第8話 魔法

この世界での魔法は全て、魔法陣を描き、魔力を消費することによって発動する。

魔法陣に描くのは図形と文字。今使った様な生活の範囲内で使う生活魔法は図形を書くだけで発動する簡単なものだ。

水を取り出すには水を示す三本の縦波線を円の中に、風ならば斜め線を四本円の中に描けば良い。魔力があれば誰にでも使えるが、プレイヤーと違い、この世界にはそもそも魔力が無い人もいる。加えてプレイヤー程簡単に魔力が上がらないらしく、強者として認識される魔法使いはあまり多くない…と聞いたことがある。

少し話が逸れたが……生活魔法程度ならば簡単だが、より強力な魔法を使う為には、そこに元の世界では見た事のない魔法文字と呼ばれるものを書き込む必要が出てくる。当然図形も複雑になり、描くだけでもかなり時間を取られてしまう。ただ、アニメ等によくある詠唱などは一切無く、描くだけで魔法は発動する。

消費する魔力量によって、一般には生活魔法、初級、中級、上級の四種に分類される。

それがこの世界の魔法である。


「もっと色々な魔法を試してみたい気はするけど…倒れたら助けてくれる人も居ないし、怖すぎる。

また機会があったら使ってみようかな。」


体の震えも止まり、体も綺麗になった。

打たれた左肩には擦り傷が残っていたが、傷薬軟膏タイプを塗ったから大丈夫だろう。大丈夫だといいな…傷から感染して破傷風はしょうふうとか笑えないからな…


「…それにしても…あれだけ怖かったのに、冒険者を辞めたいと思わないのは、ゲーマーだからかなぁ…それとも、性にあってるのかな?…ははは。早死にするかもしれないな。俺。」


森を出て、ギルドに向かう。クエストを受けたわけではないため成功報酬は貰えないが、モンスターを討伐した際に貰える討伐報酬が貰える。ゴブリンなら一体につき五千ダイスだ。残念ながらゴブリンには使える素材が無いため、完全に討伐報酬だけだ。


