第19話 村人失踪

「はぁ…分かった。話そう。ヒュリナさんも気にかけていた人達だ。」


貴族嫌いとして知られているイーサも、プリトヒュには嫌な顔をしていないし。


「ありがとうございます!」


「ちっ…」


側近の女は俺に聞こえるように舌打ちする。抑えろ。抑えろ俺…


「リサ。舌打ち?あんまりおいたが過ぎると、拳じゃなくて…」


「わ、分かった!ちゃんと聞くから!」


「なら良い。」


イーサが居てくれて本当に良かった…


「まず、なんで俺がわざわざ顔を見せずに傷薬を渡したと思ってるんだ?」


「えっと……」


本当に分かっていないのか、それとも演技なのかは分からないが…顎に人差し指を当てて首を捻るプリトヒュ。


「貴族が嫌いなのもあるが、それよりも今はあまり目立ちたく無いからだ。タダでさえイーサとヒュリナさんの事で目立ってる。そこに貴族との関わりまであるとなると色々な人の目を引くだろ。

ヒュリナさんに名前を伏せる様に言っておいたが、俺の名前を知っている。ヒュリナさんが約束を破ったとは考えにくいし、名前を聞き出したのはヒュリナさんからじゃないだろ。」


「うっ…」


「身なりを見れば冒険者だって事は分かるし、商業ギルドの連中に聞けば傷薬を渡したのが誰か…くらいは直ぐに分かるだろう。つまり、俺がわざわざ隠した名前を暴き、加えて、貴族と騎士だとひと目で分かる派手な格好をしたまま俺の事を探し、その上!俺の名前を冒険者ギルドのロビーからここまで聞こえる大声で叫んだ。

どれくらい目立ってるか、聞かなくても分かるよな?」


「うぐっ…」


「何か申し開きがあるなら聞くが?

まあ無いよな。そこの騎士様が剣を抜こうとしたのに止めようとしなかった。それが、自分は悪くない。という答えになってるからな。」


「このっ!」


俺は細剣を抜こうとしたリサの正面に移動し、柄頭つかがしらを掌で抑える。当然剣は鞘から抜けなくなり、彼女の手はプルプルと震えている。


「っ?!」


リサは即座に後ろへと飛び退き、俺との距離を取り、剣を抜こうとする。


「えっ?!」


「探し物はこれか?」


カランッ!


リサの前に彼女の剣を投げる。


「っ?!」


「どうした?面白い顔をしているな。」


何が起きたか分からないといった顔だ。


「貴様…」


「お止めなさい!リサ!」


「プ、プリトヒュ様…?」


「私自身の非礼に加え、彼女の失礼は、私の不徳が招いた事です。罰ならば私が全て受けますので、どうかお許し頂けませんでしょうか。」


頭を下げるプリトヒュ。


「プリトヒュ様?!この様な者に」

「リサ!」


「うっ……」


最初からそうだったが、プリトヒュは躊躇無く平民に頭を下げる貴族だ。その行為は俺の怒りを抑えるだけの力がある。


「俺もやり過ぎた。一度落ち着こう。」


「ありがとうございます。」


「プリトヒュは礼に来たんだったな。確かにその意は受け取った。

別に何かを期待して渡した物じゃないし、もう少しすれば商業ギルドから傷薬は販売されるはずだ。気にする事は無い。

今回目立った動きをした事も、終わった事だ。少しすれば騒ぎも収まるから気にするな。」


「ありがとうございます。」


「これで良いか?」


「………」


プリトヒュはまだ何かを言いたげな顔をしている。


「まだ何かあるのか?」


「……その…厚かましい事は重々承知しておりますが、お願いがございます。」


「断る。」


「このっ」

ゴンッ!


