第137話 トリガーが必要
「よく帰ったな。依頼は完了したか?」
俺達がガヤガヤと帰ってくると出迎えてくれたのはやけにソワソワしたアリアス様だった。
「お姉さま!はい!いつも通り凶悪なモンスターをぐちゃぐちゃにしてきました!」
嘘付くわ言葉遣いが悪いわで散々だな。
……まあ、二人がもう完全に仲直りしているという点は良いこと。やはりこれ以上ここに滞在する理由も無さそうだ。
「そうか…なら良いんだ」
「あっそうだ、アリアス様――」
俺達の無事な姿を見て安堵したのか背を向けるアリアス様を俺は引き止める。
「……?どうした少年、何か用か?」
「実は少し聞きたいことが――」
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静かな客室。そこでアリアス様は不思議そうな顔をして俺達の話を聞いていた。
「エルクラウンにヒントがある?不思議な話だ。」
「はい、映像には男が少し映ってて、その後の音声ではそう聞こえました」
「俺も同じです。ただその前を聞いていないので見当もつかなくて…」
「ふむ、幻聴じゃないのかい?」
どうしてお前はそっち側なんだよ。
「お前は一緒にいただろうがっ!思い出せよ!何か流れてただろ!」
「なるほど、確かに僕の勇者としての力がオーラとして空気を流れてい――」
聞いていなかったらしい。
俺はハクヤの声をシャットアウトするとイブの方へ体の向きを変える。
「イブはどうだ?何か覚えてるよな?」
「ばっちり覚えてるの!」
「流石イブ!さあ、アリアス様へ証言を頼む」
「可愛い犬さんだったの!」
多分これ聞いてねえな。
「私はネコ派ですね。犬って散歩が大変だと聞きますし…」
「ふむ、センスが無いと言わざるおえないね」
未知の話題で盛り上がろうとするな。
この会話で得た情報はハクヤとイブが映像や音声についてほとんど覚えていないということだけ。何の進歩も無い時間が過ぎる。
「……ごほん、いいか?」
アリアス様も痺れを切らした模様。エルスの事になると変な人だが普段は威圧感があり恐ろしい。
「本当にすみません…。こんな調子で」
「しっかりしたまえワタル」
しっかりハクヤへ裏拳を食らわせ部屋から追放。
話はようやく本題へ戻る。
「それで……エルクラウンのヒントが本当の話だったとする。だがすまない、何のヒントか分からない以上私もこれだと提示するものが無い」
ごもっともな意見だ。俺達が聞いたのは「エルクラウンにヒントがある」という情報だけ。それがどの程度のものかすら不明だ。
「ダンジョンの隠し部屋にあったので相当凄いものだとは思いますが……」
「………」
「アリアス様?」
黙り込むアリアス様を前に俺とエルスは顔を合わせ頭にハテナを浮かべる。
「……まさかとは思うが。エルス、その映像に映った男の顔を覚えてはいるか?」
「え、ええっと…黒髪…でしたよね?」
「言われてみればそうだな…。珍しいとは思ったけどハクヤもいるしスルーしてたが……」
「……やはり。すまない、少し待っていてくれ」
するとアリアス様は急に立ち上がり部屋を出て行った。そして僅か数分後、何やら木箱のようなものを手に戻ってきた。
「木箱?」
「ああ、ただし開かずのだが」
これまた不思議な物の登場だ。
「これはこれまで我々聖女を生み出す一族が管理してきた箱だ」
木箱は机に置かれるが見た目は何の変哲もない普通の木箱。
「そんな貴重な物をどうして…?」
「お宝なの!」
「言い伝えでは初代勇者様が魔王が復活した時のために残したと言われている。だがこれまで幾度となく現代の勇者様が触れようと決して開かない」
「……何かトリガーが必要だと」
「その通りだ」
何となく分かってきた。恐らくこれが映像から伝えられた『ヒント』なのだろう。そしてこれはきっとあの映像を見たものにしか開けられない……みたいな。
「……なあ、このタイミングで言うのもあれなんだが凄い嫌な予感がしてきたぞ」
「大丈夫ですワタルさん、私も同じです」
それは大丈夫じゃない。
「ドキドキなの!」
目を輝かせて木箱を見つめるイブを横目に俺は木箱へとそっと手を伸ば―――そうとした時だった。
ドアが勢い良く開き、ヤツが姿を表す。
「その儀式、僕が引き受けるよ」
嫌な予感が更に増した瞬間だった。
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