「シルビーさん。」


「シンヤ君だ!」


「とりあえず、ゴブリンの討伐証明部位を渡すね。」


「四体も倒したの?!一人で?!」


「一発貰ったけど、大した怪我にはならなかったよ。」


「えっ!大丈夫なの?!ゴブリンって見た目よりずっと力が強いんだよ!吹き飛ばされたでしょ!?」


「そんな事はなかったよ?擦り傷くらいのものだし。弱い個体だったのかもね。」


「………」


シルビーさんは泣きそうな顔をする。


「そんな変な顔しないでよ…それより、ゴブリンに関して重要な情報があるんだけど…」


「重要な情報?」


「想像よりずっとゴブリンの数が増えてる。」


「……どのくらい?」


「最低でも百は居ると思う。」


「ひゃっ?!………それ、本当なの?」


「デカい巣が十あった。間違いない。」


「そんな…」


「一応、プカさんに色々と用意してもらっているし、出来る限りの事はするつもりだ。」


「何言ってるの?!こんなの直ぐにギルドマスターへ報告する案件だよ?!」


「…それは少し待ってもらえないか?」


「は?!」


何言ってるの?!と言われそうだ。いや、顔では既に言っている。


「ゴブリンの討伐は俺に考えがあって…今プカさんにも手伝ってもらっているところなんだ。」


「百だよ!?百!多少策を練ったところでどうにかなる話じゃないからね?!」


「別に報告するなとは言ってない。少し待って欲しい。」


「…何を考えてるの?」


「もし、この話をギルドマスターに持って行ったとしたら、大規模な殲滅作戦になるよね?」


「当然放置はしないと思うよ。」


「そうなると困るんだ。」


「なんで?」


「多分、そうやってギルドや衛兵が大々的に動いて討伐出来なかった時、その話が神聖騎士団に入り、人員が送られて来る。という流れだと思うんだ。」


「そうなの?」


「ルーカスの話では神聖騎士団はゴブリンの討伐を目的として来ていた。呼んでもいないのに…だ。

つまり、神聖騎士団は各地で対処出来ていない案件を調べて、その対処に動く。やり方はどうあれ、冒険者や衛兵達が対処出来なかった案件を解決した。という結果は残る。」


「実績は積まれていくという事ね。」


「実績が積み上がれば入団者が増え、世界的地位も高くなる。」


「そんなやり方…」


「こんな小さな街の人間が叫んだ所で、誰にもその声は届かない。」


「……」


厳しい言い方かもしれないが、下手に突っかかるには相手が悪すぎる。シルビーさんを危険に晒すわけにはいかない。


「ギルドマスターに報告して、この流れに沿って進めば、神聖騎士団が訪れる。それを狙っているエリーさん達は、間違いなくその一団を襲うだろう。」


「……分かった。暫く黙ってる。」


「助かるよ。」


目立ちたくはないが…それは、面倒なクエストを頼まれたりするのが嫌というだけの事。神聖騎士団がここを訪れる事になれば、それより数段面倒な事になるのは必至。

それならば、俺のステータスがバレたとしても、ここで先手を打って面倒事の芽を摘んでおく方が良い。神聖騎士団が来てしまえば、村が壊滅に追い込まれてしまう事だって考えられる。

それを知っていてこの村を離れるというのはあまりにも薄情だ。多少目立つかもしれないが、ここは俺が動くべきだろう。


「でも、シンヤ君一人に任せるわけにもいかないよ。」


「エリーさんと共に動いている冒険者がどれくらい居るか分からないし、そのメンバーも分からない。

予想ではほとんど全ての冒険者はエリーさんに手を貸していると思う。

下手に連れて行って邪魔されるより、俺が一人でやった方が上手くいく可能性は高いと思う。」


「なんでほとんど全てだと思うの?」


「ある程度人数が集まって、勝機が無ければエリーさんも動かないだろ。勝機が見込める人数ともなれば、今この街にいる冒険者のほとんどだと思う。

それと、ここに来てからあまりにもギルドに顔を出す冒険者が少ない。」


俺が見たのはエリーさんと、最初に絡まれた三人組。それだけだ。


「確かに最近はあまり人が来ないけど…」


「クエストよりやらなきゃならない事があるから…だとしたら?」


「否定出来ないところが嫌だね。」


「一応俺にも考えがあるから、少し任せてくれないか?」


「…分かった。でも…」


「無理はしないよ。」


「…うん……私もプカを手伝うよ。」


「ありがとう。」


「こっちがお礼を言うところだよ。ありがとう。」


「いえいえ。」


話がまとまったところでギルドを出て、宿に戻る。その途中で、肩の痛みがすっかり無くなっている事に気が付いた。


「…嘘だろ?!もう治ったのか?!」


肩を見て驚いた。擦り傷が完全に治癒しているのだ。

ゲームの中でも、超リアルRPGというだけあって、傷薬等を使用しても直ぐには治らない。

使った瞬間にテレレッ!と治る優しい仕様なわけがない。ゆっくり数日かけて傷が癒えていく。しかし、軟膏タイプの傷薬は、一時間も経たないうちに治ってしまった。

一応、この世界における回復手段としては、他にもいくつか存在しているのだが、基本的には傷薬が主流となっており、他の物はとてつもなく希少である為、一般的には使われない。


「これはホーンラビットの角が原因か?だとしたら…思った以上に使えるな。これは予想より簡単にゴブリン達を殲滅出来るかもしれないな。」


翌朝、宿で朝食を摂っていると、プカさんとシルビーさんが入ってくる。


「シンヤ君!おはよう!」

「おはようございます。」


「二人共おはよう。」


「シルビーさん!プカさん!おはようございます!」


続ける様にニーヒスちゃんが挨拶をしている。


「ニーヒスちゃんはいつも元気だねー!おはよう!」


「何にする?」


「いつものお願い。」


「私も。」


「はーい!」


小走りニーヒスちゃんの背中を見ると、癒される。


「シンヤ様。いきなりですが、全て揃いました。」


「もう揃ったのか?!」


「はい。」


「凄いでしょー?」


シルビーさんのドヤ顔は若干腹立つけれど、本当に凄い。


「二人共優秀過ぎ……分かった。朝食が終わったら早速見に行くよ。」


俺がプカさんに頼んだものは、全部で三つ。

一つ目はこのポポルで作られる果実酒、これは最低でも五たる

二つ目は深緑の森の中層で見られるCランクモンスター、パラライズマウスの針。パラライズマウスは五十センチ前後の大きさの黄色のハリネズミ。全身に纏う針には麻痺毒が含まれており、素材としても優秀な物だ。

