第二章 亡霊の巣窟

第11話 深部

「夜の森ってのはなんでこうも不気味なのだろうか…」


エリーを置いて森の中へと入ってきた俺は、周りを見渡しながら不気味さを感じていた。


現在は夜中。明るい時に来る深緑の森とは全く違う雰囲気をかもし出している。


「えーっと…確か、イベント完了の告知が来ていたな。」


神聖騎士団を追い払い、一段落したところで、イベント完了の告知が来ていた。内容は…


【イベント完了…エリース-ニルヘムを取り巻く状況を解決した。

報酬…鋼鉄の剣

報酬はインベントリに直接転送されます。】


「解決…したのか?それに、これってどうなってんだろうな…インベントリに直接転送って…いや、そもそもインベントリって……うーん。謎だらけだ。

インベントリ内には確かに新しく鋼鉄の剣が収納されているし、どうやって干渉したんだ?」


頭を捻ってみても分からないものが分かるようにはならない。


「これについても調べてみないとなー…今は放置するしかないか。

せっかく手に入れた事だし、鋼鉄の剣とやらを見てみるか。」


インベントリから鋼鉄の剣なるものを引き出してみる。


今まで使っていた鉄剣とほとんど変わらないデザイン。しかし、剣身が黒ずんでいて、刃の部分だけがギラギラとしている。

さやにはどこかで見た事のあるエンブレム。


「このエンブレムって……あ!そうか!ファンデルジュの!」


モニターで何度も見たファンデルジュのタイトル画面。その後ろに描かれていたエンブレムだ。

女性の横顔と羽を描いたエンブレム。


「鉄剣の方にも有ったよな…?……って…だからなんだって話なんだが…」


鉄剣をインベントリに戻し、鋼鉄の剣を振ってみる。


「鉄剣より少し重いかな。でも、耐久値も斬れ味も段違いだよな。鉄剣はボロボロだし、これからはこいつを使っていくか。」


鞘に戻した鋼鉄の剣を腰に差し込む。


「あとは……」


インベントリの中から、この辺りのモンスターを相手にする際、十分に効果を発揮してくれるであろう防具を取り出す。

動きを阻害しないタイプの防具で、革製の胸当て、篭手、脛当て。

少し頼り無いように感じるかもしれないが、体のステータスが高い為、これでも防御力は十分だろう。


「ふー……よし!行くか!」


防具を装着し終えたところで、深緑の森へと足を踏み入れる。とてつもなく静かだ。

この世界でのモンスターの扱いは、とても自然な物。ポコッとリポップしたりはしない。その場にいるモンスターが絶滅したら、自然に増えたりはしない。

ただ、開拓されている土地は、世界的に少なく、今回のゴブリンのように追い出されたモンスターが別の場所に住み着くという事はままある。

この深緑の森に住んでいたゴブリンはほぼ全てが死んだが、また時間が経てばどこからともなく移ってきて巣を作る。その繰り返しだ。

ただ、移り住むまでの時間は、モンスターが居ないという事になる。今の深緑の森中層までは、まさにその状態だ。


周囲の木々の葉が灰色へと変わり、死臭が漂ってくる。


「酷い臭いだな…ゴブリンの死体か…焼いた方が良いのか?でも火事になったら洒落にならないしなぁ。モンスターの死体はアンデッド化しないし、早く土に帰ってくれる事を願っておくとしよう。」


死臭の漂う地域を抜けて、更に奥へと進むと、灰色だった葉が、赤に変わる。


「ここからは内層だな……と、早速お出ましか。」


「グルルルル…」


暗闇の中に光る黄色の目。葉の隙間から差し込む光が照らしだした唸り声の正体は、ブルータルウルフ。

Cランクのモンスターだが、ゴブリンを楽に捕食する程の強さを誇る。この森の中に住んでいる数は少ないが、森の中でも、Cランクのモンスターの中でも、強い部類に入るモンスターだ。

つややかな赤色の体毛、長い牙、鋭い爪を持ったオオカミ。全長で一メートル半。一匹でも十分な威圧感だが、ブルータルウルフは群れを形成する。

洗練された群れの連携と、持ち前のスピードで相手を翻弄し、捕食する姿は、残忍とまで言われる程である。


「いきなりブルータルウルフが相手とはな…」


「ガウッ!」


「ガウッガウッ!」


俺を半円状に取り囲んでいくブルータルウルフ。威嚇いかくしながら俺の動きを見ている様だ。


「さて…全部で五匹……そろそろ俺の品定めも終わった頃だな…」


「グルルルル……ガウッ!」


右手のブルータルウルフが動いた。走ってくる足を払う様に剣を振るが、すんでのところで歩を止めて後ろへと飛ぶ。


ガツッ!