「ぴぎゃぁぁ!」


「リサは黙ってな。そろそろ静かにしないと本気で殴るよ。」


あの鈍い音で、本気じゃなかったらしい。


「うー……」


「……シンヤ。話を聞いてやるだけなら良いんじゃないか?」


「あっ!おい!イーサ!名前を!」


「シンヤ…様?」


「大丈夫大丈夫!プリトヒュは悪い子じゃ無いからさ!」


「もしかして…神聖騎士団に…?」


「さすがに耳が早いな。神聖騎士団に喧嘩を売ったバカ。それがこのシンヤだ。」


イーサに親指をクイッと向けられる。


「バカは余計だ。」


「神聖騎士団と本気でやり合うつもりらしくてな。だからこそ目立ちたくなかったんだよ。」


「……そうでしたか……でしたら、やはり私のお願いを聞いて頂けませんでしょうか?!」


「どういう事だ?」


「最近、デルスマーク近郊の村で住民が消えるという事件が多発しております。

私達はその調査のためにいくつかの村を巡っていたのですが、その途中でモンスターに襲われてしまい…」


「リサが怪我したから戻ってきた。という事か…」


「はい。」


「……はぁ…イーサに一杯食わされたわけか…」


「くっははは!」


この痴女マスターめ。


「え?あれ?どういう事ですか?」


「たった今その調査依頼を引き受けた所だ。」


「そうなのですか?!」


どうやらプリトヒュも知らなかったらしい。再度言おう。この痴女マスターめ。


「先に村を調査したプリトヒュ達から情報を受け取る代わりに、護衛として一緒に動け…ってのがイーサの筋書きって事だ…」


「くっははは!依頼を受けた以上は別行動なんて無駄な事はしないだろ?!」


「依頼を降りた場合は?」


「あたしがその事を各方面に言いふらしてやる!くっはははは!」


「鬼畜が…」


「そう言うな!実際はそんなに悪い話じゃないはずだぞ。それに、さっきの話から察するに、神聖騎士団との繋がりが見えた様に思うがな。」


「……」


ニヤリと笑うイーサ。


「カイドー様…」


「くそっ!気に食わない!気に食わない…が…分かった!引き受ける!」


「くっははは!シンヤは良い奴だな!」


「くっ…せぬ…」


「それより、やはり神聖騎士団が関わってたのか?」


「断言出来るとまでは言えませんが、恐らく関わっていると思います。

調査した村にこんな物が落ちていました。」


プリトヒュが見せてきた物は、薄汚れた白色の布切れ。


「これは?」


「神聖騎士団の団員が身に付けている信者服の切れ端だと思われます。特殊な生地を使っているので、ほぼ間違いないかと。

瓦礫がれきの下敷きになっていました。

これだけで神聖騎士団の仕業だと考えるのは安直ですが、可能性としては十分かと。」


「…まだまだ分からないことだらけだが、村人達が消えている以上急ぐ必要があるか…失踪が起きた村で、まだ行っていない村はあるか?」


「はい。一つだけあります。デルスマークの西にあるシデ村という村です。」


「分かった。直ぐに……は行けないな。」


「私達はいつでも出られますよ?」


「…はぁ…イーサ。俺を騙したんだからこれくらいは頼んだぞ。」


「ま、これくらいは頼まれてやろう!リサ!外の連中も連れてこい!プリトヒュはこっちに来い!」


「ふぇっ?!なんですか?!」


プリトヒュは首根っこを掴まれてイーサに連れて行かれる。


「俺は西門の外で待ってるからな。」


ギルド中の視線を掻い潜り、西門の外にて待つこと二十分。


ガラガラ…


馬車に乗った、格好をしたプリトヒュ達が現れる。


「やっと来たか。」


「くっ…プリトヒュ様にまでこの様な格好を…」


「リサ。私は大丈夫です。と言うより、結構楽しいです!」


平民の服を着てクルクル回るプリトヒュ。


「立ち居振る舞いまでは隠せないが…さっきより随分マシだな。」


わざわざプリトヒュ一味が調査に来ましたと宣伝する必要は無い。というか、そんな事したら余計に警戒される。必要なカムフラージュだ。