そして三つ目はホーンラビットの角。これは前にも言ったようにゴミとして処分されているから実質はタダで手に入る。ゴミ漁りする必要があるが…


「内容的に、果実酒に麻痺毒を混ぜてゴブリンに飲ませるという考えだと思ったのですが…ゴブリンにこの毒は効きませんよ?」


「ゴブリンは毒にある程度耐性があるからね。」


「作戦はその通りだけど、ホーンラビットの角があれば多分大丈夫。」


「「??」」


「集まった物は工房に?」


「はい。紙に書いてあった通りギルド管理下の工房に運び込んであります。」


「助かったよ。値段はどのくらいだった?」


「それは気にしないでください。」


「いやいや。気にするよ。酒も、パラライズマウスの針も結構な値段だからな。」


「事が終わったらギルドに経費として請求しますので、大丈夫です!」


「そ、そうか…」


ギルドマスターは目を丸くするだろうな…近いうちにギルド内を悲痛な叫びが響き渡るだろう。


俺達三人は、朝食を終え、工房に直行する。


「確かに揃ってるな。こんなに速く揃えてくれるなんて、思ってなかったよ。ありがとう。

二人は仕事、大丈夫なのか?」


「今日は休みを取りました。」


「シンヤ君を手伝う為にね!」


ここまでしてくれたのだ、素直に助力を頼もう。


「量があるから助かるよ。」


「よーし!やるぞー!」


「まずは何をするのですか?」


「二人はホーンラビットの角をゴリゴリとやって粉末にしてくれ。」


「やるぞー!」


「任せてください!」


二人はかなり意気込んでいる。結構重労働だけれど大丈夫だろうか…


「俺は…パラライズマウスの毒だな。

まずは、パラライズマウスの針を五等分して…擂鉢に入れて、粉末が飛ばない様に果実酒少々。で、俺もゴリゴリ!」


暫くゴリゴリしていると、針が粉々になり、白く濁った果実酒になる。


「これをまた布で濾して、果実酒の樽に混ぜる。これを何度も繰り返して、全ての麻痺毒を果実酒に混ぜ込む!………一日仕事だなこれ…」


「うひー!腕がぁー!」


シルビーさんは既に悲鳴を上げ始めた。女性には少しキツい作業だから仕方ない。


「休み休みやれよー。」


ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ。


「プカが無心でゴリゴリしてる?!」


「……出来た物はどうしますか?」


「もう出来たの?!」


「シルビーが遅いだけよ。」


「くそー!負けるかー!」


ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ!


「プカさん。出来た物はこの容器の中に果実酒と一緒に入れて静置せいちしておいて。暫くしたら布で濾して樽に戻す。それを均等に五樽分。」


「分かりました!でも、ホーンラビットの角は何か意味があるのですか?」


「ホーンラビットの角に含まれている成分が、薬効を高めてくれるんだ。麻痺毒も言い換えれば有害な薬効。ホーンラビットの角で麻痺毒が強力になるはず。」


「ホーンラビットの角にそんな効果が?!」


「俺も最近知ったんだけどね。」


「それって結構凄い発見…ですよね?」


「かもねー。」


「…………」


軽い返事に対して固まるプカさん。見えていない事にしよう。


説明には『僅かに高める』って書いてあったし、全ての薬効が高まるとも限らないし…得意気に話を広めて…大した事ない。なんて事になったら恥ずかし過ぎる。自分で色々と作る時に使う知識…くらいに思っておこう。

