っているらしい。


「……」


今しかないと、雨の中、荷馬車に忍び寄る。


「それがあの野郎、いきなり殴り掛かってきてよ!」


「はぁ?!そんな奴が居たのか?!」


見張り二人は世間話で盛り上がっているらしい。

今しかない。


あたしは荷馬車の後ろから静かに忍び込み、布を退ける。

そこには店でしか見た事の無い食べ物の山。パン、果物、野菜。なんでもある。

あたしの細腕では持てる物は限られる。リサが食べて元気の出るものだけを選んで両手に抱える。リンゴなんて匂いすら知らない。絶対リサも元気になってくれる!


「ん?あ!」


「っ!!」


二人のうち一人があたしに気が付いた。直ぐに荷車から飛び降りて走り出す。


ドンッ!


「きゃっ?!」


肩に誰かの肩が当たった。可愛い声で鳴いたのは、綺麗な青いドレスに身を包んだ白い猫の獣人族。リサと同じくらいの歳だろうか。



反吐へどが出る。



あたし達はこんなに必死に生きているのに、こいつらは当然の様に食べ物を捨てる。物を捨てる。そして、人を捨てる。


あたしの手で抱えられる程の食べ物を盗ったところで痛みなど無い。


泥水の上に尻餅をついた白猫を見て、いい気味だと思った。


「プリトヒュ様!おい!追え!」


「はい!」


街中を右に左に走り回った。息が切れ、いくつか食べ物も落としてしまった。


「はぁ…はぁ…でも…逃げ切った……」


後ろを向いても誰もいない。捕まらずに済んで良かった。これでリサを助けられる。


傷だらけになった足を前に出してリサの待っている場所へ歩いていく。


全身隙間なく濡れ果てて、疲れと寒さで奥歯がカチカチ鳴る。


「はぁ…はぁ…やっと着い」

ドサッ…


持ってきたリンゴが瓦礫の上を転がって行く。


瓦礫の中、上から下まで真っ黒な服で固めた人影が立っている。背はあたしより高いけれど、そんなに変わらない。


その人影は、リサの腕を掴み、片手で無造作に持ち上げている。

リサは雨に打たれ、小さく浅い息を吐いている。


「なんだ……死んでないのか。?」


ギラつく刃がリサへと向けられる。


「リサァァァ!!」


瓦礫の中を全力で走り抜ける。


「おぉ?」


あたしの声に振り向いた人影。

フードの中に見えた目は、真ん丸で瞳孔が開き、異様な圧力を感じる。


止まりそうになった足を無理やり前に出す。


突然目の前に白い線が走り、顔の左側がカッと熱くなる。視界の左半分が赤くなり、その後黒くなる。


そんな事はどうでもいい!今は人影が投げたリサを!


落ちる前に追いつき、抱き締めたリサを上にして瓦礫に背を打ち付ける。


「ぐぅっ!」


瓦礫の破片が背中を強く打ち付け、息が出来なくなる。


「ぅ……」


「へぇ。偶然でも避けられたなんて、凄いじゃないか。僕の部屋に連れて行って…」


「見付けたぞ!」


貴族の……このまで追ってきたのか………


「……ちっ。邪魔が入った。」


「な、なんだお前は?!」


「ふひひ……。」


そう言ってあたし達の前から走り去って行く人影。


「お、おい!大丈夫か?!」


「酷い怪我です!」


かすんでいく視界の中、真っ白な髪と、真っ青なドレスが見える。

妹の吐息が小さくなっていくのが分かる。


「お願い……あたしは…どうなっても…良い……から……妹だけは……」


あたしの意識はそこで途切れた。


何故最後の最後で他人を頼ってしまったのか…今までずっとあたし達だけで生きてきた。最も頼りたくない奴らに頼ってしまった。最後の最後で…


「う……」


左目に痛みを感じて右目を開く。


ボヤけた視界。自分がどこにいるかさえ分からない。


少しずつ意識が浮上してくると、一番最後の記憶が蘇ってくる。


「…リ゛……サ゛……」


自分の声だと気が付くのに少し時間が必要だった。

何日か寝ていたのか、喉が乾いて声が掠れてしまっている。


ドサッ!