馬車にはプリトヒュとリサを除き、二人が荷台に、一人が御者として乗っている。全員女性なのは色々と配慮されているのだろう。


「乗ったぞー。」


荷台に乗り、声を掛けると馬車が進み出す。


「どれくらいで着くんだ?」


「二時間程度ですかね。」


「じゃあそれまでに色々と聞かせてくれ。」


「はい!」


プリトヒュは俺に向き合って座り直す。


「まず、何故プリトヒュはこの調査に乗り出したんだ?」


「様を付けんか!様を!」


「今更何を言っているんだ。」


「そうですよリサ。敬称なんてどうでも良いでしょう?」


「ぐぬっ…プリトヒュ様がそう仰られるならば…」


「それで?」


「それは簡単な話です。私達貴族には、統治すべき地区が存在します。私が統治すべき地区にて事件が発生した為、調査に乗り出したのです。」


「プリトヒュが統治している地区以外の地区に被害は?」


「今のところはありませんね。」


「プリトヒュを狙っているのか…?」


「どうでしょうか…被害にあったのは、どこもデルスマークから二時間以内の場所です。距離が関係しているとも取れますから。」


「プリトヒュ様を狙う輩ならば、私の剣の錆にしてやりますよ!」


リサは一時無視だ。無視。


「二時間圏内で、他に村はあるのか?」


「はい。二つ。デルスマーク北部にあるリャクチ村、南部にあるショポカ村です。どちらも小さな村です。」


「次に狙われるならいつ、どちらかってのは分かるか?」


「分かりません。二時間圏内という事以外は全てランダムです。一応、既にその二つの村には護衛として何人か配置させています。」


それからいくつか質問を重ねたが、特に情報らしい情報は無かった。そうこうしているうちに目的のシデ村に辿り着いた。


情報通り、木造の建物が並んだ村には、ただの一人も住民は見えず、陶器の破片や壊れた扉、焦げ跡、地面に残る大量の血痕等の争った形跡が残るのみ。


「一人は周囲の警戒!他は村を調査するぞ!」


リサの指揮の元、騎士達が村を調べ始める。

当然俺も調査に加わる。一通り村の中を見たが、白い布切れの様な手掛かりが落ちている、なんて事は無かった。


「………」


「手掛かり無しか。」


「……いや。そんな事は無い。」


俺は指に付いたすすを擦り、リサの言葉に返す。


「何か見付けたのか?」


「この村の荒れ方。変だと思わないか?」


「何が変なんだ?」


リサも周りを見渡しているが、特に何も気が付かないらしい。


「……推測が正しいとすると、少し調べてみる必要があるな。」


自分のステータスの中、唯一文字化けしていない、習得した魔法名が羅列されているウィンドウに目を移す。


「……リサ。今まで襲われた村の住民は全部で何人くらいになるんだ?」


「そうだな…大体二百人くらいだろうか。」


「二百人か……早めに手を打たないとまずいかもしれないな…」


「なんだ?それが何か関係あるのか?」


「…一度戻るぞ。」


「あっ!おいっ!無視するなぁ!」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



その頃…薄暗い部屋の中。


グチュグチュ…


「う゛……ぁ……」


「……ふひひ。楽しいなぁ。」


薄明かりの中に反響する男性か女性か分からないうめき声と、不快な音。


「死聖騎士様…っ?!」


「なに?僕今忙しいんだけど。」


「そ、その…我々の事を嗅ぎ回っている連中がおりまして…」


「………」


「っ?!」


死聖騎士と呼ばれた影がゆっくりと振り向き、金色の刺繍が施された信者服を着る男に、瞳孔が開いた異様な目を向ける。


「そんな事の為に僕の手を止めたの?」


「わ、私は……」


「やっぱり…そのままじゃ信仰が足りないよ。」


「ひっ…」


「怖がる事は無いよ。僕がちゃんと導いてあげるからね。」


「ひぃぃぃ!!」


グシュッ!


「ふひひ……楽しいなぁ…これで僕の信仰がまた……ふひひ……」


ボウッ!