その日は、一日中工房からゴリゴリという音が響いていた。


「お、終わったー!」


「さすがに腕がパンパンです…」


「私もー…」


三人で二の腕を揉みほぐしてダラーっとしてしまう。それくらい大変な作業だった…


「一日で終わるとは思ってなかったから本当に助かったよ。ありがとう。」


「頼んだのはこちらですから、これくらい当然ですよ。気にしないで下さい。

それより、これを使うのはいつになりますか?」


「数日後かな。」


「その間に何かするのですか?」


「これが本当にゴブリンに効くかを確かめるつもりだよ。何回か試してみて、上手く効きそうなら実行って感じかな。」


「気を付けて下さいね。」


「分かってるよ。」


その後、二人に手伝ってくれたお礼として夕飯に連れ出してご馳走した。作ってくれと目が言っていたが、俺の腕も疲労困憊ひろうこんぱいだった為、そっとスルーした。


因みに、完成した麻痺毒入り果実酒を鑑定したところ…


【強化麻痺毒入り果実酒…僅かに強化された麻痺毒が混ぜ込まれた果実酒。】


となっていた。


試みは成功したと思うが、効果の程は分からない。何体かのはぐれたゴブリンに飲ませて効果を確かめる必要がある。


早速その翌日…


「良い感じにはぐれてるゴブリンなんて、なかなか居ないもんだなぁ…」


ゴブリンは元々群れを作るモンスター。一体、二体でフラフラしている奴らは早々居ない。結局一体でフラフラしているゴブリンを見付けたのは半日を過ぎた時だった。


「お!居た居た!あれは一体だな。こんな所で呑気のんきに昼寝とはいい度胸してるな。」


インベントリから果実酒の小分けした物を取り出し、その場に置いて離れる。


「………グッ……グゲ?」


ゴブリンは思った以上に鼻が良い。森の中、数メートル離れた位置に居ても、ほろ甘い果実酒の匂いを感じる程に。


「グゲゲッ!」


俺の置いた果実酒に、周りを確認しつつ近付いて来ると、警戒しつつもその果実酒を口に含む。


「グギグギー!」


「美味そうに飲んでるぜ。全て飲み干せよ。」


果実酒をしっかり飲み干したゴブリンは、暫く何事も無かったかの様に歩き回っていた。

しかし、二十分が経過した頃。


「グッ……ゲ……ガッ…」


手足をピクピクと痙攣させてその場に倒れ、完全に麻痺してしまう。


「効果はあるな。ちょっとヒヤヒヤしたが、効いて良かった。効果が出るまでに二十分。後は効果時間だな。」


ゴブリンの近くで観察を続けること三十分。やっとゴブリンの手足が動き始める。


「まだ完全には抜けていないが、動けるようになるまで大体三十分か。」


ゴブリンの横まで行き、剣を頭に差し込む。

痺れて声が出ないのか、静かに息を引き取る。


「明日、明後日を使ってもう何体か試すか。」


その日から二日掛けて効果を確かめたのは三体。若干の個体差はあるものの、おおむね同じ様な結果になった。


「よし。これなら麻痺している間に仕留める事が出来るな。問題は全てのゴブリンが飲むかどうかだが…そこは上手に対処していくしかないな…」


毒入り果実酒の効果は十分に確認した。後は実行あるのみ。翌日、早速俺は巣から少し離れた位置に果実酒の樽をバラバラに放置した。

そんな怪しい果実酒の樽を本当に持っていくのかと聞かれるかもしれなが…結論から言うと持っていく。ゴブリンは確かに知能を持っているが、そこまで賢くはない。最初こそ警戒するが、最初だけ。

ゲーム内で、似たような物を使ってゴブリンを罠に掛けた事があるし間違いない。


「………お、来たな。」


数匹のゴブリンがキョロキョロと周りを見ながら集まってくる。何度か近付いたり離れたりしていたが、堪えきれずに樽を巣の方へと持って行った。


他の樽も確認したが、全てゴブリン達が回収してくれたようだ。


時間を置いて見に行くと、巣の周りにゴブリン達が横たわり、よだれを垂らしながら寝そべっている。


「よしよし。作戦大成功だな。

後は簡単なお仕事だ。武器や防具を身に付けていてもこれなら関係無いな。」


一体ずつゴブリンに刃を突き立てていく。叫び声もあげられず、絶命していくゴブリン。恨めしそうに俺に視線を向けるが、容赦する気は全く無い。


「こいつで最後だ…な!」


ザクッ!


