吠えるもの

 朝。父と二人暮らしの三春が、朝食を作りに二階から降りて来ると、

リビングの方から、何かが吠えている声が聞こえた。


その声は高音で、とても澄んだ声だった。


『あー。この音は…。まだダメみたいね』


三春はそう言うと、リビングを抜けた先のキッチンで

朝食を作り始めた。


 次の日の朝。三春が二階から降りて来ると、リビングの方

から昨日と同じように何かが吠える声が聞こえた。


木製のダイニングテーブルの上から発せられるその声は、

やはり高音で、とても澄んだ声だった。


『うーん。まだダメみたいね』


三春はそう言うと、いつものようにキッチンで、

朝食を作り始めた。


さらに次の日の朝。三春が二階から降りて来ると、

いつものように、リビングの方から何かが吠える声が聞こえて来た。


しかし、その声は昨日や一昨日と違い、

低く、濁った声だった。


『あら、やっとなのね。これは…、今からお昼が楽しみになってきたわ』


三春はそう言うと、嬉しそうな顔をして、テーブルの前に行った。

今も吠え続けているそれを抱えると、キッチンの近くにある冷蔵庫の

手前までやって来て口を開く。


『やっぱりこれは冷えてる方が美味しいわよね』


冷蔵庫の野菜室を開け、三春はそれを閉まった。


『メロンは叩いた時に、低く濁った音がすると食べ頃、

だなんて言われているけれど。

まさかそれをメロン自身にやらせるだなんてね…。

はぁ…。まったく…。うちの父親は頭がおかしいったらないわ』


呆れたような口調でそう呟く三春の顔は、どこか嬉しそうで、

誇らしげだった。

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