「くっ!」


左手に居た一匹がタイミングを合わせて攻撃してくる。右手を向いていた俺からしてみれば背後だ。鋭い爪は肩当てに直撃したため、ダメージは無いが、完全に翻弄されている。


「くそっ!」


剣を振ったところで、遅れた攻撃が当たるはずもなく、軽々と避けられてしまう。

ブルータルウルフは、淡々と獲物への攻撃を繰り返す。危険な賭けには出ず、確実に、少しずつ削り、息の根を止めるのだ。

要するに、俺の全身は傷だらけになり、一匹たりとも仕留められていない現状に辿り着くわけだ。


「はぁ…はぁ…ははは…ゲームの中じゃ…雑魚でしか無かったモンスターに……ここまで圧倒されるとはな…」


「ガウッ!」


ガキッ!

「くっ!…なんとか凌いではいるが…時間の問題だな…」


「グルルルル…」


「ゲームの時は…もっと簡単に……」


「ガウッ!」


ガキンッ!


「何が違うって言うんだ…ゲームではもっと周りが……見え…て……」


「ガウッ!」


迫り来る牙を紙一重で避けて、剣を振るう。刃先が襲ってきた個体の体を掠め、毛と血が舞う。


「ギャンッ!」


浅い。だが、初めて一撃を与えた。


「そうか……そういう事か。」


とても単純な話だった。


視野狭窄しやきょうさく


緊張状態になると、周りが見えなくなる。というやつだ。

戦闘や、痛みへの恐怖。やらなければという緊張。 素早い相手への警戒。色々なものが重なり、俺の目は、ものを点でしか見てなかった。

人の視野は左右共に100度まであると言われている。その視野内ならば、本来見えているはず。だが、視野狭窄によって周りが見えず、目の前の一点にのみ集中してしまっていたのだ。ゲームをやっている時のモニターよりもずっと狭くなっていた。


「つまり、俺がとんでもないビビり野郎って事だな。」


「ガウッ!」


「はぁぁぁ!」


ザンッ!


