第二十話 乙女ゲーヒロイン(笑)は絶叫する
「いったいどういうことよ!!?」
ユリアナ・リズリットは喚き散らした。
人目を気にしなくていい寮の自室でのことだが、気を抜くと衆人の中でさえ髪を掻き毟りそうだった。自分でもよく自室まで我慢できたと思う。
「イリウスも、エリアルドも、ユニオンまで廃嫡って……こんなのゲームになかったじゃなない!?」
彼女が籠絡した攻略対象たちが、あっという間に無価値な存在になってしまった。
ちょっと前までは、彼らの婚約者に対して婚約破棄を告げる筈だったのだ。
彼女たちへの悪い噂も順調に浸透していた。このまま彼らに婚約破棄されれば、さぞ惨めな立場になるだろうとほくそ笑んでいた。
なのに、今では彼らが婚約破棄される側に落ちてしまっていた。
イリウスの実家のブライド商会は没落して、資産を千分の一にまで縮小してしまった。王立学園の授業料が払えず、このままでは次学期で放校されるだろう。
エリアルドは廃嫡された上でクリスエア家の婿養子にされて一切の自由を奪われた。実家のローレル家も、実質クリスエア家に乗っ取られたような形だ。
ユニオンに至っては、廃嫡の上で勘当処分までされた。彼はもはや侯爵子息ではなくただの平民の若造に成り下がった。
ヴィラルド王国の政治、財界、文化の次代を担う優秀な若者たち。真珠のネックレスのようにユリアナを綺羅びやかに飾っていた筈の彼らは、気がつけばプラスチック玉の如く無様でみすぼらしいまがい物に堕してしまった。
「くそっくそっくそっ!! あのクソ悪役令嬢ァ……ッ!!」
どうしてこうなったのかを調べると、この世界の悪役令嬢であるはずのキリハレーネへ行き着いた。
攻略対象の婚約者たちがキリハレーネに協力を要請し、キリハレーネが策を講じたらしい。
おまけにあの女、王家からの援助がなくなって学園から放り出されると思っていたら、いつの間にか野蛮な冒険者になっていた。しかも、それなりの稼ぎを得ているらしい。
「放っといてもその内二進も三進も行かなくなると思っていたけど……手ぬるかったわね。リッタニアたちで暇潰しなんて考えるべきじゃなかった……!」
キリハレーネ・ヴィラ・グランディア。
あの悪役令嬢を悪役令嬢に相応しく惨めったらしく没落させねばならない。
そうせねば、この怒りは収まらない。
「わたしの玩具の分際でわたしの邪魔をするなんて……目にもを見せてやるわ!!」
ユリアナは明確にキリハをターゲットにした……彼女一人を徹底的に貶めるための陰謀を考えはじめた。
あの悪役令嬢が見るに堪えない悲惨な運命を辿るのに思いを馳せる時間だけは、自分のアクセサリを奪われた苛立ちを忘れることが出来る。
乙女ゲームのヒロインである筈のユリアナの貌は、底なし沼のような悪意でねっとりと歪むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます