転生者のテンプレ回避術

アラヤス

第1話

テンプレ過ぎるだろ。


白い天井に白い床。とにかく真っ白。


目が覚めたら此処にいた。で、それっぽい人?もいる。


大体この後の展開も読める。こんな時のために用意したわけではないが、テンプレであれば幾つかの事をはっきりさせておかないとな。


「お~、やっと目覚めたかの。ここがどこだか分かるかね?」

「神の世界とか、現実と神の世界の間とか。そんなところですかね。」

「ほっほっほ。ずいぶん落ち着いておるのぉ。正解じゃ。お主らの世界とわしらの世界の間にあると思ってくれ。」

「まぁ、前置きはそれくらいでいいんですけど、これは転生ですか?」

「ほっほっほ。話が早くて助かるわい。そうじゃ、転生じゃ。」

「いくつか聞きたいことはありますが、なぜ俺なんですか?」

「特に理由は無い。あえていうなら、こういう質問をしてくることかの。」

「そうですか。基本は誰でも良かったと言う事にしておきます。なぜ転生なんですか?」

「神界からの干渉について制限がいくつかあってのう。転生はその制限の抜け道と言うところじゃな。」

「なるほど。神自身が作ったルールに神が縛られてるって事か。」

「酷い言い方じゃが、そう言うことじゃな。」

「酷いなんてとんでもない。かなり興味深い話ですよ。それで制限の抜け道を使ってまで転生を行う理由は?」

「...娯楽じゃよ。神々は基本的にその世界を覗く事しか出来ないのじゃ。それぞれに担当している星や場所があっての。それなりに色々な感情が入り込むんじゃ。その場所が荒らされたり、星自体が危機に陥ったり、平和すぎてつまらなかったりするのじゃよ。そんな時に転生者を送る事が多いかの。」

「面白いですね。娯楽ですか。で、今回はどんな娯楽目的で転生を?」

「ほっほっほ。それも制限の内のひとつでワシから言う事は出来んのじゃ。」

「なるほど。意図を転生者に伝える事で、世界が偏った状態にならないようにしてる感じですかね。」

「まぁ、そんなようなところじゃ、とだけ言っておこうかの。」

「なるほどね。...で、転生をするにあたって、あなたが他にできる事は?元の世界では転生チートとか言われてましたね。」

「ほっほっほ。欲張りじゃの。望んでおるチートは何かの?」

「ん〜。それを答えるには、これから行く場所についてもっと知らないと答えづらいですね。それよりこの狭間みたいな空間、たまに時間制限があったりしますよね。時間はたっぷりあるんですか?」

「そうじゃのう。お前さんの感覚だと、後一時間ほどかの。」

「じゃあ、時間も勿体ないので話を続けましょうか。」


そして時間ギリギリまで神様と話し合った。












「成功したようじゃな!」


俊一が周りを見渡すとそこには10人ほどの人が混乱した状態で居る。その周りを統率の取れた動きをする白と青で統一された鎧を纏ったのが、30人ほど俺たちを囲んでる。


『…城内か。またテンプレかよ!あのジジイ(神)、たまたま転生召喚が起こってるところに投げて入れた感じだな。面倒臭いとかって言ってそうだな。見た感じ、みんなあのジジイに会った訳じゃのかな?みんなあたふたしてるし。他の人達は召喚されたけど、俺だけ神の転生かな?』


周りの混乱が鎮まらないうちに、たぶん王女であろう高そうな服を着たのが一歩前に出た。


『勇者召喚は上手くいったようね。まさか13人も召喚出来るなんて。神は私を祝福しておられるわ!』


王女はにやけそうな顔を引き締め、召喚した者たちに堂々たる姿で顔を向けた。


「勇者様、私はガンドーラの王女リーシャです。召喚という方法で皆様をお呼びしたのには理由がございます。どうか力を貸して頂けないでしょうか?魔王復活が予言され...」


『おいおい。テンプレ過ぎるな。流石にこの流れだと…。先を読んでる奴もいるみたいだな。なんか喜んじゃってるし。チート来い!チート来い!って小声で言ってるし。…さて、どうするか。』


俊一は一度下を向き、素早く考え覚悟を決めて顔を上げた。そして王女の話を遮り


「おい、状況が良くわかっていない奴も居るようだが、一度しか言わないから良く聞けよ。お前らはこの王女と名乗る者に『騙されて』いる。魔王復活の話は本当だし、お前らを大事に衣食住と少しの間の安全を提供し、戦闘訓練し魔王討伐に備えるだろう。だが、結局お前らは戦争というゲームの『駒』でしかない。そういう意味でお前らは利用される。それが悪い事だと言ってるんじゃない。選択をさせたいだけだ。もうすでにスキルや職業は貰っているはずだ。ここに居る必要は無い。それを踏まえた上で言うけど、『俺』は今からココを出る。俺と此処を出たい奴は居るか?」