「っ!!」


横にズレたら突然全身に浮遊感と衝撃が訪れた。

よく見えないけれど、多分どこか高い所に寝ていたのだと思う。


「うぅ……」


左目が酷く痛む。布が巻かれているらしい。酷く痛むけれど…今はそんな事よりも確認しなければならない事がある。


ガチャ!


ボヤけた視界の中に、白と青が混じった小さな人影が入り込む。


「起きては駄目です!」


人影が近付いてきて、あたしの体に触れようとする。


「っ!!」


跳ね除ける様に手を振り回し、ボヤけた視界でその人影を睨み付ける。喉がカラカラで息がし難い。


「フー…フー…リ゛サ゛!」


「大丈夫です。妹さんは助かりましたよ。今はまだ眠っていますが、大丈夫です。安心してください。

あなたもベッドに横になって下さい。水をお持ちしますから。」


次第にハッキリとしてきた視界の中、白髪の女の子が、小刻みに震える手をあたしの体に伸ばそうとしている所が見える。


その手を、あたしは払い除けることが出来なかった。


その日から二日。毎日その女の子が綺麗な水と食べ物を持ってきてくれた。


お陰でなんとか声も戻り、頭もハッキリとした。

まだ左目は痛むけれど、我慢出来ない程では無い。


「イーサ様。」


今日も女の子……プリトヒュは私の為に水と食べ物を持ってきてくれた。


「……リサは、まだ寝てるのか?」


「たまに起きて水と食べ物を口にしています。ただ、今は安静にしなければならないとの事で…

リサ様もイーサ様に会いたいと言っていますが…」


「……そうか。傷が治れば直ぐに会えるさ。」


「はい!」


あたしが辿ってきた、それまでのせいの中、こんなにもおかしな奴は見たことが無かった。

貴族でありながらあたし達のような賤民せんみんに水と食料を自らの手で与え、体や髪を洗ったことなど無い汚いあたしの体を、自らの手で洗い流す。それがプリトヒュという女の子だった。


それから更に数日が経つと、あたしの傷も痛みが引き、リサも元気を取り戻した。

そして、あれから初めて、あたしはリサに会った。


「姉さん!」


あたしの顔を見た瞬間に走って来て抱き着くリサ。フワリと花の香りがする髪。綺麗に洗い流され、すべすべになった肌。痩せこけていた頬は少しだけ落ち着き、何より、満面の笑みだった。


