第2話

「寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!特別サービス!今日限りの露店での魔導具販売!ちょっとした機能を持ったお洒落なアクセサリーから、家で使える便利なアイテムまで、色々揃えてあります!そこのお兄さん!彼女さんへプレゼントなんてどうですか?これなんかがおすすめかなー。運が少し上昇するイヤリングとか。」

「いや〜、ちょうど彼女の誕生日でプレゼント買わなきゃいけなかったから、助かったよ!デザインも値段も良いから買わせてもらうよ。」

「毎度あり!!」


「そこの綺麗なお姉さん!このネックレスどうですか?魅力が少し上昇するネックレスです。ここだけの話、男を魅了する匂いを出す指輪、若さを保つ腕輪なんていうのもありますよ。」

「…機能の割には価格が低めに設定されているようだけど?」

「この街に来たばかりで、宣伝用なんですよ。今日だけですよ、この値段で売れるのは。」

「なるほどね。」

「どうしますか?ご購入されますか?」

「…3つとも全部買うわ。」

「毎度あり!!」


露店街があり勝手に商品を売っていいのかは分からないが、端のほうで勝手に大きい布を地面に敷いて鉄也と桃子が作った商品を売り始めた。俊一はスキルで人当たりの良い顔に変え、テンション高めに人に声をかけていく。どんどん人が集まり少しずつ商品が売れだした。数時間後には作った物は全て売れた。人間(人族)だけでなく、犬や猫の亜人種とでもいうのだろうか、ラノベに出てくる様なキャラを沢山見かけた。エルフも何人かがアイテムを購入していった。改めて俊一は異世界に来たんだなぁ、と実感し始めていた。特に冒険者用の装備、集中力の上がる指輪、素早さが上がる腕輪、攻撃力の上がる篭手などは人気がありすぐに売り切れた。


鉄也と桃子が作った魔導具は、価格と釣り合わないほどの大きな効果を生んだ。その噂を聞きつけた一人の商人が、購入者から高額でその商品を買い取るにまで至った。出所が不明にも関わらず大きな効果を持つ魔導具は後々オークションにかけられ、さらなる波紋を呼ぶことになる。後に『神の落し物』と呼ばれる事件は、商業ギルドが冒険用ギルドに露店の主を探す依頼が出る事態にまでなった。3人がそれを知るのは、まだまだ先の話だ。



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「数時間でこれだけ売れるとは...。」

「何言ってるんですか、鉄也さん。これ全部鉄也さんが作ったんですよ!売れるの当たり前じゃないですか!」

「鉄屑とか、魔石屑とか、普通の店が捨てる様なモノを集めて、錬金術のスキルで形を作って、桃子さんに魔法陣を描いてもらったら本当に効果のあるアイテムになった。こんな短時間で材料を手に入れて、製造して売るまでで半日。地球での製造の効率化は何だったんだ。」

「いや〜。お二人のチートにはビックリさせられましたわ。お二人のスキルに魔法!これは、ハマったらやめられなくなる、駄目、絶対。状態!」

「正直凄く楽しかったわ!自分が何をしたのかも、どうやってやったのかも、なんか良く分からないわ。すごく感覚的で、言葉で伝えるのが難しいんだけどね。」

「まぁ、これから嫌でも慣れてきますし、2人の実力ならそのうち意識的に出来るようになるでしょ。さっそく馬車を借りて一番近い大きな街に向かって進みますか!ちなみにガンドーラはこの国で2番目に大きな都市らしいです。1番大きな都市『ゴリアス』に行きたいと思います。馬車でココからまっすぐ北に3日で着くらしいです。」

「3日間はキャンプ生活になるって事ね?」

「そうですね。お金に余裕がある訳では無いので、自分たちで馬車を操作して、キャンプに良い場所があればテントを張り、火を焚いて...という事になります。...桃子さんは、キャンプ大丈夫ですか?」

「はい。日本にいた頃でも何度か行きました。3日連続でキャンプはした事は無いですが、大丈夫だと思います。」

「それでは早速行きましょう!」


『おお〜。ここが俺が新しく住む世界か。自然たっぷりだな。』


馬車を手に入れ、外壁にある大きな扉まで来ると鉄也と桃子は馬車の荷物に隠れた。俊一は顔を変化させ商人の格好をした。無事に外壁の外を出た3人は自然の豊かさに目を奪われていた。城から離れれば離れるほど自然が増えていく。1日も歩けば周りはほぼ森となるだろう。モンスターからの危険は増すが、追手に見つかる可能性は低くなるだろうと俊一は考えている。


