第14話 デルスマークへ

「落ち着いたか?」


「うん……ぐすっ…」


鼻をすするエリーの顔には、未だ涙の後が消えずに残っている。


「ほら。傷薬だ。塗っとけよ。」


「うん………」


傷薬を渡すと、素直に受け取るエリー。随分と素直になってくれたものだ。


「偉そうな事を言ったけどさ。実は俺も色々と後悔しっぱなしなんだ。」


「シンヤが?」


「当然だろ。どうにかして助けられたんじゃないかってさ。」


もっと早く、シンヤの力を使いこなせる様にしていれば…そして……

一人でやるんじゃなくて、もっと他の人に頼っていれば……

俺がソロプレイを続ける切っ掛けになった、あの時の事なんか忘れて、シンヤの力を全て無理矢理引き出して戦っていたら…

装備だって……考え出したらキリがない。


「………シンヤ。」


「なんだ?」


「私……この街で頑張る。シルビーさんが守り抜いてくれたこの街を。次は私が守る。

神聖騎士団の連中は全員地獄に突き落としてやりたい。それは今でも変わらない。

でも、この街を守りたい。」


「…そうか。シルビーさんとしても、それは嬉しいことだと思うぞ。」


シルビーさんの最後の笑顔。その裏にある理由はもっと複雑でもっと沢山の意味を持っていたと思う。それは多分、エリーも分かっている。

だからこそ、彼女はこの街に残る決意をしたのだろう。

当然、神聖騎士団との一件から、エリーが悪いと責め立てる人もいるだろう。罵声を浴びせ、非難する者もいるだろう。いや、そんな奴の方が多いはずだ。それでもエリーは残ると決めたのだ。容易な道ではない。


「私の決意なんて、シンヤの決意に比べたら子供じみてるとは思うけど…」


「そんな事は無い。決意に大人も子供も無いからな。」


「ううん。分かってるの。

シンヤがあの時、神聖騎士団に自分の名前を告げたのは、自分に視線を向けさせて、これ以上この街に被害が出ないように。だよね。」


「…………」


「ここを出ていくのも、巻き込まないように。全部自分の事じゃなくて他人の事を考えての事だって分かってる。」


「自分勝手な復讐心かもしれないぞ?」


「本当はそうだとしても、私はそんな風には思わないし、思えない。」


「えーっと……」


急に態度がガラリと変わると、反応に困る…


「……ありがとう。シンヤ。」


「………」


「またポポルに来たら必ず顔を出してね?」


「それは約束するよ。」


「うん!」


目の下を赤くしたエリーが笑う。

ルーカスが言っていた様に、彼女は元々よく笑う女の子だったのだろう。

その笑顔は、とても自然なものに見えた。


「シンヤは神聖騎士団と戦うの?」


「そのつもりだ。あれだけエリーに色々と言っておきながら自分勝手だろ?」


「そんな事ないよ。シンヤなら、やってくれそうな気がするし。

でも………気を付けてね。」


「おう。」


「……じゃあね!」


まだ何か言いたそうにしていたが、エリーはそれを飲み込んで手を振り、街に向かって走っていく。

今もなお、美しいポポルの街に向かって。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー


俺の目的地であるデルスマークは、この辺りでは一番大きな街だ。


神聖騎士団の連中も、このデルスマークから向かって来ただろう事は考えずとも分かる。


俺達が殺した神聖騎士団の連中が、復讐に現れるとするならば、俺が通っているこの道を通るはず。敢えて旨みの少ないポポルの村にこれ以上増援を送るかは微妙なところだが…もし遭遇したならば、戦闘は免れない。

