魔王城から最も近き公国ハルカイナ

第150話 魔王城近くの

 ハルカイナ公国、そこは魔王城から最も近く様々な種族が観光に訪れると名観光地。国の規模は小さいものの毎年の観光客の多さから相当儲けている国とも聞く。


「改めてだが凄えな……。家出てから一度は来てみたいと思ってたんだよ」


「なら私達との出会いに感謝しないとですね!」


 こいつらに出会わなきゃもっと早くこの国へ観光に来れたのではないだろうか。


「……ま、今は観光に勤しむとするか」


 考えたくない話だがこの国のギルドへも指名手配書が送られてくれば俺達はとうとう逃げ場を無くしてしまう。

 他の国の案件なのですぐにというわけでもないがこの先の事も考えなくてはならない。今はその現実逃避中なのだ。


「よし、まずどこから行く?」


「お肉食べましょう!」


「魚の気分だね」


「むにゃむにゃなの」


 ……最初の観光地は宿に決まった。





✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★



 近くの宿で部屋を借り、イブを寝かしつけた後俺とエルスとハクヤは軽く食事を摂ることにした。


「んー!これが魔王城の近く焼肉定食!柔らかくておいしいです!」


「そしてこっちが魔王城の近くサバの味噌煮定食だね。素晴らしい味付けだよ」


 観光客受けに全振りしたような名前の定食を食べながらエルスとハクヤは笑顔を見せる。


「そうだな、あまり腹は減ってないんだがこれならペロリといける気がする」


 そんな俺が食べているのは魔王城の近く茶漬け。


 少しばかりの談笑後、ふとエルスが何か見つけたようで指を指した。


「変装祭……」


「何だそれ?」


 俺とハクヤもエルスの指差す方向を見る。

 そこにあったのは宿に泊まっている観光客へのお知らせポスター。そのポスターにはでかでかと『変装祭のお知らせ』と書かれている。


「あ、ちゃんとその下に書いてありますよ!読みますね!えーっと、、『観光客の皆様へ、この国では年に一度様々な祭りを開いております。去年は人間太鼓祭り……そして今年は変装祭となります』」


 物凄く去年の祭りが気になるな。


「ふむ、人間太鼓祭りとはやるじゃないか」


「あんな凄い祭りを開くなんて……!」


 何で俺だけが知らねえんだよ。


「取り敢えず変装祭とは好きな変装をして屋台を回る楽しいお祭りみたいですね。ワタルさん行ってみます?」


「いつからなんだ?」


「明日からみたいです!」


「明日か…。夕方にでも行ってみるか。それならそれまでに変装の準備もしないとだよな……」


「私、悪魔のコスプレとかしてみたいです!」


 変装な。


「僕は王のコスプレでもするとしようか」


 だから変装な。


「……というかお前らは変装なんかしなくたってシスターのコスプレと勇者のコスプレで乗り切れるだろ」


「気分の問題ですよ!そうだ!イブちゃんは白銀龍メルキギアのコスプレとかどうです?」


 チョイスがバケモノ。


「ま、その辺は明日になってからだな。俺はもう寝るとするよ」


「私はもう少し食べてから部屋に戻りますね」


「そっか、ハクヤは?」


「僕は少し外へ出てくるよ。ざわめく心……今は風を感じたい気分―――人が喋っている途中で帰るのはやめたまえ」


 ハクヤを無視して俺は宿の階段を上がり自分の部屋を目指す。今回の部屋割りとしては俺、ハクヤ、イブとエルスの三部屋となっている。


 そして部屋へ続く曲がり角を曲がって―――


 ドタドタドン…………ドンッ!


「うおっ――」


「ひゃぁ!」


 誰かとぶつかってしまったと思えば前で尻もちを付いているのは見た目14〜15才くらいの女の子。


「ご、ごめんな。怪我は無いか?」


 するとその子は俺が伸ばした手を叩いて、


「なにするのよ変態!私が本気になればあんたなんてすぐ血液不足で地獄行きなんだから!」


 まさか天国へすら行かしてくれないとは。


「ちょ、叩くことないだろ…。というか原因は君が走ってたからであって――」


「うぅ…これが当たり屋」


 話が通じなくて泣きそう。


「いや、当たり屋って言うのは―――」


「殺られる前に殺る!!」


「ま―――」


 突然目の前の少女が立ち上がり、ジャンプするところを目にした次の瞬間、


 急な激痛、そして倒れる感覚と共に俺の視線は天井へと向いていた。

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