第139話 真っ当な勇者
「……地図」
メディロアさんが広げた未知の地図に対し俺達は反応に困っていた。
「これは…どこの言語だ?」
「少なくともヒューマンが使っているものでは無さそうですが……」
地図の端には何やら見たことのない文字が書かれており更に謎は深まる。
見る限りダンジョンの地図のような気もするがそれにしては造りが人工的。地上にある建物という線が強いだろう。
「アリアス様は何か見覚えあったりします?」
「……いや、特に見覚えはないな。何か大事な場所を指し示しているのかも知れないがまるで見当もつかない」
「ですよね、解散」
「ちょっと待って下さいよ!ここまで突き詰めて敗走なんですか!?」
「落ち着けって…そもそも誰も分からないんじゃどうすることも出来ないだろ?後はいずれヒントに導かれてやって来るであろう本物の勇者、ルイ達に任せて――」
面倒な事に巻き込まれたく無い俺、そしてやけに興味を持っているエルスが衝突しかけたその時、
「……魔王城1階案内図」
その言葉は聞こえてきた。
「え…」
その場にいた全員の視線がハクヤへと集中。当の本人は注目を浴びた事を好機と考えたのか勝ち申したと言わんばかりのドヤ顔で腕を組む。
「ふっ、また何かやってしまったかい?」
またやらかしてくれました。
「……念の為聞くが適当な言葉を発した訳じゃないんだよな?」
「ふむ、僕が今まで適当な発言をしたことがあったかい?自ずと答えは見えてくるはずさ」
あり過ぎて信じらんねえや。
とはいえ今の発言をスルー出来るほど物事は甘くない。アリアス様はハクヤを座らせると地図を指差しハクヤの顔を覗き込んだ。
「ハクヤ…と言ったな。何故君がこの文字を読めるのか説明は出来るか?」
「この文字は日本語だからね。母国の文字を忘れるほど僕は冷たい男じゃないさ」
「ニホンゴ…?聞き覚えがあるな」
何か思い当たることがあったのかアリアス様は顎に手を当て考え込む。
この隙に俺も一つ聞いてみるとするか。
「……ハクヤ、それってお前の元いた世界の文字なんだろ?他に何か書いてあるか?」
「流石はワタルだね、理解が早くて助かるよ。だが他には特に何も書いていないさ」
「なるほど…」
魔王城1階案内図。ハクヤの言う通りであればこれは魔王城1階の地図と言うことになる。
「でも何で1階だけ――」
「だからヒント……なのでは無いか?」
アリアス様から出た一言。それは核心を突く名推理具合だった。
「確かに…もしかしたら私達が聞き逃したところでは他に何か重要なヒントを話していたかもしれませんね」
「……はあ、こりゃ参ったな」
もう聞き直すことは難しい。ルイ達真っ当な勇者にはかなりの痛手かもしれないな。
そうした諦めムードの中、見計らったかのようにエルスは言った。
「取り敢えず地図見てみません?」
「……行かないぞ?」
「分かってますよ!でも魔王城の地図なんて見る機会ほとんど無いじゃないですか!」
それは確かにそう。
「ふっ、これで悪しき魔王の私生活も堂々と丸裸というわけだね」
この地図からどれだけ読み取るつもりだよ。
「……ったく。お、でも意外とヒューマンの宿とかと変わらないんじゃないか?」
地図を見る限り魔王城の1階は広さと部屋の多さに優れている。それを聞いたエルス達は続々と地図を除き込みそれぞれが推察を始める。
「あ、これ絶対宝物庫ですよ!端にありますし!」
「魔王城へ散歩しに行った際には覗かせてもらうとしようじゃないか」
まるで観光気分の仲間達。魔王城へは行かないと思っていてもやはり気になりはするようだ。
「そこはトイレなの。横がキラキラ部屋なの」
「ほらイブが一番冷静に見て―――へぁ?」
俺の思考が停止した瞬間だった。
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