などと考えながらデルスマークへの道を進み続ける。


「どぅぁぁ…づがれだー…」


エリーと別れ、デルスマークへと向かう俺は、何も無い平原を、今日も歩いている。

この大平原はデルス大平原と呼ばれ、色々な動物やモンスターがのびのびと暮らしている。

それ程危険なモンスターは街道付近には現れず、歩いての移動でも問題は無い。距離を除いては…


「車…いや、せめて自転車でも良いから欲しい……」


高いステータスを持った体が本当に疲れているわけではない。単純に旅に慣れておらず、精神的に疲れているのだ。

日本に住んでいた俺は野営などした事も無いし、一人でこんな大平原の真ん中で寝るなんて怖すぎる。


「くっ…これが科学に頼りきった生活の代償なのか…」


独り言も多くなり、ブツブツ言いながら街道を歩き続ける。神聖騎士団の一件もあったし、ポポルの街に向かう商人も、逆に出てくる商人も全く居ない。


「誰か通れば馬車に乗せてもらおうかと思ってたんだがなぁ………」


周りを見渡しても草原と、遠くに見える動物以外は誰も居ない。聞こえてくるのも草原を吹き抜ける風と、その風に揺れる草の音だけ。


「のんびり行きますかー……

って、そう言えばダンジョン報酬とか確認してなかったな。」


インベントリの魔法を使ってウィンドウを呼び出す。


「えーっと……イベントの報酬はこの魔法書か。」


インベントリから魔法書を取り出して、鑑定魔法を使ってみる。


【魔法書[怨嗟の炎]…初級闇魔法、怨嗟の炎を覚えることが出来る魔法書。】

【怨嗟の炎…初級闇魔法。青白い炎を出現させる魔法。高温の炎球を作り出し放つ。死霊系のモンスターに効果が高い。】


「たしか怨嗟の剣の時も魔法書で覚えたんだったな。

今回は攻撃魔法か。それにしても、炎って付いてるのに闇魔法なのか。火魔法でも良さそうな物だが…

死霊系モンスターに効くって所が肝なのかもな…

よし。早速使ってみるとするか。」


魔法書をパラッとめくると、中には魔法文字が羅列している。


「読めんわ!」


魔法書にツッコミを入れると同時に魔法書に記された魔法文字が淡く黒色の光を放つ。


「そう言えばこんなエフェクトがあったな。」


魔法書から魔法文字がフッと浮き上がると、それが徐々に消えていく。


「お……おぉ?!」


文字が消え去ると同時に、頭の中に怨嗟の炎の魔法陣や必要な魔力量についての情報が明確に流れ込んでくる。


「すげぇ?!なんだこれ!頭の中に直接流れ込んでくる!まるで魔法だな?!」


魔法です。


「なるほど…魔法書ってのはこんな感じなんだな。」


魔法には、知識を知り、魔法陣を描く事が出来れば使える魔法と、そうでない魔法がある。

闇魔法や光魔法はそうではない魔法の筆頭だ。そして、この怨嗟の…と付く魔法は知識や魔法陣を知っていても使えない類の魔法だ。


「情報は入ってきたが、こればっかりは使ってみないと分からない所も多いからな。」


早速指先で怨嗟の炎の魔法陣を描いていく。


ボボッ!


完成した魔法陣の中心から青白い炎の球が現れる。


「ランプグラッジが使ってた魔法だな。」


ゴウッ!


地面に向けて放つと、着弾後、瞬間的に炎が広がり、直ぐに消える。


「普通の炎よりも燃え広がる能力が圧倒的に弱い……と言うより燃え移らない?」


左腕に巻かれた白布を見る。


「壁や床に当たった後直ぐに消えていたし、俺の腕を焼いた時も燃え移らなかった……確かに普通の火魔法とは毛色が違うが……」


インベントリのウィンドウに再度目を移す。


「ダンジョンの攻略報酬は……これだな。」


魔法書はイベント報酬であり、ダンジョンのクリア報酬とは別だ。ダンジョンには必ずクリア報酬が用意されている。どんな仕組みになっているのか全く分からないが、ダンジョンボスを倒し、外に繋がる扉を開くと、そこに報酬が置いてある。

ダンジョンによって報酬はそれぞれ異なり、常に同じ報酬が出現するダンジョンと、いくつかの報酬がランダムで出現するダンジョン、そして確率でレアなアイテムや魔法書等が出現するダンジョンが存在する。


「怨嗟の地下迷宮は同じものが出現するダンジョン…もしくは確率でレアアイテムが出現するダンジョンみたいだな。前のクリア報酬と同じ物だ。」


インベントリから報酬を取り出し、鑑定魔法を使用する。


【偽りの死者…体に振り掛けると、一定時間アンデッド系モンスターから認識されなくなる。】


小瓶に入った薄い紫色の液体をチャプチャプと振りながら光に透かす。


「消耗アイテムだが、ここでしか手に入らないアイテムだし、効果もかなり良い。使い所が難しいが…」


最初に手に入れた偽りの死者は、最難度のダンジョン攻略の時に使った。

今回は俺とエリーで攻略したため、二人パーティという判定になっていたらしく、偽りの死者も二つ。当然分けようとしたが、エリーは受け取らないと言って聞かず、結局俺が二つとも貰う事になった。


「有効に使わないとな。」


アイテムをインベントリに戻し、適当に内容を流し見していると、金属音が聞こえてくる。


キンッ!ガンッ!