一匹の首を落とす事に成功し、ドチャッと音を立てて地面に横たわる。


「グルルルル…」


対処法は簡単。キョロキョロする。常に色々な場所を見ていれば、おのずと視野も広がる。左右100度以上の視野が取れる事にも繋がり、死角が減る。

もう一つは冷静になって戦闘を一歩引いた所から見ること。

これは言うほど簡単ではない。死にたく無いし痛いのも嫌だ。そんなに簡単に冷静になれるのであればそもそもこんな事になってはいない。


胸元に手を当てると、ネックレスの感触がする。


「悪いが、俺の踏み台になってもらうぞ。」


「グルルルル…ガウッ!」


残った四匹のうち、二匹が同時に左右から襲ってくる。


「はぁぁぁ!」


右手から襲ってくる個体に、剣を振り下ろす。


刃は見事にブルータルウルフの頭部を真っ二つにする。


「ギャン!」


左手から来ていた個体には、蹴りをお見舞した。さすがにそれだけで死ぬとは思っていないが、仕切り直せれば上等だ。


「ガウッガウッ!」


後ろに居た個体が二度吠えると、残った二匹がジリジリと下がる。

少し距離を取った所で後ろを向き、木々の奥へと消えていく。


「逃げたか…ブルータルウルフは形勢が悪くなると逃げるからな。勝てない相手と判断してくれたらしい。

それにしても……ボロボロだなぁ…」


自分の格好を見て笑いそうになる。全身傷だらけで、服も破れて穴だらけ。傷薬を沢山用意しておいて良かった。


防御力は高くても、掠り傷一つ付かないというものではない為、傷は受ける。どれだけ強くなっても、攻撃されると一のダメージが入る…みたいな感じだ。


「肩当てとかは初期装備だからそろそろ替え時だとは思っていたけどさ…

でも、ここからはもっとボロボロになる予定だし、気にしていられないか。

おっと、それよりブルータルウルフの解体だな。」


仕留めた二匹からしっかりと素材を剥ぎ取る。


「この世界では捨てるものなんてほとんど無いからな。しっかり使うから成仏してくれ。

それにしても、なかなか良い剣だな。斬れ味も良いし、刃こぼれ一つしていない。」


実は、インベントリ内にはもっと強力な武器や防具が入っている。当然と言えば当然なのだが、それを敢えて使っていないのには理由がある。

一つは、自分の戦闘スタイルが、重たい防具を付けてしまう事で崩れてしまうからだ。

俺の戦闘スタイルは、刀による瞬発的なスピードを重視したもので、当然ステータスもそれに適したものになっている。下手に防具でガチガチに守ってしまうと、上手く動く事さえ出来ず、そのままお陀仏という事になりかねない。

また、武器は鋼鉄の剣で十分。防具も今身に着けている物で十分な効果が有る。あれだけのやり取りをして掠り傷だけで終わっているのが良い証拠だろう。それなのに、圧倒的に強い武具を身に付けてしまうと、自分の成長が阻害されてしまうどころか、戦闘に慣れるのも難しくなるからだ。バサバサ硬いものでも斬れる剣と、攻撃を弾きまくる防具があったとして、それを身につけて戦闘すれば確かに無双出来る。だが、それでは俺自身がまったく成長しない。それはかなり危険な事だ。

強力な武器や防具は、それを使う技術があってこそ、初めて真価を発揮するのだから。それに、分不相応の武器や防具を使うと、それらに振り回されてしまう。ろくに戦えないものより今の装備の方が良いと判断したのだ。

ただ、この中の強い武器を使っていれば、もしかしたらシルビーさんは…と考えてしまう頭を横に振る。


「冒険者やモンスターにランクがある理由と同じで、段階的に装備も変えていかないとな。それにしても、こうして一人で戦闘していると……ソロプレイでジワジワとダンジョンを攻略していた時の事を思い出すなー…」


パキッ!


「っ?!」


枝の折れる音がして振り返る。


「一難去ってまた一難…か。」


「グルォォォ!」


二メートル以上もあるデカい熊。それがこのアーマーベアを指す言葉としては最も適切だろう。

名前の通り、体の外側を強固な外殻がいかくで覆い尽くし、後頭部まである背中の外殻は棘で覆われている。

こいつもCランクの中でも強い部類に入るモンスターだ。

弱点は体の内側。外殻は外側のみで、内側は普通の熊と同じ。


「グルォォォ!」


四足歩行で走ってくるアーマーベア。気性きしょうは荒く、手当り次第に動くものを攻撃する。


スピードはそんなに無いが…


バキバキッ!


アーマーベアの腕が振られると、周りの太い木が音を立てて倒れていく。


ガキンッ!


外側に回り込み、外殻に剣を振り下ろすが、当然の様に弾かれる。


「やっぱり無理か…」


ゴウッ!


「うおっ?!」


目の前を通り過ぎていくアーマーベアの腕から恐ろしい風切り音が聞こえてくる。


「これは、一発も貰いたくないな。」


「グルォォォォォ!」


このアーマーベアを倒すのに必要なもの。それは、たった一つだけ。


勇気。


あのパワーバカの振るう腕や牙の嵐の中心。つまり、アーマーベアの内側に走り込み、確実な一撃を叩き込むしか無い。


「高速道路を走って横切る気分だな…知らんけど…」


「グルォォォ!」


月明かりの下で叫ぶアーマーベア。Cランクモンスターの中でもピカイチと言われるパワーを前に、足がすくみそうになる。


「こんな所で二の足踏んでる場合じゃないだろ……

うおぉぉぉぉぉ!!」


「グルォォォオオ!」


振り上げられた太い腕が、ほぼ真上から降ってくる。


ズガァァン!


