第136話 避難のつもり

 『よく物語で人質が取られる状況でも安全に使えるスーパー刀』を手に入れた俺達はその後寄り道せずギルドへと帰って来ていた。

 

「……依頼に成功して帰ってこれたの久し振りな気がするな」


「そうですね、今回は誰一人として欠けず帰って来れました!」


「実に喜ばしい事だね」


「りっぱですごいの!」


 まるで快挙とばかりに盛り上がるのは我らポンコツパーティー。他人からすれば高難易度な依頼をクリアしたパーティーに見える可能性があるのがとても恥ずかしい。

 受付にて依頼達成の報告をし、ギルドカードを提出。これによって俺達は満を持して冒険者ランクDとなった。


「長かったなぁ…Cはいつになることやら」


「この調子だとひと月後にようやくCランクってところじゃないですか?」


「ならば二ヶ月後にはSランクの僕がこの地に爆誕するわけだね」


 その一ヶ月で何があったんだよ。


「あのなぁ…そもそもお前らはともかく俺にはそんな天賦の才能は無いぞ?」


 ハクヤ、エルス、イブ、大きな問題を抱える三人だが実力は本物だ。もし三人が策を考え、その場に合ったスキルを選択出来るようになったその時俺は必要ない。


「無いなら身に付ければ良いさ」


「どうやって?」


「ふむ…最も簡単なのは夜勤明けにトラックに引かれることだね」


 知らない生き物出てきちゃった。


「それは虎…みたいなもんか?」


「似たようなものさ。僕の元いた世界では街中を走っているよ」


 最近分かったことがある。恐らくハクヤの元いた世界での生き物は基本的に戦闘能力が高い。説明的にヒューマンですら野生の虎の戦闘能力を軽く超えていることは間違い無いだろう。


「……ま、それはともかく『この地に』ってのは無理だな」


「地中かい?」


 殺すな。


「そろそろこの街を出るんですか?」


「ああ、王冠も取れたしで滞在する理由も無いからな。それに元々は避難のつもりだし…」


「そうですか…。どうします?いっその事アルマリーゼ王国出てみます?他国なら流石に指名手配されないと思います。例えば隣のハルカイナ公国――」


「だ、駄目なの!」


 エルスが言い終わる前にイブの声が俺の耳へ届いた。


「イブ?」


「その国は…ん……怖い国なの!」


 視線が行ったり来たり。エルクラウンへ来る前にエルスで見た光景だ。


「……エルス、ハルカイナ公国ってそんな悪いイメージあるか?」


「いえ、魔王城に最も近い国で有名ですが初代勇者様が貼った光の壁もありますし、むしろ安全かと」


「そうだよな…」


 初代勇者パーティーが魔王城へ向かう際、最後に訪れたとされるハルカイナ公国。国は小さいとは言え初代勇者による光の壁は村育ちの俺ですら知っているほど有名だ。


「イブ、あそこはむしろ安全だぞ。魔王軍が攻めるならまずはアルマリーゼって言われるぐらいには魔族対策がしっかりしてるからな」


 光の壁は『ヒューマンに対して敵意を持った魔族』は通さない。工作やテロすらありえないのだ。


「ん…でも…」


「任せろって!イブがピンチの時には俺が守ってやるから。どんな時でもな」


 多分肉壁。


「どんな時でも…なの?」


「ああ、エルスとハクヤも協力してくれる」


「任せてください!」


「少しなら任せてくれたまえ」


 だっさ。


「ん…分かったの!おにーちゃん達と行くの」


「よし、そう来なくっちゃな」


 イブの心配性な面、そして現在異様に嬉しそうなイブを見ることが出来たところで次の目的地も決定する。


「やり残したことは無いですか?」


「やり残したこと……あ、強いて言えばダンジョンでの映像だな。エルクラウンにヒントがどうちゃらみたいな事言ってなかったか?」


「それですよ!あの刀は結局違かったじゃないですか!」


 刀はオルとファーの仕業。つまり映像で言っていたヒントとは全くの別物となる。


「……うーん、ハクヤ何か勇者繋がりでピンとくるものは無いか?」


「ふむ、そもそもその映像をもう覚えていないよ」


 この勇者はニワトリかも知れない。


「まあ、何のヒントかも分からないしなあ…。取り敢えずアリアス様に聞いてみればいいさ」


 そうして俺達は大きな大きなエルス宅へと帰っていくのだった。

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