「リサ。」


「姉さん!」


あたしの胸に頭を押し付けて涙を流すリサ。


「私の為に…」


「この目の事を言っているのか?」


「………」


「こんなものかすり傷だ。それに、これのおかげでリサを守れたんだ。あたしにとっては自慢の傷さ。」


ポンポンと頭を撫でると、耳と尻尾がピクリと動く。昔から変わらないリサの癖。


「そうだ!三人で買い物に行きましょう!」


「買い物…?」


「二人はいつも食べ物を盗んでいたみたいだけれど、本当は買うものなのよ!」


指を立てて言ってきたプリトヒュに連れられて、街へと向かう。


服を買い、食べ物を買った。


「美味しい!姉さん!」


「そうだな。」


笑顔ではしゃぎ回るリサ。

あたしはそれを見て決心した。


数日後、そんな日々を過ごしたあたしは、プリトヒュの元へと向かった。


「イーサ様?」


「あたしに様を付けるなよ。むず痒いから。」


「ふふふ。癖の様なものですから、許してください。」


「良いけどよ……」


「何かありましたか?」


「……プリトヒュにお願いがあってきた。」


「お願いですか?」


「……リサを……妹を頼みたい。」


「…?」


あたしの言っていることが理解出来ないらしい。


「ここに来てから、リサは元気になってよく笑うようになった。あいつは昔から体が弱くてな。あの場所での生活はもう限界だ。

あたしが守ってやると言っていたが、今回の事でよく分かったんだ。

……今のあたしの力では守り切れない。

だから、リサの事を頼みたい。従者でもなんでもいいから、リサをここに置いてやってくれないか?」


「……イーサ様はどうするおつもりですか?」


「あたしはここには居られない。居てはいけないんだ。」


「私は二人とも居てくれた方が嬉しいですよ?」


「…………あたしじゃ肌に合わないんだよ。

冒険者でもやって、のし上がってやるさ。あたしの体はリサと違って丈夫だからね!」


「姉さん!!」


背後からリサの声が聞こえてくる。

黙って去るつもりだったのに、こういう時だけ鼻が利くんだから…


「行かないでよ!姉さん!」


「リサ……あんたはここで頑張りな。プリトヒュは良い子だ。」


「嫌だよ!姉さんも一緒が良い!どこにも行かないって約束したのに!」


「………リサ…」


「嫌だよ!居なくならないでよー!ふぇぇぇ!」


泣きじゃくるリサの頭を、いつもの様にポンポンと撫でる。

こうなると、あたしも出て行き難いから黙って去るつもりだったのに…


「居なくなったりしないさ。あたしはリサの姉だ。誰より強い。貧民街だって変えられるくらいにのし上がってやるさ。

でも、それはここに居たら出来ない事なんだ。聞き分けてくれ。」


本当はそれよりも……リサを殺そうとして、あたしの左目を奪った、あの黒い奴。あれに勝つ為の強さが欲しいから。でも……ここにいてはその強さはきっと得られない。


「姉さんのバカぁぁ!」


ドンドンと胸を打つ弱々しい拳。その手を握る。


「あたしは絶対に強くなる。あんたを一人で守れるくらいにね。だから、あんたはここで頑張りな。」


泣き続けるリサを抱き締め続ける。


「眠りましたね。」


「泣き疲れたんだ。ったく。まだまだだな。」


リサの涙の後に指を這わせると、くすぐったそうに顔を動かす。


「イーサ様ほど強い人の方が珍しいです。」


「あたしはリサの姉だ。誰より強いのさ。」


「ふふふ。そうですね。」


「………」


「行くのですか?」


「あぁ。リサを頼んだぞ。」


「任されました。」


これ以上ここにいたら、離れられなくなってしまう。


「じゃあな。」


「お待ちください。これを。」


「…これは?」


プリトヒュが長細い箱を渡してくる。


「前に買い物に行った時、リサ様がイーサ様にと唯一私に買って欲しいと頼んだ物です。」


「……そうか。」


あたしとリサの髪の色と同じ、黒色の眼帯。それを右目につける。


「どうだ?」


「お似合いです。」


「……ありがとう。」


「…お元気で。」


最後に一度だけリサの頭を撫で、二人の元を去る。


数年後、私は、隻眼せきがん女豹めひょうと呼ばれるのだが、それはまた別の話だ。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



リサとイーサの話は、貧民街に向かう前に聞いていた。

俺が貧民街の死体に怨嗟の炎を使うと聞いたら、イーサは怒るだろうことも。

昔の自分達を実験体にされている様なものだから当たり前だ。

だが、この事を知っていると、いないとではその後の動きが大きく変わってくる。必要な事だった。

俺だってやりたくてやったわけではない。でも、それは言い訳でしかない事くらい分かっている。

だからイーサの拳を避けようとは思わなかったのかもしれない。


「シンヤ!あんたはあたしが叩きのめしてやる!」


「……相手が神聖騎士団だとしたら……神聖騎士団はそんなに優しい奴らじゃない。」


「だからって、やって良い事と悪い事があるだろうが!」


本気の怒りだ。イーサの。


「俺は二度と掴み損ねるつもりは無い。」


それでも、俺も引くつもりはない。


「なに?!」


「あのクズ共に好き勝手やらせるくらいなら、非道だと言われようが、下衆だと蔑まれようが、手を抜くつもりは無い!」


「このっ!ぶん殴ってやる!」


「姉さん!落ち着いてってば!」


イーサを止めるようにリサが抑える。


「離せリサ!」


「落ち着きなさい!」


部屋の中に響いたのは、プリトヒュの声だった。

プリトヒュの喝とも言える声は、イーサの動きを止めた。


「イーサ様。シンヤ様が道楽どうらくでこんな事をしたとでも思っているのですか?」


「……」


「シンヤ様の推測では、相手がこの街に甚大な被害を及ぼす可能性は高い。との事です。」


「どういう…事だ?」


「……冷静に考えれば分かるだろ。もし全ての死体をアンデッド化して操っているとしたら…今まで襲われた村に居た人数は合わせて二百。五年前に先の魔法を手に入れたのだとしたら、その時から少しずつ数を揃えて来たはずだ。