「…………」


「………ゴフッ…」


 アーマーベアの口と鼻から出てきた血が、地面に飛び散る。

俺の握る直剣は、深々と突き刺さり、アーマーベアの心臓を貫いている。


「グ……グルォォォ!!」


最後の悪足掻き。アーマーベアが体を持ち上げて、両腕を振りかざす。


ドスッ!


持ち上がった頭部、その下顎から脳天に突き抜ける刃。


「残念だったな。」


グルンとアーマーベアの眼球が裏返り、そのまま後方へと倒れていく。


ズガァァン!


「熊が倒れた時の音じゃないだろ…

それより、こいつも余す所なく使えるな。」


アーマーベアの素材も当然全て剥ぎ取る。残ったのは地面に染み込んだ血だけだ。素材の使い道は多様にある。

解体後、しっかり全てをインベントリに収納し、先へと進む。


「さてと、そろそろだったかな。」


目指していたのは、深緑の森最深部。

実はこの森にはある秘密が隠されていた。

プレイヤーの中でも、知っているのは極小数だっただろう。


実は、この初期も初期に出てくる深緑の森の最深部、そこにある物を持ち込むと…


「えーっと…どこに入ってたかな……確か…あった!これこれ。」


取り出したのは、怨嗟の宝珠というアイテムだ。


ゲームを始めて一年程経った頃に受けたイベントの報酬で手に入れた。


イベント自体はBランクのモンスターがわんさか出てくるものだったと思う。


「ソロプレイだと結構大変なイベントだったが、その報酬がこの宝珠一個。あの時は絶望に打ちひしがれたなぁ…」


怨嗟えんさ宝珠ほうじゅ…深緑の森の最深部に施された結界を解除する事が出来る。】


この世界には転移魔法だとか、転移ポータルなんて便利なものは無い。移動には時間が掛かる。しかも、この報酬を手に入れる為のイベントが発生する場所は、死ぬ程遠い。わざわざ初期の街に戻るプレイヤーは少なかっただろう。

深緑の森などステータスの上がったプレイヤー達にとってはなんの旨味もない場所だ。そこにある結界を解いた所で得られるものは少ないと考える。


俺の場合は、報酬獲得後、ポポルの街に来る機会があり、その時に行ってみた事がある。

実は、この怨嗟の宝珠に興味があったから、わざわざポポルの街に繋がるようにクエストを繋いで移動したのだ。

あんなに大変なイベントで、報酬がこれ一つ。何か特別な物でも貰えるのではないか…と。正直興味程度のものだったが、ソロプレイで楽しんでいた俺は自由度が高く、そんな風にフラフラと初期の街に戻る事も出来た。


「ここに来てびっくりしたもんだぜ。」


取り出した怨嗟の宝珠から黒い霧の様な物がゆっくりと地面に向かって降りていく。


地面を伝うように広がって行く黒い霧。


数メートル前で霧が上へと登っていき、一枚の板のような形を成していく。霧がその場所に集まっていくと、黒く、禍々まがまがしい門が現れる。

扉の無い枠だけの門。その真下には同じ様に真っ黒な素材で出来た地下への入り口。


「ダンジョン。怨嗟の地下迷宮。」


このダンジョンが俺の目的地だ。この世界で、唯一自然の理から外れてモンスターがリポップする場所。それがダンジョン。


荒療治あらりょうじだが…これである程度経験は積める。それに…」


ピコンッ!


【イベント発生!…怨嗟の地下迷宮を攻略しろ。

制限時間…一ヶ月

達成条件…地下迷宮のボス討伐

報酬…???


受諾しますか?

はい。 いいえ。】


「出たな。イベント通知。それに、報酬は前来た時と同じで???か。」


このダンジョンは既に一度クリアしている。


「あの時は魔法を覚えたんだったな。」


直剣を鞘から抜き、その剣身に指を這わせ小さな魔法陣を描く。


「初級の闇魔法。怨嗟のつるぎ

霊体なんかの実体の無いモンスターを斬ることが出来るようになる…だったか。本来なら魔法でしか殺せないモンスターを殺せるようになるんだ。ここでは必須だよな。

今回のダンジョン攻略は報酬目当てじゃないが…」


ピコンッ!