鉄也と桃子は疲れていたのか、馬車の中で横になりながら寝ていた。サスペンションもないこの馬車の揺れと音の中よく寝れるなぁと感心しながら俊一は進んでいく。


日が落ちる少し前に樹齢50年ほどありそうな大きな木の元で一時停止した。周りを見渡せるほど開けた場所で、そこからは川と大きな丘が連なった場所が見える。雑草と思われる植物やランダムに生えている木々にワイルドさを感じながら、そこを今日のキャンプ地とする事を2人に告げ、夜の準備をしていく。鉄也さんは焚火用の木々を集めに行き、桃子さんは夜ご飯の下ごしらえをしている。俊一はテントを張る係りだが、こっちの世界のテントは組み立てるのが難しかった。


3人ともキャンプ慣れしている訳では無いし、地球にいた頃の様に便利な世の中ではない。寝る場所を準備するだけでかなりの時間を消費した。2人が寝静まり、周りにモンスターがいない事を確認すると、俊一も倒れ込むように目を閉じた。



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俊一は朝日が昇る少し前に目を覚ました。鉄也と桃子がまだ寝ているのを確認して少し呆れた。


『よくこんな場所で熟睡出来るな。ある意味それだけ肝が据わってるって事か。』


日の出までには少し時間があるのを確認し、消えていた焚き火に木を組んでまた火を起こした。温めたコーヒーもどきの飲み物を一口し、落ち着いたところで俊一は自分の状態を確認する。


『ステータス』


名前  影中俊一(かげなかしゅんいち)

種族  人族

職業  暗殺者

スキル 空間支配

    情報網羅

    拡張脳

    時空間魔法

    投擲

    鑑定妨害

    器用貧乏

    一意専心

称号  転生者

    神と対峙したもの


ジョブやスキルにはランク(SからC)が付けられている。俊一が選べるジョブやスキルには制限があった。分かりやすく言えばポイント制であり、そのポイントに上限があった。


ジョブには

Sランク300ポイント

Aランク100ポイント

Bランク50ポイント

Cランク30ポイント

必要で


スキルには

Sランク90ポイント

Aランク30ポイント

Bランク15ポイント

Cランク10ポイント

が必要である。


神に貢献する事でポイントが増えるらしい。モンスター退治や、精霊や自然を守る事などが貢献に繋がるらしい。その他にも色々あるらしいが、あのジジイら「それを教えたら楽しみが減るじゃろうが。」と教えてくれることはなかった。転生者と言う事で特別に500ポイント貰い、俊一はそれを振り分けた。


暗殺者(A)

暗殺を得意とする職業。暗殺術、暗器術などを覚える。


空間支配(S)

空間支配内にある、あらゆる情報を瞬時に得る事が出来る。天候、地形、温度、湿度、風圧、圧力、重力、距離、生物の有無、魔素の有無など、空間内の全ての情報を得る事が出来る。


情報網羅(S)

鑑定の上位互換。鑑定でのステータス、能力の情報以外に人、生物、モンスターなどの表情や仕草、身体動作から感情などの情報を得る事ができる。素材、ドロップアイテムなどの情報も得られる。


拡張脳(S)

脳、身体や五感が強化される。高速演算、並列思考、身体強化、異常耐性、自動回復強化、変体、透明化、無音、無臭、千里眼、可視拡張、地獄耳、限界突破。記憶力の向上による脳内地図を拡張現実として3D化し表示する事も可能。


時空間魔法(S)

時空間魔法が使えるようになる。亜空間収納庫、時間圧縮、時空間移動。空間認識能力の向上。


投擲(C)

モノを投げる時に補正がかかる。


鑑定妨害(C)

他者からの鑑定を妨害する。


器用貧乏(C)

多種多様なスキルを手に入れる事が出来るが、スキル熟練度の向上には、より多くの時間と鍛錬が必要となる。


一意専心(C)

一つのスキルに集中して鍛錬する事で、熟練度が上がりやすくなる。


職業はランクが高いほど熟練度を上げるのに必要経験値量が増えるが、その分ステータスの伸びは良くなる。勇者、賢者、聖女などほんの一部の人が得られる職業はSランクに設定されている。勿論、鍛錬を積んでいく事でチートと呼ばれるスキルも手に入れることが出来る。がしかし俊一は敢えてそれを選ばなかった。職業を意図的に隠したとしても、唯一聖剣を扱うことの出来る勇者のような特殊な場合や、使えるスキルや魔法によってそのうち公になってしまう。


勇者や賢者になれば半ば強制的に魔王討伐やらのテンプレクエストに参加させられるだろう。勇者=正義、魔王=悪、という設定での行動を強いられ、自由を失う事を嫌った俊一は敢えてランクAの職業に就き、転生後の世界では目立たず静かに生きる事を心に決める。自己承認欲求か分からないが、基本的にラノベの世界ではチートを使い急速にのし上がり、物語りの中心的人物となり、大きな事を成し遂げ、happily ever after…となる。俊一はチートを貰ってまで結果の分かっている事をしたいとは思わなかった。が、彼が知らなかったのは、チートを貰う転生者はそういう運命にあるのだと言う事だが、それを知るのは後々の話だ。


