第138話 てんこ盛り

「その儀式、僕が引き受けるよ」


 そう言って入って来たハクヤはやけに得意げな顔で俺達の前へと歩いて来る。


「……ハクヤ、危ないとは言わないが絶対良くないものが入ってる気がする。本当に開けるのか?」


「逆に聞こう。ここまで点と点が繋がり怪しい箱が出てきたところでやめるのかい?」


「やめよう」


「私もやめたほうが良いかと」


「おにーちゃんが正しいの」


 多数決で勝ち!終わり!


「ふっ、流石僕の仲間達さ。ここで引き下がるなんてありえないね。いざオープンといくよッ!」


「最初からそのつもりかよッ!!」


 会話にならない回答にピンと来た俺は即座に箱を死守しようと手を伸ばすが次の瞬間、


 スパァン――


 俺の頭の上を木箱の蓋がもの凄いスピードで通り過ぎ、壁に突き刺さる。


「は…はあっ!?」


 ふと視線を下げてみれば蓋そして上半分が消え、中身が露わとなった木箱が目に映った。

 

「……ったく…預かっておけば良かった」


「入手したアイテムは基本的に直後使うイベントがあるものなのさ」


 得意げなハクヤが持つのは『よく物語で人質が取られる状況でも安全に使えるスーパー刀』。

 名前の通り俺だけを無視して木箱のみを斬ったらしい。


 ……というわけで


「見なかったことにしないか?」


「ワタルさんって結構頭弱いですよね」


「目撃者多数、逃れられはしないさ」


「イブは見てないの!」


 イブへの好感度が上昇、ハクヤとエルスへの好感度が地下へ進んだところでその様子を見ていたアリアス様が口を開いた。


「少年、残念だが箱が開いてしまった以上こちらとしても調べる必要がある」


「……そうですよね」


 代々引き継がれてきたものが急に開いたのだ。そうなれば中身の確認やら開いた人物への事情聴取が始まっても何らおかしくない。


「まあまあ、ワタルさんもお姉さまもまずは中身を確認してみませんか?」


「……さっきまで嫌な予感とか言ってたくせにやけに楽しそうだな」


「爆発しませんでしたし」


 嫌のハードルもっと埋めとけよ。


「ふむ、では僕が確認しよう」


 そう言ってハクヤが木箱へと手を伸ばし上から中身を覗く。続いて俺達も恐る恐る木箱の中身を覗くが、


「これは……何かの…紙?」


 そこに入っていたのは一枚の紙。


「折りたたまれてますね。外見からじゃ何が書かれているか分かりません」


「……そうだな、触ってみてもいいか?」


「えっと…流石に詳細が不明な以上アリアス様が先に触るのはまずいんじゃ……」


「ならどうするんです?」


「イブがやるの!」


 幼女を危険にさらせません。駄目です。


「僕に任せるといいよ」

 

 不安材料多数どころかてんこ盛り。駄目です。


「ちなみに私はやりません」


 去れ。


 完全に手詰まりな中、アリアス様が何か思い付いたのか手を叩いて言った。


「メディロア、いるのだろう!」


「お呼びでしょうか」


「は…え、どこからっ!?」


 瞬きしたと思えば次の瞬間、アリアス様の目の前にメディロアさんが出現した。


「これはこれは…あまり驚かれても困ります。お付きメイドとして陰ながら見守っているのは当然の事ですので」

 

 お付きメイドはそんな登場しない。


「それで、アリアス様…こちらの箱の中身を確認…ということで宜しいのでしょうか?」


「ああ、外見上危険は無いと思うが念の為だ。頼むぞ」


 その言葉を受けメディロアさんは素早くゴム手袋を着用。そっと紙に手を伸ばす。


「爆発しますかね?」


 爆発好きすぎだろ。


「美味しいのが食べたいの」

 

 もう興味ねえや。


「肝心の所を奪われ僕の心は傷付いた乙女の様さ」


 お前だけは爆散してくれて構わない。


 そうした内にメディロアさんは何の困難も無くその紙を持ち上げた。

 そして、近くのテーブルへと広げ…


「これは……」


「……地図」

 

 それは謎の文字が書かれた地図だった。

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