第134話 失敗のパターン

 焼け焦げた草原のド真ん中、ハクヤが手にした刀を囲んで見る俺達一行は正座で緊急的な話し合いを開いていた。


「……これ夢か?」


「……現にここにあるじゃないですか」


「う…見てると気持ち悪いの……」


「神々しい…まるで女神様より賜りし伝説の武器といったところだね」


 様々な意見が並ぶ中ひとまず頭の中を整理してみる。

 まずは確かハクヤとイブが何かに気付きここへ引き寄せられた。そして二人だけに見える祭壇があるとかなんとか。さらにハクヤが刀を手に取ると俺達にも見えるようになった―――。

 ……これ俺が考えることじゃねえな。


「少なくとも俺達には関係無さそうじゃないか」


「そうですか?私は何か引っかかるような気がします。少し前に……あ!」


 エルスが何かに気付いたのか人差し指を立てその場で立ち上がった。


「ダンジョンですよ!ダンジョン!」


「え?」


「ワタルさんも思い出して下さいよ!確かあそこで見た映像で一瞬!」


 そう言われた瞬間、ダンジョンで見た映像が脳裏をよぎる。映像自体は最後の一言程度しか聞き取れなかったが確かエルクラウンにヒントがどうちゃらみたいなものだった気がする。


「思い出しました?」


「ああ、でもヒントだろ?この刀が何のヒントになるってんだよ」


「それを今から考えるんじゃないですか!」


「ワタルはせっかちだね。まあ、任せたまえ。僕が全ての謎を解き明かしてみせるさ」


「ひんとはヒントなの!」


 一人何も分かってない幼女を除けば他は正論。確かに急いでも問題が解決するわけでは無いな。


「……分かった。お前ら、何か読み取れたことがあったら言ってくれ」


「えーっとですね…。刀と呼ばれる武器は確か一昔前の勇者様が作り方を伝えたとされてると武器だったかと」


「ならつまりは勇者にまつわ―――」


「ならば勇者である僕へ神様が送ってくれた神具である可能性が高いね」


「ん…オーラが暗いの…。きっと神様が世界を無くすために置いたの!」


 このメンバーでこの話するのはやめよう。


 もはやハクヤをイブの就寝後、エルスの話を聞きながら俺が考えるのが一番正解への道が近いのでは無いだろうか。


「ま、ひとまずは帰ってからだな」


 これ以上無駄な時間を過ごす必要も無い。俺は刀をハクヤへ返し、一呼吸置いたあと腕を伸ばし立ち上がる。


「試し斬りはいいのかい?」


「……一振りくらいなら」

 

「ふむ、ならばワタル。一つ試してみたい芸があるのだが付き合ってはくれないかい?」


「芸?よくわからんが少しだけな」


「お二人は付き合うんですか?結婚式には呼んでくださいね」


 試し斬りの的こいつでいいだろ。


 いつものように数分揉めてからハクヤによる試し斬りは始まった。

 

「刀…ってお前のデュソルエレイザーは大剣の括りだよな?こんな薄くて細い剣使えんのか?」


「刀とは同郷さ。僕から言わせれば昔からの親友みたいなものだよ」


 なるほど、流石は勇者が選ばれる世界。刀のような武器は普段から目にするものなのかもしれない。

 ハクヤは何か小さな紙をしまうと刀を構え準備を終えた。

 

「よし、確か両手に石を乗せれば良いんだな?」


 俺は小石を手に乗せると両手を広げる。


「では説明しよう。今から僕は一振りでワタルが持つ小石2つを真っ二つにする。成功したら歓喜の涙を流して拍手したまえ」


「……待て、そんな危ない芸だとは聞いてないぞ。失敗したらどうすんだ」


「悲しみの涙を流しながら拍手したまえ」 


 殺された挙げ句拍手されてたまるかよ。


「ま、まあ…全治1ヶ月後程度なら私の回復スキルでどうにかなりますし!」  


 失敗のパターンだとガッツリ首持っていかれるんだが。


「ピンチはイブが止めるの!」


 ここでようやく頼りがいのある言葉が聞こえてきた。確かにイブならハクヤの斬撃に反応して助けてくれることも可能かもしれない。  


「……はあ、分かったよ。そんなに芸がやりたいのならまず他の物体相手に手本を見せてくれ。それで成功したら考えてやる」


 と言って俺は杖を構え水魔法を発動。


「ハクヤ、氷魔法用意。水魔法の派生だろうけどどうせお前は使えるんだろ?」


「もちろんさ」


 こうして完成した氷の像は俺と同じ等身。これならば安全だろう。像の両手に小石を乗せ準備は完了だ。


「……いいぞ」


 ハクヤは体制を低く構える。そして両手を前に出して、

 

「今こそ見せようじゃないか。シャイニング・アサルトッ!!!」


 俺達の目に映ったのはまるでハンマーを振ったかのような重い横薙ぎ。


 ……そして、像ごと吹き飛ぶ小石の姿だった。

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