魔法少女は夢を叶える

こめ おこめ

少女は勇気を撃った

 普通とは何でしょうか。

 インターネットで調べると『いつ、どこにでもあるような、ありふれたものであること。他と特に異なる性質を持ってはいないさま』と、とても簡単に、わかりやすく書いてくれてあります。

 ですが私の周りの人の言う『これくらい普通だよ』は、私にはとても理解できないものだったりします。


                *


 休日。私は一人でショッピングモールに来ていた。何かを買いに来たわけではなかったが家にいてもやることがなかったため暇つぶしに歩いていた。軽く食べ歩き、途中でもよおした為トイレに向かう。

 用を終え出ようと扉に手をかけた瞬間烈しい、なにか壊れたような音が響き、建物が若干揺れる。何かと思い手を洗うことも忘れて出る。

 見渡すと、上を見るまでもなく天井が壊れて空が見える。その空は夜の様な闇ではなく、ただ純粋な黒であった。

 さらに遠くから悲鳴が聞こえる。それは男女問わず聞こえており、それがなぜなのか瞬時に理解できた。

 大人の人の三倍ほどの大きさのある白いクマの様なものが、鋭い爪で人を引き裂いて言っている。それは無差別であり、近くにいる人間を片っ端から殺していた。 

 そこらじゅうから鉄のにおい。人が何人も倒れている。そこから流れてくる赤い液体。

 目をふさぎたくなるような光景だったがそんなことをする余裕もない。あの化け物から何とかして逃げないと。すぐにでもこちらに来そうな状態だ。

 そんな中、いつの間にか横に立っていた白いスーツにサングラスをかけた、ガタイのいいおじさんが話しかけてきた。

 「お嬢ちゃん。魔法少女って知ってるよね?」

 そういいおじさんは懐から銃を取り出す。この風貌の人が銃を出してきた。それは正確な見分けは私にはつかないけど本物だと、深く思ってしまった。

 なんて答えればいいのか分からない。何とか声を絞り出そうにもうまくできない。恐怖に恐怖が上乗せされる。

 「魔法少女は悪者を倒すためにステッキを使ったり不思議な宝石で変身するだろ?この銃はね、それなんだよ」

 おじさんはそういい動けないでいる私に銃を手渡してきた。

 「ただこれは振ったり、掲げるだけじゃあダメなんだ。これは自分に撃たないとダメなんだ。ほんのちょっとだけ、勇気がいるけどそれを自分に撃ってくれないかい?」

 おじさんは笑顔で言い放った。言葉の意味は理解したけど内容は理解できないものだった。お話の中のでしか存在しない魔法少女になること。しかもそれは銃で自分に撃たなければいけないこと。脳がパンク寸前だった。もう泣くことすらどうでもよくなっている。すべてを投げ出したいと思っている。

 「お嬢ちゃん。私は決して怪しいものじゃあないんだ。ただ、ただね、お願いしてるんだ。この状況を切り抜けるにはお嬢ちゃんの力が必要なんだ。君ぐらいの年ならこういう場面は漫画やアニメとかでみるだろ?いや、こういうのはなかなかないか。まぁ、そんなことはいいや。とにかくそれが君の目の前で起きているんだ。決して特別なことじゃあない。さ、ほんの少しの勇気でいいからさ」

 そうしておじさんが話しているうちに化け物はいつの間にか近くまで来ていた。ここで死んじゃうのか。なら……

 私は銃口を自分の頭に突きつけ引き金を引いた。

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魔法少女は夢を叶える こめ おこめ @kosihikari3229

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