「…………だ!」


「………っ!」


音のする方向を見ると、草原の中でブルータルウルフ数体と戦っている冒険者達が見える。

遠くから見るに三人。一人は大盾、一人は大剣、後ろに居るのはレイピアを持った魔法使い。ブルータルウルフの連携と、数に押されている様に見える。


その奥には馬車と、怯えている男性商人の姿が見える。


「ちょっとヤバそうだな…」


急いで近寄ると、戦況が詳しく見えてくる。

ブルータルウルフは全部で五体。やはり押され気味だ。


冒険者達は、全員が俺の体と同じくらいの歳だ。

大盾の男は短い黒髪と黒い瞳。ムキムキで大男。肩、胸、腰に金属アーマーを付けている。彼が最前線でブルータルウルフ達の攻撃を一人で凌いでいるらしい。

その後ろから寄ってきた個体に攻撃を繰り出しているのは、大剣を持った中肉中背の男。長めの金髪と茶色の瞳。右肩にのみ肩当てを装備している。

そしてその更に後ろにはレイピアを持ち、もう片方の手で魔法陣を描いている女性。背は低く、肩まである琥珀色の髪と瞳。服の布面積が少ない服装で、残念な胸が逆に目立って………ゴホン……

なにより三人に共通する目立った特徴がある。

それは耳と尻尾があることだ。


彼らは全員が獣人族なのだ。


大盾の彼は丸い耳と尻尾。熊の獣人族。

大剣の彼は垂れた耳と湾曲した尻尾。犬。

そして女性は尖った三角の耳に細長い尻尾。猫の獣人族。

これから向かうデルスマークは、獣人族が多く住む街なのだ。この街に最初にプレイヤー達が多く訪れた理由は明白。ケモ耳が待っていたからなのだ。


「そんな事を考えてる場合じゃないな……おい!」


「っ?!」


俺の声にレイピアを持った女性の獣人族が反応する。


「助けが要るなら参戦するぞ!」


「助かるにゃ!お願いするにゃ!」


語尾が、にゃ!だと?!

因みに言っておくと、獣人族だから語尾に、にゃ、とか、わん、とか付くわけではない。普通に喋る。

ビックリしたが、今はこの状況の打破に意識を集中しよう。なんかツッコミ入れたら負けな気もするし。


「俺は即興で合わせる!」


腰から直剣を抜き取り、大剣を持った男の斜め後ろに陣取る。


ゲームの時から割とこういった状況は多かった。死んだら初期化のゲームだ。苦戦しているプレイヤー達の中に即興で入って手伝うのは、ある種のマナーとさえなっていた。

ただ、この時気を付けなければならないのは、パーティの連携を邪魔しないように参戦する事。手を貸した事によって輪を乱して逆に窮地きゅうちに陥れたら意味が無い。

それが出来ない人は、魔法で遠方から援護したり、アイテムを提供したりする程度に抑える。これが暗黙の了解だった。

ステータスも高く、古参プレイヤーだった俺はこうして飛び入りで参加する事も多かったのだ。


「助かるだす!」


大盾を持った男が前を向きながら声を張る。


「よろしく頼む!」


大剣の男も前を見たまま声を掛けてくれる。人柄は皆良さそうだ。


「来るにゃ!」


「任せるだす!」


ガンッ!


大盾で攻撃を受け止め、その隙に大剣を振る。もしくは魔法が飛んでいく。

しかし、相手のスピードと連携を前に攻撃がなかなか当たっていない様子だ。


「また来るにゃ!」


ガンッ!


大盾が弾き返し、大剣を避けたタイミングで俺が飛び出し、ブルータルウルフの退路へ直進する。


「逃がすか!」


「ギャンッ!」


横腹を完全に捉えた一撃によって、ブルータルウルフ一匹が地面に横たわる。


「すげ……」


「速いにゃ…」


ブルータルウルフからの反撃が来る前に大盾の後ろまで一気に下がる。


「掛かった!」


「任せとけぇ!」


ガンッ!