「ふぅ…結構時間的にギリギリだったな。」


「グギャァ!」


「っ?!」


声が聞こえて後ろを振り返ると、ゴブリンが三十体程いる。


「ちっ…離れた場所に居た奴らか…」


「グギギャ!」

「ゲガッ!」


いくら防御力が高くても、この数に取り囲まれてタコ殴りにされたら何も出来ずにやられてしまう。


「早速魔法を使う機会が来るとはな!」


ゴブリン達はこの惨状を見て二の足を踏んでくれている。剣での戦闘ではこの数をさばききれない。


「ここは魔法で一気に数を減らす!」


指先を空中に走らせる。

複雑で覚えるだけでも大変な魔法陣だが、完成させれば強力な一撃となる。


「グギャッ!」


「グゲェェェェ!」


俺が魔法を使おうとしている事を見て、ゴブリン達が走り寄ってくる。


「残念だがもう完成だ!」


最後の魔法文字を書き入れた瞬間に緑色の淡い光を放つ魔法陣。

自分の中から何かが抜けていく様な感覚があったが、フラついたりはしない。

途端に俺を中心として強烈な風の渦が発生する。風は強風から暴風へと変わり、更にその勢いを増していく。

カッターサイクロンと呼ばれる広域風魔法である。

中級の魔法であり、このカッターサイクロンに巻き込まれた者は全身を風渦のかまいたちで切り刻まれて絶命する。


周囲の木々がザワザワと葉を鳴らし、その幹に幾多もの傷跡が刻まれていく。


「どうだ?不可視の斬撃は。」


「グギィィ!」

「ゲギャァァ!」


近付いて来ていたゴブリン達が荒れ狂う風に飲まれていく。直ぐには飲まれなかったゴブリン達も、カッターサイクロンの巻き込む風に引き寄せられ、踏ん張るだけが精一杯で逃げる事が出来ないらしい。


俺が一歩前に進めば、近付いたカッターサイクロンに何体かのゴブリンが連れていかれ、俺の周りをグルグルと周りながら傷を受けて死んでいく。


勝負は一瞬だった。


全てのゴブリンがカッターサイクロンに飲み込まれ、周囲に血と臓物を撒き散らし、殲滅が完了する。


「まさか全滅させられるとは……中級魔法なら使っても大丈夫か…こんなヤバい確認の仕方は御免なんだが…まあ仕方ないか。」


ガサガサ…


「まだゴブリンが居たのか?!」


草が擦れる音に剣を抜く。


「………」


ガサッ…


「……エリーさん…?」


草むらから顔を出したのは、エリーさんだった。驚いた顔をしている。


「…これは……一体どういう…こと…?」


「えっ?!あー……ここに来たら既に…」


「……そんな嘘信じると思う?」


「あははー……」


「………」


無言の圧力。言い逃れは出来そうに無いな…


「はぁ……実は、ゴブリンに効く毒を作ってね。それを使ってゴブリン達を殲滅したんだよ。」


「なんて事を…」


「…普通は嫌なゴブリンが消えて喜ぶところだと思うけど?」


「……」


何も言わずに踵を返すエリーさん。ゴブリンが殲滅されて嬉しい気持ちと、神聖騎士団の連中をおびき寄せる事が出来なくなったという気持ちが絡まりあって、なんとも言えない表情をしていた。


「エリーさん。」


「……」


「サリーさんの話を聞きました。」


サリーさんの名前が出た時、僅かにエリーさんの肩が強ばった。


「……だから?」


「神聖騎士団と事を構えるつもりなら…」

「あんたには関係無いでしょ!」


後ろを向いたまま叫ぶ様に言い放つエリーさん。


「色々な人にエリーさんの事を頼まれてね。既に関係無いとは言えないんだ。」


「は?なにそれ?!勝手なこと言わないでよ!」


「確かに勝手だけど…エリーさんもかなり勝手なことしてるよね?神聖騎士団と事を構えようなんて。街の人達が知ったら…」


「街の連中がなんだっていうの?あんな奴ら全員死ねば良い。」


「随分と酷い言い方するね…」


「姉さんを殺させたんだから、当然の報いでしょ。」

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