夢見た空は何色ですか

夢見た空は何色ですか

　この世界には2種類の人間がいる。よく論じられる話題だよね。

　でも、それを聞くたびにいつも考えるんだ。人はそんなに単純じゃない。

　むしろ、2つに分けられるものを探す方が大変なくらいじゃないかなって。

　億万長者と貧民のふたりを並べた時に、君はどちらの命の方が重いと思う？

　どちらも同じだって言うんじゃないかな。うん。そうだよね。

　僕はね、命の重さは人によって違うと思う。

　うん。うん。わかってる。反論したくなるのは君が良い人だからだよ。でも少しだけ聞いて。

　アイソトープって知ってるかな？

　例えば酸素の原子があったとして、中性子っていうものが余分にくっついていると、通常よりも原子が重くなるんだ。

　僕はこれを知ったときに、命みたいだなって感じた。

　この世には2種類の人間がいるって言うけど、僕は1種類しかいないと思う。

　何かを持っていて、何かを持っていない人間。それしかいないんだ。

　僕から見れば、君は沢山のものを持ってる。でも別の人からは全然持っていないように見えるかもしれない。

　貧民が億万長者より沢山のものを持って生きているのかもしれない。

　数少ないものしか持っていなくとも、それが抜きん出て素晴らしいものなのかもしれない。

　だからね、きっと命の重さは違うけど、それは優劣を語る基準にはならないんだよ。

　僕は、空がどんな色なのかを知らない。

　そもそも色がどんなものなのかも分からない。

　青空も、夕焼けも、新緑も、雪原も。みんなが綺麗だと言うものが、僕には分からない。

　それがどうして不幸だと哀れまれるのか、どうして僕の命は軽んじられ嘲られるのか、理由は分かるけど理解できない。

　僕はたまたま他人の目につきやすいものを持っていなかっただけなんだ。

　本当に苦しいのは、目につきにくいものを持っていなかった為に罵倒される人たちだよ。

　少し熱くなってしまったね。

　君に触れられなくなってから、もう随分と経った気がする。

　僕がいま語りかけている額縁の中に君の写真が入っているとみんなは言うけど、それを確かめる術すらない。そのことだけは残念だよ。

　でも、こうしているだけで晴れやかな気分になれるから、きっと君はここにいるんだと信じてる。

　そうだな。もし、この世界には2種類の人間がいると言うのなら。

　最期まで君に語りかけた人間として、唯ひとりの存在になりたい。