器用貧乏と一意専心は普通であれば両方保持する事は出来ないのだが、転生者の特典なのか両方選ぶ事が出来た。俊一的には実験の要素が大きく、何かを期待しているわけではない。


『それにしても…この称号は。神と会ったからだろうけど。人には見せないほうがいいな。』


ちょうど日が昇った頃に、鉄也さんと桃子さんが起き上がってきた。


「おっ、よく寝れた?そっちに綺麗な水があるし、コーヒーみたいなのも温まってるからね。落ち着いたら朝食はみんなで用意しよう。」

「おはよー。慣れないこの寝床で体がパキパキになってるー。」

「おはようございます。...もしかして俊一さんは夜寝ずに見張りを…?」

「いやいや、バッチリ寝たよ。モンスターに襲われなくて良かったっすね!」

「ははは...。そうですよね。疲れててそれどころじゃなかったですけど、ここではそういう生き方をしないといけないですね。」

「はは。まぁ、ラッキーだったと思って今日からまた頑張ばれば良いのよ!」

「そうそう桃子さんの言う通り!学んだ事を今日に、明日に生かして生きていきましょ!それよりも何か食べよう。2人起きるの遅いから、腹減った。」


朝食の後荷物を馬車に詰め込み、再びゴリアスに向かい進み始めた。馬車に揺られながら俊一は自分で選んだ能力を把握していく。空間支配は自分を中心に半径20km内にあるあらゆる情報が手に取るように分かる。全ての情報を得ようとすれば、拡張脳があってもかなりの情報量となるる。カロリーは少し多めに消費することにはなるが、拡張脳のお陰で頭がおかしくなる事は無いようだ。空間支配内の情報にはフィルターをかけておく事が出来る。敵や罠の有無、種類、距離、数、その他に地形や気候など必要な情報だけをを瞬時に得る事も出来る。その場合脳にかかる負担は減少する。


この能力のお陰で昨夜は俊一も寝る事ができた。モンスターと人がある距離まで入って来たらアラームが鳴るように設定してあったのだ。


空間支配の距離を縮める事でさらに詳細な情報を得る事も出来る。身体能力を高める事を得意とする敵には具体的に何が強化されているのか、魔法を構築、もしくは詠唱している時点で相手が何を放ってくるかも情報として脳に送られてくる。それにより相手の弱点や技や魔法の欠点を得る事もできる。


情報網羅では目に見える範囲でモノを指定すると詳細情報が得られる。武器、防具の強さや特殊能力。生物、無生物の状態から、成分、色、大きさ、密度、重さ、質。さらには性格、健康状態、身体能力、保持スキル。一度でも確認すれば脳内に記録が残され、いつでも引き出す事が出来る。


当然、調合や合成に関する情報も得る事が出来る。特にガンドーラの街では大いに役立った。ガンドーラでは、それよりも王女リーシャを情報網羅で得た結果は『嘘』と『誘導』と脳に送られた。これが無ければ俊一も自信を持ってあの場での発言は出来なかったかもしれない。


これらを全て可能にしているのは拡張脳である。普通の場合これだけのスキルを持ち合わせる事は決してない。転生でのチートが可能にした組み合わせであるが、これらは決して万能ではない。洞窟の中で大爆発が起こり、天井や壁が崩れたら成す術は無い。ある意味で剣術や体術を得なかったのは危険を伴う賭けであった。しかし既に転生という第二の人生を歩んでいけることを理解していた俊一は苦労も含めて人生を楽しむつもりでいる。自由に楽しむ上で彼にとって最高の選択をしたことは間違いないであろう。


職業、スキルがちゃんと反映されている事を確認した。確認する前に城から出るときに既に使っていたので、大した感動は無かったが少しの安心を得た。周りに目をやると、そこには何度も人や他の生物が歩き自然に出来た道があり、二股に分かれている。どっちに進もうか両方の道を確認するが、どちらも同じようで近くに街なども見えない。


『迷ったら右だ。』


といつもと同じ方法で馬車を動かす。空間支配を使えばある程度はどっちに進んだらいいかは把握できるだろうが、スキルに頼り過ぎると勘が鈍る、スキルに頼りすぎになるなどの観点から必要では無いときはスキルを使わないようにしている。


『迷ったら、それも一興。』


チラッと馬車に乗っている2人を見て、俊一は笑う様に微笑んだ。

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