第135話 出処が不明

 氷の像が散り散りとなって空中を舞う。もちろん置いていた小石は形すら保つ事なく木っ端微塵となり消えた。

 

「……判定はどうだい?」


 最後まで諦めない態度は流石だな。不合格だ。


「途中まで惜しかったんですけどね〜」


「ふむ…やはり真の理解者は見ている点が違うね。ワタルに僕の凄さを語ってあげてくれたまえ」


「刀を構えるまでは凄かったです」


 真の理解者なんも見てねえや。


「イブだったら出来てたの!」


「イブは杖の大きさ的に無理だと思うけどな…」


「もっとバラバラに出来たの!」


 こっちはルールすら聞いてねえや。


 そんなこんなで実質的な処刑を逃れた俺は安堵しつつも帰りの計画を立て始める。するとその直後、


「ワタル、帰る前にこれを渡しておくよ」


 そう言ってハクヤが懐から取り出したのは小さな紙切れ。そんな紙切れを俺の手に乗せるとハクヤは少し先へ座る。


「これはどこで?」

  

「刀の横に置いてあったよ」


 ……これまた重要そうな。


「良いものか悪いものかだけ教えてくれ」


「素晴らしいものさ」


「なら別に良いけど…」


 少し不安だがハクヤが素晴らしいとまで言うのならば多少期待は寄せてみるか。

 その小さな紙切れには小さな字で何らや文字が書いており上には題のようなものが。


『よく物語で人質が取られる状況でも安全に使えるスーパー刀の使い方』


 題名がもう駄目そう。


「……これ本当に読まなきゃいけないのか?」


「ネーミングセンスが光ってますね」


「名前だけは凄いの!」


「僕の勇者としての活躍が報われる時が来たのさ」


 何故か我がパーティーでは高評価。

 そして以前にもこんな感じのことがあったような覚えがある。変な武器の名前……。

 俺は右手に持つ杖へと目を向けた。


「……多分ギジンカして美少女になる杖」


「あ、確かに似てますね。制作者さんが同じとかなんじゃないですか?」


 確かこの杖を手に入れたのは領主からぶん取ったとき。出処が不明なので探せる余地もない。


「取り敢えず読んでみるか……」


 何かが脳に引っかかるがまずはこの刀の使い方を読むのが最優先。俺は題名をスルーし一行目から口にだして読んでいく。


「お久しぶりです!女神様ですよ!覚えてますか?どっちだか分かりますか?」


 文面的に恐らく髪が短い方、ファーの方で間違い無いだろう。


「多分ワタル君が読んでますよね!干渉に制限があるとか言っといて干渉してくんな!とか思ってたりするんですか?」


 早く本題に入れよ。


「運命に干渉しなくたって道具で干渉する抜け道だってあるんですからね!みんな大好き女神様がちゃんと使い方を教えてあげまーす!」


 ……これまでの文面から一つ分かったこととしては杖の時もオルとファーの道具干渉があったと言うこと。

 これも退屈を紛らわす為の遊びかもしれないな。


「その刀の名前は『よく物語で人質が取られる状況でも安全に使えるスーパー刀』。効果は名前の通りですよー!どれだけ振り回しても仲間には当たらない特別な刀。ご賞味あれ!」


 食わねえよ。


 文章はここで終わっており、これ以上は余白すら無い。だが不思議だ。これがオルとファーの暇つぶしだとするならばあのダンジョンでエルクラウンと名前が出たのは何だったのだろうか?


「ワタルさんどうしたんですか?」


「……いや、何でも無い。こんなふざけた文章を書く神様はきっとブスなんだろうなぁって」


 そしてふと手元の紙を裏返すと、


『死後はてんとう虫の脚に転生がお望みですか?』


 部位によって魂を分けるな。干渉の制限を守れ。


「この文章を書いたのが以前君が話していた僕をこの世界へ送ってくれた女神様かい?」


「そうだな。がっかりしたか?」


「そんなのあるはずないさ。感謝だけだね」


 ハクヤとは意外と相性が良いのかもしれない。

 そんな中、文字を見て何か思い出したのかイブがふと口にこんな事を呟いた。


「似てるお手紙を前どこかで見たの」


「あの王冠の時じゃないか?あれもオルとファーの仕業らしいしどっちもファーが書いてるっぽいな」


「そうなってくるとあの王冠の正式名称が気になりますよね!」


 ……若干否定は出来ない。


 刀問題が解決する中、俺の心には若干のムズムズが残るのだった。

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