吠えるもの
朝。父と二人暮らしの三春が、朝食を作りに二階から降りて来ると、
リビングの方から、何かが吠えている声が聞こえた。
その声は高音で、とても澄んだ声だった。
『あー。この音は…。まだダメみたいね』
三春はそう言うと、リビングを抜けた先のキッチンで
朝食を作り始めた。
次の日の朝。三春が二階から降りて来ると、リビングの方
から昨日と同じように何かが吠える声が聞こえた。
木製のダイニングテーブルの上から発せられるその声は、
やはり高音で、とても澄んだ声だった。
『うーん。まだダメみたいね』
三春はそう言うと、いつものようにキッチンで、
朝食を作り始めた。
さらに次の日の朝。三春が二階から降りて来ると、
いつものように、リビングの方から何かが吠える声が聞こえて来た。
しかし、その声は昨日や一昨日と違い、
低く、濁った声だった。
『あら、やっとなのね。これは…、今からお昼が楽しみになってきたわ』
三春はそう言うと、嬉しそうな顔をして、テーブルの前に行った。
今も吠え続けているそれを抱えると、キッチンの近くにある冷蔵庫の
手前までやって来て口を開く。
『やっぱりこれは冷えてる方が美味しいわよね』
冷蔵庫の野菜室を開け、三春はそれを閉まった。
『メロンは叩いた時に、低く濁った音がすると食べ頃、
だなんて言われているけれど。
まさかそれをメロン自身にやらせるだなんてね…。
はぁ…。まったく…。うちの父親は頭がおかしいったらないわ』
呆れたような口調でそう呟く三春の顔は、どこか嬉しそうで、
誇らしげだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます