第五話  人間関係と株取引って似てるよね

(……つまらない。つまらないつまらない、つまらない!!)


 意気揚々と会場を出てゆくキリハを、ユリアナは憎々しげに睨みつけた。

 もっとも傍目には、項垂れたアルフレッドの背を擦って親身に慰めているようにしか見えないが。


(……この王子様もずいぶんと価値が下がってしまったわね。まったく……演技とは言えこんなクズ男を慰めなきゃならないなんて)


「……アルフレッド様。どうか元気を出して下さい」

「……ユリアナ……」

「気にしてはいけません。口ではなんと言おうと、陛下はアルフレッド様に期待されておられるんです。また次の機会に挽回すればいいだけではありませんか」

「……ああ、ありがとう、ユリアナ……君はいつでも優しいな」

「そんな……畏れ多いです」


(ちっ。さっさと立ち直りなさいよ。いつまでもあんたなんぞに私の貴重な時間を浪費したくないんだから)


 傷ついた顔をするアルフレッドに微笑みかけながら、ユリアナは胸中で彼を罵倒した。

 アルフレッドは卒業後、王太子として冊立される予定であった。ゲームのシナリオもそうなっていたし、現実でもそうなるだろうと噂されていた。

 それが王から直々に「考え直す」とイエローカードが出されてしまった。ここから王を継ぐに相応しいと認めさせるには、かなりの努力と忍耐が必要になるだろう。

 上場間違いなしの株だと思っていたら、世界恐慌真っ青の大暴落っぷりである。


(……仮にも王族。まだ最低限の価値はあるか。まったく忌々しい。損切りしたいのに、捨てるに捨てられないなんて)


 ユリアナにとって、男とは自分の価値を高めてくれることが存在理由だ。買い支える、価値を上げてやる、なんて発想が元々ない。

 自分の益にならない男はさっさと捨てて、新しく自分に益をもたらす男を探す方がいい。前世のユリアナは常にそうやってきた。

 そんな彼女にとって、自分に益のない男を自分の側に置いておくなど、反吐が出そうな行為だった。価値のない男に貴重な自分の時間を割くなど、金をドブに捨てるようなものだ。


(ちっ……こんなカスみたいな男を飼わなきゃならないなんて……本当につまらない真似をしてくれたわね、あの女!)


 ユリアナは勝者のごとく会場を後にするキリハの背を殺気混じりに睨みつける。

 本来、ああやって歩くのは自分であった筈だ。自分こそが勝者で、悪役令嬢は惨めな負け犬として醜態を晒す筈だった。

 自分があるべき場所を奪った悪役令嬢に、ユリアナは怒りのあまり卒倒しそうだった。


(私の玩具のくせに! 私を愉しませるだけが存在理由の悪役令嬢のくせに!!)


 破滅させてやる。

 仄暗い決意を胸に、ユリアナはギリッと奥歯を噛み締めた。

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