青白い光が、薄暗かった部屋を照らし出す。


「あ゛……お゛ぉ……」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



プリトヒュ達と村の調査を行った翌日。俺は冒険者ギルドへ向かい、イーサと話し合いを行う事にした。プリトヒュとリサも同席している。


「イーサ。遅れてすまない。」


「構わんよ。調べたい事があると言っていたからな。半日待たされるくらい平気だ。

それで……なにが分かった?」


「まず、結論から言うと、今回の事件。予想以上の大事になる可能性が高い。」


「……その結論に至った理由を聞いても良いか?」


「俺達は昨日、シデ村に向かい、調査を行った。

報告通り争った痕跡だけが残り、人は見当たらなかったが、一つ気になる点があった。」


「気になる点?」


「争った痕跡の中に、げ後があったんだ。」


「それのどこが不思議なんだ?火魔法を使ったとか、抵抗した村人が焚き火を投げ付けたとか、考えようはいくらでもあるだろう。」


「いや。それだと説明がつかないんだ。

村のほぼ全てが木造の建物だったが、火の手が上がった痕跡は見られなかったんだよ。」


「実際、私達も目にしました。焦げ後は沢山ありましたが、消された様子も無いのに燃え広がった形跡は皆無でした。」


「……確かに不審な点ではあるが、それが何かヒントになるのか?」


「俺は、物を焦がしたりするが、燃え広がらない魔法を知っているんだ。」


指先で魔法陣を描く。

ボウッと音がして青白い炎が魔法陣から流れ出してくる。


「火魔法…?いや…なんだその魔法は?」


「怨嗟の炎。それがこの魔法の名前だ。何度か試してみたが、これを撃ち込んだ場所には全く同じ焦げ跡が残る事が分かった。」


「聞いた事が無い魔法だな…?」


「だろうな。こいつは火ではなく、闇魔法だからな。」


「闇魔法?!」


イーサが眼帯のついていない方の目を丸くする。


「あ。俺は魔族じゃないからな。」


「そんな事思ってない!…でも、そんな魔法を一体どこで?」


「俺が手に入れた場所は、深緑の森にある隠しダンジョンだ。」


「隠しダンジョン?」


「ある物を持っていないと開かないダンジョンなんだが……そのダンジョンのクリア報酬でこの魔法が手に入る…かもしれない。」


これはあくまでも憶測だが、怨嗟の地下迷宮のクリア報酬が稀にレアアイテムとして、怨嗟の炎の魔法書を排出するとしたら…考えられない話では無い。

この魔法はダンジョンボスが使っていた魔法だ。関連性はある。


「俺の推測が正しければ、五年前、ポポルの街に来た神聖騎士団が、街に手を出さず消えた理由が分かる。」


「隠しダンジョンに潜ったのか…?」


入るための鍵である怨嗟の宝珠は、手に入れた者の数に対して使った者の数が圧倒的に少ないはず。

使えないアイテム。それをどうするか、RPGをやった事のある者ならば分かるはず。

。金にした方が使い勝手が良いから当然だろう。

大量に売られた怨嗟の宝珠を、神聖騎士団が入手し、何らかの方法でそれが鍵だと認識したならば…


「有り得ない話ではないだろ?」


「確かに考えられる話だが、それと住民が失踪した事とどう繋がるんだ?」


「俺も、それが分からなくて半日調べて来たんだ。プリトヒュとリサに手伝ってもらってな。」


「まさかあんな事をさせられるとは…騎士として有るまじき行為だ!」


「何をしたんだ?」


「普通に考えて、二百人もの人達が反抗も逃走もせずに大人しく付いていくと思うか?」


「なかなか考えにくいな。だから奇っ怪な事件と言ったのだしな。」


「最初は人質を取って…とかも考えたんだが、それだけでは難しい。

だが……全てだったらどうだ?」


「いや、それは当然あたしも考えたさ。既に殺されていて、何かの為に死体を持ち出されたのかも…とな。小さな村だ。ある程度数を揃えれば誰も逃がさずに殺す事は可能だろう。