俺に釣られて走ってきた一匹の首を大剣が切り離す。


「うっしゃ!当たったぜ!」


「ディニズ!気を抜くなにゃ!」


「へ?」


大剣男の横から大きな口を開いて牙を剥き出し迫る個体。


「はぁっ!」


俺の直剣がその個体の首を切り落とす。


「い、いつの間にそこに?!」


驚愕きょうがくする大剣男。二匹になってしまったブルータルウルフは背を向けて走り去っていく。


「ふぁー!助かったにゃー!」


「危なかっただす。」


「なんとかなったな…それより、助かったよ。本当にありがとう。俺はディニズ。このパーティ、チャムのリーダーをやっている。

こっちの大男はベルド、こっちのちっこいのはイシテリアだ。」


「俺はシンヤだ。」


三人と握手を交わしていく。


「本当に助かったにゃー!」


「困った時はお互い様。気にする事はない。」


「いやいや、そうはいかない。こっちは命を救われたんだ。礼をしなければ気が済まない。」


「気にする事は無いさ。それより良いのか?護衛なんだろ?」


後ろにいる商人らしき男性がこちらを見ている。


「そうだったにゃ!ドルトーさん!大丈夫ですかにゃ?!」


「あ、あぁ。大丈夫だ。」


馬車にいた商人の男性がホッとした顔で降りてくる。人族の男性でぽっちゃり系、糸目、茶髪という姿だ。


「こちらはドルトーさん。」


「助かりました。私はドルトーと申す者で、この辺りの村々を渡って商いをしている者です。」


「これはご丁寧に。俺はシンヤと申します。駆け出しの冒険者をしております。」


「ほほぉ…」


感心!といった反応をされる。


「…?何か?」


「いえいえ。冒険者の方にこの様に丁寧な挨拶を返されたのは初めてでして。」


「ご不快だったでしょうか?」


「いやいや。良い意味で驚いただけですよ。」


「そうでしたか。安心しました。皆さんはデルスマークに向かっているのですか?」


「はい。今はデルスマークに戻るところです。」


「そうでしたか。」


「それより…今回の場合、それらのモンスターの素材はどのように…?」


倒したブルータルウルフを見ながら聞いてくるドルトーさん。


「ははは!相変わらずドルトーさんは商人だなぁ!」


「これを生業なりわいとしておりますから。」


「だが、残念ながら今回は俺達が助けられた。この素材は全てシンヤの物だ。」


「えっ?!いやいや!俺は軽く手助けしただけだから素材は貰えないって!」


「あれが軽く?ほとんどシンヤ一人でやった様なものだったろ。」


「ディニズの言う通りだす。」


「私達が助けられたから当然の事なのにゃ。」


これは絶対に受け取らない感じの反応だ…

ブルータルウルフの素材なんてタンスの肥やし状態なんだが…


「そうだ!良い事考えた!」


「??」


俺は倒したブルータルウルフを手早く解体する。


「凄い手際にゃ…」


「こんなに綺麗な解体は初めて見ただす…」


「そうか?これくらいなら出来る人多いと思うが……よし。出来た。」


綺麗に三体分の素材を並べる。


「ドルトーさん。」


「はい?」


「街まで馬車に乗せてもらうとしたら、代金はどの程度になりますか?」


「命を救って頂けましたしそれくらいならば……なるほど。そう言う事ですか。」


「ドルトーさんが何かを納得しているにゃ。」


「そうですね。助けて頂けた事を含めて考えますと、タダで良い所ですが、気が済まないと言うのでしたら…」


「そうだな。気が済まない。」


俺の答えに軽く笑いを含んだ声で返してくる。


「でしたら、そうですね…大体千ダイス。ちょうどブルータルウルフの爪一匹分の値段くらいでしょうか。」


「そうなのですか?!奇遇ですね。最近偶然にですが三匹分の素材を手に入れたのです。

お金の持ち合わせが無いので、これでどうでしょう?」


「ほほう!これはこれは!分かりました。これで手を打ちましょう!」


「あー…なるほどにゃ…」


「ここまで臭い演技を見せられれば誰でも理解出来るな…分かったよ。俺達の負けだ。」


「ははは!シンヤさんは面白い事をお考えになる方ですね!」