小さな村くらいなら完全に包囲出来る程のアンデッドを。完全に包囲出来てしまえば、小さな村だ。どれだけ騒いでも隣の村まで声が届く事はない。後はアンデッドでは無い手下が村に誰も近付けさせないようにするだけで……」


「シンヤ様の推測が正しければ、倍近くのアンデッドを揃えている可能性があります。」


「倍って……四百…?」


「もしくはそれ以上だ。」


「さすがにそんな数…一体どこから…」


「貧民街の奴らだ。」


「え…?」


「プリトヒュに聞いた。街は貧民街に転がっている死体を、アンデッド化や疫病から守るため、定期的に火葬しているらしいな。

たが、ここ三、四年の間、貧民街に出た死体の処理数が圧倒的に減っているらしいじゃないか。」


「それは…知っているが……」


「誰が言っているかは知らないが、景気が良くなって貧民街の連中が死ななくなったなんてのは嘘だ。いくら景気が良くなっても、貧民街の連中には何も関係ない。」


「私も…姉さんも…それはよく知っているでしょう?」


「そんな…嘘だ……」


イーサは聞きたくないとでも言いたそうな顔をする。


「貧民街から死体を回収、アンデッド化。数が揃ったところで、村を殲滅したんだろう。

村に残る痕跡に、火魔法では無く、延焼しない怨嗟の炎の痕跡ばかりだったのは、光魔法と火魔法を嫌うアンデッドが動きを止めないようにだと思う。

こうして出来上がったアンデッドの軍勢で何をすると思う?」


「まさか…」


「デルスマークを死者の…亡霊の巣窟そうくつにするつもりだ。」


「…………」


イーサも、俺が言っていることの重大性は分かるだろう。


「決定的な証拠は無いが……アンデッドを一塊で押し込む様な真似はしないはず。いくつかに分けて街を襲うだろう。その為にアンデッドを街の周囲に配置していると思う。

ここ三、四年、貴族の別宅が多い東門外にあるデルス台地。その周辺のモンスターが減っているとチャムの三人から聞いた。」


「隠されているアンデッドの影響だとしたら…

でも、そんな場所に配置していたら、直ぐにバレるだろう?!」


「神聖騎士団の連中が何処にいるか。ずっと分からなかったが、もし貴族の誰かが神聖騎士団と繋がっている…もしくは、団員の一人だったとしたらどうだ?」


「そんな…いや、そんな事は…」


「無いとは言い切れません。」


貴族であるプリトヒュが言い切る。


「もしこの推測が正しかったとしたら、ポポルの街であれだけ暴れたのに報復されなかった理由が分かる。

このデルスマークを取れば、その周辺の村や街は全て取ったも同然だからだ。ポポルの街は遠い。わざわざそんな場所を攻めるより、デルスマークを落とし、徐々に勢力を広げた方が効率的だ。

報復しなかったのは、大事だいじの前の小事しょうじだからだ。」


「……」


「今、チャムの三人がデルス台地周辺にアンデッドの影が無いか見に行ってくれている。そろそろ戻ってくるはずだが…」


ガチャ…


「シンヤ。」


扉から入ってきたのはチャムの三人。ちょうどのタイミングだ。


「ディニズ。どうだった?」


「……当たりだ。」


「っ?!」


イーサがグッと拳を握る。


「デルス台地の横にある自然洞窟の中にワラワラとアンデッドが居たぞ!」


「あんな数初めて見たにゃ!」


「だす。」


「……イーサ。」


「姉さん。」


「だー!クソっ!殴って悪かったよ!やり方は気に入らないがな!」


「別に気に入られたいわけじゃない。それに、非道だって事くらい自覚している。」


「気に入らないが…納得してやる!だが貧民街の連中にそんな事は二度とやるなよ!?」


「やらないよ。それは約束する。」


「よし!ならこの話はここまでだ!