だが、それだけの死体を運び出すとなると、かなり大掛かりな運搬が必要になる。何台もの馬車が走っていたら、流石に誰かの目には止まるだろ。」


「馬車が必要無かったとしたら?」


「人力って事か?」


「いや。違う。

この怨嗟の炎という魔法は……死体をアンデッドに変え、操る事が出来るんだ。」


ステータス画面の魔法欄。その中の怨嗟の炎の説明に目をやる。


【怨嗟の炎…初級闇魔法。青白い炎を出現させる魔法。高温の炎球を作り出し放つ。。】


確認作業をした後、表記内容がしたのだ。傷薬の作成の時に確認した事が、気が付くきっかけになったのだが…まさか魔法の表記まで変わる可能性があるとは…


「なにっ?!そんな魔法が?!」


「この半日。俺達は貧民街へ行ってきた。酷い光景だった。そこらにが転がっていたからな。」


「まさか…シンヤ!お前っ!」


「リサに手伝ってもらって死体を回収し、怨嗟の炎の効果を確かめてみた。

死体はアンデッド化し、俺の指示通りに動く様になった。」


バキッ!


俺の頬にイーサの拳が当たり、口の中に血の味が広がる。


「姉さん!落ち着いて!」


「それでも人間か!」


憤りを隠そうともしないイーサが拳を震わせる。


「悪いが、神聖騎士団を追うために手を抜くつもりは無い。誰になんと言われてもな。」


「この野郎っ!」


「姉さん!」


「離せリサ!お前だってあたしの気持ちは分かるはずだ!同じだろうが!」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



八年前…デルスマークの貧民街。


「今日も雨か……」


「姉さん……」


「リサ。」


シトシトと降ってくる雨。瓦礫の下に埋もれる様にして妹の肩を抱く。雨に濡れて冷たくなった妹の小さな体は、酷く痩せこけている。

デルスマーク。獣人族の街。その西門に近いこの場所には、奴隷と、食うにも困る貧民が生活している。

家が崩れても直す金など無く、三割以上の建物は、既に瓦礫と化している。


「雨が止んだら何か食い物をって来てやる。それまで我慢出来るか?」


「……うん……」


湿り、ボサボサになった髪を撫でてやると、力無く笑うリサ。

あたし達は親の顔を知らない。気が付いた時にはここに二人きりで居た。

もしかしたらリサは、本当の妹では無いかもしれない。でも、一番古い記憶の中でも、あたしはリサの手を握っていた。この子はあたしが守ると。

毎日死ぬ気で食い物を探し、盗って来た一欠片のパンを、泥水と一緒に、妹と分け合って食べる日々。

妹は体が弱く、雨が降ったり、食べ物が無いと直ぐに倒れてしまう。最近は雨が多かった為、出店も無く、食べ物が手に入らなかった。


「姉さん……ごめんね……」


「何言ってんだ。あんたはあたしの妹だ。必ずあたしが守ってやる。」


「うん……ありがとう…」


熱っぽい額に、雨で濡らした手を当ててやる。


「どうだ?気持ちいいだろ?」


「ふふ……気持ちいい…」


力無く笑うリサ。


「少し横になれ。」


「でも…姉さんは…」


「あたしは大丈夫だ。ほら。」


体を支えてやると、瓦礫の中で横になるリサ。


「姉さん…」


「なんだ?」


「どこにも行かないでね…?」


「当たり前だろ。リサを残してあたしがどこかに行くなんて有り得ないっての。」


「ふふ……姉さん大好き……」


「…あたしもだ。ほら、少し寝ろ。」


「うん……」


そう言って目を閉じたリサ。少しすると寝息が聞こえてくる。

あたしの手を握り、安心した様に眠るリサ。

一枚しかないボロボロの布をリサに掛けてやる。


分かっている。このまま何も食べなければ、リサは確実に死ぬ。


そんな奴らを何人もここで見てきた。中には仲の良かった奴もいる。でも、皆死んだ。リサと同じ様に弱って。


「リサ…あんたはあたしが必ず守る。だから……ごめんな。」


リサを起こさない様にゆっくりと握られた手を離し、瓦礫の外に出る。


頭や肩に降り掛かる雨が冷たい。


瓦礫の山を越えて、大通りへと走り出す。雨のせいで人通りも少なく、食べ物を手に入れられる場所も少ない。


「絶対あたしが守る!」

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