「正直なところ、ここに来るまでにブルータルウルフの素材が手に入って、これ以上は必要無いので貰って頂けると逆に嬉しいのです。

そうですね…毛皮一。牙を二匹分頂ければそれだけで。」


「そんなに少ないのはさすがに!」


「その代わり、ドルトーさんには街での商業的な常識やその他の情報。

チャムの皆には街の案内や宿の紹介等をお願いしたい。」


「それだけじゃ採算が合わないにゃ!」


「そうだすな。」


「自分達が損するだけだってのに律儀な奴らだな…」


「恩を仇で返す様な真似は出来ない。損得なんか関係ない。むしろ損してるのはシンヤの方だろ。」


「……ははは。ドルトーさんが気に入るわけだな。」


「はい。彼らはとても気持ちの良い青年達ですから。」


「分かった。それじゃあもう一つお願いしても良いか?」


「なんでも言ってくれ。」


「実は……俺、神聖騎士団に追われていると思うんだ。」


「……はっ?!」


「神聖騎士団になのにゃ?!」


「これは驚いただす…」


三人共随分と良いリアクションをしてくれる。


「どの程度危険視されているかは分からないがな。

そこで、そんな俺が隠れるのに良い場所や、気を付けた方が良い事なんかを教えて欲しい。」


「………」


「一つだけ聞いて良いか?」


「なんだ?」


「神聖騎士団に追われる事になった原因はなんだ?」


神聖騎士団と事を構えるなんて恐ろしい事は普通の奴らはしない。俺のように何かを守る為か、もしくは、馬鹿な極悪人くらいのものだ。

後者では無いという保証が欲しいのだろう。

詳しい事は端折って大まかに事の成り行きを説明する。


「そんな奴ら死んで当然にゃ!」


「くそっ!俺がその場に居たらもっと被害を出さずにっ!」


「相変わらず嫌な奴らだす。」


「信じてくれるのか?」


「当然にゃ。嘘を吐いているかくらい目を見れば分かるにゃ。」


「もしこれが嘘で俺達が騙されたってんなら見る目の無い自分のせいだ。俺は人を見る目はあるつもりだ。」


神聖騎士団はどこでも嫌われ者らしい。


「あの街で昔、神聖騎士団と色々とあった事は周知の事実ですからね。」


「分かった!俺達に出来ることならなんでも手を貸す!」


「そうか…助かるよ。」


「神聖騎士団に恨みを持つ奴は沢山いるにゃ。街でもそんなに不自由せずに暮らせるのにゃ。」


「それに、追われているか自体分かってないんだよな?」


「名乗りをあれだけ堂々と上げたから、俺の名前が神聖騎士団に届いているのは間違いないと思うぞ。」


「……その辺の事も探りを入れてみるにゃ。」


「いや!そこまでしなくて良いよ!チャムの皆が危険になるような事はしないでくれ!」


俺のせいで危険な目に遭う人はこれ以上必要ない。


「いくらか情報を集めるだけだからそれ程危険な事じゃないだす。」


「少しでも危険があるならそんな事はやめてくれ。」


「いや。これは俺達がやりたくてやる事だ。止められてもやる。」


「大丈夫にゃ。神聖騎士団に目を付けられないように慎重に動くのにゃ。」


「……くれぐれも巻き込まれる様な真似はしないでくれよ?」


「デルスマークは俺達の育った街だ。勝手は分かっている。これくらいの事は慣れっ子さ。」


「それなら良いんだが…」


「それより、そろそろこの素材達を荷馬車に乗せて出発にゃ!話なら荷台でも出来るのにゃ!」


「それもそうだな。」


イシテリアの言葉に同意して全員で動き出す。

テキパキと言葉を交わしてもいないのに役割を分担して作業する三人。俺の事ばかりで三人の事は何も聞いていなかったな…

素材を積み終わり、ドルトーさんが御者で馬車が走り出す。


「随分と息が合っていたが、三人はいつからの付き合いなんだ?」


「ガキの頃からさ。」


「私達は幼なじみだにゃ。」


「なるほど。それであんなに息が合ってたんだな。」


「なかなか戦闘では息が合わなくて困ってるんだがな…」

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