それで。どうする?特にシンヤ。お前はこの街の者じゃない。」


「分かってるだろ。何のためにここに来たと思ってんだ。」


「くっはは!そうだったな。」


「だが、一つお願いしたい事がある。」


「なんだ?」


「この件が片付いたら、ポポルの街に援助をして欲しい。」


「援助?」


「俺が派手に動けば動く程、あの街が弱点として狙われる可能性が高くなる。だから守って欲しい。」


「それは私が約束致します。」


「プリトヒュ?」


真面目な顔で約束だと口にするプリトヒュ。


「そんな約束、勝手にして良いのか?」


「これくらいの事が約束出来ずしてシルザンテの家名は名乗れませんからね。」


「へぇ。プリトヒュって、プリトヒュ-シルザンテだったんだな。」


「シシシシシシシンヤ!!」


「どうしたイシテリア。シがやけに多いぞ?」


「シシシシシシシルザンテは獣人族王の家名にゃぁぁぁぁ!」


シがまた多いな……ん?族王?


「うぇっ?!そうなのか?!」


「申し遅れました。獣人族王、ヲガル-シルザンテの娘、プリトヒュ-シルザンテです。」


「へぇー。本当に居たんだな。」


「おい!?シンヤ!反応薄過ぎないか?!」


本来ならディニズ達の反応が普通なのだろうが…


「いやー…いきなり言われても、既に俺の中でプリトヒュはプリトヒュだからな。今更言われても…」


「くっはははは!」


「この無礼者が。頭を下げるくらいしないか。」


「確かに…一応王女になるわけだし、それくらいは必要か?」


「いえ!皆様そのままでお願いします!

名前を出したのも、シンヤ様との約束を必ず守るという意思表示の為ですから…その…」


「だってよ。」


「くっ……」


リサが悔しそうに横を向く。


「父からこの街の事は任されております。援助の話も私が単身で決めても問題はありません。」


「そうと決まれば、次はどうやってクズ共をぶっ飛ばすかだな。

シンヤ。その魔法はアンデッドに対して使っても支配出来るのか?」


「分からない。そこまでは試せなかった。それに、もし出来たとしても、戦況を変えるほどの力は無い。

この魔法は延焼えんしょう力が無い。つまり、アンデッド一体に対して一魔法となると、全て支配下に置くには四百撃ち込む必要があるわけだ。」


「それは非現実的な数字だな。」


「となると、アンデッドを単純に討伐していく必要がありそうだな。相手はゾンビだけなのか?」


「私達が見てきた洞窟には、スケルトンと少数だけどレイスも居たにゃ。」


「レレレレレイス?!」


青い顔をするリサ。どもり方も異常だ。


「なんだ?リサはまだレイスが苦手なのか?」


「姉さんだってゾンビ苦手でしょ!」


「あー。苦手だな。あいつら臭いからな。鼻の良い獣人族には辛い相手だろ。確かに苦手だが、別に怖くはないぞ?」


「私だって、ここ怖くないし!」


あーあ。どもっちゃったよ。


「はいはい。」


「本当だからね!姉さん?!聞いてるの?!」


「でも、レイスは厄介な相手だ。魔法を使えない者にとっては無敵に近い存在だからな……

よし。冒険者ギルドから緊急クエストを発注して強制的に参加させる。それで人数はある程度確保出来るはずだ。」


「強制的って…」


「無視した奴は後で私と訓練所行きだと言っておけば皆参加するだろ!」


ニタァと笑うイーサ。


「満面の笑みで言うな。怖いから。」


「私の方でも兵を動かします。」


「冒険者と兵士の戦い方は真逆だ。協力するより各々で動いた方が良いだろう。そっちの事はそっちに任せる。」


「はい!」

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