第141話 いつか本当に

「こどくしは駄目なの!」 


 そんな奇妙な起こされ方をしつつ俺に朝が来た。

 ベシベシと顔を叩かれながら俺はゆっくりと身体を起こす。

 そして畳み掛けるように、


 ドタンッ!!


「やあワタル!夜逃げの準備は出来てるかい?」


 朝だよ。


 そもそも夜逃げでは無いがハクヤに説明するのも時間の無駄である。俺はベッドを降りると素早く着換え荷物をまとめる。

 予定としては朝ご飯を終えアリアス様にエルクラウンを出ることを報告、昼ごはんを終えた辺りで出発……といったところ。


「馬車の手配も考えなくちゃな……」


「最高額のプランで行こうじゃないか。なぁに、僕達の財産ならば問題はないよ」


 ハクヤがアイテムボックスからお宝を一部取り出して言った。


 とんでもない成金具合だが旅は快適であればあるほど良い。俺はハクヤから一部のお宝を預かると懐にしまい支払いに備えておく。


「それで、エルスは?」


「先に下で汁を啜っているさ」


 せめてティータイムって言えよ。


「……まあ、なら先にエルスと合流だな。アリアス様も一緒か?」


「ああ、僕が見たときは二人で楽しそうに談笑してニタニタしていたね」


 笑い方キモすぎかよ。


 


✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★




「あ、ワタルさーん!おはようございます!」


「起きたか、食事をとると良い」


 降りてみれば前情報通りエルスとアリアス様が向かい合って談笑していた。


「おはよう…ございます」


 これ自体は都合が良い。朝食と同時にアリアス様にエルクラウンを出ることを話してしまおう。


「エルス、隣良いか?」


「添い遂げたいって事ですか?」


 朝から胃が痛いな。


「……イブ、あっちで食おうぜ」


「ん、でももうお腹いっぱいなの」


 エルスから逃げ、イブを口説くも振られる。だが俺より先に起きていたイブが既に朝食を終えているのは予想出来たはずだったな。

 他は、


「ハクヤ……は別にいいや」


「ふむ、遠慮しなくてもいいのだがね」


「……うーん、なら例の刀について少し聞きたいことがある。そこの席で良いか?」


「僕も朝食は終えていてね、また今度にしてくれたまえ」


 いつか本当に毒盛ってやるからな。


 結局肩を落としながらエルスの横へ座った俺はアリアス様と対面し、話題を切り出した。


「実は――」


 アリアス様に話したのは余計な話を省略した俺達の状況。そして最期に今日中にこの街を出たいという旨を伝える。


「そうか…エルスも着いていくのか」


「はい!乗りかかった船ですし私もワタルさん達と一蓮托生!ヒーラーも必要ですから」


 そう言えばこいつヒーラーだったな。


「それでどうですか?問題とかって…」


 するとアリアス様は少し考えたように目を瞑り、ふと口を開いた。


「……昨日魔王城の地図が見つかったのは覚えているな」


「それはまあ…」


「本来ならばその事でちょっとした調査や確認が行われる予定だ。それまで待つというわけにはいかないのか?」


 これは無理だな。俺達は現在指名手配されている身だ。調査など入ればすぐに身元がバレて警察へ連行、裁判で権力に負け死刑の未来が待っている。


「俺達にも予定があります。それに多分箱の件ならデサールにいるルイ達に聞くのが一番早いとは思います」


「ルイ…確か最近召喚された勇者だったか。少年、何か繋がりでも?」


「……ま、まあ知り合いです」


「友達ですね!」


「手下だね」


「覚えてないの」


 全回答不一致の奇跡。


「と、とにかく!ハクヤが開けられたなら彼らも開けられるはずです!向こうの方が話も通じるので効率も良いはずなので」


 個人的な予想としては2つ。一つは勇者のみが開けられる説。そしてもう一つはあの映像を見た者のみ開けられる説。

 この場合どちらに転んでも俺達が必須ということにはならない。

 ルイ達には悪いが俺達はスルーさせてもらう。


「……もしそのルイ達とやらが開けられなかったら少年達を呼び戻すことになるが良いか?」


「大丈夫です」


 大丈夫ではないがいざとなれば聖女の血を引くエルス一家の権力で守って貰えば良いしな。


 そんな安楽的な考えで俺は約束を取り付け、エルクラウンを後にする準備を終えたのだった。

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