【イベントを受諾しました。】


「貰えるなら貰っておくに越したことはないよな。さてと……行くか。」


地面の下へと続く暗い穴の中。その先に待っているダンジョンの中へと足を踏み入れる。


「…やってやる。」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



ガサッ……


「あの男…何者なの…?ブルータルウルフやアーマーベアも斬り伏せて…それに、こんな穴…無かったはずなのに…

何かを企んでる…?」


もしかしたら、シンヤとかいうあの男、神聖騎士団と繋がりがあるんじゃ…もしそうなら許さない。姉さんとシルビーさんの仇を取ってやる。


ズズ……


「っ?!入り口が閉まる?!まずいっ!早く中に!」


黒い素材で出来た入り口が生き物の様に閉じていく。


ズズズズズッ…


「真っ暗ね……灯りを…」


腰に下げたランタンに火をつける。


カランッ…


「何か地面に…………っ?!人骨?!」


バラバラになった人間の骨が、長く細い通路の床に大量に散らばっている。


「これは…スケルトン?」


Dランクのモンスターで、アンデッドのモンスター。強くはないけれど、感情が無くカラカラと襲ってくる姿はかなり怖い。


「違う違う!怖いんじゃなくて苦手なだけ!

それにしても…この数…」


見えるだけでも数十は越えている。


「もしかしてあの男が一人でこの数を…?いやいや。そんなはずない。最初から倒れていただけ。そうに違いない。」


地面に転がる人骨を避けて先に進む。

あの男はシルビーさんを見殺しにした。絶対に許さない。どこまでも追って殺してやる。


腰に携えたダガー二本に手を当てて、暗い通路を先に進む。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「くっそ!カラカラカラカラうるせぇなぁ!!」


ガンッ!


初級の光魔法、ライトで小さな光球を作り出し、周りを照らし出しているが、目の前に広がる光景は骨!骨!骨!

スケルトンの大群が延々と続いている。


地下迷宮というだけあって、このダンジョンの道は右に左にと入り組んでいる。一度攻略したが、マップなんて作っていないし、覚えてもいない。


「この量のモンスターを相手にしながら迷路も解くなんて!」


ゴンッ!


「なかなか大変だぜっ!」


ガンッ!


「前の時はもっと少なく感じたんだが…」


カラカラカラカラ…


「増えてようが減ってようが関係無いな。やるだけだ!うおぉぉぉぉ!」


次々と現れるスケルトン達を潰していく。

ただただ多い敵を潰していくのに必要なのは体力やスタミナの管理。より少ない力で的確に、一撃で相手を屠り続けること。

これについては割と自信がある。ソロプレイヤーにとって、こういう状況は結構ある。ある程度冷静に戦闘を見る事が出来る様になった今、それ程難しいことでは無い。ゲーム中のことでも、プレイしていたのは紛れもなく俺だ。感覚で分かる。


どれくらい戦っていたか…虱潰しらみつぶしに通路を進みながら、無心で剣を振り続けていた俺の前に、通路以外の物が見える。


「これくらい楽勝だな……おっ?扉だな。」


ライトの魔法で照らし出された先には真っ黒な二メートル程の扉が見える。

周りのスケルトンを全て片付け、扉に手を掛ける。


ズズズズズッ…


思ったよりもずっと軽く、扉は滑るように開いていく。一辺十メートル程の立方体の部屋。


それまでのカラカラと騒がしかった通路とは打って変わって、シンと静まり返っている。


「中ボスってやつだな。」


「ヌゥォォォォ!」


目の前に現れたのは実体の無いモンスター。レイス。

目も鼻も無く、その部分に空いた穴は真っ黒。足も無く、常にフワフワと浮いている。手には剣を持ち、攻撃を繰り出す時にのみ剣が実体化する。

Cランクのモンスターだが、物理攻撃を完全に無効化する性質から、パーティには魔法使いが必須になる相手だ。


「な、何っ?!」


突然聞こえた女性の声。後ろを振り返る。

扉が閉まった部屋の中に……………………


赤毛の女性が立っていた。


「エリー?!」

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