第143話 ちょこんと立つ

 馬車に揺られ半日、太陽は沈み、辺りはすっかり暗くなってきていた。ここまで特に戦闘もなく虚ろに揺られていた俺は馬車が止まった衝撃でようやく意識を確かに持つ。


「今日はここまでになります。あの小屋で一晩明かしましょう」

 

 御者が指差したのは平原のわきにちょこんと立つ物置小屋のような建物。


「凄いな…こんな平原でも寝泊まりするとこがあるのか」


「ここはよくハルカイナ公国へ渡る方が通る道ですので……」


 どうやら話を聞けばこの小屋は以前物置小屋として使っていたものを商人や旅人の為に寝泊まりできるよう改造したものらしい。


 入ってみれば中もそれなり。ベッドが2つに天井にはライトが付いている。


「……ただこの小屋、安全面は大丈夫なのか?」


「そうですね。木製ですし、鍵も付いていないとなるとモンスターが出現したときには――」


「その辺の心配はいらないかと。この小屋にはですね…」


 心配する俺達の前で御者の男性が何かを小屋の壁に貼った。


「……結界生成の札ってところか」


「おっしゃる通りです。この小屋にはこういった魔導具が置いてあるので安心して一晩を過ごせます」


 流石にボスクラスとまではいかないだろうがゴブリンやコボルト程度なら小屋に近づく前に消滅すると言う。


 こうして俺達は安全面、機能面を両立した小屋でゆっくりと一晩を―――――


 過ごせるわけがない。


「……何か気付いたことはあるか?」


「はい!モンスターは入れずともワタルさんが侵入する場合があります!」


 どうして俺の野宿が確定しているんだ。


「違う違う!その前だよ!それに至るまでに気付いただろ!」


「ふむ、ベッドの数だね」


「正解、ベッドの数は2つしかないんだ。何人かは馬車か樹の下で寝てもらうことになる」


「私は既に報酬も貰っておりますし馬車で構いません。小屋の近くには止めさせていただきますが」


 御者の男性は小屋の結界内ならば馬車で良いとの事で早々に脱落。

 あとは俺達だが、


「皆が小屋で寝られる案があります!」


「よし、言ってみろ」


「片方は私とイブちゃん、もう片方はワタルさんとハクヤさんで使いましょう!」


 悪魔。


「ふむ、僕の案と似ているね」


「……言ってみろ」


「片方はエルスとイブ、もう片方は僕。ワタルはベッドの下の隙間を使うと良いよ」

 

 もっと悪魔。


「イブも考えたの!」


「お、何だ?」


「あっちはエルスおねーちゃんでこっちはイブとおにーちゃんで使うの!」


 もうこれで良いや。


「待ちたまえ。その場合僕はどこにいるんだい?」


「いなくていいの」


「なるほど、ではベッド争奪を賭けたバトルロイヤルといこうじゃないか」


「人数減らしてどうすんだよ…」


 一瞬バトルロイヤルが始まりそうにもなったがこれで案は出揃った。予想通りイブは俺かエルスと同じベッドで解決するが必ず一人は弾かれてしまう現状となる。

 

「これを解決するには…」


「バトルロイヤルさ」


「バトルロイヤルなの」


「バトルロイヤルですね」


 誰かバトルロイヤルって単語消してくれ。

 

 3人の考えが一致しその目線が降り注ぐ中、俺は頭の中で考えをまとめ上げ言う。


「……先に夕飯の準備しような」


 俺は問題を後回しにすることを選択した。 

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