第149話 詐欺で全滅

 背中が重い。さらに言えば地面が冷たい。もっと言えば目の前に虫が――――


「おわッ!?」


「なの?」


 俺は勢い良く身体を起こして立ち上がった。それとともに自分の足に絡みつくイブが目に入る。

 そして、


「……朝?」


 辺りを見渡してみれば空から照らす光が満ちており結界も作動中。モンスターも集まっているまま。


「静かにしてくださいよ…こっちはまだ眠くて…」


「むしゃむしゃ――まるで土を食べているよう…」


 寝ぼけているバカ二人を確認しようやく昨夜何があったのかを思い出した。


「……あの乱闘騒ぎは確か―――」


 寝床、耳栓を巡った戦いは夜間を通して行われ最終的にイブとハクヤの一騎打ちが行われたところまでは覚えている。

 俺がそうそうに吹き飛ばされたのは言うまでも無いがそれからどうなったのか……。


「なあイブ、全員外で寝ていて御者さんだけ見えないってことはさ…」


「……途中で眠くなったから分からないの」


 考察を伝える相手を間違えた。


「おい、起きろ」


 ひとまず会話になりそうなエルスをペチペチと叩いて起こすことにする。


「う〜ん、ワタルさんは加虐趣味……」


 一生眠ってろ。


「おいハクヤ!そろそろ起きろよ」


 エルスを放置しハクヤへと語りかける。


「う〜ん、勇者の眠りを妨げしものには災いを…」


 それ魔王側だろ。


 起こすことを諦めた俺はゆっくりと座り一旦水分補給。モンスターの声は聞こえるものの心なしか心は穏やかだ。

 そんな中、俺の考察通り馬車の荷台の中から耳栓をした御者さんは現れる。


「おはようございます。そちらのお二人は――」


「ああ、放っておいていいですよ。起こそうと思えば起こす方法はいくらでもあるんで」


「は、はあ…なるほど」


「それより時間帯って分かりますかね?」


「今の太陽の位置だと……お昼頃でしょうか。そろそろ出発しなければまずいかと」


 こりゃ大変。昨夜は酷い目にあったが予定通り進まなければ更に酷い目にあうのは明白だ。

 俺は荷物をまとめるとハクヤとエルスを起こす。


「……あっちに拷問されかけで苦痛に満ちた顔をしたいたいけなショタが」


「ワタルさん!!!今すぐ見に行き――助けに行きましょう!」

 

「……あっちに勇者専用の神々しい剣が」


「ワタル、今すぐその僕に相応しい剣を取りに行こうじゃないか!」


 うちの仲間は詐欺で全滅する気がする。


 とは言えこれで準備は万端。再度ハルカイナ公国を目指した旅が始まるのだった。





✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★




 再度出発してから1日半。当初予定していたよりも少し早くその国は見えて来た。


「むにゃむにゃ…」


 すっかり夜のためイブは寝てしまっている。


「見て下さいよあれ!大きなバリアですよ!」


「有名な初代勇者の結界だな。あれのせいで魔王軍はこの街を攻めるのが難しいんだろ?」


「そうなんですよ!国一つ囲う結界なんて私でも少ししか保ちません!」


 どうやらエルスは聖職者らしく結界に興味津々な様子。


「見たまえワタル、大きなトンボを捕まえたよ」


 こっちはいいや。


 そんなこんなでハルカイナ公国到着である。

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