王女は話を遮られた事に遺憾を覚えたが、的を得た事を召喚転生されたばかりの人族がした事に、驚きと戸惑いで声が出ない。


それと同時に転生された残りの12人も状況の把握に頭がついて来ていないようだが、2人だけ俺の言葉に反応した。


『一人目は男性。30歳くらいかな。服装や姿勢から察する所では真面目なサラリーマンって所だけど骨格はしっかりしている。痩せてるからひ弱な感じのオーラを放っている感じにがするな。こういうタイプはこんな場所で手を上げたりしない気がするんだけど。まぁ、後で聞いてみよう。


もう一人は女性で二十代後半くらいで髪は肩くらいまでのショート。痩せすぎていなく、出る所がちゃんと出ている。服装や姿勢、顔つきから物事をハッキリ言うタイプに見える。良く言えば元気そうである。何かこの状況に疑問を持ったんだろうな。


それでも俺を信用する義理も理由もないんだけど、よく手を上げたもんだ。』


「よし、それじゃあ『俺らは』このまま街に行く。此処を通してくれるかな?」


10人ほどの鎧を着た兵士たちが俺を睨みながら出口を固めている。すると王女が険しい顔をさせながら


「...行かせなさい。我々は勇者様に強制する訳ではありません。出口まで送って差し上げなさい。」


「どもども。」


俊一は後ろ向きに軽く手を振り出口に向かう。


城から出るとこの街の形を一望できた。この城は二重の高い壁に囲まれている。城が中心にありその周りに壁、その次に街があり、その周りに壁。城から出て大きな壁を一つ通り、鎧のおっさんは無愛想に帰っていった。そして扉が閉まった。


「意外と簡単に城から出れたね。」


付いてきた2人は俊一の顔を見てポカーンとしている。数秒の沈黙ののち、意識が戻ったかのように話し始めた。


「顔が…。」


女性のほうは俊一の顔の変化にすぐ気が付いた。俊一は城内で話し始める前に、自身の顔を変化させていた。王女側も召還した13人をその場で詳細まで知ることは出来ないこと、顔だけであれば変えても気が付かれないこと、もし誰かが一緒に来る事になった時に俊一の偽の顔に注目をさせておけば他の人たちへの注意は散漫となること、これらをふまえてあえて特徴のある美形の顔をし喧嘩腰で王女と話したのだ。


「色々話せば長くなるんだけど、簡単に言えば俺のスキルで姿を変えることができるんだよね。時間がある時に話そうと思うんだけど、今はとりあえず忘れてくれ。もし俺を信じられなくなって城戻りたいのであれば、手伝うからいつでも言ってな。」


普通の声と誠実な目線で話したことから、2人は納得したように首を横に振り城に戻ら無いことを意思表示した。


「おっけー。それで、この後どうしたいっすか?」

「どうしたいって言われても、何が何やらで。」

「私だって、どうしたらいいか分からないわ。状況もまだ掴めてないし。」


『やっぱりそうだよね。俺も転生前の神とのやり取りがなかったら厳しかったと思うし。』


「ん~、そうだな…。まずステータスって言ってみてから決めますか。」

「「ステータス?」」


すると2人の前に灰色のタブレットが出現する。男性の方が先に反応した。


「これは...?」

「多分ステータスボードとかって呼ばれてます。ちょっと見せてください。」



名前  金城鉄也(かねしろてつや)

種族  人族

職業  錬金術師

スキル 錬金術

    錬成術

    調合

称号  転生者



錬金術師(B)

錬金術を得意とする職業。


錬金術 (B)

等価交換でのモノの創造が出来る。


錬成術 (A)

物質の理を理解するほせいがかかる。


調合 (B)

二つ以上のモノを組み合わせて、創造する。


転生者

転生しこの世界に来た者。経験値やスキル向上に補正がかかる。



「鉄也さん、これは当たりの職業ですよ!多分食いっぱぐれは無いですね。良ければ、あなたのも見せてもらえますか?」


静かに頷いたのを確認し、もう一人の女性のステータスボードを見る。


名前  高橋桃子(たかはしももこ)

種族  人族

職業  魔導師

スキル 魔法適性

    魔法操作

    魔法陣術

称号  転生者



魔導師 (A)

魔法の理を求めるもの。


魔法適性 (B)

二つ以上の魔法属性に適性を持てる。


魔法操作 (B)

魔法操作に補正がかかる。


魔法陣術 (A)

魔法陣を生成し、いろいろな魔法効果を発揮する。



「鉄也さんと桃子さんは付き合ってるんですか?」

「な、何を急に言うんですか!面識も無いです。今日初めてお会いしました。」

「なんて言うか、職業と言うかスキルの相性が多分めちゃくちゃ良いですね。だから、なんか付き合ってるのかなーって勝手に思っちゃいました。」


『鉄也さんは焦ってる。でもチョット緊張感取れたかな。桃子さんは反応がまだ薄いな。多分、まだ怖いんだろうな。』


「桃子さんの職業は冒険にも行けそうですし、生産系の職にも就けそうですね。」

「...そうですか。まだ混乱してて、何が何やらで。」

「そうですよね。順を追って話しますんで、心配しないでください。それと、明日にでも追手が来るかもしれないので、今日のうちにこの街から出ます。」

「え?まだ、この街もよく分かってないのに。追手が来るって、どういう事ですか?」

「それも含めて移動しながら話するけど、まずは資金調達かな。早速二人の出番ですよ!」

「「...え?」」

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